<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【魔法少女ψ】フィリップ・ノッツ
攻撃らしい攻撃はノーチラス号から放たれる砲弾くらい。
直接武器を持って戦ったことは少なかった。
現に、この森においても魔法少女を倒すのはノーチラス号による砲弾頼み。
その威力を誰よりも知っているし、それ以上の攻撃が自身には出来ないことを知っている。
古代伝説級のUBMにさえダメージを与えた砲弾だ。
これで駄目ならどうしようもない。
これで傷が付けられないほど硬いのであればダメージは通らない。
硬いのであれば、だ。
「通過したのかい?」
思わずフィリップは眼前の魔法少女に尋ねてしまった。
砲弾の発射から着弾までの瞬間。
その間に敵である魔法少女……P助がどのような防御手段を取っているのかを見極めようとしていた。
砲弾が通らない理由は何なのか。
肉体を強固にしているのか。
バリア―を張っているのか。
瞬間的に回復をしているのか。
そのどれもが違う。
魔法少女P助のエンブリオは肉体の強化でも、バリアーの生成でも、回復能力でもない。
透明化の能力を持つ指輪型のエンブリオである【透明論輪 ギュゲス】。
その必殺スキルの名は《
攻撃体から通過させるスキルである。
「ひ、ひひ。透明化が効かないなら。私は明るみに出よう。ひひ、即ち透化……字が違う? 透過……ひひひ」
「……」
雨が降り始める。
落雷はいつの間にか止み、代わりに、フィリップとP助らを囲うように雨が降る。
「冷たいね……ひひひ。そういえば降雨の固有能力を持つ魔法少女がいたね。【魔法少女ψ】だったかな。私と同じだ。使えない能力」
「ほう。君の魔法少女の能力も戦闘には使えないものなのか」
「ひひ。息を止めていられる……なんて、お前は使いこなせるか?」
【魔法少女δ】の固有能力は無呼吸状態の継続。
水中でも毒ガスの中でも、呼吸無しで活動が可能となる能力である。
探索に向いた能力だ。
全てとは言えないが、ある程度の未到達エリアへの進出を可能にする能力であろう。
戦闘には役立てにくいだろうが、それでも他の分野では役立てられた……P助を除けば。
ひたすらに隠れることに心血を注ぐP助はこの無呼吸状態をどのように活用したか。
それは勿論、息をしないことに活用した。
エンブリオと特典武具で姿や音、匂いを消した。
これだけでは不安だ。
何故ならば、そこにはまだP助という存在自体が残っている。
潜伏を完璧に近づけるのであれば、まだまだ残っている痕跡が多すぎる。
無呼吸。即ち、息を潜める。
吐いた酸素を探知されやしないだろうか。
周囲一帯に毒ガスを撒き散らされて炙り出されやしないだろうか。
そんな不安に駆りたてられ、そして必殺スキルとの相性の良さからP助は【魔法少女δ】を選択した。
「ひひ。お前の攻撃は私に通じない。さあ――」
P助の声が途切れる。
フィリップが懐から取り出した拳銃をP助に向けたのだ。
まだ引き金が引いていない。
雨が5人の魔法少女の身体を濡らす。
「……どうしたのかな? 続きはどうしたのかい」
フィリップが拳銃を下ろす。
「ひ、ひひ……気づいていたか」
「いいや? 試しただけさ。発声中……ではないか。息を止めている間だけかな。君がその無敵性を発動できるのは」
「……ひひ」
「それに、通過させるのはダメージが発生するものだけのようだね。あの落雷も通過させていたことから、自身を害するものを、かな?」
「ひひひ。そうだよ。ああ、そうさ。それが私の必殺スキルの力だ」
息を止めている瞬間だけ、ダメージあるいは状態異常などP助に害を及ぼす攻撃を透過させる能力。
それが《
相手を攻撃するための力ではない。
守りに徹した能力だ。
だが、それで問題は無い。
フィリップを倒すのはP助ではない。
大金をはたいて雇った3人の魔法少女。
彼女らに始末させればいいだけだ。
「雨が、君に当たっていた」
「……?」
「うん、だから君がどこか異次元の世界に行ってしまっているわけではないみたいだ。安心したよ」
「どこに安堵の理由がある? お前は終わりだ。いくら強くても魔法少女3人がかり。失うものも無いこの子らの全力の攻撃を受けて……死ね!」
体勢を立て直した3人の魔法少女らが武器やエンブリオを構える。
いくら敗退しているとはいえ、フィリップに比べれば歴戦の魔法少女であろう。
弱いとは言えない。
「彼女らの報酬は成功報酬なのかな? それともすでに前金を渡していたりするのかい?」
「何を……? いや、今更後悔しているのか? ひひ、遅い。遅すぎるぞ。ああ、すでに前金は渡してある。そして、魔法少女一人を殺すごとに報酬を渡す契約だ。この子らはお前を殺すことに躊躇いは無いぞ」
「そうかい。では彼女らには悪いことをしよう」
雨の勢いが強まる。
小雨はやがて大雨に、そして豪雨に至る。
「何を……」
「君の言っていた通りだ。大して強くもない能力さ。雨を降らせるだけ。大勢に影響しない程度の力」
火を使う魔法少女の力をほんの少し弱くした程度の力だ。
……あの時の力であれば。
「24人の戦いか。儀式は儀式でも蟲毒をモチーフにでもしているのかな? いやはや……魔法少女を倒すというのは膨大な経験値なのだね」
「お前……」
「2人の魔法少女を倒しただけでレベルが50も上がっていたよ」
魔法少女系統のジョブはレベルが上がろうとも、一部の魔法少女を除けばステータスは大きく変わらない。
変わるのはその固有能力の出力や性質。
火の勢いを強くしたり、回復の速度を速めたり。
ステータスの上がる一部の魔法少女とて、固有能力がステータスの上昇になっている者だけである。
【魔法少女ψ】。水……ではなく雨を操る魔法少女。
そのレベルが上がることで雨の勢いは増した。
出力は雨の強度。
性質は、水の操作だ。
「さて、誰に影響を受けたんだろうね。デメンタリーか、あるいはツーウェイオールか。そもそもψがそういった性質の魔法少女だったのかもしれないが」
雨は地面へ落ち、地中に吸い込まれ……ることは無く、留まり続ける。
魔法少女5人を囲み、雨は地面から盛り上がるかのように留まる。
それはまるで水牢のようであった。
「雨を降らせて疑似的に水中を作り出す。それが本来の【魔法少女ψ】の力のようだ」
「……だからどうした!」
P助が雇った魔法少女3人は呼吸苦で溺れている。
どうにか泳いで、水牢から出ようと藻掻いている。
「ああ。出るならご自由に。これは別に閉じ込めるためのものではないからね」
すぐに3人は水牢から脱出し、外から水中にいるP助とフィリップを見上げる。
「私は溺れない。ひひひひ……無駄なことをしたね。その傷は未だ癒えず。HPは残りいくつだ? もう直に死ぬのではないのか?」
P助が3人の魔法少女3人に積極的に攻撃を行わせなかったのはフィリップに回復の隙さえ与えなければいずれ死ぬと分かっていたからだ。
【出血】と【猛毒】のダメージがあれば、どれだけHPが高くても、どこかで限界は迎えるだろう。
故に、この後に待っているであろう他の魔法少女との戦いも考え、温存をしながらフィリップをじわじわと殺そうと、慢心した考えを持っていたのだ。
「死ぬさ。私はこの戦いで死ぬんだ。宝に辿り着いてね」
「ひひ。そうか。ちなみに私は友情だとか景色だとかが一番の宝という奴が嫌いでね!」
これよりP助は《
水中にいることでの【酸欠】ダメージは魔法少女による力で発生しないが、相手の支配下であるフィールドで無防備にいられるほど呑気ではない。
フィリップが死ぬまでの時間を耐えていればいい。
ナイフか何かで止めを刺しに行こうか……。
別に息さえ止めていればいいのだから、《
いや、もうあと数秒だろう。
それだけじっと息を潜めていれば――
「――なっ!? なんだそれは!」
P助は思わず《
水中に現れた巨大な潜水艦。
自身に矛先を向けたミサイルのようにも思えるソレが突如出現したからである。
「ノーチラス号さ。私の自慢の艦だよ」
フィリップがノーチラス号の中に入っていく。
P助は動けない。
得体の知れない潜水艦が目の前にあるのだ。
自身に攻撃が効かないと分かっていても、どうしようもできない。
「さて。本日最後の大航海だ。君の持つ宝へと発進しようではないか」
目的、宝への到達。
目標、P助の持つ【無和感 プレパラン】。
手段、ノーチラス号。
「さあ、P助。君の宝を見せてくれ! 《
ゆっくりと、ノーチラス号が動き出す。
「……私をP助と呼ぶな! ちぃっ」
泳いで水牢から抜け出そうともがく。
魔法少女の高いステータスであればすぐに抜け出せるはずだ。
足をかけ。手を動かせ。
目前に、空中が――
「よ、よし……」
空中に飛び出しながらP助は3人の魔法少女に叫ぶ。
「や、やれ! 何でもいいから、こいつを止めろぉ!」
傍観していた魔法少女達は慌てて武器を構え、技を放つ。
必殺スキルであったり、魔法であったり。
各々最大の攻撃をノーチラス号に放ち……かき消された。
「……へ?」
P助と同様に水牢から空中に飛び出したノーチラス号はそのまま地面を抉りながらP助へ向かって進行を続ける。
「ははは。騙したようで悪いけれど、あの水中はノーチラス号を出現するために必要であっただけで、一度走り出してしまえばもう止められないのさ」
「ぐ、ぐうううううう」
P助は走りながら、考え直す。
待て、と。
よく考えれば《
突進程度の攻撃、自身を貫通していくだけの攻撃をどうして恐れようか。
「ひ、ひひひひ……見破ったり!」
まるで水中を進むかのように、地中から一部だけを露出しながらノーチラス号は進む。
そしてノーチラス号はP助へと到達した。
「(ひひ……え?)」
ダメージは発生していない。
HPは満タンから1ミリたりとも減っていない。
だが、P助の下半身は減っていた。
腰から下が消失していた。
「(え……あれ……ひひ……?)」
致命傷であるはずなのに生きている。
生きているはずなのに致命傷を負っている。
「《
空間を削る能力。
いくら攻撃を透過出来ようと、そこに実体があるのならば、肉体どころか空間事消し飛ばしてしまう。
「(だ、だが……私は生きている)」
「おっと、今の君はもう話すことは出来ないのだったね。まあ私もそう長くはない。直に先ほどの攻撃が私に返ってくる」
反動がすぐにフィリップを襲うだろう。
ノーチラス号が障害物として消した攻撃や物体との衝突ダメージが到着後にフィリップへと訪れる。
「腰から下……つまりコンパクトごと消した。君が生きていようがもう【魔法☆少女】に至る道は無いよ。その状態の君が生きているというのであればだけどね」
「……っ!?」
3人の魔法少女が動けない。
このままフィリップへと追撃をかけるべきかどうか。
そもそも雇い主が生きているのか死んでいるのかすら分からない。
死んでいるのであれば無駄な戦闘は行えない。
デスペナルティを受けるくらいならば、このまま白旗を上げてしまった方が良いだろう。
「魔法少女というのはまだ私にも掴めていないけど、だけど何かに立ち向かうのが魔法少女というのならば」
フィリップは1人の少女を思い浮かべる。
魔法少女は全ての可能性を秘めているのだと、キラキラした目で語っていた。
「……うん。戦いから逃げる魔法少女。それは違うんじゃないかなぁ」
それだけを言い残し、反動によるダメージを受けフィリップのHPはゼロになった。
「(あ……あ……あああああああああああ)」
それを見届けたP助は、この状態で生き続けるか、それとも潔く死ぬべきか分からないまま。
「……ああああああああああああああ。……あ」
思わず叫び声を口に出してしまい、《
「し、しま――」
後悔しようが遅い。
下半身が【部位欠損】状態となりHPが急速にゼロへと減少し、デスペナルティとなった。
後に残されたのは3人の魔法少女だけ。
彼女らに出来ることは無い。
静かに森から去るのみであった。
出すタイミングが無かった話ですが。
P助さん、本当は違う名前にしようとしていました。
平和を意味するピースという名前にしたかったのです。
でも、名前を決める時に
「どんな名前にするのかしら?」
「ひひ……じゃあ……ピース……んげっ」
「はーい、P助ね」
と、むせてしまったために名前をうまく言えずにこうなってしまいました。
勿論、訂正はしましたが、担当AIが意地悪な女であったため却下されました。
悲しいですね。
今回は仲間も1人退場しましたが悲しいですね。