<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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57話 魔法邪竜

■【魔法少女α】クャントルスカ

 

「やはり最後に立つのは私と貴方でしたわね」

 

 コンパクトに映された、資格の残されている魔法少女の数を見てプシュケーは呟く。

 残る魔法少女の数は2。

 

 この場でコンパクトを所持し、生き残っている魔法少女の数も2。

 

 【魔法少女α】クャントルスカと【魔法少女β】プシュケー・アーチ。

 αとβ、対峙する2人の魔法少女が最後に生き残った魔法少女達であった。

 

「ここまで来ればもう次回なんて考えられませんわね。貴方はこの戦いから決して逃げない。そして私は当然勝ち残る」

「そうかな? 私が勝つかもしれないよ?」

「それもあるかもしれませんわね。でも、それでも、どちらにせよこの儀式も終わり寸前ですわね」

「……長かったね」

「ええ。貴方と私。2人で見つけたこの儀式の終わりが私達と思えば感慨深いですわ」

 

 プシュケーは槍を中段に構える。

 穂先をやや下げ、クャントルスカの右足に向かうように。

 

「そうだね。もう、終わりなんだね」

「寂しいのですか?」

「ううん。ようやくって思えば、嬉しさの方が勝っちゃうかな」

「私もですわ」

 

 クャントルスカの武器は無い。

 徒手で槍に対してやや距離を取るように半身に構える。

 

「ワルキューレちゃん達は戦わないの?」

「……それを貴方が言います? この森一帯を覆う結界。その代償がどれほどのものか私が知らないとでも?」

「えへへ。ばれてたかぁ」

「エンブリオの力は基本スキルしか使えないのでしょう? いくらスキルが多様なエンブリオであっても、貴方の強さは必殺スキルにある。それを使えない貴方に対して、ワルキューレ部隊を使うまでもありませんわ」

 

 互いにエンブリオからのステータス補正は受けている。

 だが、この戦いにモーちゃんやワルキューレ部隊の直接的な支援はいらない。

 そう決断した2人は、互いだけの戦いに集中する。

 

「……」

「……」

「そういうところが好きだよ。美しくて、正しくて、そして可愛いプシュケーちゃん」

「……美しいことには同意しますわ」

 

 やや緊張感に欠ける発言をしながらもクャントルスカに隙は無い。

 徒手と槍。

 中距離という位置からの攻撃が出来る槍使いであるプシュケーであっても、迂闊に踏み込めずにいた。

 

「そして私は誰よりも正しい!」

 

 クャントルスカはプシュケーよりも互いの位置に気を使っている。

 槍の間合いで拳では太刀打ちできないことを理解しているのだろう。

 付かず離れずの位置を保とうとする。

 

 故に、プシュケーは一歩下がり、前へと踏み込んだ。

 

「疾ッ」

 

 槍を突き出す。

 その狙いは違わずクャントルスカの心臓。

 

「――ッ! 分かってたよ」

 

 身を捻りながらクャントルスカは槍を躱す。

 そこまではプシュケーの常套手段だ。

 これまで何度も何度も戦っている者であれば読むことのできる一連の流れ。

 

「いいえ。分かっていませんわ」

 

 クャントルスカが槍を躱す寸前。

 紙一重で肌を掠めていこうとする直前に、プシュケーの槍は伸びる。

 

 その槍はクャントルスカの心臓……の直下に刺さる。

 

「【猿猴鉾 スウェーコン】ですわ」

「……見覚えのない槍だと思っていたけど。特典武具だったのかぁ」

 

 無理やりにスウェーコンを引き抜くと大きく下がる。

 重要な臓器は免れている。

 見た目ほど致命傷では無いことを確認すると、クャントルスカはMPを消費し、回復力を高める。

 

「伸びる槍、だね。間合いは関係なかったのか」

「13㎞、とまではいきませんが」

「……?」

「いえ……ともかく、ただの槍の間合いと思っているとすぐに死にますわよ」

 

 クャントルスカが距離を取ろうと関係ない。

 逃げる暇など与えない。

 回復する時間など与えない。

 

 中距離から遠距離に離されたとて、スウェーコンを伸ばせば届く。

 更に、いくら伸長しようとスウェーコンのしなりはプシュケーの任意だ。

 大きく穂先を揺らすことも、直線状に伸長することも出来る。

 

「……避けにくいね」

 

 穂先をブレさせ、あるいは手元から直前上に、スウェーコンでの刺突を繰り返す。

 

「……だったら少しは苦戦している顔を見せたらどうです!」

 

 クャントルスカは素手でスウェーコンをいなす。

 一つ一つを丁寧に自身の急所を外すように器用に素手で受ける。

 

「……追いつきませんわ」

 

 素手でいなすとは言っても、クャントルスカの素手が鋼鉄並みに硬いわけではない。

 触れた先から傷つき、両手は赤に染まる。

 だが、それでも問題は無い。

 素手に多少裂傷が出来ようとも、クャントルスカの回復速度が負けることは無い。

 そして素手にのみ傷が出来るということは、心臓直下の傷は徐々に塞がっていくということだ。

 ビデオの逆再生をするかのように、胸部の傷は塞がり、魔法少女の衣装から傷一つ無い白い肌が覗くだけであった。

 

「……はぁ。衣装を繕いなさい」

「うん!」

 

 プシュケーが槍を止める。

 クャントルスカは頷き、裁縫道具を取り出すと、破けた箇所を縫っていく。

 スキルで瞬時に裁縫が完了すると、プシュケーが尋ねる。

 

「……本当に謎のジョブ構成ですわね。【裁縫職人】でしたか?」

「うん。結構便利だよ。戦いで傷ついた衣装を直すのに」

 

 戦闘中に直すのもどうかと、とプシュケーは思ったが、そもそも促したのはプシュケー自身であったことを思い出す。

 

「魔法少女っていうのはいつだって可愛くて綺麗でいなきゃいけないからね! 戦いでボロボロになった姿なんて見せられないよ!」

「まあ、同感ですわね。傷つきながらも戦うのはヒーローであって魔法少女ではない。魔法少女はいつだって優雅に、可憐に、美しく、少女の羨望の眼差しを受けながら戦うのですから」

 

 衣装が修復されれば戦いは再開される。

 両者、構え直す。

 

「その特典武具……最近手に入れたのかな?」

「ええ。前回の儀式失敗の後に。それがどうかしまして?」

「うーん。……プシュケーちゃんの性格からして、エンブリオ以外は全力で使うと思っていたから」

「全力だから、何だと言うのです? まさか他に出し惜しみしている力があるとでも? そんなものはありませんわ! ワルキューレ部隊は使わない。けれど! 私は全力で貴方を倒す! それは私の美しさに誓って嘘ではありません」

「……それが問題なんだよ」

 

 プシュケーは全力で戦っていると誓った。

 エンブリオの力を除けば、ジョブや特典武具の力を惜しむことなく使ってクャントルスカに勝利すると。

 

「……貴方こそ! この森に貼った結界など解いたらどうです! もう他に残された魔法少女はいないことは明白! 貴方こそ全力を出し惜しんでいるのではなくて?」

 

 スウェーコンを伸ばす。

 槍を一度引き、刺突と共に繰り出される一撃はこれまでよりも遥かに速い。

 

 それをクャントルスカは避けることなく掌で受けた。

 

「なっ……!?」

「うん。痛いね」

 

 右掌に刺さったスウェーコンをクャントルスカは握りしめる。

 そのまま、スウェーコンを横薙ぎに振り回した……手に持つプシュケーごと。

 

「痛いけれど……プシュケーちゃんがここで退場するよりはマシだったかな」

「……何を?」

 

 スウェーコンから手を離し、地面を転がりながら体勢を整えたプシュケーの真横に衝撃が落ちる。

 否、落ちたのは衝撃ではない。

 雷だ。

 

「かみ……なり?」

 

 ソレを見てプシュケーは考えるために動きを止めてしまう。

 電気系統の魔法少女が残っていたのだろうか。

 いや、ここで参戦するはずはない。

 2人を除けば全員が【魔法☆少女】に至る資格を失っている。

 クャントルスカが雇った仲間だろうか。

 それも考えにくい。

 2人で戦うと言ったのだ。

 2対1を取るような性格ではない。

 

 雷に関するエンブリオを持つ者も同様に除外できるだろう。

 

 ならば……いや、最初から答えは決まっていたのだ。

 

 ただ、プシュケーが認めたくなかっただけ。

 

 まさか打ち損じていたなんて。

 まだ生きていたなどと考えたくはなかったのだ。

 

「……ドラゲイル」

『く、かか! そうだ。我こそがドラゲイル。邪竜にして竜に非ず。我こそは魔法少女……否、魔法邪竜ドラゲイルであるぞ』

 

 雷が落ちる。

 その地点にクャントルスカもプシュケーもいない。

 だが、雷の落ちた跡。 

 そこに1人の影があった。

 

 長身の女が。

 黒い長髪を背で伸ばし、黄金の雷のようなメイクをし、派手な衣装に身を包んだ――まるで魔法少女のような衣装を纏った女が。

 

「……やっぱり。プシュケーちゃんがドラゲイルの特典武具を使っていないと思ってたら」

「……ああっ!? そうでしたわ! 確かにMVPのアナウンスがありませんでしたわ!

『かかか。さて、此度の戦いも終いが近づいておるわ。貴様ら2人の死でこの儀式も終了だ』

 

 【黒雷竜 ドラゲイル】。

 それが《看破》で明かされた、2人の目の前にいる女の名であった。

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