<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【魔法少女β】プシュケー・アーチ
「……ドラゲイル」
「プシュケーちゃん。提案なんだけど」
「……ええ。良いですわ。受け入れましょう」
仕留めそこなった竜を前にし、プシュケーは苦々しい顔をする。
そのプシュケーにクャントルスカは一つの覚悟を問おうとし、その内容を伝える前に頷かれてしまった。
「まだ、何も言っていないよ?」
「言わずとも、ですわ。使うのでしょう? 例の必殺スキルを」
「流石だね。そう、もうプテアリスの結界も必要は無いみたい」
コンパクトに示された数字は3。
クャントルスカとプシュケー、そしてもう一人の魔法少女に【魔法☆少女】の資格があると示されている。
「私と貴方は確実として……この残りは? あの逃げるばかりの魔法少女では無いのです?」
「そっちはね、きっと大丈夫。フィリップちゃんが何とかしてくれたから」
「私たちの仲間よ。彼女になら託せるとクャントルスカは判断したの」
「……そう。貴方、仲間とか作れたのですね」
ならば残りの1人とはそのフィリップという人物だろうかとプシュケーは考える。
クャントルスカとフィリップの2人を相手にして勝てるかどうか……負けるつもりは無い。
だが、目の前に現れた敵……ドラゲイルに勝つにはクャントルスカの力が必要だ。
ドラゲイルを無視してクャントルスカやフィリップを倒し、無理やりに【魔法☆少女】に成ってしまえれば、もしかしたらドラゲイルに勝てるかもしれない。
だがそれはプシュケーの矜持に反する。
何よりも魔法少女らしくはない。
「なにより、あのドラゲイルを倒さないと【魔法☆少女】にはなれないからね」
「……? それは逆なのでは無くて? ドラゲイルを倒すために【魔法☆少女】になるならまだしも」
【魔法☆少女】にはそれだけの力がある。
美しく、可愛く、正しく、そして強さがある。
「……さっきまではね。それも出来そうだったんだけど。プシュケーちゃんは見ていなかった? コンパクトの数字が増えたり減ったり……魔法少女の数が増減していたことに」
「あれは故障なのでは……?」
ドラゲイルによる落雷がコンパクトに備わる通信系統に影響でも与えているのだと。
そう思っていた。
「ううん。クリアント君にも聞いたし、さっきのプシュケーちゃんとの戦闘音からのタイミングからして……増減していた魔法少女の正体は……ドラゲイル」
「……ドラゲイル?」
「クリアントというのは……ふふ。素敵な人よ」
モーちゃんは頬を染めながら、乙女の表情を作る。
いつだってそうなのだ。
想い人のことを考えながら、モーちゃんは楽しんでいる。
素敵なことだ。
そこで止められるのなら。
プシュケーはクリアントという人物についても尋ねたかったが、モーちゃんを無視して続きを促す。
「ドラゲイルが魔法少女というのは、ええ、そのくらいは存じ上げていますけど……あれですわよね? 魔法少女に化ける力があるという」
「うん。変身能力があるんだよね。でも、それだけじゃなかったんだよ。きっと、ドラゲイルの力はもっと深くまでこの儀式と繋がっていたんだ」
「深く……?」
そもそも【魔法☆少女】の儀式自体はドラゲイルとは何ら関わりのないものだ。
関りがあったとすれば儀式の後に成った初代の【魔法☆少女】だ。
ドラゲイルと直接ではなく、ドラゲイルについての話を他のドラゴンから聞いたくらいであるが。
そういえば、いつからドラゲイルはこの儀式にちょっかいをかけてきたのだろう。
いつから山頂に住まうようになったのだろう。
いつから、【魔法☆少女】がドラゲイルを倒すと決まったのだろう。
「私達の間で分かりやすくするなら、システム」
「システム?」
「システム……ステータスでもいいのかな。全ての情報をドラゲイルは真似出来るんだ」
「まあ……エンブリオの力も使っていましたからね。そうなのでしょうけれど」
「だけじゃないんだよ。多分だけど……持っているよ」
「持っている?」
何をだ。
ステータスを?
ジョブを?
強さを?
エンブリオを?
武器を?
信条を?
覚悟を?
「……資格を?」
「そう。コンパクトを持っているんだよ。他の魔法少女の子から奪ったのか、最初から持っていたのかは分からないけど」
その言葉に反応したのだろう。
人間体のドラゲイルは懐からコンパクトを取り出す。
じゃらじゃらと、計5つのコンパクトを見せびらかす。
『く、かか。これのことか? 我が直接殺した魔法少女が落としていったものだが。よもや我にもこのような恩益があろうとはな』
「つまり……ドラゲイルも魔法少女とカウントされているということですのね」
「うん。あのドラゴンの時はされないみたいだけど、魔法少女の姿を真似しているときは数が増えていたみたいだから」
それが何を意味するのだろう。
安易に倒せば解決、とはいかない。
「もし……もし、ですわよ? 私達2人が死んで、ドラゲイルだけが生き残ったら……?」
「……そこが分からないんだよね」
プシュケーの問いにクャントルスカは答えられない。
推測は出来るが、それ以上にはならない。
「最悪の場合は……ドラゲイルが【魔法☆少女】の資格を得て……事実上のロストジョブになるのかな」
「それは……最悪すぎますわね!」
何よりも【魔法☆少女】が汚される気分だ。
阻止せねばならない。
「……ところで私は今の姿をしている魔法少女に見覚えは無いのですが。あれ、どの魔法少女なのでしょう」
「……それも分からないんだよね」
「はい?」
「全く、見覚えどころか見当すら付いていないんだ」
クャントルスカの知らない魔法少女。
αから始まってωで終わる魔法少女の中で彼女が知らない魔法少女などいないとさえ言われている。
昨日今日就いたばかりの新参者ですら、噂程度には耳に入っているはずなのに。
「教えて、ドラゲイル……今の貴方は何なの?」
考えても答えには辿り着かない。
ならば目の前に相手に尋ねるのが一番だ。
『く、かか! 我が何か! それは貴様らは既に知っているはずだ。我は邪竜。そして魔法邪竜……言いづらいな。貴様らに合わせるなら【魔法少女邪】ドラゲイルである!』
「邪ってなんですの……邪って」
「敵であることに変わりはないんだよね?」
『是である! 我は魔法少女である前に邪竜! 邪竜であるなら魔法少女と戦うのは当たり前だ!』
「……つまり、結局どのような存在なのかは謎なままなのですわね」
「25番目の魔法少女って考えればいいみたいだね」
「コピーがオリジナルを作り出したということですの? それはまあ随分と……美しいではないですか」
「プシュケーは相変わらずね。好きよ、そういうところ」
「モー……貴方に言われても全く嬉しくないですわ。というか、私の命に関わるので嫌いになってくださらない?」
プシュケーは背筋を冷やしながらモーちゃんから視線を外す。
「駄目よ。そんなこと出来ないわ。自分の思いには真っすぐに。魔法少女らしいでしょう?」
「……貴方は使い魔の設定では?」
ともあれ、モーちゃんから嫌悪感を引きずり出すのは無理だとプシュケーは判断する。
であれば、自身の死は確実。
「分かりましたわ。私は時間稼ぎをすればいいのですね」
「……本当にいいの?」
それはつまり、プシュケーは【魔法☆少女】を諦めるに等しい決意だ。
ドラゲイルが死ぬとき、プシュケーも死ぬであろうから。
「癪ですわ。ですが、他の誰かが取るくらいなら貴方が取ってしまいなさい。【魔法☆少女】は貴方にも相応しいのですから」
プシュケーはワルキューレ部隊を整列させる。
『……ほう』
「邪竜ドラゲイル。先ほどは仕留めそこないましたが、あれが私の全力で無いことをご存じですわね? 我らワルキューレ全ての力で貴方の力を削いでみせましょう」