<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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60話 魔法邪竜の戦い方

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

「さて、モーちゃん。プテアリスを解除したら久々にやろうか」

「ええ、良いわね。まだこのドラゲイルには好きになれそうなところは無かったものね」

 

 クャントルスカとモーちゃんは距離を置き、身を隠す。

 プシュケーとドラゲイルの戦いには観察に徹しているのだ。

 

「……人型ですのね」

『く、かかか。我には些事である。竜の姿こそ長いが、別に人の姿に慣れていないわけではない』

 

 ドラゲイルが己を邪竜と表するならば、その本質も竜なのだろう。

 だが、プシュケー達に対し取った姿は人型のもの。

 人の姿を取るのは模倣によるものだけでは無かったのか。

 魔法少女の姿をしているなら、何かしらで関わりはあるようだが、それでも、プシュケーにとっては模倣にせよ独創にせよ、大きな変わりはない。

 

「私はクャントルスカと違い、別に他の魔法少女に注目はしていませんわ。故に、模倣であろうと無かろうと初見であることに違いありません」

 

 そして、先ほどまでドラゲイルが模倣する魔法少女と対峙していた時と違う点。

 それはプシュケーにとっての全力……エンブリオの力を存分に振るうということ。

 ワルキューレ部隊による全包囲からの攻撃。

 本来であれば対大型のモンスターに有効な戦法であるが、乱れない整列からの攻撃は対人であっても欠点とはならない。

 

「ワルキューレ部隊。包囲網からの一斉攻撃。防御は考えずとも良いですわ」

「「「「「「「「「イエス、マスター」」」」」」」」」

 

 ドラゲイルに逃げ場など無い。

 プシュケーを除いた9人のワルキューレ達による斬撃、刺突、殴打は【魔法少女β】による補正も相まって、亜竜級程度のモンスターを葬り去る威力を秘める。

 

『く、かか……甘い。甘いぞ』

 

 全方位からの攻撃は、人間であれば回避は困難だ。

 水平上において、攻撃を受けていない空間が存在しない。

 

『我は邪竜でもある!』

 

 跳ぶ。

 否、飛んだ。

 

 ドラゲイルは頭上へと跳躍しつつ、魔法少女の衣装に隠れた翼をはためかさせると、空中に留まる。

 眼科ではワルキューレ達による乱打の嵐が起こっている。

 

「モンスターを相手にワルキューレ達と戦っているのです。その程度を予想していないと思われているのでしたら、それこそ甘いのではなくて?」

 

 ドラゲイルの鼻柱に棒が叩き込まれる。

 空中にいるドラゲイルの更に真上から振り下ろされた棒――槍はドラゲイルをワルキューレ達の待つ地面へと叩き落す。

 

「何度もお見せしているはずでしたが。もうお忘れですか?」

 

 プシュケーはスウェーコンの穂先を手元へと縮ませつつワルキューレ達に指令を出す。

 

「人となったことが仇になっているようですわね。軽いですわよ?」

 

 ドラゴン形態と人型とでは質量すらも変化しているようだ。

 プシュケーの力で空中にいるドラゲイルを落した時の感触は竜の時よりも遥かに軽い。

 STR……というか、翼を動かす力さえも弱くなっているのかもしれない。

 

『く、かか! 良いか、教えてやろう。邪竜というのはな――』

「上は私が抑えます。止めを」

 

 完全に逃げ場を失ったドラゲイルに対し、今度こそワルキューレ達は全力の攻撃を仕掛ける。

 

 かつては伝説級UBMであるスウェーコンすらも倒したワルキューレ達の攻撃。

 

『邪竜というのは、倒されたように見せかけるものだ!』

 

 風が、巻き起こった。

 ワルキューレ達が囲む中心を点にし、その周囲をつむじ風のように突風が起こる。

 

「なっ!?」

 

 周囲のワルキューレ達の誰もが逃れることが出来ず、風に切り刻まれ吹き飛ばされる。

 

『く、かか。威力は落ちているな。我の爪とは相性が悪いのか?』

 

 風の中心で嗤う女。

 その両手の五爪は鋭く尖っていた。

 

『良いなぁ。良いなぁ』

 

 ワルキューレ達は態勢を整えると、風を防ぐべく盾を持つ者を先頭にし、ドラゲイルへと進む。

 

『豊富な武器があって良いなぁ』

 

 盾を持つワルキューレがその場に沈む。

 右足首から先が失われていたのだ。

 

「……皆さん! 周囲をよく観察してください。罠ですわ!」

 

 ドラゲイルを中心として巻き起こっていたのは風だけでは無かった。

 まるで蜘蛛の巣を張るかのように、ワイヤーが展開されていた。

 超高速で震動する糸は触れれば人間の身体程度切断してしまう切れ味を持つ。

 

「……この!」

 

 ワルキューレの一人がワイヤーを切断するべく剣を振るう。

 容易く切断されるワイヤーであったが、それを斬ったワルキューレもまた、倒れてしまう。

 

「これは……!?」

 

 プシュケーはステータス画面からワルキューレ達の状態を確認する。

 全員が全身に裂傷を抱えている。

 損傷度は違えど、【出血】、酷い者では【切断】がある。

 そして、件のワルキューレの抱える状態異常には【麻痺】と記されていた。

 

「【麻痺】……ですの?」

 

 まさか、とプシュケーは目を凝らす。

 そこら一帯に張られたワイヤーの罠。

 触れれば切断は免れない。

 だが、たとえワイヤーを斬ったとしても……

 

「電気を付与……一体何を……何をしたというのです!?」

 

 ワルキューレ部隊を下がらせるべきか。

 それともこのまま、1人でも到達させるべく突貫させるべきか。

 

『良いなぁ。良いなぁ。その伸びる武器も良いなぁ』

 

 ワルキューレの1人が胸を貫かれる。

 

「……マス、タぁ」

 

 即死ダメージを受け、ワルキューレが1人消滅した。

 ドラゲイルから十分な距離を保っていた弓使いのワルキューレであった。

 

『く、かか。これは便利だ』

 

 ドラゲイルの長く鋭かった五爪が、更に長くなっていた。

 数十メートル離れていたワルキューレにも届きうる長さにまで。

 

 先ほどまでは使っていなかった攻撃の数々。

 それはドラゲイルの使う雷だけでは説明できないものばかりだ。

 これではまるで……

 

「まるで……エンブリオの力……」

 

 エンブリオだけではない。

 伸びる爪は、まるでスウェーコンを模倣しているかのよう。

 

『さて、後は何を見せてくれる? 我に何を欲させようとしてくれる?』

 

 玩具を与えられる子供のように。

 好奇心に満ちた視線をプシュケーに向ける。

 

 

 

 

■【黒雷竜 ドラゲイル】について

 

 つむじ風を作り出すのは【カマイタチ】というエンブリオの力。

 超高速するワイヤーを繰り出すのは【アラクネ】というエンブリオの力。

 ワイヤーに【麻痺】を付与したのは【ユピテル】というエンブリオの力。

 爪を伸ばしたのは【スウェーコン】という特典武具の力。

 

 いずれもドラゲイルが目視、あるいは殺害し得た力だ。

 これまでのドラゲイルであれば不可能であった。

 《者憶え》は他者を模倣することで姿形と技、力の全てを模倣するスキルであった。

 この状態であれば模倣した対象のエンブリオも、特典武具の力すら使うことは出来ただろう。

 

 だが、今のドラゲイルはいずれの魔法少女の姿でもない。

 ドラゲイルが生み出したオリジナルの魔法少女の姿だ。

 模倣していない状態の力など使うことは出来ない……はずであった。

 

 ならば何故使えるようになったのか。

 戦闘中に進化したわけではない。

 そのような奇跡は起きようもない。

 ただ、今までは使えなかったのだ。

 いくらドラゲイルが古代伝説級にまで達していようと、完全に遺伝子レベルまで模倣した状態で無ければ技を使うことが出来なかったのだ。

 

 少しずつ、少しずつ。

 魔法少女の姿を模倣しながら、自身が作り上げたオリジナルの魔法少女の遺伝子に、他の魔法少女の情報を写し取っていく。

 【カマイタチ】を、【アラクネ】を、【ユピテル】を、【スウェーコン】を。

 完全に扱いきれるわけではないが、長所を少しずつ集めて自分のものとしていく。

 

 100パーセントではない代わりに複数の能力を同時に使うことが出来る。

 80パーセントを重ねていく。

 

 自身を少しでも強くするために。

 両親から引き継いだ優秀な遺伝子を残していくために。

 

 それこそが、【全滅危惧 ミニマムズ】の遺したスキル、《終永保存》だ。

 子を残すのではない。

 自身を残すためのスキル。

 長所を残すのではなく、長所をかき集めるスキル。

 

 ドラゲイルの模倣系スキルの奥義である。

 

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