<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
どことは言いませんぜ
■【魔法少女β】プシュケー・アーチ
「……風に糸に爪に麻痺。モチーフは想像もつきませんが、それがエンブリオを模倣した力であることは理解しましたわ」
風に切り刻まれ、糸で切断され、爪で貫かれ、触れれば【麻痺】になる。
ワルキューレ達は死屍累々。
壊滅寸前にまで追い詰められていた。
「……多彩な武器はあれど。結局物理攻撃が主体となってしまうのが私達ワルキューレ部隊の弱点でしたが……やはりこうなりますわね」
大剣も、小剣も、刀も、槍も、弓も、盾も。
たとえ魔法を使えたとしても。
ワルキューレ達の攻撃に特殊性は無い。
各々が第四形態のガーディアン並みの戦闘力を持ってはいるが、逆に言えばそれ以上の強さを持つ強者を相手取るには些か実力が不足してしまう。
第四形態のガーディアンが9体揃っても勝てない相手と戦うには、ワルキューレ達では足りない。
「……クャントルスカはまだですわね」
傷の無いワルキューレは残されていない。
いずれも全身に傷があるか、四肢のどこかが切断されているか。
そして、動けなくなった者からドラゲイルの爪で殺されていく。
「……はぁ」
溜息が漏れてしまう。
もはやワルキューレでは勝てないだろう。
ここに自身が混ざったとしても、ドラゲイルには届かない。
「嫌になりますわね」
そういえば、と思い出す。
最初はクャントルスカを倒し、【魔法☆少女】に成ろうとしていたのだった。
だが、今はクャントルスカと協力し、強敵を倒そうとしている。
【魔法☆少女】を諦め、時間稼ぎの当て馬となっている。
「……本当は見せたくは無かったのですけれど」
クャントルスカを倒すために取っておいた、とっておき。
これを使っても、ドラゲイルを倒しきることは出来ないだろう。
その上、クャントルスカに見られて次に戦う時には対策を取られているかもしれない。
「しかし! クャントルスカの助力にはなります。流布なさい、私の雄姿を! 伝えなさい、彼女らの最期を!」
ドラゲイルの爪がワルキューレの1人に向けられる。
盾使いのワルキューレの少女。
一際臆病である彼女は、武器を手に取れず、しかし皆を守るために常に前線に立っていた。
『そうれ、貴様も終わりだ』
「――ッ!?」
盾越しに糸に触れ、切断こそ免れたものの全身が硬直し、ドラゲイルの爪を防ぐことが出来ない。
盾使いの心臓に狙いを定めたドラゲイルは爪を伸ばす。
「させませんわ!」
その間にプシュケーは割り込むと、スウェーコンで爪を斬り落とす。
『ぬ?』
爪を斬り落とされようと、また伸ばせば済む話だ。
ドラゲイルは爪そのものよりも、プシュケーの行動に驚く。
『主はただ見ているだけと思っていたが。く、かか! ようやく出張ってきたか』
「ええ。ワルキューレ達だけに任せるのは荷が重すぎましたわ。……いえ、私達だけでは荷が重すぎたのですわね」
『臆したか! く、かか。ならば貴様も魔法少女の器ではない! 邪竜を倒す英雄の資格を持っておらぬただの平民よ!』
風を、糸を、爪をドラゲイルは撒き散らす。
それぞれが必殺の威力を伴ってプシュケーを襲う。
「平民……ええ、それでも別にいいのです。何故ならば、魔法少女になりたいと思うのはいつだって普通の女の子なのですから!」
スウェーコンで風を断ち切る。
続けて手のひらサイズまで縮め、糸を躱すと、再び伸ばして爪を落す。
「それにしても邪竜ドラゲイル……少し欲張りすぎてはなくて? 多可なスキルを持ちすぎても身を滅ぼすだけですわよ?」
『何をほざく!』
ドラゲイルの攻撃からプシュケーは守る。
己だけではなく、スウェーコンを伸ばして残りのワルキューレ全てを守り抜く。
『そのような死にぞこないを守ったところでどうする! 貴様の足を引っ張るばかりではないか』
「いいえ? 彼女たちは私の大事なパートナー。……故にあまり使いたくは無かったのですが」
「マスター。構いません」
「ここは私達を使ってください」
「マスターに栄光を」
「マスターに勝利を」
残りの4人のワルキューレ達が頷く。
たとえ両足を失っていようとも。
顔面が血に染まっていようとも。
臓腑が腹に収まっておらずとも。
肺に穴が空いていようとも。
彼女らは残された命を繋ぎ止めている。
「……ありがとう。私のワルキューレ。貴方達に祝福を」
ワルキューレ達の身体が光に包まれる。
消えかけていくその姿にドラゲイルは嗤う。
『どうした? 守り切れておらぬぞ』
「……そうです。私は守り切れませんでしたわ。ですが! 無駄にしたわけではない!」
ワルキューレ達が消滅していくのが、HPがゼロになったからではない。
プシュケーの必殺スキルの発動に必要なコストへと捧げられたからである。
「《
瞬間、ワルキューレの1人が完全に消滅する。
「……グン」
『貴様が何をしようと、その前に――』
ドラゲイルが風を起こすために五爪を振るう……が、何も起こらない。
『な――』
「スケッギォルド」
周囲に張り巡らされた糸が消える。
「フレック」
『この力は……!?』
プシュケーが名を唱えるたびにワルキューレが消滅する。
ワルキューレの命をコストにして発動する必殺スキル、《
その力は対象のスキル封印である。
効力は1日。
その間だけ、初歩スキルでも、奥義でも、必殺スキルでも。
どれだけ強力なものでも、封印することが出来る。
ワルキューレは英雄をヴァルハラへと導く存在。
英雄の如く強力なスキルと共に消滅していくワルキューレ達の顔は、しかし穏やかなものであった。
3人のワルキューレ達がコストへと捧げられた。
それによりドラゲイルの風が、糸が、そして今度は、
『伸びぬ……』
爪を伸ばすことが叶わない。
1mmたりとも伸長出来ない。
「ヒルド」
勝利の名を冠するワルキューレの少女は笑いながら消滅していく。
4人目の消滅と共に、ドラゲイルの全身に、振るっていた力そのものに付与されていた【麻痺】すらも無くなった。
「きっとこれでも貴方を倒しきることは出来ない! しかし、私の後には彼女がいる! クャントルスカがきっと貴方を倒してくれる!」
『この……小娘がぁぁぁぁぁ!』
吼えるドラゲイルであったが、しかし内心では冷静であった。
何故ならば、封印されたスキルはいずれも即席で作ったものばかり。
如何に強力なものであれど、別にかけがえのないスキルでは無いし、後で似たようなものを作ればいいだけのことだ。
似たような力を持つ者に出会ってしまえば、それできっと新たなスキルは作られる。
だから今はそれよりも。
目の前で新しく見せられたご馳走に集中しなければならない。
『……良いなぁ。良いなぁ!』
魔法少女の姿を作り、欲しいと思ったスキルを作った《終永保存》というスキル。
殺すか喰らうか、はたまた己の身体で受けるかなどでその情報を取り込まなければならないという条件があるが、今その条件は満たされた。
スキルを封印するスキル。
命を代価にするというという妨げは、他に命を生み出すスキルを作り出せば済むだけの話だ。
ちょうど目の前にいるではないか。
ワルキューレなどという自分の分身のようなものを生み出す力を持つ者がセットで。
他にも【ドッペルゲンガー】などという力を持つ者にも既に出会っている。
いくらでも、命は生み出せよう。
『良いなぁ。良いなぁ。そのスキルも良いなぁ』
「ええ、良いでしょう? ですが、貴方には差し上げません。命を何とも思わない邪竜には相応しくない力ですので」
プシュケーが一蹴するが、そんなもの関係ない。
ドラゲイルが欲しいと思えば作り出す。
相手のことなど考えない。
親であるミニマムズと同じ、自分勝手にスキルを発動しようとし、
「知っておりますこと? 実は私もワルキューレの一員なのですよ」
プシュケーの身体もまた光に包まれていく。
「貴方の恐るべきスキルは封じました。残るはその力の根源……スキルを生み出すスキル。貴方らしさを無くしたスキルだけですわ!」
『き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!?』
「《
最後のワルキューレ――プシュケーがコストへ捧げられる。
封じられたスキルは《終永保存》。
これでドラゲイルは新たに力を生み出すことは出来ない。
「クャントルスカ……私のライバル……大切なお友達。後は任せても宜しいのですわね?」
その言葉と共にプシュケーの肉体は消滅した。
「うん。任せて」
頭上から1人の少女が舞い降りる。
己のエンブリオのような黒い翼を背に生やした少女が。
邪竜を前にして立つ。
「プシュケーちゃん。私が勝つよ。だから、安心していてね」
『おのれ……おのれ魔法少女ぉぉぉぉぉ!』
魔法少女の姿を維持できなくなったのか、煙を上げながらドラゲイルはドラゴンの姿へと戻っていく。
コンパクトに映る魔法少女の人数は1。
ここに儀式は終了した。
だが戦いは終わっていない。
魔法少女と邪竜。
この戦いが終わるまでは、儀式の完成は成り立たない。
ただの漁夫の利ではとか思ってはいけない。
思ってしまったけど、考え直さなきゃいけない。
そう、託されたんだ。