<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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64話 愛と魔法少女 3

■【魔法少女α】クャントルスカ

 

 なるほど、と手を動かし頭を働かせながらクャントルスカは感嘆する。

 目の前で起こった現象は、感心などとは言い表せないくらいには、クャントルスカでさえ常軌を逸したと感じるものであった。

 自分が同じ力を持っていたとしても思いついただろうか。

 いや……恐らくは切り札として思いついたとしたところで実際には使えない。

 せっかくの力を無駄にするかのような、結果に釣り合わないであろう代償を払うような真似を果たして自分には出来るのだろうか。

 

「……流石だよ。クリアント君」

 

 むしろ、だからそのような力が芽生えたのであろう。

 命を貴重なものだとは思わない行為、思考こそがエンブリオの力の源なのだろう。

 

 邪竜ドラゲイルに立ちはだかったクリアントが取った行動は、手に取った武器で己を殺すことから始まった。

 走りながら、その首に刃をあてがい、斬る。

 命に直結するであろう太い動静脈を躊躇いも無く斬ったクリアントは即死する。

 そして、死んでも尚、走り続けた。

 隣にもう1人のクリアントが並走しながらであってもだ。

 

 つまりは、死を起点とした肉体の創造がクリアントの能力なのだろうとクャントルスカは推測していた。

 創造回数の制限や、ステータスの制限など、デメリットも考えられるが、それを踏まえても、使い勝手の良さそうな能力だ。

 

 クリアントはそのまま2度、己の首を斬ることで並走する人数を増やしていく。

 途中で走る速度を変えているのだろう。

 1人たりとも乱れることなくクリアント達は走っている。

 

 そしてそのままドラゲイルへとぶつかり――爆発した。

 4人の……いや、3人のクリアントの死体が爆発し、ドラゲイルの身体を傾がせる。

 

 【魔法少女ω】の固有能力、己の肉体の爆弾化。

 最終奥義とも言われているその力を、クリアントは通常攻撃として使っていた。

 

 ドラゲイルの動きが止まる。

 いつまでもクリアントを無視できなかったのであろう。

 クャントルスカから視線を外した隙に隠れる。

 そのままドラゲイルの姿を見ながら手元を動かしていく。

 

 糸を紡ぎ、針を刺し、アイテムボックスからいくつものアップリケを取り出し、それらを完成させていく。

 【裁縫職人】のスキルの一つ、《高速裁縫》である。

 元からレシピを持っていたが、その大きさ故に時間がかかっていた。

 ドラゲイルに似合いそうなリボンや花の冠、ネックレスなどの装身具を作り出す。

 途中、これはキシリーに似合いそうだなと冠だけはアイテムボックスにしまう。

 リボンとネックレスの2つ。

 これだけあればよい。

 それぞれ白を用いることでドラゲイルの体色とツートーンカラーに合わせる。

 

 そして、出来上がった2つのアイテムを手に持つ。

 

「《コーディネート》」

 

 それは、相手の空いている装備枠を強制的に埋めるという【裁縫職人】の奥義。

 呪われた品や、特典武具などは装備できないといった制限はあるが、クャントルスカの場合はただ着飾りたいだけであり、自作のリボンやネックレスを相手に装備させるという無害なものである。

 ただ、着飾って、可愛くし、そして好きになる決め手にするだけの無害なだけのスキル。

 無害でありながら、クャントルスカに好かれてしまう原因となる有害なスキル。

 

 ともあれ、クャントルスカの手元から消えたリボンはドラゲイルの頭部に、ネックレスは首にかかる。

 装備によるステータスの補正は無い。

 見た目だけの装備だ。

 

「……ようし」

 

 これだけやればもう満足だ。

 思った通り、ドラゲイルに似合っている。

 可愛い。

 好きになれる。

 大好きという感情が浮かんでくる。

 

「もういいよ。クリアント君」

 

 ドラゲイルは己の身に何が起こっているか分からない様子だ。

 戸惑い、吼えている。

 雷でリボンやネックレスを焼こうとするが、それも叶わない。

 他ならぬ装備者の攻撃で装備品が壊れることなどあってはいけない。

 だから、クャントルスカはリボンとネックレスにありったけの雷耐性を付けた。

 素材も、糸も雷に対する耐性が高いものばかり。

 簡単には壊れないだろう。

 

 その間にクャントルスカにはやるべきことがある。

 想いを、伝えなければならない。

 

「後は私が」

 

 クリアントの命はまだあるのだろうか。

 好きになっても、殺しても、死なないだろうか。

 

「邪竜ドラゲイル」

 

 爪でリボンを引きちぎろうとしたドラゲイルに声をかける。

 

「君の粘り強いところも、自分らしくあろうとするところも、その見た目も――」

 

 そういえば、一目惚れだったのかもしれない。

 ここまでの過程は、好きを確認するだけの作業だったのかもしれない。

 

 そう、勘違いしたままクャントルスカは必殺スキルを発動する。

 

「――大好きだよ」

 

 翼の生えた少女。

 愛を欲し、愛を知ると同時に相手を殺さずにはいられない少女。

 

《貴方を愛してもいいのかしら(モー・ショボー)》」

 

 少女は喰らう。

 愛した相手の脳みそを。

 啜らずにはいられない。

 だって、好きなのだから。

 好きで好きで好きで、殺さずにはいられない。

 

 TYPE:メイデンwithガードナーの【未恋乙女 モー・ショボー】は愛した者を殺す怪鳥をモチーフとされたエンブリオだ。

 明確に、殺すという逸話を持つモー・ショボーだからだろうか。

 必殺スキルはその名の通り、必ず殺す力となった。

 

 クャントルスカが愛を示す言葉を伝えた相手の中身を抉りだす。

 それが《貴方を愛してもいいのかしら(モー・ショボー)》である。

 この場合はドラゲイル、そしてクリアントが対象だ。

 

「……あはは」

 

 ついに言えた。

 告白に成功した乙女のような、晴れやかな気持ちでクャントルスカは笑う。

 

「好きだよ。大好きだよ。ドラゲイル、クリアント君」

 

 その瞬間、想いを伝えられた両名の口内から白い塊のようなものが引きずり出されようとする。

 

『――っ!?』

「……あ、がっ!?」

 

 脳みそを啜り出す。

 流石に、精神保護の観点からそのような描写がされることはない。

 持ち主であるクャントルスカが18歳に達していないという理由もあるかもしれない。

 

 故に、この必殺スキルは脳みそ以外を引きずり出す。

 魂とも呼べる何かを、肉体から引きはがしていく。

 白い塊は、少しずつ少しずつ、口から出ていこうとする。

 

 痛みはない。

 違和感もない。

 見た目だけが、何かをされているのだと実感させられる。

 

『こ、このおおおぉぉぉぉ!!』

 

 ドラゲイルは白い塊が完全に肉体から離れれば致命的になると理解したのだろう。

 必死に押し込めようとする。

 だが、その手は空を切るだけだ。

 

 魂に触れることは出来ない。

 その白い塊は、目に見えるだけの非干渉物質である。

 

『……ならば! それよりも先に貴様を!』

 

 白い塊自体をどうすることも出来ないため、ドラゲイルはクャントルスカへと視線を向ける。

 

 雷を纏った爪を振るおうとし、

 

「クリアント君。ごめんね。それ、たぶん死んじゃうから」

「そうか。なら問題は無い。その前に使い道がいくらでもあるからな」

 

 ドラゲイルの爪とクャントルスカの間に割り込み、そのダメージをクリアントが肩代わりする。

 切り裂かれながら、その衝撃で白い塊が完全に体外に出てしまったクリアントのHPがゼロとなる。

 そして、そのままクリアントの死体は動き出すとドラゲイルの爪に抱き着きながら爆発した。

 

『――ッ!?』

 

 もうドラゲイルの片手は使い物にならないだろう。

 そもそも、二度と使う機会は訪れない。

 

 この必殺スキルを発動したが最後、ドラゲイルはクャントルスカを殺す以外に生き延びる術がない。

 

『我は邪竜である! これしきのことで!』

「うん。君は邪竜だね。だけどね、その体構造は生物のそれと全く同じもの。脳みそが無ければ、心臓が無ければ、肺が無ければ、生きてはいけないんだよ」

 

 口から這い出る白い塊。

 それはあくまでグロテスクな見た目にならないよう配慮されただけであり、生命活動に必要な臓器を引きずりだす結果は変わらない。

 脳みそを、心臓を、肺を、必要としない生物などいない。

 いたとしたらそれは生物ではない。

 邪竜ですらなくなる。

 

『我は見返すのだ。父も、母も、祖父も、我を捨てたドラゴン全てを。』

「……そっか」

 

 ドラゲイルの目は、怒りに燃えて……いなかった。

 言葉にも覇気は無い。

 

「君も好きだったんだね。その人たちのことが」

『なっ……何を言っている!』

「好きだったから、だから嫌いになろうとしているんでしょ? その方が楽だから」

 

 邪竜であり続けたい。

 竜をその名の中に入れていたい。

 竜の仲間でいたい。

 

 どれだけ否定しようとしても。

 無意識に、一人であることがどれだけ沈痛であることかを知っている。

 

『我は……我は……』

「いいよ。私は受け入れて上げる」

『……魔法少女』

「君のことを好きになれる。愛してあげられる」

 

 寂しいという気持ちがあろうとも、孤独であろうとも、耐え抜いて生きてきたその強さを。

 クャントルスカは好きになっていた。

 

『魔法少女!』

 

 ドラゲイルには必要だったのだ。

 己を受け入れてくれる存在が。

 拒絶でも、敵対でもなく。

 許容が必要であったのだ。

 己が何者かを示してくれる、仲間という存在が。

 

 その声には喜々とした感情が生えていた。

 

『我を愛してくれるのか!』

「うん。愛してあげるよ」

『我が邪竜であってもか!』

「邪竜でも、そうじゃなくても。だって、君という存在を私は好きになったんだからね!」

 

 どれだけ嬉しかっただろう。

 愛情を注いでくれるということが。

 愛を囁いてくれるということが。

 

 ドラゲイルには初めてのことであった。

 初めての感情のままに。

 ドラゲイルの肉体から白い塊は完全に引きずり出されて。

 初めて死を味わうことになった。




次話でこの章も終われるかしら
年末に向けて急ピッチで進むで
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