<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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65話 愛と魔法少女 4

【とある少女の話】

 

 昔々とは言えないくらいに、ごく最近のむかしのこと。

 あるところに一人の少女がいました。

 少女は見るもの全てが好きで、聞くもの全てが好きで、何もかもが好きでした。

 

 嫌いなものといったら、自身を害するものくらい。

 噛みつこうとし吼えてくる犬や、泥団子を投げてくる男の子のことは少しだけ嫌いでした。

 逆に、嫌いでないものは全部好きであったため、すれ違う通行人ですら好きになってしまうくらいに、少女の周りには好きが溢れていました。

 

 少女にはとても大切な友達がいました。

 可愛らしく、女の子らしく。

 少女が周囲を好きになるのと対照的に、その友達は周囲が彼女を好きになっていました。

 周囲を好く少女と周囲から好かれる少女。

 2人はとても仲の良い友達でした。

 

 少女は友達の八重歯を気に入っていました。

 友達の女の子らしさを強調し、可愛らしさを引き立たせるには、八重歯無くしては有り得ないとさえ思っていました。

 

 放課後の教室で2人きり、話す時間がとても好きでした。

 自分が友達を笑わせれば、自分だけにその八重歯を見せてくれる。

 その友達の時間は自分だけのものだから。

 他に好きな友達はたくさんいるけれど、一番大事で大切な友達との掛け替えのないひと時が、とてもとても大好きでした。

 

 ふと、少女は思いました。

 自分は八重歯が好きなのか、それともその友達が好きなのか。

 その答えはすぐに出ました。

 八重歯が見えていない時も、その友達のことは好きでした。

 だから、たとえ八重歯が無くなっても友達のことは好きでいれ続けられることでしょう。

 

 自分にも八重歯があればと思っても、

 友達の八重歯が欲しくなっても、

 気を許して無防備な友達の口にそっと手を伸ばしても、

 少女にあるまじき力で八重歯をむしり取っても、

 血だらけのそれを自分に口元にあてがって『似合う?』と友達に笑顔で向けても、

 少女は永遠に友達のことを大好きな友人関係を続けられると信じていました。

 

 

 

 

【とある友人の話】

 

 友達――1人の少女から見て友達という関係の少女は人の愛し方を知りませんでした。

 常に女の子らしくあれ、可愛らしくあれ、と身なりや見栄えを整えたところで、愛されこそすれ、愛し返すことが出来ませんでした。

 

 犬はたちまちに吼えることを止め、クラス中の男の子はこぞって摘んできた花を渡してきて、通過する通行人すらも数回は振り返る。

 好奇心も好きのうち。

 少なくとも好意的な興味の目で見られることに慣れるくらいには、彼女は見続けられました。

 

 彼女は分かりませんでした。

 どうすれば誰かを愛せるのかを。

 

 彼女は理解できませんでした。

 どうやったら人を愛したことになるのかを。

 

 彼女は共感できませんでした。

 何故自分を愛してくれるのかを。

 

 故に、彼女は1人の少女を常に傍に置いておきました。

 誰を彼をも好きになる少女を。

 少女と共にいれば好きになる方法を見つけられると信じて。

 

 そして、その日になりました。

 彼女は己の一部を失いました。

 別に、彼女にとっては大切でもない歯の一つを。

 彼女の友人はそれをむしり取って、大切な宝物を扱うかのような愛しい目で見ていました。

 『似合う?』とこちらを微笑んでくる彼女の笑顔はとても美しく、しかし同時にそれすらも好きになれない自分に絶望しました。

 しかし、好きになれずとも嫌悪の感情も湧き上がってきません。

 嫌いで無いならば、まだ好きになれる余地があるのかもしれないと彼女は希望を抱きました。

 彼女は考えます。

 

 何故、彼女の友人は彼女から歯を盗ったのか。

 好きだから? それはよく分からない。

 自分に似合うと思ったから? 似合うとは思う。

 欲しかったから? それなら分かる。

 人を愛する気持ちは分からずとも。

 人を好きになる気持ちは分からずとも。

 何かを欲する気持ちなら何となく分かる。

 そうか、人を好きになるとは、欲するという気持ちだったのか。

 

 理解した彼女はさっそく実行します。

 八重歯を手に取り微笑む少女の顔に手を伸ばして――

 

「私も好きだよ」

 

 ――少女の口から、お返しとばかりに前歯を数本引っこ抜きました。

 

「――ッ!?!?」

 

 激痛と、口内にあるべきはずのものが無くなった感覚から言葉を発せなくなった少女に彼女は尋ねます。

 

「私も、似合うかな?」

 

 血だらけの歯を数本、自分の口内の空いた箇所にあてがって、笑顔で尋ねました。

 

 

 

 翌日から、少女は学校に来なくなりました。

 噂では転校したと聞きました。

 ですがもう彼女に愛を教えてくれる少女は要りません。

 少女に愛を向けなくても構いません。

 だって、彼女は知ることが出来たから。

 愛することは欲すること。

 誰かから奪うこと。

 好きと思ったら奪わずにはいられないのだと、理解出来たから。

 

 もう、彼女は愛し方を知りました。

 これからは少女を見習って、誰を彼をも愛することが出来るでしょう。

 

 

 

 

■【魔法少女α】クャントルスカ

 

「……ふう」

 

 必殺スキルを発動するといつでも思い出す。

 奥歯の手前、何もない空間を舌で触り、数年前にあった相思相愛の行為を思い出す。

 もう二度と行えない、最大級の愛情行為。

 いつかまた出会ったら、彼女を最初から愛してあげよう。

 

 【<UBM>【黒雷竜 ドラゲイル】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【クャントルスカ】がMVPに選出されました】

 【【クャントルスカ】にMVP特典【雷鳴輪 ドラゲイル】を贈与します】

 

「今度こそ完全に倒せたみたいだね」

「そうね。クャントルスカ、貴方はちゃんと彼を愛してあげたのよ」

「うん……そうだね」

 

 特典武具は雷の力を得る指輪のようだ。

 結局、ドラゲイルの本質は雷にあったのだろうか。

 あるいは、この特典武具を使い続けていけば本質に迫れるのだろうか。

 

「終わったみたいだな」

 

 木の上からクリアントが降りてくる。

 どうやら、必殺スキルの効果で死んだ後に隠れていたようだ。

 そんなことをせずとも、クャントルスカの必殺スキルは発動時にのみ対象を補足するものなので、次の肉体を創造したクリアントは対象にならないのだが。

 まあ、ドラゲイルの最期の攻撃を受けないためにも隠れていた方が都合が良かったのだろう。

 蘇生回数残りゼロ。

 これ以上は死ねない状態だ。

 死を売りにする能力も、死ねなくては使えない。

 

「クリアント君。うん、これで儀式も、ドラゲイルとの戦いも終わり。目的も達成だよ」

 

 そういえば、とクャントルスカは思い出す。

 報酬というか、彼らにも目的があったことを。

 

「ええと……確かドラゲイルのドロップ品に……あったあった。フィリップちゃんはこれが欲しかったんだよね」

 

 ドラゲイルのドロップ品の中でドラゲイルとは関わりの薄そうなアイテム。

 鏡のようなアイテムをクリアントに渡す。

 

「フィリップちゃんに渡してあげて」

「……自分で渡さないのか?」

「だって……次に会ったらきっと殺しちゃうよ。私はそういう人間なんだ。好きになったら盗らずには、奪わずにはいられない。そういうふうに育っちゃったんだ」

 

 成長するにつれ、それがどれほどに異質なことなのか分かってきた。

 自分だけでなく、あの少女も、道理に反した存在であることを知った。

 しかし、やめることはできない。

 我慢は出来ても、いつかきっと漏れ出てしまう。

 好きになったら告白をしないと、自分を保てなくなってしまう。

 

「いいんじゃないか?」

「……え?」

「フィリップのことだ。それもまた興味深いとかいって自分から殺されにいくと思うぞ」

 

 クリアントの肯定にクャントルスカは驚く。

 いくらゲームの中のことと言えど、自ら死を選ぶ者は滅多にいない。

 目の前にいるクリアントはともかくとしても、フィリップはそうでないことはここまでの道中で知っている……はずだった。

 

「フィリップと初めて出会った時もな、あいつは自分から死にに行ったんだ。触れたらどうなるか分からない猛毒を前にして、興味があったからという理由でな」

「……フィリップちゃん」

 

 死よりも好奇心が勝つ。

 なるほど、フィリップらしいとクャントルスカは頷く。

 そして同時に、

 

「好奇心も……好きのうちだよね。私とフィリップちゃんも相思相愛かぁ」

「……ん? まあ……そうなんじゃないか?」

「適当過ぎません?」

 

 いつの間にか、ワンプがクリアントの傍にいた。

 エンブリオの力を解除したのだろう。

 

「クリアント君とワンプちゃんは私のこと好き?」

「さっきのを聞いてそれを尋ねるのか? いや……別に、好きでも嫌いでもないか」

「私は嫌いですね! 先輩のことを好きなら尚更です!」

 

 好きでも嫌いでもない。

 嫌い。

 その言葉を聞いてクャントルスカは嬉しくなる。

 まだ、想いが足りていない。

 愛が届き切っていない。

 愛する余地があるのだと。

 

「ふふ、そっかぁ」

「うわ、なんでそんなにいい笑顔なんですか」

「嬉しいのよ。クャントルスカは滅多に人に嫌われないもの。恐れられることはあっても、ね。好きが嫌いに転じたことはあったかもしれないけれど……最初から嫌いとか言う人はいたかしら」

 

 クャントルスカは渡しかけていた鏡を再びアイテムボックスにしまう。

 

「分かった。これは私からフィリップちゃんに渡すね。今は……デスペナ中だから三日後か。なら、その間に私は【魔法☆少女】になっておくかな」

「就職条件はこれで満たしたんだな」

「うん!」

「結局、【魔法☆少女】って何だったんですか? ドラゲイルは結構意識していたみたいですけど」

「ああ、そのこと。それはね、【魔法☆少女】のスキルの一つに《使い魔(ファミリア)》ってものがあってね」

 

 使役数は1つの枠のみ。

 その代わり、キャパシティは上限なし。

 どのような強大なモンスターであろうとも、一匹までなら従属可能となるスキルである。

 

「きっと、それが気に食わなかったんだろうね。自分が従属モンスターにされるかもしれないって思って、【魔法☆少女】の誕生を邪魔していた」

 

 自身が何者であるか分からず、しかし邪竜として生きていこうとしていたドラゲイルにとって、そのアイデンティティさえ奪いかねないスキル。

 邪竜ですらなくなったら、きっと彼には耐えられなかったのだろう。

 

「それだって、互いの了承が無いと出来ないんだけどね。ドラゲイルが拒めば従属は不可能なのに」

「それでも、少しでも可能性があるのが嫌だったのかもしれないな。……いや、結局は魔法少女達を前に立ちはだかる邪竜になりたかっただけなのかもしれないけど」

「一番ロールプレイング楽しんでいますねー」

 

 ならば、最後の瞬間は邪竜としての最後だったのか。

 それとも、ドラゲイルとしての最後だったのか。

 

 クャントルスカには分からない。

 好きになっても尚、分からない。

 

「じゃあ、またね」

「ああ。三日後に……俺達が最初に会ったあの場所で良いか?」

 

 長距離を跳躍した場所だ。

 思い出し、笑う。

 モーちゃんの力を借りて、背の翼で少しだけ浮遊していたのを知らずに、純粋な跳躍力だけで100mを跳び越していたと驚いていた2人の顔。

 それはこのまま黙っていよう。

 その方が、面白いし、何より好きだ。

 

 ああ、そうだ。

 好きなのだ。

 欲しいわけではない。

 盗りたくも、奪いたくもない。

 ただ、その表情は純粋に好きという感情だけだった。

 

 これが、好きという気持ちだったのだろうか。

 

「……愛し方って色々あるんだよね」

「何か言ったか?」

「ううん。別に、何も。今後とも、よろしくお願いします」

 

 好きと思える場面を探す。

 もしかしたら、2人と共にいればもっと好きに出会えるかもしれない。

 クャントルスカの知らない好きを、愛し方を知ることが出来るかもしれない。

 

 こうして、クリアントとフィリップ一向に1人の魔法少女が加わった。

 旅は道連れ。

 3日後、一行の1人がまたもデスペナルティにより旅は遅れることとなるが、それもまた愛の一つである。

 




なんとか年内に終われました。
次章が何時になるか分からんけど、待っていてくれる人いたら待っててくれると嬉しいです。
とりあえず登場人物のまとめと、サブタイの変更でもしますかね。
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