<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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68話 堕落の太陽

■【魔法少女ω】クリアント

 

 水族館の名物の一つである水中トンネル。

 まるで海中を歩いているかのような、360°前後左右見渡せる空間の中で海洋生物の観賞が出来る施設。

 水中と空中の違いはあるだろうけど、まさにそのようだとクリアントは感じた。

 空を自在に駆ける動物――を模したモンスター達。

 縦横無尽に、その身体を余すことなく観賞できるこの場所は動物園や水族館に近いのだろうと、そう思わせる。

 尤も、モンスターが好戦的でなければの話であるが。

 

「象にキリンに……あれはウサギか? 犬みたいなのもいるな。翼が生えているのはともかく、四つ足で駆けているだけで空を移動できる姿を見ていると違和感を覚える」

「一番の違和感は先輩ですからね! これだけのモンスターに囲まれて何でそんな呑気なこと言っているんですか」

「おお! 見てごらんよ、純竜級モンスターもいる。へえ、やっぱり海中とは骨格からして構造が違うようだ」

「フィリップちゃんも大概だね。落ちたら即死の高度まで来ているのに」

「そういうクャントルスカもさっきから恋が多いんじゃないかしら? 想いが多すぎて私も嬉しいわよ」

 

 馬車の窓から身を乗り出してまで外の景色を楽しむ数名とそれを落ちないように必死に繋ぎ止める数名。

 当然ながら、その繋ぎ止める者の中には馬車の持ち主であるフォールも含まれていた。

 

「なんで微塵も恐怖心が無いんですか!? 初対面の人が多い中で言うのもなんですけど、皆さんのブレーキぶっ壊れてたりしません?」

 

 死生観であったり、好奇心であったり、恋であったり。

 どこかしらのブレーキが壊れている面々にとってはあながち間違いでないフォールの言葉である。

 

「……まあ、正直なところを言うと。俺にはこの状況をどうすることも出来ないからな。だから楽しむことにした」

「あー。分かります分かります。毒も爆発も馬車の中では出来ませんからね」

 

 クリアントの言葉にワンプは頷くと、引っ張っていたクリアントの服から手を離し、共に窓の外を眺めた。

 

「確かに、どうせ何も出来ないなら楽しんだ方がお得ですねー。先輩だったらここから落ちたところで死ぬだけですし」

「あ、ちくしょう、こっち側と思ってたメイデンのお嬢ちゃんがあっち側に……。やっぱりクャントルスカさんの知り合いでまともな人いないのか!」

 

 フォールを除いた全員が馬車の窓から外を眺めることになった。

 馬車の中央でフォールは一人頭を抱える。

 

 ちなみに、馬車とは言うが、御者はいない。

 馬車を引く天馬はフォールの従魔であり、目的地の方角だけ伝えれば後は任せきりである。

 時折フィリップが風に流れる【スカイ・クラウド】の現在地をスキルで探り、微調整していく。

 

「新しい力を試してもいいんだけど、ここはフォール君に任せた方がいいのかな?」

 

 指輪を眺めつつ、クャントルスカはフォールに問う。

 

「……まあそろそろ私のスキルの圏内ですし。快適な空の旅を約束しているのでお客様方はゆるりとくつろいでいてください。この辺りは遠距離攻撃に優れたモンスターもいませんし私一人でも何とかなりますよ」

 

 対飛行生物に限定すれば準〈超級〉。

 それが〈ウェルキン・アライアンス〉の中核メンバーであるフォールの実力。

 

 肉食動物が無力な小動物を発見した時さながらに、空を駆けるモンスターらが一斉に馬車を襲おうと牙を剥く。

 最も近いモンスターで2000メートルほど離れた位置。

 地上においてはまだ遠いといえる距離。

 だが、障害物の無い空中。

 逃げ場のない程に周囲を囲むモンスター達。

 空を駆けるモンスターは何よりも速度に秀でている。

 すぐにでも馬車にその爪や牙を突き立てることであろう。

 

 故にフォールは馬車を停止させる。

 この場に集うモンスターを一掃するために。

 

「《翼は飛翔の()資格に非ず()天への畏敬が()資格なり()》」

 

 馬車の上空に太陽が出現する。

 眩い陽光は、しかしモンスターに対しダメージを与えることは無い。

 ただ、そこにあるだけだ。

 

 モンスターは駆ける。

 獲物を求めて。

 本能のままに飛ぶ。

 

 

 多少知能があろうとも。

 自身に何が起きているか分からぬまま、本能を満たすために彼らは駆ける。

 徐々に自身の速度が落ちているように感じても、周囲も同様に遅くなっており、かつ空には他に何もない故に気づけない。

 

 やがて、最もAGIが速く近くにいたモンスターが馬車に手をかけようとした時。

 

「――『ジャッジ』」

 

 飛ぶ力を失った。

 

「Gi――!?」

 

 必死に翼を動かそうと、四肢で空を泳ごうとも。

 飛ぶことが出来ない。

 

 一斉に彼らは空から大地へと墜ちていく。

 馬車の周囲に生物はいない。

 全て、地へと叩きつけられ絶命してしまった。

 

 これこそがフォールのエンブリオである【天空審判 イカロス】の必殺スキル。

 近づく者を【飛行禁止】の特殊状態異常を課すスキルである。

 

 

 

 

「とりあえず周囲のモンスターは全部飛べなくなりましたので。しばらくは襲われることもないでしょう」

 

 まだ遠くに残っているモンスターもいる。

 それらはイカロスの効果の発動範囲外にいたのだろう。

 しかし、近づいたモンスターが次々に墜ちていくのを見るとどこかへと去って行った。

 

「それではこの隙に行きましょう」

 

 フォールは再び馬車を走らせ、【スカイ・クラウド】を目指し始める。

 

「空中特化の広域殲滅、か。いやぁ、見物だったね」

「うん。ますます好きになっちゃったよ」

「……縁起でも無いこと言わないでくださいよ」

 

 顔を背けるフォールであったが、やはりその顔は赤かった。

 

「照れているわよクャントルスカ」

「そんなところも好きだよ!」

 

 馬車に揺られながら、一行は進む。

 更に数度、モンスターと会敵するも、数が少なければ眩い閃光で目を眩ませ、大群に囲まれればフォールの必殺スキルで堕としていく。

 

「すいません。思ったよりも手間取ってしまった」

 

 予想以上にはモンスターとの戦闘数が多かったのだろう。

 30分もあればとフォールは言っていたが、その倍程度の時間がかかった。

 移動時間だけであれば30分程度であったが、戦闘時間が同じくらいあったのだ。

 

 ともあれ、それでも1時間という短時間で目的地にまで辿り着けた。

 申し訳なさそうな顔をするフォールを責める者はいなかった。

 

 僅か数キロ程度の雲で出来たエリア。

 何事かと、原住民が顔を出している。

 

 彼らに対し興味が沸いているフィリップであるが、それを一度我慢し、リルを取り出す。

 

「ううん! ありがとうねフォール君! これ、約束のお金」

 

 運賃料及び護衛料をフィリップが取り出すと、そこにクャントルスカが自身の手持ちから追加し支払う。

 

「いいのかい?」

「うん。私も楽しかったし!」

 

 フィリップが尋ねると笑顔でクャントルスカは答える。

 

「私……クャントルスカさんを誤解していましたよ」

 

 受け取った報酬を大切そうに仕舞うフォール。

 

「惚れ直した?」

「あ、いえそれは別ですけど」

 

 フォールは馬車をアイテムボックスに格納し、天馬に跨る。

 

「またお帰りの際は連絡ください。しばらくはこの辺りで活動していますので」

 

 そう言い残すと、彼は去って行った。

 フォールにしても【スカイ・クラウド】の地を踏むのは初めてであり、興味はあったのだが、クャントルスカ達と共に行動をするデメリットと天秤にかけた結果、付近での待機に収まった。

 

「どこもかしこも翼の生えた〈ティアン〉ばかりね」

「モーちゃんと同じだね! みんな好きになっちゃいそう」

 

 【スカイ・クラウド】全域の〈ティアン〉に死刑宣告に等しい言葉を吐くクャントルスカ。

 流石にここで指名手配になるのは不味いとモーちゃんは判断したのだろう。

 

「あら。私だけでは不満なのかしら?」

 

 やや上目遣いにクャントルスカを見つめる。

 

「そんなことないよ! モーちゃんも好き!」

 

 モーちゃんに抱き着き、クャントルスカの視線から原住民の姿は外れる。

 

「ほう。この雲は千切った先から溶けていくのか……となると地面になっている雲は何かしらの技術で固定されている……?」

 

 寝ころび、雲を触るフィリップ。

 嗅いだり、口に運んだりと雲が何故地面足りえているのかを推測しているのだろう。

 

「先輩! せっかくだからデートしましょうよ、デート!」

「デートって……家が並んでいるだけのように見えるが」

「ではおうちデートですね! きゃっ……先輩ったら何を想像しているんですか」

 

 好き勝手に行動し、会話する来訪者に対し。

 原住民達は訝し気な視線を送るのであった。

 まるで不審者を見るかのように。

 『地上の人間って突然抱き合ったり雲を食べたりするんだ』と鳥人族の子供たちは新たな知識を得た。

 




イカロスの詳細は原作様をお読みください。
フォール君に関しては完全に捏造しました。
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