<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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6話 泥と鼠 2

■【愚毒道 マッドラップス】

 

 マッドラップスの針には2つの能力が付与されている。

 1つ目は貫通力の強化。

 僅かにでも触れれば溶かすことが出来るのだ。

 攻撃力は必要ない。

 貫き、体内に混じることが出来ればそれで生物は瞬く間に溶け始める。

 背に纏う無数の針。その1本1本が致命傷に至る可能性を秘めた針となっている。

 ただ刺さりやすいだけの針。それが必殺の力を持つのはマッドラップスの2つ目の能力にあった。

 

 これまでマッドラップスと対峙した〈マスター〉の多くは針そのものでなく、針が刺さった箇所から融解し、急速にHPを減少させて死んでいった。

 それを踏まえた上での毒に対抗した装備も効果は薄く、人間の努力を嘲笑うかの如くマッドラップスは己の栄養分に変えていく。

 かのモンスターの能力は耐性無効化の毒物を自身の体内で生成する能力……ではない。

 

 スキル名は《毒呪変容》

 対象の肉体を毒へと変質させる能力である。

 肉も血も。猛毒へと変えてしまう。

 耐性などいくら付けたところで意味がない。

 毒は己が肉体そのもの。

 耐性を付けるということは、それはつまり、自身の肉体を否定してしまうのだ。

 むしろ異物を取り除こうと肉体の崩壊は早まるだろう。

 

 背を覆う無数の針1つ1つが《毒呪変容》の効果を持っており、防御にも攻撃にも応用できる。そして、針を飛ばすことで弾丸よりも恐ろしい、効率的に生物を殺す武器となる。

 

 ただし、マッドラップスは己の能力の詳細は知らない。

 UBMとなっても知能が低い故か、それとも成ってまだ日が浅いからか。

 ただ殺す。

 人を殺す。モンスターを殺す。生物を殺す。

 生物殺傷に特化した能力で殺しながら、被害を拡大させながらマッドラップスは進む。

 

 

 

 

「Goa……」

 

 クリアントとマッドラップスの邂逅。

 それは数えるのも馬鹿馬鹿しい程に繰り返されてきたことであった。

 

「……ふうん」

 

 クリアントは周囲に転がる死体を見る。 

 光となって消える気配はない。

 それがこの世界でかつて生きていた、ティアンのものだとすぐに分かる。

 ティアンは〈マスター〉と違って次が無い。

 それゆえに戦闘は必死になるだろうが、臆病になり、〈マスター〉に任せる者も少なからずいるだろう。

 だが、実際として死者が出ている。

 〈マスター〉はともかくとして、近くの村を守るために立ち向かったティアンが殺されている。

 無謀に挑み、死ぬ寸前に何を思ったのか。クリアントには分からない。

 クリアントは〈マスター〉だ。

 分かるとしたら同じ〈マスター〉の気持ちしか分からない。

 数人のティアンが死んでいるが、〈マスター〉はその何倍殺されたのだろうか。

 倒せると思ったのだろうか。それともクリアントと同様に試しに挑んだのだろうか。

 

「先輩。まずは1回死んでみます?」

「ああ、そうだな……その言い方はお前に殺されそうなんだが」

「まあまあ。まあまあまあ。ワンプちゃんの力は死んで発揮されるんですし。せっかくのUBMとの戦いです。色々と試していきましょう!」

 

 背中に生えている無数の針は明らかにこのハリネズミの主武装だろうとクリアントは予測する。

 予想し、何か対策が出来るかと考え、それは無駄だと諦めた。

 タネは分からないが、クリアントよりも遥かに強い〈マスター〉が何人も殺されている。

 考えたところで先人を上回ることなんて出来ないし、クリアントにはクリアントしか出来ないやり方で攻略しなければならない。

 

「まずはあの針を避けつつ……近づいてみるぞ」

「了解です! じゃあ先輩……後は任せましたよ」

 

 クリアントが杖を構え、ワンプはクリアントに覆いかぶさるようにし泥となって消えていった。しかしクリアントの装いが汚れたようには見えない。

 あたかも、クリアントの内面に溶け込んだかのようだ。

 

「……まずは様子見だ!」

 

 クリアントはスキルを発動しつつ1歩踏み出そうとし――マッドラップスの射出した針によって殺された。

 命中率と貫通力に長けた針は正確に、しかし体のどこかにさえ当たればよいという考えの下で、一番当てやすい胴元に狙いが定められる。

 駆けだそうとやや浅く体勢を整えたが故に、腰に向かっていた針は胸に当たる。

 心臓一直線に目掛けていた針は、しかしその遥か手前で止められるが、肉体に刺さったという事実は変わらない。

 針そのものによるダメージは【マッドドロップマウス】であった頃の噛みつきにも遥かに劣る。

 下級職低レベルのクリアントにだってダメージは目に見えるほどしか与えられない。

 だが、それでいいのだ。

 たとえ少しであろうともダメージが入れば……体内に針が侵入すれば、肉体が毒へと変容する。

 どれだけ強靭な肉体を持っていようと、己が肉体が毒になってしまえば抗う術はない。

 

「――っ!?」

 

 瞬間的に肉体が溶け、HPがゼロへとなる。

 マッドラップスが幾たびも見てきた光景。

 マッドラップスをマッドラップスへと成りあがらせた人間に対しても慈悲はなく、むしろ殺した実感を味わいながら進もうとする。

 すでに目の前の男の力は分かっていた。

 短時間の間に蘇る力なのだろう。

 どこかへと消えていくが、すぐにまた戻ってくる。

 鬱陶しい力だ――この肉体を毒に変える力が無かった頃であれば。

 

「Goaaa」

 

 蘇生、蘇生か……とマッドラップスはUBMの中では比較的低い知能――一般的なモンスターの中では高い知能で内心笑む。

 何度も言うことだが、マッドラップスは肉体に毒を注入するのでなく、肉体を毒へと変える。そしてその持続時間はおよそ3日間――必然か偶然か〈マスター〉がデスペナルティから復帰する時間だ。

 仮にその前提を覆すような存在がいた場合どうなるか。

 復活した肉体は……未だ毒に侵され続けるだろう。なにせ己の肉体が毒そのものなのだから。

 次に会う時が何時か分からないが、その時まで何度も死に続けるが良い。

 そう思いながらマッドラップスは進もうとし――

 

「毒か」

「Ga!?」

 

 立ち上がるクリアントを見て驚愕する。

 いや、正確には先ほど殺したクリアントの死体は転がっている。

 すでに光となりつつあるが、残っている。

 それとは別のクリアントが生きて、立っている。

 肉体を毒へ変容させる能力が続いている様子はない。

 

 何故だ。何故だ。何故だ。

 疑問に固まっていると、肉体が脱力感を覚える。

 

「???」

 

 何が起こっているか分からない。

 何をされているのか分からない。

 

 分からないまま、本能に従い、新たなクリアントに向け針を飛ばす。

 

「ぐあっ!」

 

 夢のように、あっさりとクリアントは死ぬ。

 マッドラップスは安堵する。

 何だ、やっぱり効いているじゃないか、と。

 

「俺の死体残ってるの何だか変な気分だな……ラグなのか?」

 

 が、すぐにまた死体を残して別のクリアントが生まれる。

 

 分からない。分からない。

 殺す。生まれる。

 殺す。生まれる。

 何度やっても繰り返し。

 いや……明確に1つだけ違うことがある。

 分からないままマッドラップスから徐々に力は抜けていく。

 まるでクリアントを殺した恨みがマッドラップスに帰ってくるように。

 呪いが蓄積してくるかのように。

 

 マッドラップスには分からないだろう。

 【泥中別誕 スワンプマン】が第二形態へと至った際に芽生えた新たなスキル〈異身伝心 儀ノ三〉。

 死んだその場に新たな肉体を創造するという能力。

 これまではセーブポイントであったが、その場で復活するため継戦能力が高まった。

 加えて、クリアントの現在のジョブは【呪術師】。

 先ほどから使っているスキルは唯一つ。〈エンド・カースド〉という自身を殺した相手に自分の最大HPに見合ったダメージを与えるというもの。

 上級職ともなればステータスすら下げてみせただろうが、生憎と就いたばかりの下級職。

 だが、これで十分だ。

 UBMを……モンスターを倒すにはHPをゼロにさえすればいいのだから。

 何度殺されようと、何度もその場で生き返り、そして何度も〈エンド・カースド〉によりダメージを与える。

 

「Goa!」

 

 マッドラップスは5度目のクリアント殺害を行い、そしてクリアントが新たに生き返ると同時に呪いによるダメージを受けた。

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