<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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70話 赤砂の剣

■【魔法少女ω】クリアント

 

「……剣、ですか」

「もしくは剣を模した彫刻品でも、あるいは絵画の可能性もあるけど。剣に纏わる話は聞いたことないかな」

「確かに、『赤砂の剣』という長剣が古より伝わっております……おりました」

 

 マウによると、その剣は気づけば、この雲の村にあったらしい。

 抜けばたちまちのうちに炎をあげ、全てを燃やし尽くす剣。

 後に残るのは、この雲の世界では何も無し。

 ただ、剣に焼かれ煙になり果てるのみ。

 

「おお! それを見せ……おりました?」

「それはすでにここにはありません。私がこの村の管理者になった頃ですから……もう20年は前でしょうか。紛失……というか、盗まれてしまいまして」

「――ッ!? 盗まれた、ということは犯人がいるのか。その心当たりはあるのかい?」

「……当時、数人ほど地上の人間が来られまして。飛行を可能とする特典武具を手に入れたため試用運転をしているのだとかで」

 

 そして、鳥人族は歓迎した。

 飛べることに対し純粋に喜んでいた人間を微笑ましく思い。

 心の底から歓待した。

 

「翌日になり、地上の人間は影も形も無く消えていました。『赤砂の剣』と共に」

 

 鳥人族は『殺菌の珠』と違い、武器である『赤砂の剣』にそれほど価値を見出していなかったらしい。

 当時から【翼神】という超級職に就いている者がいた。鳥人族随一の強さを持つその【翼神】は『赤砂の剣』を必要としておらず、それに倣った他の鳥人族もあえて強力な武器を手に取ることが無かった。

 置物と化していた剣は宝ではあったが、碌な警備もされていなかったらしい。

 実際に、地上の人間が突如消えてもそれが『赤砂の剣』を盗むためだとは結び付かなかったらしい。

 

「……当時は我々の警備体制も問われました。ですが、【翼神】殿が仰ったのです。無用の長物を必要とする者が現れたのだ。何も気にすることは無い、と」

 

 だが、不用心には変わりない。

 これ以降、鳥人族が交代で金銭類や『殺菌の珠』の守護を行うこととなった。

 地上の人間に対しての不信感は芽生えたが、その後やってきた人間達と関わった末に、交流を続けることになったらしい。

 

「きっかけとしては良かったのでしょう。こうして見直す良き機会となりました」

「……すでにここに無かったとは。《探求心》はこの【スカイ・クラウド】を指していたんだけどなぁ」

「宝とか、特典武具を探すスキルだったか。外れとか?」

「うん。距離が離れる程、精度は下がるけど……でも今でも《探求心》はここに《赤砂の剣》があると指しているんだよね。うーん……せっかくここまで来たのに」

「では、遊びましょう! 観光をしましょう!」

「鳥人族の翼……もっとよく見てみたいな。新しいの愛のカタチを見つけられそう」

「それは私も見てみたいわね」

 

 テリトリー型となっているワンプの声が聞こえる。

 【スカイ・クラウド】での行動が大きく制限されてしまったワンプはクリアントが動かなければ何も出来ない状況だ。

 

「先輩、行きましょうよ!」

「どうする? フィリップの目的の物がここにないならこれ以上話をしても意味は無さそうだが」

「お力になれず申し訳ありません。何せもう昔のこと。あの日ここに来た人間の名すらもう誰も覚えておらずでして」

「むぅ……また一から探してみるしかないか」

「代わりと言ってはですが、こちらを」

 

 マウが雲の棚から取り出したのは、剣の鞘であった。

 赤く、熱を発しているかのような色であった。

 

「『赤砂の剣』の鞘にございます。中身が無い今、私共には完全に無用なもの。せっかくここまで来たのですから、せめてこちらを」

「……良いのかい?」

 

 やけにあっさりと、マウは鞘を渡してくる。

 

「ええ。捨てようにも捨てられませんでしたから。空の上から放り投げても危険ですからね。かと言って、地上のどこかに置いて来ようとも、どこに置けばいいのか分からなかったので」

「そういうことなら。……そうか! 《探求心》はこれに反応したか! やっぱり私の心に間違いは無かったんだな、ふふ」

 

 フィリップは鞘を嬉しそうに受け取り、眺める。

 

「これだけでも特典武具に値する価値があるみたいだけど、鞘単体では特に機能は無いみたいだね。……ふーん?」

 

 鞘をアイテムボックスに収めるとフィリップは立ち上がった。

 

「貴重なものをありがとう。これは十分に手がかりになるよ」

「これは興味本位ですが、『赤砂の剣』はそれほどに価値があるのでしょうか?」

「さて。私にとっては宝だけどね。それこそ【翼神】が言っていた通りなのだろう。誰かにとっての不必要が誰かにとっての必要なのさ。私にとっては、【探検王】の転職条件が『赤砂の剣』だったということだけだね」

「【探検王】……超級職ですか。なるほど、納得しました。理由があるだけ、貴方達は信頼できます」

 

 それからはマウ自ら【スカイ・クラウド】の案内をしてくれた。

 とはいえ、住居を含めたほとんどの建造物が雲で構成されている以外珍しい物は無かった。

 【スカイ・クラウド】にある雲が何故こうして固まっているのかは分からないらしい。

 昔からこうであった、と認識されているようだ。

 理屈は分からないが、問題は無いから居住区として使っている。

 かりに、【スカイ・クラウド】が崩壊したところで、鳥人族は飛べばいい。

 飛んで、新たな住処を探すだけだ。

 

 一通り見たところで地上へと戻ることになった。

 フィリップの探していたものこそ見つからなかったが、鞘を手掛かりに再び《探求心》で探すらしい。

 

「数日は覚悟していましたけど、けっこう早かったですね」

 

 クャントルスカがフォールに連絡を取ると、彼はすぐにやってきた。

 周囲の索敵や地形の調査を行っていたらしい。

 空輸を主にしているが、安全な着地地点を把握しておくことが重要だと彼は言う。

 

「次はぜひ、貴方も我が村へ」

「……はは。機会があれば」

「その従魔と馬車があれば容易く来れそうですが」

「そうですね……次はオーナーを紹介させてください」

 

 フォールは鳥人族の姿を見て気まずそうに答える。

 エンブリオのモチーフを考えれば……いや、彼のエンブリオの能力を考えても鳥人族と関わるのは気まずいのだろう。

 それでも〈アライアンス〉としては【スカイ・クラウド】は良い提携先に成り得る。

 マウの差し出した手をフォールは取り、固く握り返した。

 

「えーと……帰りは4人ですか? あれ、メイデンのお嬢ちゃんは?」

「それなら俺とがっ……融合中だ」

「先輩と合体……きゃっ」

「分かりました」

 

 ワンプがいないことで見せたフォールの笑顔は本物なのだろう。

 よほど馬車の中がワンプの泥で汚されるのが嫌だったらしい。

 往路で付いてしまった泥はすでに綺麗にされている。

 

「帰りはどちらに?」

「そうだね。ではこのまま――」

 

 出発地点とは別の場所をフィリップは指定する。

 レジェンダリア内であるが、更に北東に進んだ地。

 カルディナとの境までクリアント達は移動していた。

 

「ううむ。海中こそ移動に一番と思っていたが、空も良いものだね。私のノーチラスも空中移動がもう少し早くなればいいのだけれど」

「潜水艦の意味が無くならないか?」

「というか、陸海空制覇したいね」

 

 カルディナが近くにあるというだけあって、風に砂が乗せられ運ばれてくる。

 

「ここは?」

「ええと……ノクトルという小さな村の近くですね。主な特産物は甘い唐辛子、と〈ウェルキン・アライアンス〉のデータにありますね」

「甘い唐辛子……?」

「なんですかその矛盾した食べ物」

 

 馬車の外に出たことによりワンプがテリトリー型からメイデンへと戻る。

 

「それはミキサーにかけたらどんな味になるんでしょうね」

「甘い唐辛子の味だろうな」

 

 次なる目的地にたどり着いたクリアント達は、村へと向かおうとする。

 

「フォール君、また帰るときに連絡するね」

「あー……それなのですが。良ければ私も一緒に行っていいですか?」

「それはまたどうして?」

 

 クャントルスカ達との関わりは避けておこうというスタンスであったはずだが、何の心変わりだろうか。

 

「まあ一番はまた呼ばれるまで暇だということなのですが……せっかくなのでその唐辛子の買い付けと挨拶をしておこうと思いまして。ここら一帯は私の担当地区なので」

「私は賛成だよ! フォール君が一緒なら頼もしいし!」

「クャントルスカが良いなら私も勿論賛成ね」

 

 クャントルスカとモーちゃんはすぐさま手を挙げる。

 これは誰もが予想できたことだ。

 

「俺も別にいいぞ」

「私もどちらでもー」

「……んー。まあ私としてもその村との間に入ってくれるなら、話はしやすくなるし。ここは頼らせてもらおうかな」

 

 こうして、クリアント達にフォールを加えた6人は新たな村を訪れた。

 天空の村から地上の村へ。

 住む人間こそ違うが、そこに命が生きていることに変わりはない。

 そこに原住民がいて、外部から来た余所者に影響されることは天空であっても地上であっても変わりはないのだ。

 

 

 

 

■???日前

レジェンダリアのセーブポイントの一つ

【???】???

 

「えへへ」

 

 その少女は笑みを絶やすことが無かった。

 突如空から地へと叩きつけられる勢いで落とされようとも。

 所持金全てを強欲な露天商の店主に粗悪な品を掴まされ失おうとも。

 初めての戦闘で武器をモンスターに奪われようとも。

 ジョブに就かないまま、人間を切り刻むことに快楽を見出したPKの集団に囲まれようとも。

 少女の顔には笑みが張り付いたままであった。

 

 PK達は最初、恐怖で表情が固まっているのだと思った。

 レベル上げよりも初心者狩りを優先しているため、強いとは言えないが、それでも下級職はカンストしている者ばかり。

 対する少女は武器も持たず、装備も初心者のもので、ジョブに就いていないことも《看破》で分かっている。

 対抗手段も無く、味方もおらず、無力なまま死ぬ未来を想像し、引き攣った笑いをしているのだと。

 

 そう、勘違いしていた。

 

「えへへ」

 

 少女の左手の紋章が光る。

 同時に、笑っていた少女の目に僅かながらに驚愕が混じる。

 まさか、とPK達は驚く。

 

 まさか、たった今エンブリオが孵化したとでもいうのか。

 この局面で。

 たった一つ、残された対抗手段としてエンブリオが孵化したと。

 

「……そっかぁ」

 

 少女は舌で己の歯を舐める。

 上前歯の三本をチロリ、と。

 執拗に、舐め続ける。

 

「よろしくねぇ――モーちゃん」

 

 モーちゃん。

 そう少女は呼ぶ。

 そして、光が収まった時、少女の隣には、背に翼を生やし口元を黒い布で覆った少女が立っていた。

 

「……きゃはっ」

「えへへ」

 

 2人の少女は笑う。

 

「《愛があるのなら、殺傷もまた恋である(モー・ショボー)》」

「……は?」

 

 PKの声はかき消された。

 孵化と同時に、明らかに必殺スキルらしきスキルを発動した少女。

 だが、それ以上に。

 

 上級職のレベルを上げ始めたばかりのPK達が、次々と死んでいく。

 何が起こっているのだろう。

 

 分からぬまま、少女達を残しPKの全員が命を落とした。

 

「……こっちだぁ。行こうねぇ、モーちゃん」

「……きゃはっ」

 

 ゆらり、と揺れるように少女達は歩き始める。

 何かに導かれるかのように、その歩みは迷いのないものであった。

 




ううむ……こういう話を進める展開を書くの苦手だ
かなり駆け足になってしまう
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