<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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時間軸としては全話から数日前くらい?


71話 将軍の助け

■ドライフ皇国皇王宮

 

「……」

 

 捲る。

 捲る。

 捲る。

 

 幾束もの資料を、まるで絵本を読んでいるかの如く……否、そこに文字など存在しないかの如く速度で捲っていく。

 

 それは、過去に現れたUBMについての紙束。

 どのような場所で、どのような経緯で生まれ、どのような能力を持ち、どのような人間やモンスターを殺し、どのような死に方をしたのか。

 そして、どのような特典武具を残したのかが記された資料。

 無論、極秘中の極秘事項といっても良い情報ばかりが乗っているものである。

 

 とはいえ、いずれも過去に存在したUBMばかり。

 多くが討伐済みであるため、知ったところで何が出来るというわけでもない。

 

 だが、渡るべきでない人間の手に渡ってしまえばそれだけで各国の情勢すら変わってしまいかねない情報の数々。

 特典武具の情報などその最たるものだ。

 暗殺や謀殺に向いている特典武具などいくらでもある。

 それが誰の手に渡っているのか、あるいはすでに失われているのかを把握しているだけでも大きく違う。

 

「……」

 

 捲る。

 捲る。

 捲る。

 

 捲る手を止めず、その者は端正な顔を表情を変えずに読み続ける。

 まるで機械のような、人形のような、人間味を感じさせない顔をしている。

 

「……」

 

 手を止める。

 これまでは流し呼んでいた視線を、そのページに止める。

 

「……なるほど。これは無理を言って買わせた甲斐がありました」

 

 その人物の名はラインハルト・クラウディア・ドライフ……と公明されている者である。

 ドライフ皇国皇王にして【機械王】。

 本来であれば彼こそが暗殺や謀殺を憂わなければならない立場。

 どころか、強力な力を持つ特典武具の情報から、自国を脅かしそうな、あるいは自国にとって有力な人物をリストアップしなければならない。

 

 だが、この時ラインハルトの目に止まったのは特典武具……にすら成っていない、未討伐のUBMである。

 5年前に一度だけ目撃されたというUBM。

 ラインハルトの直感はその力は役に立つと告げていた。

 【機密王】というラインハルトと繋がりのある無所属の情報屋から買い取ったUBMの資料において、ラインハルトは討伐されておりすでに情報も知れ渡っていそうな力よりも、未討伐で未知の力を自国に取り入れようとしていた。

 

 〈ティアン〉にしろ、〈マスター〉にしろ、手っ取り早く力を手に入れるのであればUBMを倒し、特典武具を手に入れるしかない。

 地道にジョブレベルを上げようとも、いつかはレベル上限が訪れる。

 〈マスター〉のエンブリオとてすぐに強くなるものではない。

 

 倒せば新たな力を手に出来る。

 それがUBM討伐者への褒美。

 

「……とはいえ」

 

 ラインハルトは自国に滞在している〈超級〉と呼ばれる規格外の力を持つ者達を思い出す。

 【獣王】はまだしも、【大教授】と【魔将軍】は手に入れた特典武具を戦いに直接使うのではなく、スキルのコストに使う傾向がある。

 無論、それが彼らの戦い方であり、現実に強いのだから問題は無い。

 

 だが……

 

「強いことと強くなることは同義ではない。……それに突出した戦力以外にも平均的な戦力の底上げを狙うのであれば……この2名か」

 

 ラインハルトはもう一つの紙束を取り出す。

 そちらもまた、資料としての枚数は多い。

 数千年という年月の中で積み上げられたUBMの情報と同格にあるもう一つの資料。

 そちらにはドライフ皇国を中心とした〈マスター〉についての情報が記されていた。

 

 〈超級〉と書かれた紙をとばし、ラインハルトは準〈超級〉と書かれている紙を捲っていく。

 バランスを取るためだ、と笑いながら【機密王】はドライフ皇国以外の〈マスター〉についての情報は出し渋った。

 だが、それでも情報クラン〈DIN〉を上回る情報量だ。

 特に、これからを考えるのであればこの情報は欠かせない。

 他国だけでなく、自国のものを含めて。

 

 そして、ラインハルトは自国所在の準〈超級〉から2人の〈マスター〉を選出した。

 

 いずれも戦闘力だけで言えば決闘ランカー上位にいてもおかしくはない逸材。

 だが、欠けている。

 決め手に、継続力に。

 

「良い機会です。これを機に、余っているUBMはこちらで頂いてしまいましょう」

 

 効率的に、UBMをラインハルトの陣営で討伐し、個々の力を高めていく。

 それは【機密王】による資料とラインハルトの力があれば可能となる。

 

 問題は、果たしてその選出された2名で討伐が可能であるかどうかだ。

 探し出すことは容易。

 だが、それ以上の不安材料は投入される戦力。

 

 もし、他の陣営の者と鉢合わせすれば……。

 もし、あと一歩のところでUBMに負け、あまつさえ他の者が勝利を横取りでもしたら……。

 未来は絶対ではない。

 故に、そのような一抹の不安がラインハルトの頭をよぎる。

 

「一応、頼んでみましょうか。これもまた実験的に。彼が果たして我々の手綱に収まるかどうかを」

 

 立ち上がった拍子に紙束が解け、散らばる。

 だが、ラインハルトはその機密事項の山には目をくれずに部屋から出ていく。

 手に持つ紙は3枚。

 うち2枚は準〈超級〉の2名についての資料。

 そして残るは討伐予定であるUBMについて書かれた資料。

 

 【永遠偶人 クレハドール】。

 5年前に誕生した逸話級UBM。

 その最たるはこの5年間に見つかっていないという事実と功績。

 ラインハルトはクレハドールの資料を手に取り、数名の〈マスター〉を呼び出した。

 

 

 

 

 翌日。

 玉座の横に立つクラウディア・L・ドライフの前に3人の〈マスター〉が呼び出しに参上した。

 1人は不遜にもその場で腕を組み。

 2人は膝を折り、顔を下げていた。

 

「構いませんわ。呼んだのはこちらなのですから、どうぞ楽にしてください」

 

 ラインハルトの妹であり、【衝神】でもあるクラウディアの発言力はほとんど皇王に等しい。

 2人の準〈超級〉は無礼があってはならないと、身を縮こませていた。

 

「フン。わざわざ俺を呼んだのだ。つまらん要件ではあるまいな」

 

 腕を組む男――鎧を纏う赤い髪の男は、たとえ相手が王族であっても何ら構わず会話を続ける。

 

「だが、【獣王】やフランクリンではなく俺を頼ったことは評価してやる。無能なアイツらと違い、俺の力は万能。そして強い。望みがあるのならば言え。倒したい敵がいるのなら言え。この俺が仕留めてやろう」

 

 どのようなキャラクターのロールプレイングかは分からないが、これ以上口を開かないでくれと後ろの2人は思う。

 鎧の男はクラウディアの視線が冷たくなるのを気づかない。

 

「……流石は【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト様ですわね。その自信、確信と受け取ってよろしいのでしょうか」

「ああ。手始めに隣国の王の首でも取ってこようか?」

「それは今後の国交を考え、止めて頂きましょうか」」

「つまらんな」

「政治とは、関わらない者にとって退屈なものでしょう」

 

 彼の名は【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト。皇国にいる貴重な戦力の1人。

 〈超級〉にして超級職にして“矛盾数式”という通り名を持つ、特級戦力である。

 後ろの2人は胃が悲鳴を上げているのを感じる。

 いくら〈超級〉といえど、【魔将軍】といえど、相手はクラウディア。

 失言があればこの国にいられなくなるのに。

 

「ローガン様。先ほど貴方は倒したい敵がと言いましたね」

「言ったな」

「兄……ラインハルトは兼ねてよりこの国に席を置く〈マスター〉の戦力強化を考えていました」

 

 クラウディアの視線はローガンから後ろ2人へと向かう。

 

「貴方はこの国でもトップクラスの実力でしょう。ですが、貴方だけではこの先勝ち残れない」

「それは数か? 質か? まさか、この俺に数と質が劣っている話をしているのではあるまいな?」

「いいえ。危惧するべきは多様性。様々な力を集めてこそ、国は国として成り立つのです。いくら貴方が強くても、結局強いのは貴方1人だけ」

「……フン。まあ、そうだな」

「ですので、貴方の次に強い者を育てていきたいと、ラインハルトは言っています」

 

 【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト……彼はプライドの高い人間だ。

 乗せられやすい、と言い換えても良い。

 ローガンが強いことを前提にする話であれば、彼は容易く乗せられる。

 

「……で? 俺に何をさせたいのだ」

「そちら2人の育成です」

 

 ビクリ、と2人の肩が震える。

 

「彼女らはいずれも超級職には就いていますが、未だUBMを1体も討伐しておらず、実績も不足しています」

「俺にどうしろと?」

「ですから、実績を作らせて頂きたいのです。決闘ランキングトップにして、広域制圧型の戦闘を得意とする貴方なら可能である。そうラインハルトは言っています」

「……ほう?」

 

 クラウディアは手招きをして2人を呼び寄せる。

 ローガンの前に立った2人はそれぞれ、

 

「あ、あの……【動物王(キングオブアニマル)】レシーブ・キープです」

「【問王(キングオブクエスチョン)】パリドーネ。質問を宜しいでしょうか」

「俺にか?」

「はい……無人島へ1つだけ持っていけるなら何を持っていきますか? ただし数は無制限」

 

 何を言っているんだという顔でローガンはパリドーネを見る。

 10代後半の綺麗な女性だ。

 ちなみにレシーブは10代半ば程の年齢で、小柄で可愛い系である。装備はモコモコの毛皮を被っている。

 ローガンは実年齢故に仕方ないが、少し緊張を交えながら答える。

 

「そ、そうだな……。あ、発煙筒はどうだ? 無制限に打ち上げられるならいつかは見つけてもらえるだろ!」

 

 答えを得たりと嬉しそうにローガンは答える。

 

 返答内容よりもその表情にパリドーネは驚きつつも、

 

「ありがとうございます。参考にさせて頂きます」

 

 と、それだけ言って後ろに下がった。

 

「……?」

 

 何をしたかったんだと思い、すぐにコミュニケーションを図りたかったのだなとローガンは思い直す。

 これが大人のコミュニケーションの取り方なのだな、と心のノートにメモしておいた。

 いつの間にか、怯えた素振りをしていたレシーブもどことなくほんわかとした表情になっていた。

 大人のコミュニケーションすげーと思いながらローガンは、

 

「レシーブにパリドーネだな。分かった、俺が世話をしてやろう」

 

 と、満足げに頷いた。

 

「ありがとうございます。それでは早速なのですが――ローガン様にはとあるUBMの討伐を助力して頂きたく」

「うむ。良いだろう。で、俺は何を討伐すればいいのだ?」

「あ、いえ。討伐ではなく、討伐の助力です。この2人のどちらかをUBMとの戦いの中でMVPにして頂きたいのです」

「……む」

 

 内心、面倒くさいなとローガンは思う。

 悪魔の軍団を作り出し、UBMにぶつければそれですぐに終わる戦いだ。

 そもそも、UBMに出会えるのであれば自分が倒したい。

 

「あのぉ……ローガン様、お願いできませんか?」

「閣下のお力をぜひ貸して頂ければと」

 

 レシーブの子犬のような表情と、パリドーネの整った顔立ちに見つめられ、ローガンは

 

「うむ! この俺に任せておけ!」

 

 意気揚々と自身の胸を叩いたのであった。

 




新たな超級を作る勇気も無かったので、すでに登場済みの方を
正直、閣下なら何やっても許されるだろうし、ネタとして使ってもいいかなという甘い考えを持って書きました許してください
ラインハルトとクラウディア関係は大まかなところは分かるのですが、細かなところは何とも言えない理解度なので、まあ、何かあればこっそり教えてください。
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