<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■ドライフ皇国皇王宮
「討伐対象は【永遠偶人 クレハドール】……大層な名前だな」
「ええ。永遠、などとは。ですから次の言葉が偶人……人形なのでしょうけれど。生物として永遠に生きられるものはいない。人形であるから可能としている、でしょうか」
「尤も、この俺が向かうのだ。その大層な言葉も、名ばかりのものとなってしまうがな」
「流石です閣下」
「ローガン様かっこいいです!」
パリドーネは恭しく、レシーブはきゃんきゃんと犬のようにローガンを褒め称える。
ローガンは、レシーブのキャラさっきまでと違くね?と思いつつも、褒められて悪い気はせず、与えられたクレハドールについての資料を読み進める。
「……おい、5年前に誕生を認知されてから今まで未発見ではないか。これでは俺の力も振るいようがないぞ」
討伐そのものよりも発見自体が困難でるUBMは一定数存在する。
というか、出会えること自体が稀であるため、倒せる力があろうとも出会えず特典武具を所持していない者が多い。
「それには及びません。ラインハルトは誕生経緯とその周辺の様子から行動範囲を予測し、凡その現在位置を割り出しております」
「ほう。やるではないか」
クラウディアは地図を一枚取り出す。
置かれていたテーブルに地図を広げ、4人で囲む。
それは皇国だけでなく、周辺諸国をも含めた世界地図のようなものであった。
黄河までは網羅されていなかったが、カルディナの左半分ほどまでは書かれている。
その一点をクラウディアは指さした。
場所はドライフ皇国とアルター王国との境。
王国側にある小さな領地。カルチェラタン伯爵領と書かれている。
「ここ。この地にてクレハドールは生まれました。……正確には煌玉兵と呼ばれる過去の兵器。そのうちの1体がカルチェラタンの〈遺跡〉にある駆動中枢からコントロールを失われ、UBMと化しました」
そして、カルチェラタンを指で三度叩く。
「およそ3年はこの領地にてクレハドールは潜んでいたと思われます」
「待て。UBMだぞ。モンスターだぞ。クレハドールとやらはどれほど潜伏に秀でていたというのだ」
一時的に隠れることは出来ただろう。
だが、UBMであるならばその存在感は目立ちすぎる。
同じ場所に隠れ続けていられることなどまずありえない。
「ですから。隠れていたのではありません。擬態、していたのです」
「擬態? 何にだ」
「人に。カルチェラタンの民に、クレハドールは擬態していたのです」
なるほど、とローガンは納得する。
人に擬態しているのであれば見つけるのは困難であろう。
そこに生息するモンスター、あるいは物体に擬態しているのであれば時間をかければ探し出すことも出来るかもしれない。
だが、人は理由に関係なく移動する。
ふと旅に出る。行商に出る。故郷に帰る。新天地へ出発する。死に場所を探す。
5年あれば相応の人数が移動しただろう。
カルチェラタンに人が訪れ、人がいなくなったことだろう。
「クレハ・ポストック、トロ・ポストック」
「……?」
ふと、クラウディアは何かの名を唱える。
数瞬経ってから、ローガンはそれが人の名前だと気づく。
「2年前にカルチェラタンから出た夫婦の名です」
「そいつらがクレハドールの行方を知っているのか?」
いや、とローガンはその名に注視する。
クレハ・ポストック……クレハドールの名と酷似しているようにも思える。
「ラインハルトはその両名のどちらかがクレハドールではないかと予想しています」
「モンスターであることに勘づかれたか。……もう一人のトロという人間はソイツの伴侶なのか」
「ええ。カルチェラタンの民によればクレハの妻であると」
「妻……そういう設定なのか」
名前が分かっているのであれば後はどうとでもなる。
このゲームには《看破》というスキルがあるのだ。
名前を偽ろうとも、その真の名は浮き彫りに出来よう。
と、ローガンに疑問が浮かび上がる。
そうだ、《看破》があるではないかと。
「そもそも、いくら人間に擬態しているとは言え、《看破》や他のスキルを使って探せなかったのか? 名前まで分かっているなら容易かっただろう」
「それが、擬態に特化した力を持っているようでして。一応、カルチェラタンにいた際に【大教授】Mr.フランクリンに見て頂いたのですが、結果はただの人間であると」
「……チッ」
自分の予想が外れていたこと。
そもそもフランクリンが先んじてこの件に関わっていたこと。
2つの理由でローガンは舌打ちをした。
「そもそもでこのクレハという人物がクレハドールとは無関係かもしれませんが。当時はアルター王国の人間をドライフ皇国所属の〈マスター〉が殺せば問題になると思い、干渉しませんでしたが、今は別です」
ドライフ皇国は当時よりも力を付け、更にクレハはカルチェラタンを出た。
「行き先はレジェンダリアとカルディアの境。まあ、ここであれば貴方方がクレハドールを討伐しようとも、クレハを殺害しようとも大きな問題にはならないでしょう」
「いざとなれば俺の武力で黙らせよう」
「ローガン様はそれこそ他国で指名手配をされたところで痛くはないでしょうから」
そして、レシーブとパリドーネも〈ティアン〉の殺害に関しては気にしない人物だということをクラウディアは知っている。
無論、仲の良い〈ティアン〉ならともかく、見知らぬ人物でありUBMであるかもしれないという前提があれば肯定的に殺すことだろう。
「ローガン様の戦いに必要な資源はこちらで揃えております。いざとなればレシーブも用意してくれるでしょう」
「ほう。ならば俺からは言うことは無いな」
「ああ。移動手段の話がまだでしたね。少し遠出になってしまいますが、こちらで移動に長けた者を――」
「いや、いい」
「……はい?」
ローガンは手元に現れたウィンドウを操作する。
そして、足元に1体の悪魔を召喚した。
私兵の1人もいない4人だけの密室。
ローガンが謀反を起こそうと思えば、悪魔はすぐにでもクラウディアを襲うだろう。
「そちらは?」
だが、クラウディアは静かに尋ねる。
何のことは無い。
この程度で自身に傷の一つさえ負わせることは出来ないと知っているからだ。
「調整が必要にはなるがな。こいつの背に乗れば空の移動が可能だ」
「なるほど。自前で移動手段をお持ちでしたか」
悪魔の背には翼が生えている。
高空には飛行モンスターが数多く生息するが、ローガンであればそれを上回る数と強さの悪魔を召喚し対処できるだろう。
「安心しろ。俺はこの国を気に入っている。しばらくは捨てるつもりはない」
くっくっくとローガンは笑う。
どうやら、クラウディアが悪魔に対し怯えていると解釈したようだ。
「閣下。質問があります」
「……なんだ」
「それに、私を乗せて頂くことは可能でしょうか」
パリドーネがローガンに尋ねる。
彼女は自前の移動手段を持っていない。
確かに、ガーディアンのエンブリオを持つパリドーネだが、空までは飛べなかったなとクラウディアは思い出す。
「良いだろう」
と、上機嫌にローガンは答える。
なんだかんだで頼られるのは嫌いではないらしい。
「ありがとうございます」
「レシーブもどうだ? 別に1体や2体増やしたところで変わらんが」
「あ、私は大丈夫です。ローガン様はご自分のとパリドーネちゃんのだけを用意してください」
レシーブは冷徹に答えた。
またキャラが違くないかと、思ったがローガンはそれには触れずに
「出発はいつがいい?」
「私は何時でも」
「私も! 何時でも大丈夫です!」
パリドーネは無表情なままに。
レシーブは快活に答える。
「こちらとしては早い方が良いですね。他の方が狙っているとも思えませんが、早く終われば、他に討伐して欲しいUBMがまだいますので」
「良いだろう。ではすぐに出発だ」
ローガンはこれでもトッププレイヤーに1人だ。
常に戦う準備は整えている。
「見せてやる。俺の戦い方を参考にし、強化を図ると良い」
こうしてドライフ皇国からノクトルという小さな村へ。
〈超級〉1人と準〈超級〉2人という過剰なまでの戦力が投入された。