<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

84 / 443
73話 将軍と空の旅

■【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト

 

「……」

 

 本当にこいつらで良いのかと、ローガンは心配になっていた。

 ドライフ皇国所属の〈マスター〉強化。これは理解した。

 確かに、現〈超級〉だけでなく、準〈超級〉やその下の上級・下級〈マスター〉の育成も必要だろう。

 モンスターを育成するゲームに一時期はまっていたローガンにとっても重要な事項であることはすぐに理解していた。

 ドライフ皇国という国が強くなれば、その頂点であるローガンも更に名が広まる。

 いわば、ローガンの配下を育てると言っても過言ではないだろう。

 

 だから、つまり問題にしているのは、人選である。

 

【動物王】レシーブ・キープ 

【問王】パリドーネ

 

 共に超級職にしてエンブリオが第六形態まで到達している準〈超級〉。

 しかし、クラウディア曰く、あと少し足りていない戦闘力の持ち主。

 

 王宮内で会話した印象では、忠実な配下といった感じであった。

 ローガンに対し敬意を払い、決して逆らわない2人。

 どちらも一癖ある人物であるようだが、従順であることに変わりはない。

 

「閣下、質問があります」

「……なんだ」

 

 背後から、パリドーネの声が聞こえる。

 ローガンは振り返らず答えた。

 ちなみに、振り返らなかったのではなく、振り返れなかったのだ。

 

 ここは高度100mを超える上空。

 落ちれば即死の空域。

 飛行を可能とする悪魔を召喚したローガンはその背に乗り、あろうことか女性陣2人に格好つけるため腕を組んだまま立ち、佇んでいた。

 少しでも身じろげば落ちるかもしれない恐怖。

 故に振り返れない。

 レシーブがどのような表情でこちらに問いかけているのかは……恐らくは無表情なのだろうが、どのような意図で問いかけているのかは読み解けない。

 ローガンのすぐ後ろで悪魔の背にしがみついているパリドーネは一体どのような感情で問うているのだろう。

 

「閣下は何故そのように立っていられるのでしょう」

「まあ……慣れだな。後はステータスだ」

「恐れながら閣下は将軍の超級職。ステータスはさほど高くは無かったはず。であれば、慣れの方が大きいのでしょうか」

「……かもしれんな」

 

 痛いところをつく、とローガンは苦虫を潰したような顔をする。

 ステータスの低さはローガンにとっての悩みの種でもある。

 悪魔の軍勢を召喚し、一方的な蹂躙も楽しい。だが、たまに己で剣を持って戦いたい、そんな時もある。

 召喚した悪魔が一方的に殺せるモンスターが、自身の剣で殺せなかった時……その時は落ち込んだ。

 すぐにエンブリオの力を使って瞬殺したが。

 

「続けて質問宜しいでしょうか」

「ああ」

「私にも、出来るでしょうか」

「ああ。出来るんじゃないか?」

 

 出来るだけ下を見ないよう、そう意識を他へ向けていたのが良くなかったのかもしれない。

 適当な返事をパリドーネへしてしまった。

 

『自身にも悪魔の背で立つことは可能でしょうか』

 

 この問いに対して

 

『出来る』

 

 そう、悪魔の召喚主が答えてしまった。

 

 結果、

 

「閣下あぁぁぁぁぁぁ……」

 

 パリドーネは悪魔の背から離れ、落下していった。

 

「ちょっ!? パリドーネ!」

 

 急いで飛行型悪魔を追加召喚し、更にそのAGIをエンブリオの力で上昇させると地上すれすれまでに落下していたパリドーネを何とか回収させた。

 

「……ふぅ」

 

 あまり速度を出していなくて良かった、と息を吐きながら、

 

「あちゃー。パリドーネちゃん無事かな」

 

 こいつのせいで進みが遅かったのだと思い出す。

 

 太った豚とペリカンを混ぜたような見た目のモンスターの背に乗った少女。

 【動物王】レシーブ・キープ。

 彼女が最初から悪魔の背に乗っていれば、もっと進行は早かっただろうし……代わりにパリドーネが落下死していたかもしれない。

 

 

 

 

 【動物王】。

 それは従魔師系統の超級職。

 だが、他の従魔師とは一線を画す。

 良くも悪くも、であるが。

 

 レシーブの右手には何もない。

 正確には、左手にエンブリオの紋章があるのに対し、右手はまっさらなままだ。

 従魔師系統の超級職であるにも関わらず、レシーブの右手には【ジュエル】が存在していないのだ。

 

 テイム出来るキャパシティ上限なし。

 これが【動物王】の常時発動型奥義である【動物王国】の力である。

 【ジュエル】を無くすことで、キャパシティという制限を無くす。

 名目上は無限にも等しい数のモンスターを手懐け、戦闘に参加させることが可能であるのだ。

 

 ただし、これは同時に欠点でもある。

 【ジュエル】があることでのメリット。即ち、モンスターを持ち運ぶということが不可能となっている。

 無限に等しいモンスターを戦闘に組み込める代わりに、無限に等しいモンスターを連れて歩かなければならなくなる。

 これは、いくら何でも無茶である。

 故に、基本は現地調達。

 その場の状況で必要なモンスターを手懐け、そして用が済めばそのまま野生に帰す。

 

 本人によれば【動物王】は従魔師ではなく使役者。

 百のモンスターと仲良くなれても、百のモンスターと一緒にはいられない。

 全てを愛するが故に、愛し続けられないジョブである。

 

 経験値だけは【百獣の長】という、配下モンスターが得る経験値の半分を自身にも還元するというスキルのおかげでレベル上げは捗るらしい。

 そのため、せっかく超級職にも就けたしという理由もあって捨てられないジョブであると。

 

 

 

 

 そんなレシーブが今回手懐けたモンスターは見た目にそぐわぬ鈍足ならぬ鈍翼。

 AGIがそれほど高くないモンスターなのであろう。

 安定性はあるのだが、遅い。

 せっかく上空から襲い掛かる空中モンスターを大量の悪魔達で撃退しているのに、速度が出せないが故に進みが遅くなっている。

 

 とはいえ、ローガンのエンブリオはジョブスキルの改竄。

 悪魔に対してどうにかできてもレシーブのモンスターに対しては……

 

「ああ、そうか」

 

 【ジュエル】に収まっていないが、一応は豚型のモンスターもパーティの枠内に入っている。

 ならば、【魔将軍】や他のサブジョブのスキルの効果が当たるだろう。

 

 そう考えたローガンはパーティ内にいるモンスターのステータス底上げ(主にAGI)のスキルを発動する。

 同時に、彼のエンブリオである【技巧改竄 ルンペルシュティルツヒェン】でその倍率を弄る。

 最も倍率の高かったスキルの倍率を10倍に改竄することで、AGIが合わせて15倍となった。

 

「これで悪魔のAGIにも追いつけるだろう」

「あの……ローガン様、何を……?」

「その豚のAGIを上げておいた。しがみつけよ。先ほどまでとは雲泥の差の速度になるからな」

 

 エンブリオの力を発動するためにすでにローガンは悪魔の背に座っている。

 回収されてきたパリドーネにも悪魔の背にしがみつくよう伝えた。

 

「遅れた分は取り戻さないといけないからな」

「え、えっとローガン様……」

 

 おかしい。

 先ほどからレシーブの表情が怯えた子犬のようだ。

 何かを訴えるかのような目をしている。

 

「わ、私のメインジョブである【動物王】なのですが……」

「無制限にモンスターを手懐けられるスキルを持っているんだろう?」

「あの……数はそうなのですが……。強さはそうではなくてですね」

「……というと?」

「ほら、モンスターの強さまで無制限だったらUBMとか竜王とかまで配下に出来ちゃうじゃないですか」

「……あー、そうだな」

 

 もし、それが可能であればぶっ壊れジョブである。

 ローガンのエンブリオと【魔将軍】のシナジー以上に壊れている。

 

「だから制限は勿論ありまして……」

「……おい、まさか」

 

 嫌な予感がして、すぐにスキルの発動の準備を始める。

 

「なんと! 私のステータスを超えたモンスターは手懐けることが出来ないんですよ! つまり、ローガン様のスキルで強化されたこの子は……とっくに私から心が離れていっているんですね!」

 

 そう、元気よく置かれた状況を伝えたレシーブは

 

「では! 私のことも回収お願いしますね! えへへ……」

 

 可愛らしくウィンクをした後に豚型モンスターから振り落とされ……地面へと落下していった。

 

「レシーブぅぅぅぅぅ!!」

 

 すぐさま発動されたローガンの悪魔召喚によりレシーブもまた地面すれすれで回収される。

 これまでも自身を褒めることは多かったが、その時以上に今回は自身を褒め尽くしたローガンであった。

 




やっぱり僕らの閣下は凄いんだ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。