<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【魔法少女ω】クリアント
「フォール様。こちらが今季に収穫出来た品にございます」
「ありがとうございます。……良い色ですね。これならオーナーも喜ぶでしょう」
ノクトル村の村長の家は、村の規模にしては大きなものであった。
「本当に……ケイデンス様には助けて頂いて」
村の復興にフォールの所属するクランのオーナーが力を貸していたようだ。
そのおかげか、クリアント達もすんなりと受け入れられ、歓迎を受けていた。
「オーナー、裏でそんなことやっていたんですか。……あー、時期的にあの頃か。なら【嵐王】の……」
「うんうん。ケイデンス君は良い人だからね! たまにひねくれたこと言うけど、最後は助けてくれる、優しい人だよ!」
「貴方もケイデンス様のお知り合いですか! そう、そうなんですよ! 最初はよく分からない種を育ててほしいとやって来たのですが――」
笑顔で村長の話を傾聴するクャントルスカに気を良くしたのか。
村長は昔話を続ける。
とはいえ、昔と言ってもここ数年の話。
村長によれば当時は今の半分ほどしか村人もいなかったとか。
2年ほどでここまで復興したのは、村長の手際故か、ケイデンスという人物がそれだけ目をかけていたのか。
ともあれ、友好的に接してくれるのはありがたいこと。
クリアント達はそのままノクトル村をあげての歓迎を受けることになった。
「さあさ! 出来上がったよ! この村の特産をふんだんに使った炊き込みご飯さ!」
「おっと、こっちは漬物があるぞ!」
「待ちな待ちな! それよりもまずは飲み物だ! 樽に漬け込んだ火酒を開ける時が来たな」
村長宅には所狭しとばかりに料理が並べられる。
熱を通すと甘くなるという唐辛子。
熱し、冷ましを繰り返すことで甘さと辛さを備えた料理が並べられていく。
「甘い! 辛い! もう一杯!」
「……俺、一杯でいいな。ワンプ、これ飲んでいいぞ」
「はーい!」
ワンプは気に入ったようだが、クリアントは何とも言えない顔でグラスをワンプへ渡す。
「ははは! これは知らない味だ! 面白いね」
「甘くて辛い。恋の味だね!」
「あら。苦さは無いのね。なら情熱的な恋の味になりそう」
未知の味ということで楽しそうなフィリップ。
相変わらず訳の分からないことを言っているクャントルスカとモー。
「ええと……じゃあ頂きます」
フォールは少量ずつ料理を更に盛り、食べている。
表情はクリアントと似たり寄ったりである。
「先輩! じゃあ、アレとアレとアレをお願いします!」
「そういえばワンプ君はミキサーにかけたものではないと食べられないのだったね」
「ああ……おかげで簡易ミキサーを買わされた」
飲食店全てにミキサーのようなものがあるわけでもなく、こういった民家での食事も考え、ワンプはクリアントにミキサーをねだっていた。
そう高いものでもないだろうと安易な考えで頷いたクリアントは、MPを使用するタイプのミキサーを買ってしまい、それからは食事の度に取り出すことになってしまっていた。
「……なんというか、目に悪い感じになったね」
「どうだフィリップ。挑戦する気は?」
ドロドロになった料理の入ったコップの中身をフィリップに見せる。
「そう言われると……やってみたくなる気も……」
「駄目です! これは全部ワンプちゃんのですから! ……ぷはー!」
手を伸ばそうとするフィリップであったが、ワンプに取られ、全て飲み干されてしまった。
「なるほど。都ではそのような調理法が! いやぁ、勉強になるなぁ」
何を勘違いしたのか、幾人かの村人はクリアント達の行った奇行に関心したように頷いている。
中にはメモを取っている者もおり、ワンプに味の感想を聞いている。
「楽しいなぁ! やっぱり外の世界の人が来るのは良い!」
「最近は移民も増えてきたしな。もっと受け入れられるように村を広げる計画を進めようじゃないか」
「んだんだ。他のところから来た人は、オラたちの知らない文化を知ってる。それに、村から村へ移動できる強さも持っているから頼もしいもんだ」
なるほど。
村人の増えた理由は、出生率やその後の成長が改善されただけではないらしい。
他の村からの移民を受け入れることで村としての機能を取り戻しているようだ。
「他の村から来て、ここで赤子を産んでるのもいるし、安泰になってきたな」
「そりゃ気が早いだろ。まあ、ケイデンス様達がいるうちはその通りだけどな!」
時刻はまだ昼過ぎくらいのはずだが、いつの間にか村人たちは酒盛りに入っていたようだ。
顔を赤らめ、酒の話に興じ始めていた。
「あそのこ家の夫婦はどうした? 今日は来ねえのか」
「そういや最近奥さんの方を見ねえな。もしかして……めでたい話かもしれねえな」
「ガハハ! やるねえあの旦那さんも」
「でもあんまし引きこもられると、風邪引いた時が大変だ。あそこの奥さんの薬は良く効くんだよな」
「ああ……旦那が薬草を取ってきて、かみさんが調合しているんだもんな。あそこも偉いよ。様様だ」
あちこちから、色々な話が聞こえる。
そのどれもが、村の中の出来事。
たまに、村の外の話も出るが、噂であったり、行ってみたいといった内容である。
「フィリップ。村長が酔いつぶれないうちに聞いておいた方がいいんじゃないか?」
「そうだね。ついつい忘れていたよ」
話を楽しんでいたフィリップにクリアントは耳打ちする。
『赤砂の剣』。
それを求めてこの村に来ているのだ。
「んん。村長。少し尋ねたいのだが」
「はぁぁぁいい?」
「……うん。駄目だねこれは」
酒樽を抱きしめ、村長は振り返る。
その顔は墨で落書きをされており、周りの村人は笑っている。
「後日また聞くとしようか」
「フィリップがそれでいいなら」
その日はノクトル村での歓迎会を十分に楽しみ、各々ログアウトしたのであった。
■【???】???
甘い。
辛い。
苦い。
しょっぱい。
エトセトラエトセトラ。
多種多様な味がする。
「美味しいねぇ、モーちゃん」
「きゃはっ! きゃはっ!」
笑みを浮かべたまま。
少女は、たった今殺したばかりの〈マスター〉の死体を喰らう己のエンブリオに笑いかける。
「あ、こっちは甘ぁい。モーちゃんの方はどうかなぁ?」
「きゃはっ!」
「そっかぁ。辛くて美味しいんだねぇ」
黒い布を外し、隠れていた肉食動物のような歯と長い舌を見せながら、モーちゃんと呼ばれたエンブリオもまた嗤う。
彼女らは襲われていた。
カルディナという広大な砂漠を横断中、PKを生業とする〈マスター〉数名に有り金とアイテムを寄越せと、武器を向けられていた。
そして、次の瞬間には1人の頭部が無くなっていた。
理解できたのは、その頭部の行方は襲っていた少女の片割れの口の中にあるということ。
ガリゴリと、何かを削るような音の後にゴクン、という飲み込む音。
明らかに常軌を逸した少女達。
奇行を繰り返す〈マスター〉は多いが、それとは全くの別物。
いや、待てとPKは考え直す。
その少女の手に紋章は見えない。
つまりはエンブリオだ。
人肉を喰らう何かをモチーフとしたエンブリオ……あり得る話だろう。
だが……それでも戦いたくはない。
たちまちのうちに戦意を失ったPK達であるが、逃げようと一歩後ずさった時には、2人目の頭部が消えていた。
〈マスター〉らしき少女もまた、口を膨らませていた。
エンブリオだけなら、あるいはそういうものだと納得は出来た。
だが、その持ち主までもがそういった思考を持っている。
そうして、悲鳴を上げながら4人のマスターの肉体は少女達の腹へと収まる。
「良いねぇ、モーちゃん。この世界は、とっても私達の愛に向いている」
「きゃはっ」
少女はエンブリオの口元を拭き、布で口を隠させる。
「どこにいるかなぁ。こっちかなぁ、あっちかなぁ。……そっちだねぇ」
ふらり、ふらりと周囲を見渡し、やがて歩き出す。
「待っててねぇ。ええと、ここではなんて言うんだっけ……ああ、そうだ。クャントルスカちゃん」
えへへ、と想い人を浮かべながら少女は笑う。
「きゃはっ」
それに共鳴するかのようにエンブリオの少女も嗤う。
「強くなったよぉ。負けないくらいに、愛せるくらいに、次は体のどこを交換しようかなぁ」
少女の名は【
TYPE:メイデンwithガードナー・ワールドである【愛贈食姫 モー・ショボー】の〈マスター〉。
どこにでもいるという枕詞が付かないだけの、相思相愛の想い人を追いかけてデンドロの世界にやってきたプレイヤーの1人だ。