<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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76話 剣の持ち主

■【魔法少女ω】クリアント

 

「剣……ですか」

 

 休憩を挟んだ後の再ログイン――デンドロ世界での2日後に、クリアント達は再び村長宅を訪れていた。

 酒に呑まれていた前々日とは違い、厳めしい面持ちで迎える村長。

 一応、フォールがすでに話は通していたらしく、フィリップが尋ねたいことがあるというのは伝わっていたらしい。

 このような村まで来て尋ねることなどそう多くは無い。

 故に、村長は緊張しながらも、フォールという恩人の部下の手前迎えざるを得なかった。

 

「うん。名前は『赤砂の剣』。火に関する力を持つみたいなんだけど。心当たりはあるかい?」

「――ッ!? ……」

 

 火、という単語を聞いて村長の顔に刻まれた皺がより深くなる。

 

「あるんだね?」

 

 やがて目を閉じ、ふうと長く息を吐く。

 

「……その剣が何か? もしくは持ち主が何かしましたか?」

 

 心当たりはあるのだろう。

 だが、理由を聞くまでは返答はしないといった顔だ。

 その様子では、恐らくは村人の誰かが所持している可能性が高い。

 

「私が欲しいのは剣さ。尤も、求めているのは剣の価値に、かな。超級職の転職条件に必要でね。そのお宝を求めて旅をしているんだ」

「……なるほど」

 

 フィリップの一言一言をじっと聞く。

 もしかすると《看破》を使っているのかもしれない。

 村民に被害は無いか、あるいはこの村そのものに影響が起こらないかを。

 

「確かに、この村には剣に火を纏わせて戦う者がいます。……ですが」

「ああ。力づくでは奪わない。交渉するさ」

 

 ただ、この時点でフィリップにも、そしてクリアントにも確信はあった。

 所詮、剣は剣だ。

 それ以上もそれ以下の価値もない。

 誰かの遺品であったり、新たに価値が付与されていない限りは、金銭や等価の物品と交換が可能であると。

 

「それだけではなく。彼はこの村の数少ない衛兵の1人です。そして、この村で最も強い男。彼が剣を失うという意味。それをお分かり頂けますでしょうか」

「……うん。分かっているつもりだよ」

 

 フィリップはアイテムボックスからいくつかの鉱石や武器を取り出す。

 

「素材でも、武器でも。どれも私が旅の中で手に入れたそれなりにレアなものばかりだ。きっと見劣りはしないと思う」

 

 フィリップの戦闘スタイルは中・遠距離からの砲撃がメインだ。

 近接戦闘に使われるような武器はあまり手にしない。

 故に、武器としてのそれらは宝の持ち腐れになる。

 

「単に火を纏う剣というのだけであれば、この剣もそう悪いものでないよ。ちょっと火力が強いから扱うには腕が必要になるけど」

 

 そういって、フィリップが一振りの剣を鞘から抜く。

 MPを補充することで、それに応じた火力を吐き出すらしい。

 

「……そういうことでしたら」

 

 と、フィリップの誠意も理解したのだろう。

 村長が腰を上げる。

 

「案内しましょう。先日の宴には参加していないので、皆様は初顔合わせになると思います。彼ら夫婦の名はクレハ、トロ。夫であるクレハが恐らくその『赤砂の剣』を持っていると思います」

 

 

 

 

 フィリップの求める超級職である【探検王】。

 その転職条件に必要なアイテムは全部で三つ。

 一つ目は海底に沈んでいたガラスのような玉、『海底珠』。グラスコードに取り込まれたことで、再生能力を爆発的に高めていた。

 二つ目はドラゲイルが所持していた鏡、『真実鏡』。こちらはドラゲイルの模倣能力を手助けしていた。

 そして三つ目が火を纏う剣、『赤砂の剣』。鞘のみが見つかっている状態であり、それを手掛かりにノクトル村までやって来た。

 

 それぞれはモンスターが手にすることで力を発揮するらしいが、〈マスター〉や〈ティアン〉が手にしたところで大した力は無いらしい。

 『海底珠』を所持していたところで、ほんの微量のHP回復効果が付くだけ。

 『真実鏡』は精神状態異常に関するレジストが成功しやすくなるのだとか。

 

 ならば、『赤砂の剣』はどうだろうか。

 他2つと比べて、火を前提とせずとも、剣であること自体が特殊である。

 剣ということは武器である。

 鳥人族やクレハという〈ティアン〉が所持していれば、本来よりも力が弱まっているはずだ。

 それなのに、火を纏い戦える。

 

 もしモンスターの手に渡れば、どれだけのものになるだろうか。

 

「まあ、そもそもで剣を使えるモンスターってどれだけいるのだろうね。タコとかドラゴンとか、取り込めこそすれ、手に取って振るえるとは思えないけれど」

「俺も人型のモンスターってあんまり見たこと無いな」

「空中でも武器を手にするモンスターはあまり見ませんね。獣の姿をしたのが多いから仕方ないでしょうが」

「私はあるよ! ゴブリン系統とか、ゴーレム系統だね」

「そういえば、彼らは武器を手にするモンスターだったね。……だとすれば、一定の技量を持つモンスターを相手にする可能性もあるのか」

 

 ジョブスキルは持っていないだろうが、剣を始めとする武器スキルを使ってくるモンスターもいるのだろうか。

 そうであれば、相性差や力押しをひっくり返す敵もこれからは現れるのかもしれない。

 

「一撃にかけている敵よりも、技量に秀でて手数の多い敵とか、先輩には最悪ですよねー。何回殺されるんだよってなります」

「あら。何回でも殺していいのかしら。それは良いわね」

「……作戦のうちなら別にいいけどな。意味も無く殺すのはストックが勿体ないからやめてくれ」

 

 クレハとトロという夫婦の家へと向かう道すがら。

 彼らは『赤砂の剣』について話をしていた。

 思えば、モンスターが手にしていたために倒して奪うという手に入れ方しかしていなかった。

 だが、今回は人が手にしている。

 交渉が必要になる。

 

「ところで、クレハとの交渉だが。私に一任してくれるかい?」

「まあ。そもそもフィリップが欲している剣だからな。俺は無暗に口を挟むつもりもないが」

「私も。というか、立ち会っていいのでしょうか」

「フォール君も、もう無関係じゃないからね! あと、どうしようもなくなったら私に任せて! 交渉は得意なんだから!」

 

 力こぶを作るクャントルスカと、舌を見せるモー。

 この時点でフィリップは自身で交渉は成功させようと決意し、クリアントとフォールはいざとなれば自らが身代わりになってでも、クレハ夫妻をクャントルスカの愛の対象にはさせないように決めた。

 

「ここです。……では、私はこれで」

「む。村長は同席してくれないのかい」

「私がいては、彼らに圧をかけてしまうでしょうから。彼らには彼らの意思で貴方方と話して欲しいので」

 

 そういって、村長は自宅へと戻ってしまった。

 村長がもしクリアント達へ肩入れするような発言をしてしまえば、クレハ達も頷かざるを得なくなってしまうのだろう。

 村長によれば、クレハ達は移民らしい。

 村長に逆らえば村から追い出される。それを危惧して下手に出てしまうことを良しとしなかったのだろう。

 

「すまない。誰か家の者はいるかな」

 

 クレハ宅の玄関をノックする。

 しばらくして、1人の男がドアから顔を覗かせた。

 

「はい。……貴方達は、村の人ではないですね」

「この間来たばかりの旅人さ」

「ああ……だから宴に誘われていたのか。それで……何か用です?」

 

 警戒した顔をしている。

 男、つまりはこの人物こそがクレハなのだろう。

 

「実は、『赤砂の剣』というものを探していてね。君がそれを持っていると聞いたのだけど」

「……『赤砂の剣』?」

 

 男は首を傾げる。

 

「特に思い当たるようなものはありませんけど」

「隠さなくていいよ。君が剣に火を纏わせて戦っているというのは聞いているんだ」

 

 ふと、クリアントは気づく。

 男の顔から警戒心が薄れたように見えた。

 

 ほっと安堵らしき息を吐きながら、男は答える。

 

「ああ。それですか。……良いでしょう。そろそろ警備の時間です。見せましょう」

 

 男は一度ドアを閉める。

 中からはガチャガチャという音が聞こえ、やがて出てきた時には鎧と剣を装備していた。

 

「まずは自己紹介から。僕はクレハ・ポストック。この村で警備を任されている者です」

 

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