<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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77話 火を纏う剣

■【魔法少女ω】クリアント

 

 ノクトル村から少し離れた草原地帯。

 見晴らしの良い丘近くにクリアント達は来ていた。

 

 クレハは剣を背負ったまま周囲の索敵を行い、モンスターの居場所を探している。

 彼を始めとした村の衛兵は、放っておけば村の脅威となるようなモンスターを早いうちに排除しているらしい。

 

「ええと……僕の剣のことでしたね。火を纏う剣……ですか。どこからそれを聞いたのか分かりませんが、でしたら、剣そのものよりも僕の戦い方を知りたいのでしょうか」

「……? まあ、そういうこと……なのかな?」

 

 妙な言い方をするものだと思いながらフィリップは頷く。

 確かに『赤砂の剣』自体をフィリップは欲している。

 同様に、その剣をどのように使い戦うのかも気にならないわけではない。

 

 だが……今の言い方は、まるで剣よりもクレハ自身が剣に火を纏わせる力を持っているかのようだ。

 

「……見つけました。【サンド・サウンド・ゴブリン】の群れです。……砂漠の方から流れてきましたか」

 

 クリアントには聞き覚えの無いモンスターであった。

 名前からして砂地――カルディナ地帯に生息するモンスターなのであろうか。

 

「まるで砂地を移動するかの如く、足音無きアサシンの力を持つゴブリンです」

「ふむ。……それは君の力で手に負える敵なのかね?」

「ええ。森林や夜の砂漠であれば厄介な手合いですが。こうした平原地帯であれば、彼らを見失わない場所であればそう強くはありませんよ」

 

 群れの数は遠目に見て10匹にも満たない小規模なもの。

 クレハは砂漠から流れてきた、と表していた。

 群れの大本からはぐれたか、あるいは新たなえさ場を求めて先遣に来ているのかもしれない。

 

「少し待っていてください。10分もあれば終わると思うので」

 

 そう言うと、クレハは走り出す。

 ジョブがAGI寄りの戦闘職なのだろうか。

 クリアントの隣が爆発したかのような勢いで地が捲れ、クレハは消えていた。

 その動きは、完全にゴブリンたちの不意を突いたもの。

 

「――ゴ!?」

 

 まずは一匹。

 ゴブリンの首を刎ねる。

 

 その時、ようやく敵の襲来に気づいた7匹のゴブリンたちが各々の武器を手に取る。

 だが、いずれも小さなナイフや弓矢。

 混戦した近距離の敵に弓矢は使えないし、射程外から振るわれる剣を受け止めるにはナイフは頼りない。

 

 ナイフごとゴブリンの身体を切り裂き、弓を構えるより先に剣を振り下ろし、クレハは瞬く間に6匹のゴブリンも殺し終える。

 

「うわぁ。すごいですねー」

「うん。クリアントの自分を犠牲にしながら戦う剣とも違う。相手を倒すための剣術だね」

「クレハ君のこと好きになっちゃいそう」

「あら、とっくに好きになっているんじゃないのかしら」

 

 確かに、クレハの近接戦闘能力は高い。

 だが、あくまでゴブリンたちは斥候役である。

 元々、高い戦闘力を持っている相手ではない。

 

「まだだ。あと1匹残っている」

 

 だから、残り1匹……8匹いたゴブリンのうち、明らかにリーダー格であろう体格のゴブリンを残しているのは、雑兵に戦いを邪魔されるわけにはいかなかったからであろう。

 

「【ハイ・サンド・ゴブリン】……砂地のゴブリンの上位種か」

 

 クリアントが《看破》から得たゴブリンのステータスは亜竜種にも引けを取らない程の高さ。

 武器は大ぶりの棍棒であり、素材は恐らく鉄以上の素材。

 

 〈マスター〉であり、エンブリオとジョブを用いて戦えるクリアント達であれば倒せる敵。

 だが、クレハは〈ティアン〉であり、文字通り命を賭けて戦わなければならない。

 村の一衛兵である彼に亜竜級との戦闘経験はどれだけあるのだろう。

 

 しかしクレハは表情を変えない。

 静かに剣を構え直すと、

 

「『エンチャント・ファイア』」

 

 スキルを発動した。

 

「……あ、そうか」

 

 と、クリアントの隣で戦いを見ていたフィリップが呟く。

 

 クレハの持つ剣が火を纏う。

 切っ先から刀身にかけて盛る炎に、【ハイ・サンド・ゴブリン】は気圧されたかのように下がる。

 それをクレハは見逃さず、一歩踏み込みながら剣を上段から振り下ろす。

 【ハイ・サンド・ゴブリン】は棍棒で受け止めようとするが、高熱の剣が棍棒を焼き切り、そのままゴブリンを左右へ両断する。

 

「ハァッ!」

「――っ!?」

 

 両断されたゴブリンに生存する術はなく、燃え尽きた灰のように消えていく。

 彼の宣言通り、10分にも満たない戦闘であった。

 

 村長は言っていた。

 村で最も強い男であると。

 それは間違いでは無いのだろう。

 どころか、周囲の村を含めても、決して十把一絡げには出来ない力量の持ち主に違いない。

 

「勘違いしていた。というか、最初から間違っていたのか……。あの剣は『赤砂の剣』ではないね」

「そうなのか?」

「うん。【スカイ・クラウド】で上手くスキルが発動していなかったから、今回もそうなのかと思っていたけど……やっぱり彼の手にある剣はただの剣のようだ」

 

 鑑定能力を持つフィリップが言うのであればそうなのだろう。

 となれば、クレハの持つ剣は外れ。

 『赤砂の剣』の行方はまた不明となってしまった。

 

「お待たせしました」

「いや、待ってはいないかな。楽しく観戦させて頂いたよ」

「そうですか。それは何よりです」

 

 クリアントであればゴブリンを出来るだけ巻き込んでの自爆。

 フィリップであればゴブリンが近づく前にノーチラスでの砲撃。

 クャントルスカであれば……まあ彼女であればどうにかするであろう。

 

 彼らはいずれも近接戦闘に特別秀でているわけではない。

 クャントルスカとて武器を使う戦闘でなく、肉弾戦での近接戦闘タイプである。

 そんなクリアント達の目から見ても、クレハの戦いは上手いと分かる。

 

「君は【付与術師】かい?」

 

 彼の戦いは、ステータスが高いというよりも、力を一時的に高めた戦い方であった。

 剣に火を纏わせるのは無論として、あの駆け出し方もAGIを【付与術師】で高めている。

 

 火を纏う『赤砂の剣』でなく、ただの剣に火を付与する。

 それがクレハの戦いの秘密であった。

 

「正確には【付与術師】と【戦士】の派生職……【付与剣士】です。他者に付与できる【付与術師】と違い、僕は自分にしか力を付与出来ないんです」

「なるほどね。だけど、自分だけでもバフをかけられる技量の高い戦士というのは貴重なものさ」

 

 だが……と一つだけ疑念がある。

 今回は数匹程度のモンスターであった。

 いくら強かろうと、クレハの前であれば多少の強さは弱くは見える。

 

 ならば、数の多い敵であればどうなるのか。

 

 敵が増える前に衛兵たちはモンスターを潰しているらしいが、それでも取りこぼしはあるだろう。

 大規模な群れとなったモンスターを相手に数名の衛兵では、衛兵自身が勝ち残ろうと、村が襲われてしまっては仕事を果たしたとは言えない。

 むしろ、衛兵としては敗北であろう。

 

「……すいません。まだ残っていたみたいですね」

 

 と、クレハが砂漠の方面を見る。

 

 いくつもの小さな粒が見える。

 

「……?」

「ああ。まだ遠くてよく見えないですよね。これを使ってください」

 

 クレハが遠眼鏡をクリアントへ渡す。

 

「……ああ、これはまずいね」

「うーん。これは多いね」

 

 フィリップとクャントルスカはそれぞれ自分で持っていた望遠鏡のようなもので砂漠を見ている。

 クリアントも倣って遠眼鏡を使う。

 砂漠に見えていた小さな粒、その正体を見る。

 そこには百匹を超えるモンスターの群れ。

 剣を、弓を、幾種類もの武器を構えたゴブリン達が進行していた。

 

「どうやら先ほどのゴブリンの本隊のようですね。こちらへ向かっている……というのは先遣隊を待ちきれなかったのか、先遣隊の壊滅を知ったのか。後者なら王クラスが群れにいる可能性もあります」

 

 やけにクレハは落ち着いている。

 

 クリアントの知識であれば、王のいるゴブリンの群れは村で対処できるレベルではない。

 国をあげて討伐するほどのはずだ。

 

「……まさか、アレも一人で倒せるのか?」

 

 先ほどの殲滅力であっても、あの規模を1人では倒せない。

 いや、倒せる力があるとしても、その前に村に到達するだろう。

 

「いえ? 一度村に帰りましょう。あの進行速度なら少なくとも一日はかかります。その間に村長に伝えておかなければ」

 

 と、クレハは武器を仕舞うと、村へ帰還するのであった。

 

「良い判断だね」

「うん。賢いね!」

 

 拍子抜けな気もするが2人がそう頷いているため、それが正しい反応なのかとクリアントも首を捻りながら頷く。

 

「え、このまま倒すんじゃないんですか!? クレハさん、倒せそうな雰囲気あるのに」

「ははは。流石に、1人だと取りこぼしますので。他の衛兵に村の守りを固めてもらわなければいけません」

 

 クリアントの内心を代弁するワンプの言葉にクレハは笑う。

 クレハだけでも倒すだけなら不可能ではないとばかりに。

 

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