<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

89 / 443
78話 砂地の小鬼

■【魔法少女ω】クリアント

 

「……分かりました。村の防衛を固めましょう」

 

 ノクトル村へと戻り、クレハが村長へモンスターの大群がこちらへ攻めていることを告げると、すぐさま村長は村へと伝えて回り始める。

 村に常駐している衛兵3人を村唯一の出入り口、そして独特な臭いを発する花が薄い場所へ配置させる。

 村人たちも、戦える大人は出入口など衛兵の指揮の下、鍬などの農具を構えている。

 戦えない者も、備蓄や資材の運搬、防衛拠点の強化を行っていく。

 

「随分と手慣れたものだな」

「土地柄、珍しくも無いのかもね。クレハの冷静さも、この経験があるからなのかな」

「村の皆すごいね! 私達も手伝おうよ!」

 

 と、クャントルスカが率先して防衛の手伝いをしていく。

 

「ならば私も」

「私達も行きましょう先輩!」

 

 こうして、クリアント達もモンスターの襲来の際まで防衛強化に参加する。

 人手は足りているようだが、食料や資材はあまり足りていないようだ。

 手持ちのアイテムからいくつか出すと、村人たちは感謝し受け取っていく。

 

「であれば、私は足止めをしてきましょう。少しでも到着が遅くなれば、それだけ準備も入念に行えるでしょうから」

 

 そう言い残すとフォールは従魔に乗り、砂漠地帯へと消えていく。

 数瞬後、村にまで届くかのような閃光が走った。

 

「……モンスターの群れ、混乱している模様」

 

 すぐさまクレハが確認する。

 今の閃光はフォールの仕業のようだ。

 

 それが何度か繰り返される。

 

「指揮系統がこれでかなり乱れましたね。半日ばかり進行が遅れています。ありがたい」

「よく見えるな」

「視力も強化出来ますので。ただ、タイミングを見誤ると、先ほどの閃光を直視してしまうので、今の状況を見極めるのは少しだけ難しいです」

 

 ともあれ、これで時間は稼げたようだ。

 

「あれらには僕が対処します。皆様にも、出来れば村の防衛をお願いしたいのですが」

「それはいいが……1人でやるのか?」

「ええ。僕にしか出来ないことなので」

 

 だが、先ほどの戦い方は近接戦闘タイプそのものだ。

 広域型とは思えない。

 この戦いが、敵の大将だけ潰して止まるものかどうか。

 

「ではそろそろ時間です。僕は砂漠地帯との境であれらを殲滅します」

 

 村から出ていこうとするクレハ。

 それを1人の女性が止めた。

 

「……貴方!」

「……出てきたのか。良いのかい?」

 

 細身の女性であった。

 年はクレハと同じ30に満たない程。

 その手には、土を焼いて固めた人形がいくつも抱かれていた。

 

「これ、必要でしょう?」

「……まだ、あったのか」

「ええ。こうなるって思っていたから。進軍が少し遅くなっていたのね。そのおかげで2人、追加で作ることが出来たわ」

「……ありがとう」

 

 5つの人形を受け取り、クレハは礼を言う。

 

「ああ。……妻のトロです。普段は【薬師】として僕が採取してきた薬草を調合しているのですが。こうして人形作りも趣味にしていまして」

「もう、趣味じゃないわ。貴方の命を助けてくれる子たちを作るのは私の仕事です」

 

 クレハは受け取った人形を、村の外に出ると地面へと全て埋める。

 まるで泥に沈むように、人形たちは抵抗なく地面へ埋まる。

 

「これで守りの分を少し減らすことが出来る」

「……何人なの?」

「守りに10体、攻撃に5体」

「少ないわ。他の衛兵だっているのよ。せめてあと3人は攻撃に追加して」

「……だが」

 

 話から察するに、守りを気にして攻撃の手が薄いのだろう。

 それだけ前線に出るクレハの命が危険になるにも関わらず。

 

「クレハ君は、万が一、村がモンスターに襲われた時を気にしているんだよね?」

「君? ……ええ、そうです」

「なら、私も守るよ! ね、モーちゃん?」

「ええ、そうね。今回はその方が良さそうね。クャントルスカ、貴方が前に出てはそこの人も巻き込みそうだし」

 

 モーがクレハを見る。

 必殺スキルの効果範囲にクレハも入っているのだろう。

 3日後に蘇生する〈マスター〉と違い、命が有限である〈ティアン〉に彼女の必殺スキルを使ってはシャレにならない。

 

「うむ。攻撃は私とクリアントも参加しよう。これでも遠距離からの攻撃は得意なんだ……少なくとも私は」

「俺は……まあ適当に数を減らす努力をしよう」

「数を減らす努力って、下手すれば減らせない可能性もあるみたいな言い方なんですけどー」

「実際、そうだろ……」

 

 〈マスター〉である彼らの言葉を聞いてもクレハは訝しむ表情をしているだけだ。

 だが、トロはそれを聞いて嬉しそうな顔をする。

 

「あら! でしたら10人も必要ありませんね! ほら、貴方。この子たちは持って行って」

 

 先ほど人形が埋められた箇所へトロが手を入れる。

 すると、持ち上げた手の中に人形が5体とも握られていた。

 

「しかし……」

「まず、前線が崩壊しないようにして! 貴方が倒れたらどのみちこの村はお終いなのよ」

「……分かった」

 

 仕方なく5体の人形を受け取ると、クレハはクャントルスカへ

 

「村をお願いします」

「うん! フォール君も戻ってくると思うから、私たちに任せて!」

「ふふ。貴方が愛の力を見せてくれれば、村は襲われないはずよ」

 

 そして次にクリアントとフィリップへ向くと、

 

「10体の人形があればまず間違いなく勝てると思います。ですが、何かあれば……」

「ああ」

「出来る限り力になるよ」

 

 見れば、クレハの手は震えていた。

 モンスターの大群を遠目に見ているときは冷静であったはずだ。

 だが、それは恐怖を隠していたのだろう。

 恐怖に打ち勝っているわけではない。

 ただ、守るものがあるから隠せていただけだ。

 

「……行きましょう」

 

 

 

 

■【サンド・ゴブリン】について

 

 砂漠を主な住処とするゴブリンがいる。

 森林を住処とするゴブリンとの大きな違いは、暑さへの耐性、そして飢餓感に対して強いことだ。

 共通するのは群れの規模と繁殖力。

 彼らは瞬く間に増殖する。

 否、生殖を繰り返して生産されていく。

 

 砂地に潜み、砂地を利用し、砂地に生きる。

 砂の民ともいえる存在。

 彼らは日を恐れない。

 彼らは熱を恐れない。

 彼らは飢えを恐れない。

 彼らは死を恐れない。

 

 森林と比べ、圧倒的に死の要因が潜む砂漠地帯であろうと生き延びてきた彼らは、森林のゴブリンとは強さが違う。

 ステータスではなく、心の強さが違うのだ。

 たとえ餓死寸前であろうと、藻掻けば、砂を掻き分ければ餌になる昆虫が、あるいは水が湧き出るかもしれない。

 凶悪なモンスターが出ようと、次の瞬間には砂に足を取られ、こちらの振るう武器が脳天を突き刺すかもしれない。

 

 死んでいなければ、勝つ可能性なんていくらでもある。

 

 故に、【サンド・ゴブリン】は強い。

 過酷な環境下で生き延びた彼らは心が強い。

 

『……』

 

 砂地を進むゴブリンたちの中央。

 そこに一際大きなゴブリンがいた。

 

 名を【サンド・ゴブリン・キング】。

 砂地で遊ぶ小鬼の王。

 百匹の群れの規模と、【ゴブリン・キング】のいる群れとしては小規模。

 だが、それは通常のゴブリンの話である。

 生存が難しい砂漠で百匹余りを生かすことの困難さ。

 それを成し遂げた指揮官が王へと成れる。

 

『……帰って来ぬ』

 

 王は呟く。

 半日前にパスが途絶えた先遣隊のゴブリン達。

 彼らは生き残ることにかけては優秀だったはずだ。

 加えて、指揮官には【ハイ・サンド・ゴブリン】を置いていた。

 

 だが、帰って来ない。

 死んだと途絶したパスが告げている。

 

『フン。近くに小さな集落があることは知っている。……隠れることのできる地形では無かったか』

 

 恐らくは、平地で隠れることが出来ず、人間から弓矢でも撃たれて死んだのだろうと王は推測する。

 少しでも隠れることのできる場所があったのなら、ゴブリン達は生き延びたはずだ。

 そして、王の下へと帰還したはず。

 

『者共。これよりは弔いである。復讐である。そして蹂躙だ。過去に、猿は空からの使者に殺された。間近で見た我は誰よりもそれに恐怖した』

 

 王は見上げる。

 雲一つない空を。

 

『空は我らに味方している。空は奴らに敵している。奪え! 殺せ! 犯せ! 侵せ! 何一つとして残すな。死体すらも我らの糧とせよ』

 

 一斉に配下は武器を掲げる。

 王の言葉に奮起し、進行の足を速める。

 

『砂地を捨て、我らは新たな世界へと旅立とう。まずはその足掛かりだ。あの村を――』

 

 その瞬間であった。

 ゴブリン達を光が包んだのは。

 

『――ッ!? 総員、武器を構えよ! 敵襲である!』

 

 寸前に王だけが見えた、天馬に跨る人間。 

 その人間の手元から光が見えた。

 

『……?』

 

 だが、待てども攻撃は来ない。

 警戒し、失われた視力が回復すると、そこには誰もい――

 

『目を閉じよ!』

 

 ――た。先ほどよりも上空に。

 人間は光を落す。

 強烈な光が、音が、網膜と鼓膜を傷付ける。

 

『……!?』

 

 それら全てが回復した頃、また光が繰り返される。

 配下は慣れるどころか疲弊していく。

 

『……何をしたい!』

 

 空中というアドバンテージを取りながら、移動の邪魔しかしていない。

 数時間という時を使うと、いつしか敵は消えていた。

 

『……これより進行を再開する。警戒を怠るな』

 

 士気は下がっていた。

 だが、王は何も出来ない。

 彼もまた疲弊していたのだ。

 だが、今更撤退することも出来ずに。

 ただ、死地へと足を運ばせるのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。