<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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79話 砂上の戦い

■【魔法少女ω】クリアント

 

 砂漠を一望できる丘の上で、クリアント、フィリップ、クレハの3人は戦いの準備をしていた。

 とはいえ、クリアントは武器の確認と敵軍勢の層の厚い場所の把握。

 フィリップはノーチラスの砲台部分の展開。

 クレハは人形を地面へと埋め込んでいた。

 

「随分と相思相愛なのだね。クャントルスカにも負けない愛を感じたよ」

「……そう、ですね。今更、愛だなんて言うのも恥ずかしいくらいには長い時間を一緒にいます。強いて言うなら、僕達は互いに互いの身を案じているんです」

「それは良いことだ。誰だって、愛する人が危険に晒されたくはない」

「……でも、僕はそれほど僕自身のことを案じてはいないんです。それは向こうも同じ。心配されているくせに、心配されることに慣れていない……いえ、気づきにくい」

 

 早々にフィリップは砲台の展開を終え、同様に手持ち無沙汰にしていたクレハに話しかけていた。

 クリアントは口を挟まずに耳だけを傾けている。

 次第に近づくモンスターの群れ。

 近づくほどに敵戦力が詳細に見えてくるのだ。

 これから死にに行くクリアントからすれば、その情報は何よりも欲しい。

 

「昔、妻が死にかけたことがあったんです。妻は大したことではないと、気にしていません。いえ、本当はずっと引きずっているかもしれません。でも、一番それを考え続けているのは僕です。何故僕がその時一緒にいなかったのか。守る力が無かったのかって」

「仕方の無いことだ。でも、実際強くなったのだろう?」

「ええ。剣を振るい、自身を強くするために付与術師のスキルも学び、そして特典武具すら手に入れるくらい強くなれました。でも……それでも思うんです」

「思う?」

「……僕が強いことと、妻がいつまでも居続けてくれることは決してイコールではないと」

 

 事故であったり、病気であったり。

 いつかは寿命でも、人は死ぬ。

 こうして、クレハが妻であるトロの下から離れて戦っている間にも、何か起こる可能性がある。

 妻の死を誰よりも恐れている。

 そんなクレハから見たら、クリアントの力はどれだけ羨むべきものになるのだろう。

 いや、クリアントに関わらず、3日で蘇る〈マスター〉の全員が〈ティアン〉にとっては羨望の対象なのかもしれない。

 

「この村に来たのは、静かに暮らすためです。以前いた村は……妻にいつ危険が及ぼすか分からない場所でした。まあ、こうしてモンスターが頻繁に出るだけ、大して変わらなかったのかもしれませんが」

 

 こうしてモンスターの群れを村人数人で迎えざるを得ないような村でさえ、以前の村と大差ないと言う。

 どれだけの危険地帯であったのだろう。

 

「……さて、そろそろですね」

 

 モンスター達の先頭が数十m先までの距離に近づいた。

 その中には、クレハが倒した【ハイ・サンド・ゴブリン】も多数存在し、それを束ねるゴブリンも数匹確認できる。

 

「ではまず、私が数を減らそうか」

 

 フィリップがノーチラスの砲台を動かす。

 残念ながら、乾いた砂漠地帯の付近ではフィリップの魔法少女の固有スキルを用いても十分な水場は確保できない。

 ノーチラスの質量を伴う攻撃は行えず、砲撃のみとなる。

 尤も、それでも十分な威力なのだが。

 

「撃てッ!」

 

 フィリップの声に従い、ノーチラスからいくつもの砲弾が放たれる。

 それらは群れの先頭にぶつかり、爆ぜていく。

 

 やがて土煙が晴れた時、その総数は半分を大きく下回っていた。

 

「さて、交代だ。私は少し砲台を冷ますとするかな」

 

 ゴブリンの王は当然として、他にも【ジェネラル・サンド・ゴブリン】などの目立った巨体のゴブリンが砂の上に立っている。

 彼らの多くが保有スキルである《砂に立つ》は衝撃を砂地に吸収させるもの。

 砂漠の上にいるうちは、彼らへのダメージは軽減されていくのである。

 そのため、HPが多い者達程生き残っている……が、雑兵である【サンド・サウンド・ゴブリン】らのほとんどが死亡。

 その上位種である【ハイ・サンド・ゴブリン】ですら死に体に近い有様だ。

 

「大きいのは僕が」

 

 フィリップに代わり前へと出たのはクレハ。

 彼は懐から埴輪のような人形を取り出す。

 

「【魔我代陶 ハヌワ】……起動」

『了承。呼び起こします』

 

 埴輪人形の目が光ると、地が揺れ出す。

 そして、クレハの前には5m程もある巨大な人形が地から這い出ていた。

 

「人形たちよ。我らが安寧の地を守りたまえ」

 

 ゆっくりと、巨大な人形が動き出す。

 

 クリアントとフィリップはその人形に見覚えがあった。

 先ほど、クレハの妻であるトロが渡し、そしてクレハが地面へ埋めていたものだ。

 

「巻き込まれると危険です。少しお任せを。あの人形たちは耐久性と破壊力には自信があります」

 

 埴輪人形を両手で握ることで操作が可能なようだ。

 クレハはそのまま戦場を俯瞰しながら、人形を動かしていく。

 どうやら、動きがゆっくりと見えたのはその大きさ故であったらしい。

 見る間にクレハの下からいなくなり、モンスターの群れと衝突していく。

 

 人形の振るう一撃は【ハイ・サンド・ゴブリン】を潰し、彼らをまとめ上げる存在である【ジェネラル・サンド・ゴブリン】でさえ骨を砕く一撃をみせる。

 

「……いやはや、凄いものだね」

「ああ。クレハが1人でも大丈夫と言っていたのは過言じゃなかったみたいだな」

「先輩って必要ですか? ここから先輩に出来ることが無さそうなんですけどー」

「……あるよ」

 

 たぶん、とクリアントは小さく付け足す。

 

「だが……どうもちぐはぐな印象を持たされるね」

 

 フィリップはクレハの特典武具らしき埴輪人形を見る。

 【魔我代陶 ハヌワ】であったか。

 どうやら事前に用意しておいた人形を巨大化、兵器化して操作する類の特典武具のようだ。

 クレハが強くなりたい一心で手に入れたという代物に間違いないだろう。

 

 だが……

 

「余りにも戦いのスタイルが違うように見えるんだよね」

 

 剣士に、付与術師に、広域型の特典武具。

 この戦いを見ている限り、彼の特典武具はエンチャントの対象にはならないようだ。

 もし特典武具を十分に活かすのであれば、軍団系や使役系のジョブを取り、人形たちのステータスを上げるべきであろう。

 だが、彼のジョブは個人戦闘型へと寄っている。傾いている。偏っているといってもいいかもしれない。

 

 無論、特典武具の力は凄まじい。

 現に、圧倒とまではいかないまでも、モンスターの群れと人形は五分に近い戦いをしている。

 クレハの操る力量が高いこともあるだろうが、特典武具の性能も良いのだろう。

 

 しかし、未だゴブリン達には王が健在だ。

 

『見よ! 奴らは少数である! 惑わされるな!』

 

 怒号と共に発せられる命令に、ゴブリン達は即座に建て直す。

 数匹がかりで連携し、動きを封じている間に他のゴブリン達で叩きだす。

 

 やがて、1体、また1体と人形は形を崩し始めていく。

 

「妻が作り上げてくれた人形なのですが……まあ土を固めて作ったものですからね。叩き続ければいずれは壊れます」

 

 耐久性に自信があるとは言っていたが、それは彼ら〈ティアン〉基準のものらしい。

 確かに、普通に人間であれば致命打であろうゴブリンの殴打を受け続けても原型を留めていられるなら、耐久性は十分なのだろう。

 

「……そろそろ時間ですね。大きいのを入れておきます。ハヌワ、《光の撃》を」

『了承。《光の撃》を使用します』

 

 埴輪人形の目が赤く光る。

 そして、崩れ始めた人形達から順に、同様に目が赤く光り出す。

 

 そして、人形が崩れ落ちる瞬間。

 その目から光線が発射された。

 

 形を崩しながら……つまりは目線は常に動きながら。

 左右を、上下を、曲線を描くように。

 薙ぐように放たれた光線はゴブリン達を焼き切っていく。

 

『ぬ、ぬううううううう』

 

 その光撃に耐えられているのは王のみである。

 砂漠地帯に限定すれば純竜級にも匹敵するステータスを持つ【ジェネラル・サンド・ゴブリン】ですら、全身を裂かれ死んでいく。

 

 100をも超えるモンスターの軍勢を率いる王。

 それらが容易く壊滅していく。

 どれだけ長い時をかけて群れを作り上げ、どれだけの力と覚悟で率いてきたのだろう。

 相対する人間には分からない。

 ただ、放っておけば強大な敵になることしか分からない。

 しかし人間達の勝利は目前となっている。

 軍勢は消えた。

 王は軍勢無くしては戦えない。

 そのスキルは軍勢を率いてこそ輝くのだから。

 

『……』

 

 歩を進める。

 仲間の臓腑や血、骨で固められた砂地を踏みしめ、進む。

 砂地で遊ぶ小鬼の王は、

 

『それが、貴様らの全力だな?』

 

 砂地の上でただ一人、嗤っていた。

 

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