<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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80話 王の謀略

■【サンド・ゴブリン・キング】

 

 王に必要なものとは、力ではない。

 力は、それを有する配下がいればいい。

 

 王に必要なものとは、知識ではない。

 知恵や知識など、参謀を置いておけばいい。

 

 王に必要なものとは、カリスマではない。

 そもそも、ゴブリン達は王に付き従うものと決まっているのだ。

 スキルでなり、恐怖でなりでねじ伏せてしまえばいい。

 

 王に必要なものとは、未来ではない。

 現在を生きてさえいれば、無謀な夢を見ることも無い。

 

 王に必要なものとは、生き延びるための謀略だ。

 どう足掻いても生き延びる。

 泥に塗れようと、砂に埋もれようと、這いつくばってでも生き延びる。

 部下を犠牲にしても生き延びる。

 

 部下を砂の下へ隠してでも生き延びる。

 

『くかか』

 

 人間達の攻撃により、只一人となった小鬼の王。

 止めを刺そうと、1人の人間が剣を手にこちらへと向かってくる。

 

 ここが勝機だとでも思い込んでいるのだろう。

 孤立した王など、何が出来よう。

 

 そう、本当に【サンド・ゴブリン・キング】が孤立していればの話であるが。

 

『……伏兵は使わぬとばかり思っていたが』

 

 雑兵である【サンド・ゴブリン】は兵士。

 隠れ潜み敵を討つ【サンド・サウンド・ゴブリン】は暗殺者。

 率先して敵を切り刻む【ハイ・サンド・ゴブリン】は部隊長。

 軍を指揮する【ジェネラル・サンド・ゴブリン】は将軍。

 

 では、砂中へ潜んでいる【サンド・ゴブリン】とは?

 それが、生身のゴブリンであったならば【サンド・サウンド・ゴブリン】であろう。

 彼らはどこにでも潜む。砂の中でとて移動は可能だ。

 

 だが、彼らとは移動力を画するゴブリンがいた。

 【サンド・ゴブリン・ライダー】……騎兵である。

 

『轢き潰せ! その臭い口の中に放り込み、餌としろ! 我らが仲間の弔いだ!』

 

 王の号令と共に、砂の下深くから、巨大なミミズに乗ったゴブリンが飛び出す。

 ミミズにも似たモンスターの名は【ドラグワーム】。

 純竜級モンスターであり、気性の激しい性格をしている。

 それが合計5匹、砂漠から這い出た。

 

 王と、将軍数匹がかりでようやく1匹ずつテイムしたモンスターである。

 その甲殻は、先ほどの砲撃や光でも容易に剥がれることは無いだろう。

 

『進軍だ!』

 

 【ドラグワーム】に騎乗した【サンド・ゴブリン・ライダー】は縦横無尽に砂漠を進んで行く。

 

 剣を持った人間はいつの間にか消えていた。

 恐らくは逃げ帰ったのだろう。

 

 であれば、後は砲台を破壊するだけだ。

 

 【ドラグワーム】はその砲撃を耐えられるであろうが、王自身はそうはいかない。

 先ほどの砲撃も、光線も、保有スキルである《ゴブリンキングダム》で免れたのだ。

 すでにダメージを転嫁できる配下も少ない。

 砂中にはまだ、《ゴブリンキングダム》で転嫁するためだけに潜ませている配下もいるが、それでもこのまま黙ってダメージを受け続けることは得策ではない。

 

 早々に砲台を叩き潰す。

 そのために【サンド・ゴブリン・ライダー】を走らせる。

 

『……ちっ』

 

 砲弾が砂漠全域を覆い始めた。

 少しでも進撃を止めるためであろう。

 王だけでなく、【ドラグワーム】ごと【サンド・ゴブリン・ライダー】を殺そうとしている。

 確かに、騎兵を潰されてはいくら【ドラグワーム】が頑丈で生きていようと、王の支配下から外れてしまう。

 

『避けよ! 受け止めるは悪手なり!』

 

 【ドラグワーム】は再び砂中へ潜り込む。

 そしてそのまま、砲台へと砂中を移動する。

 

 砲弾は狙いを定められていないのか、まるで無関係なところへと落ち、爆ぜる。

 砂が舞い上がり、煙が上がる。

 

 視界が悪くなるが、王には関係ない。

 ダメージはまだ配下で凌げる。

 配下の居場所はスキルを通じて把握できる。

 

 直に砲台へと到達する騎兵も出てくるだろう。

 そうなれば、こちらの勝ちだ。

 いや……そうならなくても勝ちである。

 

 何故ならば、王が用意した騎兵は7匹。

 【ドラグワーム】は7匹テイムしていたのだから。

 

 嗤う。

 未来……ではなく、現在を見て王は嗤う。

 

 きっと今頃、村では惨状の限りを見せているのだから。

 

 先行させていた騎兵たちが村へと乗り込み、そして蹂躙の限りを尽くす。

 何のことは無い。王でさえ囮に使っているのだ。

 《ゴブリンキングダム》で死なぬ王を囮に、砂中を移動させ先行させた騎兵達で戦果を得る。

 

 止まらない。

 涎が、笑みが、愉しみが、止まることは無い。

 

 捉えた人間を使えば、今回失った戦力の補填も出来よう。

 この砂漠へと人間も戦力を集中させたようだが、こちらは分散させている。

 分散させ、敵の薄いところを突く。

 

『くかか』

「……随分と、楽しそうだな」

『――ッ!?』

 

 声がした。

 一体、どこからと思った瞬間、背後から爆発音が響き渡る。

 その爆発によるダメージは凄まじく、砂中にいた配下達のほとんどが死に絶えてしまう。

 

『一体……これは……!?』

 

 だが、王はまだ生きている。

 混乱する思考で、何とか状況を整理し現在置かれた自分の状態を手繰り寄せる。

 

 声は背中からであった。

 その直後に背後からの爆発。

 ……自爆か、と王は納得する。

 自覚覚悟の特攻攻撃。

 配下にも行わせたことのある戦法だ。

 

 痛いダメージであった。

 肉体的にも、精神的にも。

 

『しかし! それでも貴様らの負けは必須! 何故なら――?』

 

 おかしい。

 

 遠くで配下が死んだことを察した。

 村に向かわせた騎兵達が、【ドラグワーム】ごと死んだ。

 

 戦力はここだけでは無かったのか。

 不味い。

 であれば、この戦いはこれ以上続けられない。

 これ以上手を出すわけにはいかない。

 これ以上のダメージは王自身が背負わなくてはならなくなる。

 

 幸いにも、砲撃はいつの間にか終わっていた。

 視界は晴れている。

 すぐにでも砲台へ向かっている騎兵を呼び戻そうとした時――

 

『――え?』

 

 視界が崩れた。

 体が崩れた。

 骨が、血管が、筋肉が、臓器が、ありとあらゆる体を構成する物質が崩れていく。

 

 何故……何故、何故、何故!?

 

 何も分からぬまま。

 ただ、砂中に配下が1匹も残っていないことだけを確認できた王は――

 

『あ、有り得ん』

 

 ――全身を毒に塗れて死亡した。

 

 

 

 

■【魔法少女ω】クリアント

 

「……うまくいったか」

 

 砂丘に隠れながらクリアントは静かに息を吐く。

 王の死を確認しながら、フィリップ達の下へと帰るため走り出す。

 

「作戦、うまくいって良かったですね!」

「ああ。すぐに死ななかったのは体力が多かった……からではないな。何かしら耐久スキルがあったのか」

 

 王が見た剣を持ち走る人間とはクリアントのことであった。

 彼はフィリップの砲撃を浴びながら王の下へと走っていたのだ。

 時に砂に隠れ、時に砲弾を浴びて死にながら。

 

「お、クーからの連絡だ。あっちも防ぎ切ったみたいだ」

「クャントルスカさんには結界の特典武具がありますからねー。それにしても先んじて配下を向かわせていたとは」

「……でも、クーによれば倒したみたいだぞ。あのでかいミミズみたいなのを2匹も」

「……どうやったんでしょう?」

「魔法少女パワーかもしれないな」

 

 クャントルスカが村の防衛を買って出たのは〈ティアン〉であるクレハを必殺スキルの対象に巻き込まないためではない。

 彼女の持つ特典武具である【外内時計 プテアリス】が外と内との侵入を防ぐ力を持っているからである。

 設定次第では、外からだけ、内からだけの移動も可能になるとか。

 今回は、村の外からの侵入を防ぐ設定にしたらしい。

 

「しかし先輩のそのコンボ、本当にえげつないですね。以前倒した魔法少女さんも、凄い怒りと絶望の表情をしていましたし」

「……そうか? 使えるスキルを使っているだけなんだが」

 

 直近からの自爆、そして自爆ダメージと【孤毒鎧 マッドラップス】による毒のダメージ。

 クリアントの肉片が少しでも敵に当たれば、敵も毒に侵されてしまうというコンボである。

 ちなみに、王の背後へと潜り込めたのは、そこが一番安全な場所であったから。

 砲弾爆ぜる砂漠の中で、王の背後が一番砲弾が届かない安全な場所であると認識出来たため、肉体創造地点が王の背後へ到達することが出来た。

 

「魔法少女が怒りとか絶望って、なんか闇落ちフラグみたいだな」

「いつか先輩のところへ復讐しに来るかもしれませんねー」

 

 双子みたいな魔法少女だったなとクリアントは思い出し……名前は思い出しきれずに、

 

「その時は……命一つで勘弁してくれるといいな」

「死ぬまで殺し続けるかもしれませんよ」

 

 少しだけ嫌そうな顔をしてフィリップ達の下へと辿り着いたのであった。

 

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