<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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81話 将軍と腕試し

■【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト

 

「……」

 

 開いた口が塞がらないとは、まさにこの状況であったのかとローガンはまだ短い己の人生の中で新たな発見をする。

 クラウディアがあと一歩足りない、と表した準〈超級〉の2人。

 【問王】パリドーネと【動物王】レシーブ・キープは今、ローガンの足元で倒れ伏していた。

 

「……し、質問が……通りません」

「うきゅぅぅ……私より強すぎますよぉ」

 

 ローガンのサポートの下、この2人のいずれかに【永遠偶人 クレハドール】というUBMを討伐させ特典武具を与える。

 それが今回、クラウディアから受けたローガンのクエストである。

 ちなみにクエストの難易度は六。クラウディアの言葉に頷いた後にローガンの脳内に声が届いた。

 難易度:六というのは決して容易な数字ではない。

 ローガンを指して容易な数字で無いというのは些か皮肉めいているが、〈超級〉1人に準〈超級〉2人を交えても尚、難易度は六から揺るぎない。

 ここで堅実であれば、謙虚であれば、あるいは賢者であれば、何かあるのだろうと察するだろう。

 だが、ローガンは大した難易度でないなと笑う。

 どうせ最後は悪魔の軍勢を召喚し、倒せば良いのだと。

 数字に支配されることなく、数字を支配するローガンにとって、その脅威は何にも映らない。

 

「……はぁ」

 

 故に、クエスト云々よりまずは何よりも。

 この2人をどうすべきかを考えなければならないとローガンは考えるのであった。

 そのために、先ほどまでの戦闘を思い出す。

 

 

 

 

「まずはパリドーネからだな。手頃なモンスターを見つけた。追い込むから戦いを見せてみろ」

 

 珍しくローガンも反省はしていたのだ。

 空の旅の事故は、各々の特性を見落としていたから起こってしまったのだと。

 最初から出来ることは出来る、出来ないことは出来ないと知っていれば、ああはならなかったと……思う。

 尤も、パリドーネの落下は特性よりも性格の方が問題なのかもしれないが。

 

 悪魔達を使い、1匹の亜竜級モンスターを誘導する。

 クラウディアから予め数匹分の亜竜級モンスターのリソースを得ていたため、それを使うとローガンは数百体の悪魔でパリドーネと誘導したモンスターを囲み、闘技場を形成する。

 

「閣下、質問があります」

「どうした」

「この悪魔……私に攻撃はしませんか?」

 

 やや気後れしたような視線でパリドーネは悪魔達を見る。

 この数で襲われたらひとたまりも無いが故に怖いのだろう。

 ちなみに戦いが始まるまでは悪魔数匹でモンスターを抑え込んでいる。

 強襲された際の対応も見てみたい気もあるが、まずは正面での戦いを見ておかなければ、万全の力が測れない。

 

「安心しろ。こいつらは俺の命令に忠実だ。パリドーネとそいつの戦いの邪魔が入らないように囲わせているだけだ。それに、お前が危なくなったら止めにも入らせる」

「……なるほど」

 

 ここでパリドーネが死亡しようものなら、せっかくの空の旅も無駄になる。

 半日かかったあの移動時間をなかったことにされるのは、ローガンとしても避けたい。

 

「見ての通り、そいつのステータスはSTR寄りだ。……が、事前に聞いているお前のステータスからして一撃で死ぬことは無いだろう。急所への連打とか、よほどのことが無ければ死ぬ前には助けられるはずだ」

「感謝します閣下」

「……フン。まずは目の前の敵に集中しろ」

 

 用意されたモンスターは【グリル・グリズリー】。

 両の掌に蜜を溜める習性を持つクマ型のモンスターである。

 

「……行きます」

 

 パリドーネが【グリル・グリズリー】と向かい合う。

 

 ローガンもそれを息をのみつつ見守る。

 パリドーネの持つスキルは【問王】の名に相応しく、そして他の超級職に比べ特殊なものだ。

 将軍系である【魔将軍】に就くローガンにとっては特に。

 

「【グリル・グリズリー】」

 

 まずはパリドーネが対象を定める。

 その瞬間、【問王】奥義である《問答有用》が発動する。

 

「質問があります。その蜜を塗ると一番美味である食べ物とは何でしょう」

 

 《問答有用》下にある者が質問をし、それに答えられない場合にこのスキルは効果を発動する。

 まずは質問の内容に対し、その正当性を測られる。

 誰が、というのは分からないが、まあAIか何かであろうとローガンは推測する。

 次いで、その質問に対し明確な答えが存在する場合にのみ、制限時間が課せられる。

 即答できる質問であれば5秒程度、熟考が必要であれば1分。

 そして、それに答えられなかった場合に……質問者は祝福を受けることになる。

 祝福……つまりはバフである。

 制限時間×パーセンテージ。

 

 恐るべきは、質問の正当性というものに質問者の判断基準が含まれているということだ。

 つまりは、パリドーネが白いものを黒いと思い込んでいれば、白と答えても不正解になる……こともあるのだ。

 尤もパリドーネ自身、そういったことが無いように知見を広めているらしいが。

 

 ともあれ、パリドーネの質問が出て、それに答えられなければパリドーネのステータスが増大する。

 割合として増大していく。

 

 質問は密に塗ると美味なもの。

 相手は密を所持しているモンスター。

 恐らくは即答できる類の質問に違いない。

 というか、1分も待てるような質問では、答える前にパリドーネが相手から攻撃を受けてしまう。

 出来る限り即答できるような問題。

 それを繰り返すことでパリドーネはステータス的に相手を超える。

 そこに彼女のエンブリオの力が加われば、更にステータス差は開くのだ……これは【獣王】すら倒せる可能性のあるものだろう。

 

 すぐに何かしらのアクションは起こるだろうと思っていた。

 

『質問は認められません。言語を統一し、質問しなおしてください』

 

 だが、その前に質問が無効化された。

 パリドーネと【グリル・グリズリー】の前に現れた『NO JUDGE』の文字。

 

「やはり……モンスター相手では質問が通じませんでしたか」

 

 【グリル・グリズリー】の掌に熱が籠もる。

 その名の通り、敵を調理しながら倒す【グリル・グリズリー】のスキルである《火掌》。

 それがパリドーネの身体を吹き飛ばした。

 

「パリドーネぇぇぇ!?」

 

 やはり、とか。

 最初からモンスター相手にお前のスキルが通じないなら言えよ、と。

 そんな意味も込めながらローガンはパリドーネの名を叫ぶ。

 

「……閣下。質問があります」

「え、俺……?」

「後は任せられますか?」

『質問を認めます。制限時間は5秒』

「……任せろぉぉ!」

 

 悪魔の軍勢でクマを瞬殺するローガン。

 当然ながら、誰のステータスも上昇することは無かった。

 

 

 

 

「ローガン様! 私の相手はあのモンスターの大群ですね!」

「ああ……お前のスキルは対軍勢用だと聞いた」

 

 今回は随分と高いテンションだなと思いながらローガンはレシーブに答える。

 パリドーネが個人戦闘型であるなら、レシーブは広域制圧型であると、ローガンは判断していた。

 強い敵1体よりも、弱い敵を纏めて相手にする方がレシーブには向いている。

 

「AGIだけを強化した悪魔を囮にしている。直にここへあいつらは到達するだろう」

 

 ローガンが見据える先……白い蠢く塊がこちらへと動いている。

 

 その正体は【ファミリー・ラビット】。

 名とは裏腹に、ここら一帯では恐るべきモンスターと言われている。

 彼らは数百匹規模の家族だ。

 互いを愛し、愛される温厚なモンスターである……手を出さない限りは。

 

 かりに、ウサギの1匹でも殺してしまえば、残りの数百匹はその殺害者を地の果てまでも追いかける。

 海であろうと、マグマであろうと。

 自分が死ぬことすら恐れずに、追いかけ続ける。

 

 とはいえ、1匹1匹は亜竜級にも劣る低弱なもの。

 数こそ多いが、防御に秀でていれば1匹ずつ対処していくことも可能である。

 

 そしてレシーブの就く【動物王】奥義である《動物王国》はレシーブのステータス以下のモンスターであれば即座に手懐けることが可能であるのだ。

 流石にこのウサギ以下のステータスではあるまい、とローガンはレシーブの動向を見守る。

 

 AGIもSTRもENDもHPも。

 【動物王】は戦闘系の超級職であるに関わらずステータスは伸びづらい。

 だが、それでもウサギくらいは超えているだろう。

 

「見ていてください、ローガン様。私がバシッと決めて、ウサギちゃんのモフモフ天国を味わせてあげます!」

「……レシーブ……質問があります。……それは私も味わうことは可能……でしょうか」

「お前はもういいから休んでいろ」

 

 背後から声が聞こえたが黙らせ、レシーブは己の役割を果たさせる。

 

 《動物王国》の効果範囲は約1キロと広い。

 最初の1匹がその範囲に入る。

 速度は衰えない。

 

「さあ! 私の胸に飛び込んできてください」

 

 慈愛に満ちた眼差しでウサギを見るレシーブ。

 ローガンは学んでいた。

 ああ、またこのパターンか、と。

 

 2匹、3匹……やがて百匹、二百匹と効果範囲にウサギは入っていく。

 

 ローガンもそれを見ながら準備を進めていく。

 

 【ファミリー・ラビット】は己の家族を殺した悪魔を追いかけている。

 だが、《動物王国》に入っていればどれだけ殺意に満ち溢れていようと、テイムモンスターだ。

 レシーブの配下に違いない。

 

 ローガンはウサギに狙われている悪魔を消す。

 ウサギは最初は戸惑っていたが、やがてレシーブを見つけるとそのまま駆け寄って――

 

「さあ!」

 

 腹部に強烈なタックルを食らわした。

 

「ぐえっ」

 

 およそ女子が発していけないような声を出しながらレシーブは倒れる。

 そこに殺到するウサギに群れ。

 

「……うん。やっぱりか」

 

 すでに展開済みであった悪魔数百体をウサギ数百体の駆除に回らせると、ローガンはレシーブの救助に向かったのであった。

 

 レシーブはモンスターよりもステータスを上回っていなくてはいけない。

 HP、MP、SP、STR、END、DEX、AGI、LUCの全てにおいてモンスターを上回らなければならないのだ。

 一つでも下回っていれば、モンスターをテイム出来なくなる。

 

「レシーブ」

「……はいぃ」

「極端に低いステータスがあるだろ」

「LUCがエンブリオのパッシブスキルでマイナス補正かかってますぅ」

 

 つまりはLUCが極端に低いビルド。

 これではテイム出来るモンスターはかなり限られてしまう。

 

「……」

 

 倒れているパリドーネとレシーブを見る。

 この状況ですでにローガンは諦めの境地に達しかけていた。

 自分で特典武具取りに行った方が早くね?と。

 だが、それではクエストクリアにはならない。

 ローガンの目標は特典武具を取得することではなく、特典武具を取得させること。

 

 であれば、どうするか。

 かつての育成ゲームを思い出しながらローガンは考える。

 開いていた口を無理やり閉じて、浅い思考を巡らせる。

 

「とりあえず……出来ることからやっていくか」

 

 パリドーネの無理と分かっていつつ挑戦してしまう性格。

 レシーブの彼我の実力差を測れない能力の無さ。

 

 長所を打ち消すような短所。

 それでも尚出来ることから始めるしかないな、とローガンは思う。

 今日は2人の戦闘を見られただけでも良しとしよう。

 他者から見れば、それでもまだ諦めの域にいるのだが、ローガンは前向きであった。

 

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