<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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82話 戦いの後

■【魔法少女ω】クリアント

 

 戦争と呼ぶほどには小さな戦い。

 モンスターの集団を撃退したクリアント達は、戦利品を手に村へと戻っていた。

 

「こちらの損耗は軽微でしたが……村の方は大丈夫でしょうか。あの地から出てきたモンスター……あれらが村へ向かっているとなると……」

「村にはクーがいる。魔法少女が任せてと言ったんだ。誰かを守ることに関して、俺達の中ではクーが一番向いている」

「うむ。クャントルスカは人の悲しむ顔は嫌いな人間だよ。だから、大丈夫。君の心配している通りにはならないはずさ」

 

 ドロップアイテムのほとんどが効果の無い装備品や有り触れた回復アイテムであった。

 クリアント達の失ったものといえば、フィリップの放った砲弾やクレハの人形、クリアントの肉体創造ストックくらいのものだ。

 どれもが代わりのきく、そして金や時間で補充が可能なものばかりである。

 獲得したドロップアイテムを換金すれば十分に補填できるだろう。

 

「むしろ、村が何事も無かったら、これからのことを考えるべきだろうね」

「……ですね。今回のことで食料及び他の貯蓄を使い切ってしまったはずです。補充に行かなければなりません」

 

 その辺りも含めて、今夜村長と話してみるとクレハは言う。

 そうでなくても、次に同様の規模のモンスターの襲撃があった際に、クリアント達はもういない。

 村の者達で襲撃を乗り切るしかない。

 

「僕の人形をすり抜ける数の敵、あるいは僕では倒せない強さの敵。……どうにかして次の対策を考えなければ」

「まあ、君一人で背負うことでもないと思うけどね。とはいえ、村のことは私達が口を出すことでも無いが」

「というか、どの村もこれだけの戦力抱えてるのか?」

「いえ、恐らくはここだけでしょう。事実なので言いますが、僕の強さは村の衛兵レベルとしては突出しています。……以前に村長から聞いた話では王族直属の私兵になれるくらいだと」

 

 だとすれば、そんなクレハが在中する村がピンチになるような状況はもうどうしようもないのではないかともクリアントは思う。

 そうなれば、どのような対策対応を取ったところで、付け焼刃なのではないか。

 

「この規模の群れがこうして進軍してきたということは、すぐに他のモンスターが襲ってくることは無いでしょう。その間に村の防衛を固めます」

 

 それきりクレハは黙り、村への歩みを進める。

 フィリップは獲得したアイテムの中で珍しいものがないか確認し、クリアントとワンプは最近食べた中で美味しかったものを話しながら後ろを付いていくのであった。

 

 

 

 

 

 村に到着すると、そこでは既に祝勝会ムードであった。

 どうやら探知に優れた村人がモンスターの軍勢を壊滅させたことを察知したらしい。

 同時に、クャントルスカも王からのバフが解除されたゴブリン達を倒したため、村の脅威は去ったと判断されたようだ。

 

 だが、祝勝会というには村人は盛り上がっているが、村長を始めとした上位陣の顔が沈んでいる。

 やはり、危惧していた資源の消耗が激しかったようだ。

 

「……食料はまだ何とか」

「だが……薬草や薪、鉄も無い」

「早馬を出しても……次の襲撃が近くにあったらどうすれば」

 

 ここでクリアント達が容易に手を貸してもいいのだろうか。

 今後を思えば、良くは無いだろう。

 村人たちが自分の力で乗り越えなければ、村の外の力を頼ることなく乗り切らなければ、今後同様のことが起こった際に対処できなくなってしまう。

 

「クリアント君、フィリップちゃん。助けられないかな?」

 

 だが、それを言うならすでにタイミングは逸している。

 それに、今更見捨てることなど出来ない。

 

「ノーチラスの補強用の資材が余っている。それでよければ」

「さっきゴブリンキングを倒した時のドロップアイテム。この中に使えそうなのはあるか?」

 

 惜しみなく、持ち得る限りの素材アイテムを取り出す。

 

「先輩、やさしー」

「ああ、そうだ。食料もある」

 

 ワンプ用に取っておいた液状化しやすい食材も惜しみなく取り出していく。

 

「ちょ、先輩!?」

「クリアント君、フィリップちゃん……。ようし、私も魔法少女らしく助けるぞー!」

 

 防衛戦力として村に残っている間に仲良くなったのだろう。

 村長らが話している今後の方針にクャントルスカが混ざっていく。

 

「食材、資材……他に必要なのは薬草ですね」

「もう無いのか?」

「どうやら負傷者がいたようで、使ってしまったみたいです。長期に保存できるものは効果が薄いものが多く、大きな怪我に使えるものの在庫が無いみたいで」

「……それに。最近はモンスターの動きが活発で。怪我のだけでなく、病気に対する薬草もあまり採れていなくて」

 

 クレハの妻であるトロが来る。

 トロは【薬師】らしいし、村の薬に関する事情には詳しいのだろう。

 

「辺境の村ですし、衛生面としてもあまり良い環境ではありません。なので、病気には簡単にかかってしまいます。薬の在庫が少ないと、そちらの方面から被害が……」

「……」

 

 どうも、村は限界が近かったらしい。

 いや、クレハやトロといった移民がいたことで限界に近かった村が一時的に盛り上がっていたとみるべきか。

 それに、〈ウェルキン・アライアンス〉からの支援もあり、限界を超えていた村が限界近くまでに戻っていた。

 だが、それも相次ぐモンスターの襲撃により、再び溢れる寸前にまで追い込まれてしまった。

 

「クリアント君、フィリップちゃん」

 

 と、クャントルスカが戻ってきた。

 

「あのね、お願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「しばらく、この村でお手伝い出来ないかなって」

「……なるほどな」

 

 クャントルスカは見捨てられなかったらしい。

 まあ、愛などと言わなければ常識を持ち合わせてはいる性格だ。

 当然のことなのだろう。

 

「賛成だ」

「フィリップもか」

「……というかね、この村は私が来たくて来た村なのだよ? まだこの村には何か手がかりがある。そのための調査の時間と思えばね」

 

 『赤砂の剣』の手がかり。

 それが不発に終わったと思っていたのはクリアントだけであったらしい。

 フィリップはまだあきらめていなかった。

 

「……俺一人、いやワンプ合わせて2人か。2人の力で何が出来るかな」

「そうですね。控えめに言っても何も出来ないかと」

「はっきり言うなよ。……うん、だからな、俺はそこらの村人と同じくらいの戦力と思ってくれ」

 

 出来ることは少ない。

 だが、それでも出来ることはしたい。

 

 クリアントとしても、この村に残ることが何か結果をもたらすと思っていた。

 

「今の俺の目標は死亡数稼ぎだしな。村にいても旅を続けてもそこは変わらない」

「じゃあ満場一致の賛成で! ようし、皆で頑張ってこの村を復興させようね!」

 

 5人は拳を掲げ、おーと声を合わせる。

 

「で、まずは何からだ?」

「うーんとね。薬草がどうしても足りていないみたい。村を出ないと薬草は採れないし私達には護衛をお願いしたいんだって」

「護衛?」

「誰のです?」

 

 薬草を採ってきてほしい、ではなく薬草を採るために護衛をしてほしい。

 

「トロちゃんの」

「……トロ、ですか」

「うん。村長さん達がトロちゃんに行ってほしいんだって」

「……」

 

 クレハが何か苦悩する表情を見せる。

 対するトロは分かりましたと頷く。

 

「……ですね。それは私にしか出来ないことです」

「だが! 村に残っても調合は出来る。薬草なら僕が採ってくる。いつもそうしているだろ!」

「高品質な薬草、それに珍しい薬草はね……見分けるのが難しいのよ。貴方、この2つの違いが分かる?」

 

 トロが取り出した2つの薬草。

 青く長い葉を付けているが、2つとも同じようにクリアントには見えた。

 クャントルスカとクレハも同じく分からないといった顔をしている。

 

「そっちの葉の表面がざらついている方は毒草だね」

 

 フィリップが迷うことなく答えた。

 

「……正解、です」

「おお! 凄いねフィリップちゃん」

「『鑑定』のレベルは高いんだ。普段は宝を見るためにしか使っていなかったけどね」

「決まりね。貴方より、こちらの旅の方たちの方が護衛に相応しいわ」

「だが……」

「クリアントさん、フィリップさん、クャントルスカさん。私の護衛をお願いしてもいいでしょうか?」

 

 諦めのついていないクレハからクリアント達の方を向くとトロは頭を下げる。

 

「それなりの危険な地帯になります。あまりお返しのできない状況で護衛なんて言いづらいことですが……」

「ううん! それがこの村のためになるなら!」

「私も久しぶりに宝探しの気分になれそうだ」

「薬草ぽいのを集めてくればいいなら何とか」

 

 こうして、クレハは村の衛兵としての仕事に戻り、クリアント達はトロの護衛をしつつ薬草集めをすることになった。

 村の脅威は完全に去ったわけではない。

 脅威に備えるために、彼らは抗う村人たちを手伝う。

 

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