六年前を覚えている   作:海のハンター

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初めて投稿します。なので温かい目で見てください。



1章 少年は再び光の道を歩む
0話 『プロローグ』


 上坂澪(かみさかれい)には五人の幼馴染がいた。

 一人は人見知りをする黒髪の女の子。

 一人はマイペースな白髪の女の子。

 一人は優しい茶髪の女の子。

 一人は男勝りな赤髪の女の子。

 

 一人は大好きな桃色の髪の女の子。

 

 周りは女の子ばっかりだったが、彼はいつも彼女たちと一緒だった。

 学校の時も遊ぶ時も出かける時もいつも一緒だった。

 

 だけどそんな楽しい時間は、いつまでも続いてはくれなかった。

 

 小学三年生の夏、上坂は母親を亡くした。

 

 母親が亡くなってから上坂は変わってしまった。

 大好きだったピアノを辞め、まじめな性格なのか非行には走らず勉強に励んだ。

 その結果上坂から子供らしさというものが抜けてしまった。

 

 それがきっかけか彼女達との関係が崩れてしまった。崩れたというよりは上坂が一方的に彼女達を切り離しただけだ。

 

 そうして壁を作り幼馴染と距離を置いて約半年が経ち四年生に上がる前の春休み、父親の仕事の都合で彼は街を出た。

 

 今生の別れになってしまうほど新しい土地は離れてはいないが、小学生の上坂には十分すぎるぐらい遠いものだった。

 

 長い付き合いがあってのことか、引っ越しの日には幼馴染が見送りに来ていた。

 突き放した彼女たちが来てくれたことは素直に嬉しかった。だが彼女たちは別れを惜しむ涙を流してはいるもののどこか浮かない顔をしていた。

 その理由を上坂澪は知っている。

 

 見送りの場には、突き放しても最後まで離れなかった桃色の髪の大好きな少女の姿がなかった。

 

 

 

 三〇分程前の事、最後の荷物をまとめ後は運転手の父を待っているとインターフォンの鐘の音が片付いた静かな家に響いた。

 家をでるとそこには桃色の少女の姿があった。

 

「ちょっとだけいい?」

 

「なに? 早くして欲しいんだけど」

 

 素っ気なく冷たい態度とっているにも関わらず少女は嫌な顔一つしていなかった。というよりは少女は自分のことでいっぱいのように見えた。

 

 少し俯いていた桃色の髪の少女が真っすぐ上坂を見る。顔が紅潮し呼吸も早く今にも倒れてしまいそうだった。

 桃色の髪の少女は胸に手を当て深呼吸を入れ乾いた唇を開いた。

 

「わたし、澪のこと……」

 

「ごめん、俺子供に興味ないんだよ。もっと年上のお姉さんがタイプなんだ」

 

 少年は少女の思いをあざ笑うように断ち切った。

 これから先この選択を後悔するとは知らずに、

 

 少女も振られることは初めから分かっていただろう。ただ思い残すことがないようにと思いを伝えた。

 しかし少年の態度が最悪だった。正面から勇気を振り絞った言葉を少年は適当で無神経な言葉でよけた。

 その言葉で少女がどれだけ傷ついたのかも知らずに。

 否、少年は分かっていた。分かっていて尚傷つけた。

 この行為は人として最悪の行為だ。だけど彼には彼なりの考えがあった。

 例えば、いい返事をしたとする。しかし結果は遠距離、小学生の二人が会う機会なんてほとんどない。だったら未練がなくなるように嫌われればいい上坂はそう考えた。

 子供っぽさが抜けていると思われていてもやはり小学生、青臭い考えは残っていた。それが不幸かこのようなことが生まれた。

 

 パーンッ、と風船が割れたような乾いた音と共に頬に刺すような痛みが走った。

 上坂が赤く熱の帯びた頬を触ると、腕を振り抜いた桃色の髪の少女がぼろぼろと涙を流しながら利き手を抑えていた。

 その姿を澪は痛々しくて直視出来なかった。

 

 少女は良く泣く子共だった。嫌な事、悲しいことはもちろん嬉しいことがあっても泣いていた。

 だから少女が泣くことは最早日常の一部で見慣れていた。

 しかし今少女が見せる涙は今までのものとは違った。

 悲しいのとは違う怒りの涙だ。迫力に欠ける怒った顔は少女が普段から怒りなれていないことが容易に想像できた。

 

 桃色の髪の少女は慣れない目つきで少年を睨む。

 思いを踏みにじられた事、否、きっと少女はこう思った、

 

 どうしてうそをつくの、と

 

 その後、気持ちを抑えることが出来なくなった桃色の髪の少女は上坂の元を去った。

 

 上坂は改めて赤くなった頬を触る。ぼやけていた痛みが鋭くなった。しかしそんなものは胸の痛みと比べればたいしたことはなかった。

 

 こうして上坂澪は胸にしこりを残したまま街を去った。

 

 

 

 

 

「またあの夢か……」

 

 上坂はゆっくりとベッドから体を起こす。

 

 引っ越した当初はよく見ていた夢だが、近ごろまた見るようになった。

 上坂は再び生まれた街に帰ってきた。

 帰ってきたことはいいがどうしても昔を思い出してしまう。

 

 上坂は帰って来て一週間経つがあの時の桃色の髪の少女はおろか他の幼馴染にすら会っていない。

 

 上坂はゆっくりとベッドから体を起こし伸びをする。

 静かな朝だった。

 スマホのアラームより早く起きて気分がいいはずなのに夢の所為か表情は沈んでいた。

 上坂はまだ覚め切っていない瞼をこすりながらカーテンを開けると制服を着た学生が何人か見えた。

 

「空は快晴、今日は入学式日和だな」

 

 六年が立ち上坂は高校生になった。

 空は雲一つない快晴で真っすぐ入り込んだ光が部屋を明るくした。

 一見飾り気のないような部屋だが壁は防音壁で作られ二〇畳はある部屋の中央にはドラムが鎮座していた。

 

 上坂は学校の制服である学ランに着替え朝食を取るために階段を下りリビングに向かう。

 

 朝食はここ一週間同じで焼いていない食パンにペットボトルのインスタントコーヒー。

 手抜きな朝食にも理由はある。一つは上坂が一人暮らしだと言う事。上坂家の家族構成は長男の澪の他に父と弟がいる。しかし弟が中学三年生と受験生の為、帰ってくるのが来年で父親も弟につき帰って来るのは来年だ。つまり上坂は一年間自由を謳歌できるということだ。

 二つ目理由は上坂が料理をできないという事。料理は出来のいい弟が担当しており上坂は食器を用意するぐらいしかしなかった。上坂はピアノをしていた事の名残か、手を守る傾向があった。その為料理だけでなく裁縫や木工、球技が極端にできない。

 そういう理由もあって上坂の食事は殆どパンか外食だった。

 

 朝食を終え身支度をすました上坂は、玄関に向かうが一つの部屋の前で足を止める。

 帰ってきてから一度も開けていない、開かずの間となってしまった亡くなった母親との思い出の部屋。

 中にはピアノが置いてあり、上坂はこの部屋でピアノを覚え沢山の時間を過ごした。

 上坂はドアノブを握ろうとするが指が鉄でできたみたいにピクリとも動かない。

 

「行ってきます」

 

 部屋を開ける事を諦めた上坂は、誰もいない部屋に言葉を投げ家を出た。

 

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