六年前を覚えている   作:海のハンター

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10話 『一方その頃』

 そこし時間は戻る

 

 外は暗く街灯が無ければ周りが良く見えず、気温は季節が春なのか少し肌寒いがその程度だった。

 

「友希那さん、どうして俺までRoseliaの反省会に参加するんですか?」

 

 街灯と夜空の星のちっぽけな明かりが光る商店街を歩く中、相沢は湊に尋ねる。

 上坂の騒動が落ち着いた後、SPACEのオーナーに勝手にステージに上がった事を怒られ、ナーバスな気分で四季と観客席に戻ったら湊が仁王立ちで待っていてた。そして気がつけばこうだ。

 

「あなたも反省会に参加するのは当たり前でしょ」

 

 Roseliaの反省会はファミレスか羽沢珈琲のどちらかで行われ今日は後者である。そこに意味はない。

 

「今日はRoseliaと綾人達の合同反省会なんだから」

 

 本日の湊はご機嫌ななめだった。原因は相沢がバンドを組んだことだ。

 

 何故なら。

 

「綾人達の演奏一曲だけだったけどすごかったよね、紗夜もそう思うでしょ」

 

「えぇ、悔しいですけど、相沢さん達の演奏は、今日のどのバンドより素晴らしかったですから」

 

 これである。

 今井と氷川が相沢達の演奏を絶賛する。湊はその自分達と同レベルかそれ以上の演奏に対抗意識を燃やしていた。

 

「リサさんも沙夜さんも褒めすぎですよ。でも友希那さん、俺達全員揃ってませんよ」

 

 一人足りてない。今この場にはRoseliaの五人と隣には緊張のあまり一言も話さない四季がいる。そう、オーナーからの説教も、湊からの強制参加の反省会からも上手く逃げ昔馴染みに会いに行った少年がいない。

 

「ドラムの人には後から綾人が伝えれば問題ないわ」

 

「そうですけど」

 

 これから起こるであろう殺伐とした空気の中で行われる反省会及び尋問。相沢はこれを何とか回避しようと試みるが失敗に終わる。若干憂鬱になりため息を吐く相沢を隣を歩く四季が心配そうに見る。

 決して相沢を心配している訳ではない。

 

「なぁ、俺も参加していのか?」

 

 そう言ってはいるがライブハウスを出てから相沢の側を離れようとしない。

 

「じゃ帰るか?」

 

 珍しく気を使ったの相沢だったが四季はしがみついて離れようとしない。相沢は締め付けられ痺れた腕で四季を払う様にして思った。

 

(何がそんなにいいんだよ。帰れるなら俺が帰りてーよ)

 

「ホント二人、中が良いね。春夏も参加して良いに決まってるじゃん。同じベースだから色々話とか聞きたいしね」

 

 相沢が四季を雑に扱ってる様に見えるが、今井は楽しそうに二人を見ている。

 

「それにしても澪だっけ? どうしてこれなかったのかなー」

 

 いつもならうるさいはずのあこが今井の疑問に答えられない程静かだった。

 

「あいつにも色々用事が有るんですよ」

 

 何よりも優先すべき事が。

 

「何か聞こえます。……どこか聞き覚えのあるような」

 

白金が珍しく自分から声を上げ、音の発信源を探すため手の平を耳にそえた。

 

「りんりん、何にも聞こえない」

 

「あこちゃん大丈夫。その……私達の歩いている方から聞こえてるみたい」

 

 白金はそういって少し早足になる。白金にしては珍しいことだ。相沢達も白金に続く様に早足になる。

 

「この方角っていったら商店街からか」

 

「多分そうです。でも、どこから聞こえて来てるかまでは……」

 

 不確定な情報を提供してしまったことに白金は肩を落とす。

 

「安心してください白金さん。確かに聞こえますね、これは……ピアノの……音のようですね」

 

 氷川は前へと進む足が自然と緩んだ。

 

「そうね、しかもかなりうまいわ」

 

 湊にも謎の音色が届き、白金は勘違いじゃないことが証明され胸を撫で下ろす。

 

「そんなに凄いんだ。私はまだ聞こえないなー」

 

「あこもー」

 

「そんなに凄いんでしたら俺も聞いて見たいです」

 

 聞こえない組はどんな音か聞きたくなって少し早足になった。

 

「あっ、聞こえた。確かにこれは無茶苦茶うまいな」

 

「俺もそう思う」

 

「白金さん以外にこんなに上手い奴がいるだな」

 

 初めに聞こえたのは相沢と四季だった。

 

「あっ、ホントだすごい上手」

 

 続いて今井、

 

「あこも聞こえたー」

 

 そして最後はあこ、

 

「でもこの音って……」

 

 ピアノの音がここで消えた。

 

「あーあ、私全然聴け無かったよ。あこ残念だったね」

 

「あー、残念だったねリサ姉」

 

 あこの返事はどこかぎこちない。

 

「あこちゃんどうしたの?」

 

「りんりん。あこ、この音知ってる。とても懐かしい音、だけど思い出せない」

 

 あこは首を横に大きく振り、顔を曇らせた。

 その顔は思い出せない悲しみと、何か分からない苦しみがあった。

 

「あこ、そんなくらい顔するな」

 

「綾人さん……」

 

「思い出せなかったら、突き止めてもう一度弾いて貰えばいいだろ」

 

 元気づけようとにっこり笑う相沢に今井が聞く。

 

「でも、綾人場所なんて分かるの?」

 

「おおよその目星は付いています」

 

 相沢はニヤリと顔を歪ませ、

 

「周りを見て下さい」

 

「「?」」

 

 相沢の言う通り周りをRoseliaのメンバーと四季は自分の周りを見た。

 そこは夜も遅いことから商店街のお店は閉まっており、シャッター街へと姿を変えていた。

 

「そう言うことですか」

 

「分かったの?」

 

 ええ、と氷川が頷く。

 

「相沢さんが言いたいのは、空いているお店が限られているという事です。今シャッターが閉まっているお店は殆どが八百屋や精肉店といった個人のお店です。だけど見て分かる通り私達のいる場所は真っ暗ではありません」

 

 たしかに商店街はシャッター街へと変貌したが、真っ暗ではなく、決して月や星の輝きを頼りに歩いているわけでもない。

 

「つまり、光が付いているお店にその人はいます。それもスーパーやレストランと言った会社が経営しているものではなく、個人が経営しているお店です。で、いいですか相沢さん?」

 

 説明をする氷川は眉ひとつ動かさず、淡々と相沢の推理を答える。

 

「その通りです、さすが紗夜さん」

 

 会社が経営する店は内装が店舗ごとにある程度統一されている。ピアノのような値がするもの揃えられている確率は低い。

 

「じゃあこの辺で言ったら……」

 

「分かった。ラーメン屋さんだ。あこ夜にお腹が空いた時、よくお姉ちゃんと行くもん」

 

「あこ〜、流石にラーメン屋さんにピアノは置いてないよ」

 

 ラーメン店にピアノが置いてあれば、ピアノは油でギトギトになってしまう。

 

「早く行くわよ」

 

 湊の小さく鋭い声に全員が視線を集めた。

 

「友希那、行くってどこに? ……まさか、本当にラーメン屋に行くの?」

 

「何を言ってるのリサ」

 

「だって、ラーメン屋に行くんじゃ……」

 

 ため息交じりに湊が答える。

 

「行かないわよ。それより早く羽沢珈琲に行きましょ」

 

「「あっ!」」

 

 今井とあこは何か思い出したかの様な間の抜けた声を上げた。

 

 

 

 相沢達は反省会をする為、羽沢珈琲を目指し歩いている。と言うよりそこに例の人物がいると考えたからだ。

 

「相沢さん」

 

「紗夜さんどうしたんですか」

 

 氷川が相沢だけに聞こえる声で話しかけた。

 

「先程私は、あなたの代わりに答えましたが、あの推理では不十分です」

 

「ど、どうしてですぅ?」

 

 自身満々に言ったものを否定された事が恥ずかしくなり、引きつった変な敬語になる。

 

「相沢さんは前提として、まずピアノはお店に置いているものと考えています」

 

 相沢は嫌な予感がし、額からじっとりとした変な汗が流れてくる。

 

「ですが、白金さんの様にご自宅でピアノを持っていたら、相沢さんの推理は根本から崩れます」

 

(あああぁぁああぁぁぁ〜~~)

 

 顔から火が吹きそうだった。

 商店街=店と考えていたがあこや山吹のような商店街の中に家があるものもいる。なによりこれから行く羽沢珈琲店は羽沢の家だ。

 

(五分前の俺を殴りたい)

 

 と相沢は思わずにはいられなかった。

 

「紗夜~、綾人をいじめないの」

 

「私は別に……」

 

 氷川は決して相沢をいじめていたわけでもなくただの冤罪だった。

 しかし今井には先程の相沢と氷川のやり取りは聞こえていなかった。だから今井は相沢の顔色で判断するしかない。

 激辛料理を食べたかの様な赤い顔色は氷川によって起きた事だろうそう判断した。

 今井は、いじめると言う言葉を使ったが正確にはニュアンスが違い本当の意味でいじめてるとは思っていない。ここでのいじめとは、氷川が辞書の様な正論を並べた、そう言う意味だろう。

 

「で、場所の目星は付いたはいいけど、どうやってお願いするの?」

 

「それに関しては推理以上に問題ありません」

 

 先程の氷川の説明のダメージが大きく、言い方が若干自虐的になる。

 

「リサさん達がお願いしたらいいんです」

 

「えっ、それだけ⁉︎もっと他にないの?」

 

「単純ですけどこれが一番確実ですよ。Roseliaの皆さんみたいな可愛い女の子がお願いしたら、一発ですよ」

 

 ドヤ顔をした。今度こそ反論の出来ない完璧な案だと思った。

 

「可愛いって……でも綾人、女の人だったらどうするの?」

 

 今井は嬉しそうな顔をしながら首をかしげる。

 

「えっ、えっ〜と」

 

 相沢は完全に自分基準で考えていた為、ピアノの演奏者が女性かもしれないと言う考えが抜けていた。

 相沢はどちらかと言えばカッコいい部類に入っていると自分で思っている。

 人に言っておいて都合のいいことだが、お願いします!ピアノをもう一度聞かせてください、なんて軽いナンパみたいな事恥ずかしくて言えない。

 

「だったら、こいつにお願いさせます。こいつ顔だけはイケメンなんで」

 

「綾人、俺がそんなことできるわけないだろ!?」

 

「お前はいつものように軽口を言ってればいいんだよ。大丈夫、後でちゃんと慰めてやるから」

 

「ふざけんな!どうして俺一人がそんな恥ずかしい目にあわなくちゃならねえんだよ!」

 

 もめる二人を見る今井は何事もないように言った。

 

「春夏だったら大丈夫だね。イケメンだし。まぁ私としては綾人にもお願いして貰いたいけど」

 

 四季の目に光が宿る。四季は単純だ。だから今井の言葉も前者しか頭に残っていない。四季は金色の髪を搔き上げて言う。

 

「任せときな、俺にかかればどんな子ねこちゃんもたちまち素直なっちまうんだぜ」

 

 いつものように顔を赤くした四季を横目に歩いていると一軒の店の前で足を止める。

 お店の外観は商店街から浮かない様に派手さはなく、他のお店同様、看板だけはでかでかと『羽沢珈琲店』と店名の主張が強い。

 

「着いた……」

 

 相沢はRPGで言う様々な冒険の果てにとうとう魔王の城に来たみたいな演技くさい声を出した。

 

「フッフッフ、この魔王の城に一体どんな強敵が待っているのやら」

 

 隣であこがノッて来るが、『大魔王あこ』を名乗る少女が勇者側に立つのはおかしい、と相沢は思う。

 

「早く入りましょ」

 

「えぇ、どんな方が弾いてるか気になります」

 

 そんな中二病が抜けていない二人を余所に湊と氷川は店に入ろうとする。

 

「分かりましたよぉ~」

 

 相沢は店のドアノブを握ろうとしたがそれより先にドアが開く。

 

「いっ、てぇ──」

 

 突如開いたドアが無抵抗に相沢の顔を襲う。

 

「綾人大丈夫か?」

 

 相沢はその場でしゃがみ込み顔を抑える。隣では美少女ではなく、野郎(四季)が心配する。

 

「誰だよ! 一言ぐらい謝れよ!」

 

 勢いよく立ち上がり振り返るが、夜空のせいで見えない。

 

「あははははっ」

 

「リサさん面白くないですよ」

 

 ギャグ漫画の様に綺麗にドアで顔をぶつけた相沢を見て今井はお腹を抱えて笑う。

 

「ったく、……入らないんですか?」

 

 笑っている今井と心配する四季以外の四人は店とは反対にある暗闇を見つめる。

 

「さっきの綾人の友達じゃないかしら」

 

「はっ?」

 

 相沢にピアノを弾ける友達は、今一緒にいる白金と今から入る店で働く羽沢だけだ。

 

 仮に羽沢がドアを開け、相沢にぶつけてしまったのであれば優しさ一〇〇%で出来ている羽沢は謝るだけではなく優しく手当をし包帯まで巻いてくれるだろう。

 だから謝らない時点で羽沢ではない。

 

 じゃあ一体だれが? 

 

 そもそも二人以外にピアノを弾ける友達がいたのか? 

 

「お兄ちゃん……」

 

 紫色の髪を両サイドで結んだ少女はポツリと呟いた。

 風が強くて小さい声なんか聞こえるはずがないのにその声は相沢の耳に届いた。

 呼ばれた名前は愛称ではあったがそれが誰の名前か直ぐに分かる。

 

「澪……」

 

 少年も同じように姿があるはずのない暗闇を見て呟いた。

 

 少女は言った、

 上坂はピアノが弾けたと。

 

 少女は言った、

 その上手だったピアノを辞めてしまったと。

 

 相沢はピアノの事が急にどうでもよくなった。

 上坂は弾けなくなったピアノが弾けるようになった。

 上坂とバンドを組んだ相沢はこれから嫌と言うほどピアノの音を聞かされるに違いないから。

 

 恥ずかしい思いまでして見つけた答えが知り合いだと分かり、今この場に広がるシリアスな空気がバカバカしく思えた。

 

「早く入りませんか? 俺、お腹すきました」

 

「それもそうね」

 

 湊の一言で相沢を先頭に店の中に入っていった。

 

 店の中に入ると、ベージュの制服にエプロンを見にまとった羽沢つぐみがいた。

 瞼と頰が薄く赤くなっていて、それが涙のせいであるのは分かっているが、なんだか化粧をしているように見え、いつもより可愛く見えた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 今まで見たことがない優しい笑顔だった。

 相沢は決して自分に向けられていないと分かりながらも不覚にも顔を赤くしてしまった。

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