今日は金曜日、今日を乗り越えれば明日は休みだ。にも関わらず親友の相沢と四季の顔は浮かない。
「どうしたんだよ、元気ないぞ。今日乗り切ったら明日は休みだろ?」
「そんなのわーってるよ」
相沢が気だるげに答える。
「分かってるなら元気出せよ。その方が良いことあるだろ? なぁ、春夏」
「…………」
「なんだよ二人そろって。……なぁ今日金曜日だろ? 放課後遊びに行かないか? 先週ショッピングモールに新しいカフェができたみたいでさ、そこのチョコレートケーキが美味しいてひまりが言ってたんだけど──」
「うるせえええぇええぇえええ────」
相沢の絶叫は教室中に響き、すぐ近くにいた上坂はカフェの画像を探していたスマホを落としかける。
「びっくりしたー。なんだよ急に大声出して」
「なんだよじゃねえ! お前朝からうるせえんだよ。朝だけじゃねえ、お前今週ずっとうるせえんだよ!」
叫んだ相沢は頭を抱える。
「確かに以前に比べたらそりゃあ口数は増えたけどさ、そこまでうるさくないだろ?」
「だったら春夏を見てみろよ! お前がちょくちょくひまりの名前出すから泣いてんじゃねえか! それに幸せオーラが駄々洩れなんだよ。ちったぁ遠慮して抑えろバカ」
最近の上坂は文句の付け所がないぐらい順調だった。
幼馴染達の関係は好調、勉強に関しても学年一位、交友関係も相沢や四季、戸山のバンドメンバー以外にも話す人は増えた。少し前の上坂では考えられない。
そんなこともまり今の上坂はなぜか自信にあふれ、機嫌が腹立たしいほど良い。
「女の子はみんな澪と綾人の周りに集まって俺の周りには集まらないんだ」
「俺は澪と違って集まってるだけなんだよ。もうそろそろ誰かフラグが立ってもいいだろ」
「…………はぁ」
四季はため息を吐き相沢の脛をつま先で蹴る。
「いってー、なにすんだよ」
相沢は怒るが、四季はそっぽを向く。攻略対象者の女の子からの相沢の評価は低くなく寧ろ高い。四季はそのことを自覚していない相沢に腹を立てた。
「はぁ、どうせ今聞こえる声の女の子も澪か綾人にようがあるんだろうな」
「聞いてねえし……ん? 女の子?」
「綾人って春夏と比べて別にカッコいいって訳じゃないのになんか人気あるよな」
学校ではモテてるとは言わない相沢だが何故かガールズバンドからは人気がある。
「褒めるなら普通に褒めろこの一般人代表。後なんで俺がそっち側なんだよ。いや、俺もリア充側が良いけど……」
「これで綾人も怒れないよな」
相沢が口をつぐむ。
「────」
相沢が静かになったことで廊下から確かに声が聞こえる。
「────ら」
女の子の声、それも縋るような声だ。
「どうせあの女の子も澪か綾人のどっちかなんだぜ。もう分かってんだよ」
同じことを二度も言う四季だが、そんな悲しい予想は裏切られた。
教室の扉が勢いよく開く。
不機嫌な顔で教室に入って来たのはクラスメイトの
「いい加減離さんか! もう教室ついてもうたわ! 自分教室こことちゃうやろ、早よ自分の教室戻らんか!」
渡辺一也は大人しいというよりは目立たない人間だ。それこそ関西弁と言う個性がなければ無個性な少年で、四季や相沢、戸山のような騒ぐ人種ではない。
珍しくも騒ぎ立てる渡辺に視線が集まると思いきや視線は渡辺より少し下、腰辺りに集まっていた。
ピンク色の何かが渡辺の腰から伸びていた。
いや、人だ。肩まであるピンク色の髪の少女が渡辺の腰に顔を押し付けていた。
「一也くん。私頑張るから! 頑張るから、お願い! 私を見捨てないでえええぇええ!」
「朝からやかましいわ! 変な誤解されたらどうすんねん! 後自分二年やろ。ここは一年の教室や、早よ出ていきぃ」
少女は思い出したかのようにキョトンとし、膝を払い立ち上がる。
「…………そうだよ一也くん。私、先輩なのにもっと敬いの気持ちとかないの?」
「敬い? 何ゆっとん。歌も踊りも全然な上に、こんなところまでしがみついてきた先輩をどう敬えとゆうんや? そんな仏のような後輩おるんやったら是非とも拝んでみたいわ」
涙を払いショックを受ける少女の顔はかなりの美少女だった。
「あれってパスパレの
いつの間にか四季の顔は上がりピンク色の髪の少女、丸山彩に釘付けだった。
「パスパレって名前しか知らないけどあれだろ? ちょっと前にエアーがどうやらって騒がれたとこだろ?」
正式名称pastel*palettes。女の子五人で構成されているアイドルバンド。過去に機材トラブルにより口パクとエアー演奏が露見し一時話題になった。今では過去の出来事を乗り越え、本格アイドルバンドと言われるようにまで成長したことは上坂も知っているのだが、話題性もあり不死鳥の如く復活したことよりも、イカロスの如く地に落ちた時の方が印象が強い。
「バカ、その話は禁句だ! ……聞こえてない……みたいだな」
「……ごめん」
失言をした上坂は相沢に頭をはたかれる。
「聞こえてないからいいけど、あれを見ろよ。イヴちゃん、あの子もパスパレなんだよ」
視線を渡辺と丸山の方に戻すと女の子が一人増えていた。
白い髪に二本の太い三つ編みの少女。名前は
「カズヤさん、アヤさんおはようございます」
「おはよ」
「イヴちゃんおはよ~。ねえ、イヴちゃん、イヴちゃんは私のこと尊敬してる?」
丸山から出た言葉はとても自分から言うようなことではなかった。
「ハイ、尊敬してます。アヤさん、いつもレッスン一生懸命取り組んでいて、私も見習わなくっちゃって思ってます」
「イヴちゃんありがと~。一也くん聞いた? 私だって尊敬されてるんだよ……って何してるの?」
「見てわからんか? この器が大層大きいブシドー様を拝んどるんや。ほれ先輩、自分も拝みい、勤勉さがつくで」
「カズヤさん、アヤさん、止めてください。皆さんが見てます!」
初めは『ブシドーは偉大です』と胸を張っていた若宮だったが、丸山が本気で願い事を口に出し始めた辺りから慌てだした。
何も解決していないはずだが丸山は満足した顔で一年生の教室を出て言った。
「渡辺ってあんなキャラだったんだな」
クラスメイトの大半が同じことを思っているだろう。
厄介者を追っ払ったとばかりに大きなため息をついた渡辺がジッと上坂達を見る。渡辺は素っ気無いイメージがある。昼食はいつも一人、話し相手も前の席の若宮ぐらいと環境だけなら少し前の上坂より酷いかもしれない。
他人と自ら関りを持とうとしない渡辺が初めて上坂達に近づいた。
「上坂やったっけ? 悪いな、まだクラスの奴らの名前覚えきれとらんねん」
上坂は名前を呼ばれ渡辺を見上げ、両サイドにいる相沢と四季は上坂を見る。
「なんやえらいおもろそうな話しとったな」
「面白い話し?」
心当たりがなく首を傾げると、渡辺が睨む。
「とぼけんなや、聞こえとらんとでも思うとるんか? あの二人は聞こえとらん見たいやったけど、この耳にはあんたの声がよう聞こえとるんや」
若宮に配慮してなのか、その声は静かだった。
一度は首を傾げはしたが、今は分かる。
「悪かったって。あれは俺も失言だった……反省してる。もう言わないよ」
三人の関係は分からない。ただ、渡辺が友達のために怒っていることは分かった。
「ごめんで済んだら警察はいらんねん。せやけどほんまに反省しとるんは分かったわ。今回は聞かんかったことにしといたる。……ただこれだけは言わせてもらうで、あんたからしたらただの失言なんかも知らへんけど、その何気ない一言が人を悩まし、悲しませ、傷つけるってことをあんたは知るべきや」
渡辺は上坂の席の反対、廊下側の一番後ろの席に戻り何事もなっかたかのように若宮と話した。
「…………分かってるよ」
上坂は小さく呟く。言葉の刃がどれだけ深く突き刺さるか上坂は良く知っている。
「羽目外しすぎたな」
幼馴染達との仲直り、学年一位、戸山からのライブのお呼ばれ、最近うまくいきすぎていた。
「羽目外すなんてそんな可愛いもじゃないだろ、調子に乗りすぎなんだよ」
「ハハッ……そうかもな……」
「でもよかったんじゃね? お灸を据えてもらって。これで来週から静かな一週間が過ごせるぜ」
上坂が大人しくなっても四季の思う静かな一週間は訪れないとい。と言うよりはその平穏を四季は自らぶち壊す。
五月も終盤、そろそろ学校でも一二を争うイベント文化祭の前触れだ。
二話連続オチが同じになってもうた
次回文化祭編!……入れたらええな~
最後に謝罪
元々オリキャラ色の強い作品ですが更にオリキャラを増やしてしまいすみません。後悔はしてません