六年前を覚えている   作:海のハンター

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20話 『二人きりのお泊まり会』

 リビングに戻った上坂の服装はシャツとハーフパンツに変わっていた。

 

「澪お帰り、早かったね。もうちょっとゆっくり入ってきてもよかったのに」

 

「もう、十分温まったし問題ないよ」

 

 ソファーに座りテレビを見ていた上原は首だけを回し上坂を見る。上原は既に入浴を済ませており今はピンクのパジャマ姿へと変わっていた。

 上原は上坂の日頃の入浴時間なんてもちろん知らない。だが上坂自身も無意識に待たせてはいけないと、いつもより少し短く切り上げた。

 上坂は上原の隣に腰を下ろすが、視線がチクチクと刺さる。

 

「ひまりどうしたんだ? この格好どこかおかしかったか?」

 

 上坂はファッションに疎い。だから常にSNSなどで流行を追っている上原の審査に引っかかったのかと上坂は思った。だけど上原の視線は少し上にあった。

 

「澪の髪ってほんとサラサラ、羨ましい。……もう、どうしてよけるの?」

 

 不意に伸びた腕に驚きよけると上原が不満そうな声を漏らす。

 

「いや、びっくりして……」

 

「絶対違う! だって澪すっごい髪抑えてるもん。いいじゃん髪ぐらい触らせてくれたって!」

 

「はぁ、そんなに怒らなくたって髪ぐらい触らせてやるよ。こんなぺったんこの髪の何がいいんだか」

 

 髪を押さえた手を離すと上原が上坂の髪に指を入れる。

 

「澪の髪すっごいサラサラ。どこのシャンプーとリンス使ってるの?」

 

「どこのって、ひまりもさっき使ってただろ?」

 

 上坂は赤い顔で答える。髪を触るにも上坂の短い髪を触るには自然と頭頂部になる。

 

「澪、顔赤いけどまさか逆上せた?」

 

「いや……その……頭を撫でられるのがほんと久しぶりでさ」

 

「あっ、ごめん。嫌だった?」

 

「照れるけど嫌じゃない。…………できたら手を離さないでもうちょっと撫でてくれないか? 思い出したんだよ、頭を撫でられるって嬉しいことだって」

 

 手の平の温かな体温が伝わり、守るように傷つけないように頭を撫でる。その温かさと優しさが頭いっぱいに広がるのが嬉しかった。

 

「澪ってこんなに甘えんぼだったっけ?」

 

「今日だけ、今日だけだから」

 

 顔を真っ赤にして訴えるも、上原はニヤニヤとした顔を抑えようとしない。

 

「フフン、澪も私の包容力の前では成すすべなしってことね」

 

 上原は頭を撫でながら笑みを浮かべる。

 頭を撫でられている上坂と言えど調子が乗っている上原の態度は小バカにされているようで気分がよくない。

 彼女は調子に乗ればとことん調子に乗る。それは今も昔も変わっていない。

 頭を撫でられているのには変わりはないのだが、乱暴に揺さぶられているようにも感じた。

 

「よしよし。澪って普段はかっこいいのに髪下ろしてると女の子みたいで可愛いよね。ねぇ、今度私の服着てみない? あーあ、ここが私の家だったらすぐにでも取って来るのになぁ」

 

 調子に乗った時の彼女への対処は決まって鼻が伸びきる前にへし折る。

 これは好きな女の子に嫌がらせをするというのではなく上坂なりの愛情だ。

 

「流石はひまり。この包容力には俺も抗えないよ」

 

「そうでしょ! 澪もやっと私が成長したって認めるんだ」

 

「認めるよ。……でも包容力抜群のお姉さんなひまりはもう前のように『澪、澪ー』って甘えてくれないんだな……」

 

 頭に乗っていた上原の手が重力のままに力なく落ちる。上坂の顔をじっと見ているのは変わりないが唇は細かく震えていた。

 

「澪、澪ー。私もっと澪に甘えたい。お姉さんなんかなりたくないよぉ~!」

 

 勢いよく飛び込んできた上原に『やりすぎたかな』と上坂は反省し頭を撫でる。

『なれないことはするべきではない』これが二人の教訓となった。

 

 

 

 頭を撫でられた上原は静かになった。今も上坂の胸に頭を擦り付けている。同じ整髪料を使っているはずなのに上原の髪からはほんのりと甘い香りがした。

 そんな甘い匂いと柔らかな体の感触、温かすぎる体温が上坂の理性を揺るがすが、大画面のテレビから流れるポップでキュートな音のお陰もあり耐えることが出来た。

 テレビから流れていたのはアイドルバンドPastel*palettesのライブ映像。

 

「そういえば澪ってアイドルとか興味あったんだ」

 

 顔を上げた上原は不機嫌そうではなく不思議そうに尋ねる。

 パスパレのライブは今たまたまテレビから流れている番組ではなく画質が良いBlu-rayディスク。しかもテーブルの上に置かれているケースには『初回限定版』と書かれていた。

 エンタメの類にあまり興味のない上坂がアイドルに興味を持つのが上原にとって不思議でしかなかった。

 

 上坂は気を紛らわすためにライブを見ていたが気が付けば見入り撫でていた手が止まっていた。

 

「特に興味があるわけじゃないけどパスパレは別かな? 俺も意外だったよ、ひまりも興味あったんだな」

 

「興味があったというか……確かに学校の先輩がいるってところは大きいけど、彼氏の家にアイドルのDVDが置いてあったら普通気になるでしょ?」

 

「気になるものか?」

 

「気になるものよ! 澪がどんな女の子が好みなのかとか……それでどの子が良いの?」

 

「そんな風に見てないんだけどなー」

 

 上坂がパスパレのライブを見るのも見た目のキュートさと言うよりは純粋な演奏力、一つのバンドとして彼女達を見ている。

 そんな上坂に、どの子が良い、と聞かれても困るだけだ。

 それでも上坂はいつぞやクラスメイトの腰にしがみついていた少女を指さす。

 

「そうだな~、俺はこのピンクの髪の丸山彩さんかな?」

 

「そこは違くても私っていってよ~」

 

「ええっ⁉」

 

「もういい! それで澪はどうしてこのピンクの子なの?」

 

 ご機嫌斜めな上原に悪さをしていないのにも関わらず変な後ろめたい気持ちになる。

 

「どうしてって……そのピンクの髪の子、丸山彩さんって言ってうちの高校の先輩なんだよ」

 

 他にも同じクラスの若宮イヴと噂ではあるが有名女優の白鷺千聖も同じ花咲川の生徒らしい。芸能界に詳しくない上坂からしたら有名であろうがなかろうが同じ芸能人に変わりない。

 

「そうなんだ~、学校の先輩なんだ~。ふ~ん」

 

 親し気に話してしまったせいか上原の目は冷たくなっていく。親し気に話したと言っても上坂と丸山の関係は渡辺に紹介されただけで互いに名前しか知らない。

 

「そんなひまりの考えているようなことじゃないって。その丸山さん俺のクラスに知り合いがいるんだよ。だからたまに見ることがあって、見ていくうちに思ったんだよ『あ、ひまりに似てる』って」

 

 二年の丸山が上坂達一年の教室に来ることは何回かある。その全てが半べそを掻きながら渡辺にしがみ付いているのだが、

 いくら上原が泣き虫とは言えその点に関しては上坂も似ているとは思わない。しかし考え足らずなくせに行動力があったり、いじられキャラだったりと外面の同じピンク系統の髪よりも内面の方が二人は似ていた。

 

「つまり澪は私が一番ってこと?」

 

「そんなのあたりまえだろ? 俺が何年ひまりの事を想ってきたと思うんだよ」

 

「澪……」

 

 同じ視線でも今の上原の視線は火傷がしそうな程熱い。上坂も緊張で頬を染める。

 上坂と上原は付き合い始めて一ヶ月経つが、実は余り二人きりになったことがない。

 互いに学校やバンドがあるが一番の理由は大体幼馴染六人でいることが多いからだ。初めのうちは幼馴染達は気を使ったり冷やかしから上坂と上原を二人きりにしようとしたが、結局二人きりより幼馴染全員でいた方が居心地がよく結果二人はあまり二人きりと言うものになっていない。

 

「そ、それにこのDVDは友達から借りたやつだから俺のじゃないんだ。つぐの所で話しただろ? 最近仲良くなった奴のなんだ」

 

 上坂は慣れない空間に話題を変える。

 DVDは仲良くなった証にパスパレオタクの渡辺から借りたものだ。

 

「うん、つぐの所で聞いたけどどんな人なの? 澪の友達だからいい人だと思うけど……つぐの所で聞いた澪の話しだとちょっと怖いというか」

 

「このDVD貸してくれた奴、渡辺一也って言って怖いって言うか口うるさい奴なんだよ。俺は良く分かんないんだけどみんなあいつの事『オカン』って呼んでたな」

 

「オカン?」

 

「そこはあまり気にしなくていいよ。クラスの奴らが悪ふざけで呼んでるだけだから」

 

 1-Aのクラスでは渡辺の事を『オカン』、山吹の事を『おかあさん』と裏で呼んでいる。

 

「それでまぁ、今度その渡辺と遊びに行くことになって」

 

「ええ! いいなぁ~。私も澪と遊びたい!」

 

 上坂と上原はあまり二人きりになったことがない。つまりデートも殆どしていないということだ。

 

「ひまり、それを言われると本当に申し訳が立たないよ。すぐには無理だけど文化祭が終わったら二人で遊びに行こっか」

 

「やったー! 澪、約束だからね」

 

 

 

 上原とデートの約束をし、残りのパスパレのライブを見終える。見終えた二人は途中参加にも関わらず完全に見入っていた。

 

「澪、パスパレってすごい。可愛いだけじゃなく演奏も上手でAftergrowとは違うカッコよさがあるというか」

 

「だろ⁉ひまりなら分かってくれると思ったよ。ほんとはひまりが興味を持ったところでもう一枚って言いたいけど時間がなぁ」

 

「えっ……もうこんな時間」

 

 時計は十一時になっていた。

 

「そろそろ布団の準備をするか。DVDはまだ暫く借りる予定だからまた見に来たらいいよ」

 

「うん! 絶対行く!」

 

 上坂はリビングを出てすぐ向かいの部屋に上原を案内する。

 

「澪の部屋って二階だったよね?」

 

「そうだけど?」

 

「じゃあこの部屋は?」

 

「客間だけど、どうかしたのか?」

 

「ううん、全然、何にも、問題なんてないよ」

 

 上原の完璧だと思っていたお泊りプランはここで完全に崩れた。要するに爪が甘かった。

 

 上原の計画では、上坂が布団がなく『どうしよう』と困っている時に『一緒に寝ても良いよ』って言い同じベットで寝るという算段だった。しかしこの技が通用するのはアパートやマンションの一人暮らしだけだ。上坂自身は一人暮らしだが、以前家族と住んでいるうえに上坂自体がお金持ちだ。布団がない事なんてあるはずがない。

 その上『問題ないと』言った上原だが案内された部屋が問題だった。別に女の子の人形やお札が壁に隙間なく貼られているような部屋ではなく上坂家では珍しい畳の部屋。しかしその畳の部屋が返って雰囲気を感じさせる。

 そうは言っても上原は案内された部屋を知っている。それもまだ小さな頃の上原が幼馴染のみんなと共に泊りに来た、そんな思い出深い部屋だ。

 思い出深い部屋であれば一直線に、懐かしい、と言って入ってもいいものだがその足が部屋に入ることはない。

 

「ん? どうした? ひまり入って来いよ」

 

 お泊まり会のホスト上坂は畳の部屋に布団を敷く。

 

「あ、あれだよね? れ、澪もこの部屋で寝るんだよね?」

 

 上原の言葉は真剣で、やましい気持ちの一つも感じられない。

 

「ひまり、何言ってるんだよ。付き合ってるとは言え流石に同じ部屋っていうのはまずいだろ」

 

「そうだよねー、そんなわけないよねー、あはははは~…………はぁ」

 

 一〇人以上入っても十分余りあるだだっ広い客間に上原は足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 上坂が自室に帰り一人になった上原は親切に部屋の中央に敷かれた布団の上で正座をしていた。嫌がらせに近い行為だが上坂に悪意がないことは分かっている。

 

「もう遅いし寝よ」

 

 そんな一人になった上原は独り言でも声に出さないと落ち着くことが出来なかった。

 布団を頭まで被り力いっぱい目をつむる。視界は一面真っ暗、それなのに部屋の広さが分かってしまう。少しでも家具を置いてくれればと思うが客を招く客間。時間を知らせる時計と気持ちばかりの骨董品に掛け軸しかない。

 コチコチと鳴る時計の針が不安を煽る。

 

「も、もう嫌!」

 

 上原は布団を蹴飛ばし部屋を出た。

 

 初めこそは寝ようと頑張った上原だったがもう限界だった。時間として一時間も経っていないがそれでも一〇人入って余りある部屋で耐えたことは褒められてもいいだろう。

 

「澪には怖いって言って一緒に寝てもらお。高校生にもなって怖いって恥ずかしいかな? いいもん恥ずかしい思いをして怖くなくなるならそれがいいもん。それに澪と一緒に寝れるなら……そうよ! 初めからこうしてたら良かったのよ! 初めから素直に言っておけば怖い思いをせずに済んだのに」

 

 猛烈な独り言を言い終えると目の前には上坂が眠ってあろう部屋。

 

「追い返したりしないよね。…………ううん大丈夫よ! だって澪が怖がっている子をほっとくはずがない…………かも……」

 

 いつもなら断言できる言葉も物静かな暗闇の所為で揺れてしまう。

 

 それでも上原は扉を叩く。

 

 コンッコンッ

 

「ん、ひまりどうした?」

 

 扉を開けたのはもちろん上坂。しかし先ほどまで眠っていたのか瞼を擦り付けても目が半分も開いていない。

 

「あの……流石にあの広い部屋で一人で寝るのはその……怖い……かな」

 

「…………」

 

 上坂は数秒黙り部屋に戻る。

 

「えっ、澪、嘘でしょ⁉」

 

 思いもよらぬ行動に呼び止めるが上坂は布団に潜る。

 

「澪~寝ないで起きてよ~……あれ? 澪起きてたの?」

 

 上原は罪悪感を感じながらも無理矢理起こす事を決意し、部屋に入り上坂を揺するろうとしたが上坂の目は開いていた。

 

「一人で寝るの怖いんだろ?」

 

 上坂の隣にはもう一人寝れるだけのスペースが開けられていた。 

 

「澪〜」

 

 上原から怖いという気持ちはもう欠片も残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、上坂は目を覚ましたが意識はまだ半開だった。視界は黒く、まだ若干寝ぼけている上坂にはどういう事か分からず、分かった事といえば、優しく包まれるような暖かさがあった。その温度が心地よく腕に少し力が入りそれを引き寄せた。

 

「んっ」

 

 なんだか色っぽい声が聞こえたような気がした。

 

「ちよっ、……れ……い。……澪!」

 

 しかし気のせいだろう。何故なら今家にいるのは上坂と下の客間で寝ている上原だけだ。

 ハッ、と何か気づいた上坂は完全に意識が覚醒し恐る恐る顔上げた。

 思い当たるのはたった1人。

 

「ひまり……おまえ……いつから」

 

 上坂を見下ろしている上原と目があった。

 

 

 

「ごめん」

 

 頭をベッドに押し付け謝る。ベッドの上のお陰もあり形は自然と土下座だ。

 上坂が目覚めた時、上坂は上原の背中に手を回し抱き枕の様に抱き着き、顔を胸にうずめて、いや埋まっていた。

 上坂は謝りながらも上原の胸の大きさを再確認した。

 

「いいよ別に、澪は気にしなくていいよ。それに澪があんなに激しく……」

 

 上原はほんのり顔を赤らめ上坂はその反応に体から血の気が引いていくのを感じた。

 

「な、なにがあったんだ?」

 

「澪、何か変な勘違いしてない?」

 

「へ、変な勘違いなんてしてないよ。それよりひまり、どうして俺のベッドの中にいたんだ?」

 

 何かあったような気がするというだけで上坂は昨晩のことを覚えてはいない。

 

「えっ、覚えてないの? 昨日私が一人で寝るのが怖いって言ったら、澪がベッドに誘ってくれたの。それで私がベッドに入ったら澪が急に抱きついて……」

 

 上坂は一晩の過ちを犯していなかった事に体中の力が抜けた。

 

「っていう事は、俺は一晩中……その……抱きついていたのか?」

 

「うん」

 

 上坂は折角上がった頭を再びベッドに押し付けた。

 

 

 

 コトっと上坂の身の前に食器が置かれた。

 朝の一件の後、約束通り朝ご飯を作ってくれた。今日のメニューはご飯にはぐみのところで買ったコロッケ、卵焼き、温野菜だ。

 

「沙綾には悪いけど、トーストの朝からとうとう解放された」

 

 元々ご飯派であった上坂が、自炊ができない為に二ヶ月間パンを食べ続けていたが、それがとうとう終わった。

 それにトーストと格好をつけてはいるが上坂が食べていたのは食パン。熱は通っていない。

 

「なに、感動してるの?」

 

「朝がトーストじゃないところに感動してたんだよ」

 

「なにそれ、パンもおいしいじゃん」

 

「おいしいけど流石に二ヶ月はなぁ~」

 

「モカなら一生でも文句言わないと思う」

 

「確かに、『まだまだ足りな~い』とか言いそう」

 

「それモカなら絶対言う!」

 

 上原が椅子に座った事を確認し、食事を始めた。

 コロッケははぐみがオススメしてた通り衣がサクサクで食べるとジュワッと油が広がるが油ぽく無く食べやすかった。卵焼きは上原が甘い物が好みという事も有り砂糖が入った見た目が綺麗な卵焼きだった。味も心得ており甘すぎず少しお菓子に近かったがいくらでも食べれる味だった。

 

 昨日と今日で食べた料理全てまた食べたくなるものばかりだ。

 上坂は動かしている箸を止め

 

「また作りに来てくれるか?」

 

 正直毎日でも食べたい。しかしそれは流石に迷惑がかかる。だから時々でもご飯を作ってもらって……いや二人で食事がしたかった。

 

「もちろん。毎日でもいいよ」

 

 上原は胸を大きく叩いた。

 その上原の眩しい笑顔に思わず誘惑に負けそうになった。

 

「流石に毎日は悪いよ。だけど時々頼むよ」

 

「うん。まかせて!」

 

 上坂の返事を聞いた上原は笑顔が更に眩しくなった。

 

(反則だろ)

 

 上原の可愛さにそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

「ひまり行くぞー」

 

 食事を済まし身支度を終えた上坂は玄関で上原を待っているが来ない。

 

「待ってよ〜。女の子は準備に時間がかかるんだから〜」

 

 そうは言いながらも上原は、洗面所にある鏡の前から動こうとしない。

 

 五分程してようやく上原が来た。

 

「女の子ってそんなに準備に時間がかかるもんなの」

 

「これでも急いだ方だよ」

 

 余程急いだのか、話しながらも髪を気にしていた。

 

「はい」

 

 上原はカバンの中から布に包まれた箱を上坂に手渡した。

 

「ひまり、まさか……これって……」

 

 上坂の手には宝箱(お弁当)があった。

 

「そう、お弁当」

 

「ひまりありがとう」

 

「うわっ、きゃぁー!」

 

 喜びの余り上坂は抱き着くが、上原は不意の一撃にバランスを崩し上坂も一緒に倒れる。

 

「大丈夫か‼︎」

 

 大きな音に心配の声と共にドアが開く。

 真っ赤な髪が特徴的な宇田川巴だ。

 

 宇田川は勢いよく入ってくるものの上坂、上原の姿を見て察し冷静になった。

 

「はぁ、ひまり、澪、お前ら一体なにしてんだ?」

 

 宇田川の目の前に広がっていたのは、四つん這いで上原を押し倒している上坂の姿だった。




お泊まり回なのにあまりイチャイチャできなかったなぁ~
イチャイチャ書くのホント難しい
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