一つ言い訳をするなら書いていたストックが付きました。まぁ書けってだけの話なんですけどねw
なるべく早く以前の更新スピードに戻しますのでよろしくお願いします。
空は綺麗な青が広がり、遮るもののない太陽の光が肌を焼く。
カラッとした熱ならまだ六月も始まったばかりで耐えれないこともないのだが上坂の周り、嫌、辺り一帯の湿度が異様に高かった。
「覚悟はしてたけど、やっぱり多いな……」
上坂はパスパレのライブが行われるドーム前の時計台の下にいた。
周囲には上坂と同じように人を待っている人で溢れ待ち合わせ場所として機能がしているかどうか怪しいがそれはドーム周辺にある他の待ち合わせポイントも同じ事だ。
「それにしても遅い」
上坂は既に待ち合わせ時間の三◯分以上は時計台の下で待たされている。今日一緒にライブを見る渡辺一也は良くも悪くも真面目で約束の場には遅れないとばかり思っていたがそうではなかった。お陰で上坂が待ち合わせ場所に着いた頃にいた人達は残っておらず、別の待ち合わせ人に入れ替わっていた。
既に入場ゲートの入り口は開き幸運にも最前列の席を引き当てた団扇やサイリウムを持った人達は学校がスッポリ収まるぐらいのドーム状の建物に入っていく。
ペットボトルに入ったお茶が底を尽き暑さに唸っている時だ。
青い髪の少年が時計台に向かって走る。正確には時計台ではなく時計台の下にいる上坂に向かってだ。
「すまん! すっかり待たせてもうたな」
関西特有の言葉使いをする青髪泣きぼくろの少年渡辺一也は膝に手をつき息を切らせる。頬も紅潮しているが熱ではなく笑いによるものだった。
「いや、別にいいけどさ、どうしてそんなに嬉しそうなんだよ」
「そんなに顔にでとったか?」
「ああ、すっごいでてるよ」
「それもそうか……上坂、着いてきい」
「渡辺入り口そっちじゃないぞ」
渡辺は入場口と反対に向かって歩き出す。
「上坂感謝しい、特等席でライブ拝ませたるわ」
アイドルのライブが初めての上坂でも最低限の常識ぐらいは分かる。
「ちょっと待てよ、流石にこれはダメだろ?」
入場口から遠ざかるように歩いた上坂が辿り着いたのは何十人も一気に入れるドームの入り口ではなく一人よくても二人までしか同時に入らない小さな扉の前だった。
扉には、staff only、の白いプレートが貼られており、この先にはアイドル『パステルパレット』がいる事が容易に想像できた。
「何も問題あらへん。行くで」
「ちょっ、待てよ」
ツッコミ所はいくつもあった。扉のロックを解除したこと、構えている警備員や守衛からは見逃されたこと、一ファンが出来る事を渡辺はあまりにも超えていた。
「なぁ渡辺、お前って……」
「心配そうな顔せんでも大丈夫や言うとるやろ? ほら着いたで」
「おまっ、ここって……」
上坂はぽっかり空いた口が閉まらなかった。
案内された部屋の扉には『パステルパレット様控室』と書かれていた。
渡辺は扉に手をかけ二、三度叩く。
ハーイ、と中から女の子の声が聞こえた。
「そう言えば言ってへんかったな、俺は一ファンと同時にアイツらの楽器の先生やねん」
嬉しそうに、そして誇らし気に扉を開いた。
中は事務用の白いテーブルとイスの殺風景な部屋だったが、五色のパステルカラーが並んでいた。
上坂がテレビ越しでよく見るパステルパレット五人の姿だ。
ライブ仕様のツインテールの丸山が目尻に涙を浮かべながら椅子から立ち上がる。
「一也くんどうしよ〜、私緊張してきたよ〜」
「そう言う時は『人』って文字を三回手の平に書いて飲んだらええ。それと丸山先輩は明日以降緊張せんようにみっちりしごいたる」
「あれぇ? なんだか緊張が解けたような〜。みんな! 今日は頑張ろ」
「「おぉ──ー〜」」
「ハイッ!」
「彩ちゃん、あなたって子は……」
別の意味で体が強張った丸山に頭を悩ますのは女優兼アイドルの
上坂は殆ど空気のように蚊帳の外だったのだが白鷺はそんな上坂に声をかけた。
「あなたが一也君の言ってた上坂君ね。話は聞いてるわ」
遠目では気づかなかったが白鷺の身長は思ったよりも小さく、どこぞのツンツン娘の身長と変わらなかった。
「ねぇ千聖ちゃん、澪くんって私のファンなんだよ」
丸山が知ってるのも渡辺が口を滑らした訳ではなく上坂が丸山に聞かれ答えただけだ。
「そうだ忘れてた!」
上坂は手提げ袋の中から色紙と油性ペンを取り出す。
「えっ⁉︎サイン? もぅ澪くんサインだったら今じゃなくても学校で書いてあげるのに。でもいいよ今日はとびっきり凄いの書いてあげる」
だが、色紙を受け取ろうとした手は空を切る。丸山は何も持たない手を見てパチパチと瞬きをする。
「白鷺さん、サイン下さい」
「ええ、勿論いいわよ。でも彩ちゃんじゃなくていいのかしら?」
「そうだよ、どうして私じゃないの⁉︎澪くん私のファンだよね⁉︎」
「そうですけど、これは友達にお願いされたもの何です」
今日来ていない四季へのお土産だ。サインがなければ月曜日にめんどくさいことになるだろう。
「そういう訳なので『はるかくんへ』でお願いします」
「ええ、分かったわ」
芸能界に長くいる所為か油性ペンが流れるようにサインを描く。
「ねえねえ、千聖ちゃん何してるの?」
白鷺の背中から顔を覗かせたのは
「サインを書いているのよ。日菜ちゃんあなたもアイドルなんだからいい加減彩ちゃんを見習ってサインの練習をしたらどうかしら?」
「う~ん、やっぱそうだよね。でもいまいち……いいこと思いついた。千聖ちゃんちょっと借りるね」
「日菜ちゃん待って!それは……」
日菜はサインを書き終えた白鷺から色紙とペンを取り上げ同じ色紙にサインを書く。
「うん。やっぱりルンッときた!」
「日菜ちゃん、あなた……」
「?千聖ちゃんどうしたの?」
ファンの前なのかそれとも日常的なのか白鷺は怒ったりはしなかった。
「上坂君ごめんなさい。ライブが終わったらまたここに来てくれるかしら、新しいサイン用意するから」
「そこまでしなくても大丈夫ですよ」
サインはあくまで四季のもの、そこまで必死になるものではない。
「いいえ、私はこれでもプロよ。ファンを蔑ろにすることは出来ないわ」
上坂は、忘れたら忘れたでいいや、と軽い気持ちだったが白鷺はそんな軽い案件で際真剣だった。とても『これでも』と謙遜するような人物には見えない。
「でしたらお願いします」
「それじゃあライブ後またここに来てちょうだい。後、日菜ちゃんは謝る」
「は~い、ごめんなさ~い。……謝ったことだしこのサインどうする?折角ルンッてきたけど千聖ちゃんがダメって言うし……」
「パスパレ二人のサインがもらえたのでいっその事その色紙にパスパレ全員のサイン貰ってもいいですか?」
「この色紙でいいのかしら?いうのもあれだけど結構ぐちゃぐちゃよ」
「問題ありません。むしろこういう手作り感溢れる物の方がファンはかえって嬉しいんです」
型にはまった綺麗なサインも勿論嬉しいのだが、少しハプニングがあった不格好なサインの方が同じ思い出を共有したという点で嬉しいはずだ。
「だったら……彩ちゃん、サイン書きたいのでしょ?」
「千聖ちゃん……うん!」
色紙を受け取った丸山がペンを走らせる。
「アヤさん次は私達の番です」
「あの~自分なんかのサインで本当にいいのでしょうか?」
クラスメイトの若宮イヴと緑色の衣装を着た大人しめの茶髪の少女
「良いに決まってるよ。ちょっと待ってて……あー!勢い付けすぎてサインはみだしちゃった。折角途中まで可愛いのが書けてたのにー」
「アヤさんドンマイです。次こそはきっと可愛いのが書けます」
「そのためには精進やな」
「その通りですカズヤさん。アヤさんも私と一緒に精進しましょう」
「一也くんの所為でイヴちゃんが厳しいぃー!」
笑いが起きるが訳の分かっていない若宮は首を傾げる。
どこに行ってもピンクが似合う女の子は落ち担当なんだと上坂は思った。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
サインを書き終えた大和から色紙を受け取る。
パスパレ全員の名前が入った豪華なサインは四季にあげたりせず家に飾ろうと思っていたがしっかり『はるかくんへ』と名前が入っていたため予定通り四季に渡さないといけないはめになった。
「あの~すみません、自分どこかであなたとあった気がするんですが、失礼ですが名前を教えて貰ってもいいですか?一度一也さんから名前を聞いたのですが、なんせ自分人の名前を覚えるのが苦手で」
「麻弥ちゃん、
「日菜ちゃんも違うでしょ
「上坂澪ってあの上坂澪ですか⁉」
大人しかった大和が大声を上げる。一番近くにいた上坂は勿論だが、パスパレメンバーや渡辺はそれ以上に驚いていた。
「なんや大和先輩こいつの事知っとるんですか?」
「もちろんです。上坂澪っていったらトッププロとも張り合えるドラマーだと学生ドラマーでは有名な話っす。自分も何回か上坂澪のライブ聴きに行きました。やっぱりすごかったです。自分も一応プロですが自分なんかとても」
「上坂今の話はほんまなん?」
「そんなわけないだろ、話題性だよ話題性。確かに前の地元じゃ敵なしだったけどさ、プロにはやっぱり勝てないよ」
「そんなことないっす!上坂さんなら仮に話題性だったとしてもきっとトップのドラマーとも張り合ってくれます」
大和は鼻息を荒げ目をらんらんとさせる。
パスパレを語っている時の渡辺と同じ顔だ。
「麻弥ちゃん、お話が盛り上がっているところ悪いんだけどそろそろ時間よ」
「ほんとっすね。自分憧れの上坂さんに演奏を聴いてもらうのは恥ずかしいですが、自分頑張ってきます!」
大和と白鷺は上坂の隣を通り過ぎ控室を出る。
「レイさんてピアノだけじゃなくドラムまで……やっぱり凄いんですね」
「イブちゃんも数カ月であれだけ引けたらすごいよ。俺なんて歴が長いだけだから」
「そんなことないです。でもありがとうございます。私頑張ってきます」
若宮も部屋を出、
「よ、よーしやるぞ~。一也くん澪くん行ってくるね」
「あ~あ、みんな行っちゃったしあたしもそろそろ行こうかなか。一也くん、みおくん行ってくる」
声に若干震えを残した丸山と緊張のかけらもない日菜、パスパレ全員がステージに向かっ向かった。
「ほな、行こか」
「そうだな」
きっと後ろの方しか席は残っていないだろ。だけどアイドルと話をした今の時間を考えると一番最前列で構えているファンよりいい思いをしているに違いない。
外の日は落ちた。しかし天井を締め切ったドームではその大きな変化も分からない。
それでもドームの中も外同様に明かりが落ち、パスパレ五人を照らす最小限の光と観客の持つこれまた五色のサイリウムだけだ。
明るいというよりは眩しい。お花畑のように無数に広がるサイリウムの光もそうだがライブの始まったパスパレの五人は太陽のように眩しかった。
「なあ、本当にいいのか?」
「しつこいなぁ、ええってゆっとるやろ」
上坂と渡辺がいるのはステージの袖。最前列でも最後列でもない真横。
パステルパレットはまだ結成されて間がない。つまりまだ曲が少ない。その為パスパレのライブは半分近くが先輩アイドルのカバーでプレイリストが構成されている。
今演奏している曲はパスパレのデビュー曲『しゅわりん☆どり~みん』隣ではしゃいでいる渡辺は勿論上坂も好きな曲だ。
そんな盛り上がる曲なのに一番の歌詞が終わると同時に渡辺の表情が鎮まる。
「上坂も知っとるけど、あいつらあんなことあったやん。メディア共はあいつらのこと『不死鳥のように復活した奇跡のバンド』とのたまわっとるけどそうは思わへん。あいつらは成功して当たり前なんや!それだけの努力をみんな知らんだけでやっとる」
どんなに熱狂的なファンでも渡辺には適わない。一緒にいる時間、厚みが違う。渡辺は文字通り彼女達と苦楽を共にし命すらかける覚悟がある。
「俺も全部が分かるわけじゃないけどパスパレが偶然や奇跡と言った不確定なもので戻って来たとは思わない。実力があるから今ああしてステージに立ってるんだと思う」
「なんや自分も分かるようになってきたやんけ」
「借りたDVDのお陰でな」
ライブのDVDを見るたびに少しずつ演奏が上達していることが分かる。それは録音した音声を使っていないということだ。彼女達は嘘偽りなく自分達の音楽で勝負し、その結果が満員のドームだ。
「渡辺」
「なんや?」
「良かったな」
「なんや気持ち悪い。……でもそうやな」
渡辺は小さく笑った。
ライブはアンコールに入る。曲は同じく『しゅわりん☆どり~みん』。連続の同じ曲であっても観客の熱は冷めていない。寧ろ底なしに上がっている。
「渡辺はバンドしたいとか思わないのか?」
そこそこ楽器が弾ける人が一度は考えることだ。
「なんや上坂急に」
「普通あんなに楽しそうに演奏してる姿見たらやりたいとか思わないのかな~って」
プロ相手に指導する程のレベルを持つ渡辺が思わない訳がない。
「そんなん想うたこと……はぁ、嘘や噓、考えたことぐらいある。あいつらが立ってるようなステージで自分が演奏する姿なんか嫌っちゅう程想像したわ」
嘘をついても仕方がないと思った渡辺は正直な気持ちを答える。
「だったら……」
「だったらなんや?自分とこのバンド入らんかってゆうんか?ふざけんな!俺があいつらを教えとるんはなんもボランティアとちゃう、きちんと金もろうとる仕事なんや!そんなふらふらしとってあいつらを最高のアイドルに出来るわけないやろ!」
渡辺と相沢、二人は楽器の技術指導をしている共通点がある。しかし同じ共通点でも二人は明らかに違う。仕事かボランティアかだ。
渡辺の怒号はドームに鳴り響く大音量に搔き消される。
「それがおまえなんだな?」
上坂は睨みつける。
「ああ、そうや」
渡辺は頷く。
「どれだけ頑張っても陰、渡辺お前は、お前の大好きなパスパレと同じ眩しいステージに立ちたいとは思わないんだな?」
「そうやゆうとるやろ‼自分ホントに性格悪いな、そこまでして俺にバンドやらせたいんか!俺はやらんゆうとるやろ!」
上坂は性格が悪い。そう思っているのは渡辺だけだ。
怒っているのに覇気がない、この表情を見れば上坂の性格が悪いなんて思わない。
上坂は掴まれた腕を払う。
「だったらその顔はなんだよ!諦めきれてねえじゃねえか!別に一緒にとは言わない、でもバンドがしたいならしたいって言えよ!」
「うっさいわボケ!」
肩を強く押された上坂は尻もちをつく。
「俺はあいつらを日本一のアイドルバンドにするって決めたんや。もうほっといてくれ、ありがた迷惑なんやこのお人好しが!」
必要以上の拒絶が返って助けを求めているように聞こえた。
上坂は体を払いゆっくり立ち上がる。
「お前と比べたら俺なんか全然お人好しなんかじゃないよ。初めて話した日も、料理を教えてくれた日も、そして今日だってお前はいつも人の事ばかり、いい加減自分を後回しにするのは止めないか?」
人のために怒り、人のために料理を教え、人のために気持ちを殺し尽くす。
悪いことではない、寧ろ多くの人が賞賛さえするだろう。
ただ、人のために行動することが幸せなのだろうか
「もっとわがままになってもいいだろ?やりたいことを我慢する必要なんてどこにもないんだよ」
「上坂自分、いったい何人の人に迷惑かけたんや?」
怒ることも馬鹿らしくなったのか渡辺は冷静さを取り戻していた。
「そんなの多すぎて覚えてないな。少なくともクラスの三分の一の人には迷惑をかけたよ。でもさ渡辺、みんな俺の事別に嫌ってないだろ?」
自意識過剰な気もするが間違ってはいない。今一番迷惑の掛かっている渡辺が否定しないのが何よりの証拠だ。
「だから渡辺ももうちょっとわがままを言ってもいいんじゃないか?少なくとも俺は嫌ったりはしない。あの子達も渡辺を嫌ったりしないよ」
渡辺とパスパレの五人は上坂と幼馴染達のように生半可な事じゃ絆は切れない。それは短い時間ではあったが控室でのやり取りを見ていれば思う。
「そんなん分かっとる。あいつらが嫌いにならんことぐらい俺が一番よう分かっとる。せやけど上坂、迷惑はかけるんや」
真面目で面倒見がいい、それが渡辺一也だ。だからこそ気の知れた相手であっても踏み込むことを恐れる。
「そんなことは分かってる。でもさ、迷惑が必ずしも悪いとは思わないよ。文化際の準備で俺は渡辺に迷惑をかけたし」
「ほんまあれは酷かったな」
「ごめんって。でもあの迷惑があったから俺は渡辺……ううん違うな、一也と仲良くなれた。俺達のように迷惑から始まる縁もあるんだよ。だから迷惑をかけてもいいんだ、そこから絆が深まったり新しい出会いがあったりもする。一也、迷惑かけろよ、良くしてもらうだけの友情なんて気持ち悪い。俺とあの子達も一也が迷惑かけるのを待ってるからさ」
与えられるだけの関係なんて友情でも何でもない。助けられた分助ける。お互いに迷惑を掛け合うことで対等な関係になり友情が生まれる。
「そんなんゆわれてもやっぱりバンドなんかできひん。質を落とさんまま指導とバンド二つの事をするなんて俺にはできひん」
「何言ってんだよ、俺が出来ない料理と裁縫どっちもできる器用な一也が出来ないわけないだろ?」
「それこそなにゆっとんねん!明らかにレベルがちゃうやろ!」
「そうか?俺からしたら料理と裁縫の方が難しいけど」
「それは自分が不器用なだけや」
若干上坂の心が傷ついたところでパステルカラーの少女達が戻って来た。
どうやら喧嘩と仲直りをしている間にライブは終わってしまったようだ。
「お待たせ~、二人共私達のステージどうだった?」
丸山が大手を振って感想を待つが先の喧嘩の所為で余り覚えていない。
「「よかった」」
二人は顔を見合わせ一言で答えた。
「ハイ、これが約束のサインね」
「ありがとうございます」
ライブ前にいた控室で白鷺から約束通りサインを貰った上坂は頭を下げる。四季には勿体ないお土産だ。
「サインも貰ったし、余りここにいても迷惑だから帰るよ」
渡辺に小声で伝えるが肩を掴まれ帰らしてはくれない。
「あんだけ迷惑かけとって今更ゆうんかい……まあええ」
手を話した渡辺は部屋の中央を向く。しばしばそういうことがあるのかパスパレの五人は揃って渡辺の方を向く。
「みんなに一つ言わなあかんことがある」
はっきりとした聞きやすい声だ。
「一也くん、ライブが終わって反省会をしたいのは分かるけどまず着替えてきてもいいかな?頑張ったから汗かいちゃって」
「そうだよ、折角ライブがあったんだし反省会するならドドーンとファミレスでポテトでも食べながらしようよ~」
「いいですね、やりましょう」
「なら自分予約取ってきます」
「もうみんな勝手に……はぁ、一也くんとりあえず着替えてきてもいいかしら?」
「白鷺先輩諦めんで下さい。それになんも反省会とは言ってないです」
「そう?だったら何かしら?」
「それを今から話すんです。ハイハイ静かにしい、うるさかったら話せんやろ」
渡辺の号令で綺麗に鎮まる。丸山に至っては、静かにするんだよ、と日菜や若宮に言っていた。
「ハイ、こん中で俺に迷惑をかけたことがあると思うやつは手を上げてください」
反応は違うが五人全員が手を上げる。
聞いた渡辺本人も一瞬驚いた顔をするが納得し頷く。
「よし、全員手え上げたな」
「一也くんこれからどうするの?」
一番鋭く手を上げた丸山が尋ねる。
「んや、特になんもせえへんで。ただこれから自分達に迷惑をかけられた分の迷惑をかけるだけや」
「それってどういう……えぇ!一也くん何してるの⁉」
「すまん!自分達を日本一のアイドルにしたるとか偉そうな事いいながら他にもやりたいことが見つかってしもうた」
渡辺は顔が隠れるほど深く頭を下げる。
「別にコーチを辞める訳やあらへん。せやけど質が落ちるって言われたら落とすつもりがなくても文句は言えへん。やけど俺だって自分達と同じようにバンドがしたいんや!やりたくなってしもうたんや!」
下げた頭は上がらない。だけどそれが泣いた顔を隠すためなのだと濡れた床を見て分かった。
「一也君、ようやくわがままを言ってくれたわね」
肩を叩いたのは白鷺だった。
「白鷺先輩……」
「私達はあなたのその言葉をずっと待ってたのよ」
「そうだよ、待ってたんだよ。一也くんは何色にする?青は日菜ちゃんと被るし……」
「彩さん、何も一也さんはパスパレに入ったりしないんですよ」
「でも、一也くんがパスパレに入ったら入ったらで面白そうだよね~」
「日菜ちゃんも悪乗りしない。……上坂君、一也君の事よろしく頼むわね」
「任せてください」
視線が集まる。何も白鷺一人の意思ではなくパスパレ全員が同じ思いだった。
「これからはカズヤさんは師であり共に高め合うライバルですね」
一人の少年を中心にパステルカラーの花が開く。
花びらの色は違うがそれでも綺麗に花は咲いていた。
「どこに怖がる必要があったんだよ、一也お前はすごく愛されてるじゃないか」
恥ずかしそうに笑う少年を見て上坂は呟いた。
次回、文化祭本番!!……入れたらいいな