進行を進める放送部や生徒会、教師も戸惑いステージを止められてもおかしくはない。
四人は互いに見て頷きう。
ギュイ──ン
渡辺がギターを鳴らす。
ざわついていた観客の視線が一斉にステージに向いた。
渡辺がリードギターとして入ったことで、相沢がギターボーカルに落ち着き負担がかなり減った。
体育館内は開幕の一撃で静かにはなったが、まだ完全な静寂とは言えない。
そんな不完全な静寂の中上坂は静かにシンバルを鳴らしリズムを取る。
始めるなら今しかない。
完全な静寂なんか求めていない。視線さえ集まれば十分。
今日は文化祭、発表会やコンクールとは違うお祭りだ。
曲は『全力少年』。
少年だろうが少女だろうが関係ない、全力で文化祭を楽しもう。
演奏は終わり上坂はマイクを握る。
今ではバンドのMC担当となっている。
「どうだ俺達の演奏凄かっただろ?」
体育館からは歓声が上がる。
盛り上がり具合から誰一人として不安や疑問を抱えた人はいない。
「それじゃあ、この辺りで自己紹介。まず、ギターボーカルの綾人」
相沢がギターを鳴らす。
続いて四季、渡辺も紹介する。
「そして最後はドラムの澪!」
両手がスティックで塞がった上坂の代わりに相沢がコールをする。
上坂は、メンバーの名前、音を聴いて全員で一つの作品を完成させたという実感が湧いた。
それは映画のエンドロールで流れる製作者の名前と同じようなものだ。
名前、ポジションが第三者に伝わることによって関わったという証明になる。
四人で作った作品。一人でも欠ければ贋作どころか作品として成り立たない。
芸術品、美術品で真っ先に思い浮かぶのは絵画だと思う。
しかし絵画の良さなんて画商でもなければ簡単には分からない。
かの有名なピカソの泣く女にしたって絵の心得がない人が見れば落書きと評するかもしれない。
それに比べまだ宝石の方が分かりやすい。
宝飾用のダイアモンドには品質を評価する四つの基準がある。
色、透明度、重さ、研磨だ。
仮に世界一大きなダイアモンドが出来上がったとしても色がくすんでいたり、透明度が弱ければそれは最高のダイアモンドとは言えない。
彼らはまだ見つかったばかりの原石。
だがダイアモンドのような誰もが目に止めてしまう絶対的な輝きを手に入れるためこの名前を付けた。
ドラムを叩き終えた上坂は再びマイクを握る。
「俺達のバンド名は『
最後に宝石には花と同じように石言葉と言うものがある。
ダイアモンドの石言葉の一つにこういうものがある。
『永遠の絆』
盛り上がりは絶頂。
しかしこれで終わりではない。
上坂は視線をステージの端に落とす。
教師と生徒会はイレギュラーな事態とイレギュラーな盛り上がりに場を収めるのを諦めているように見えた。
「一曲目は俺達4Cに興味を持ってもらうためにみんなの知ってる曲を選んだんだ。みんなをみたら作戦が成功したんだって分かるよ。だけど次が本番だ。次の曲は俺達の俺達による俺達のための曲。そんな独りよがりな曲だけど聞いてほしい。いきます、俺達の初めての曲『コード
ドラムの激しい音から始まった。
『コード10』この曲はドラムから始まりはしたがギターメインの曲で曲調も激しい王道のロック。
しかしそれでも上坂のドラムが霞むことはない。主張こそしないが存在感がないわけではない。
詩は上坂、曲は渡辺が作った。
渡辺はpastel*Palletsの楽器の技術指導をしており全ての楽譜が読める。
その上pastel*Palletsの曲は完成したら一度渡辺のチェックが入る。それは渡辺自身が彼女達のレベルにあった曲に修正するためだ。
つまり4Cの曲はプロが手掛けていると言っても過言ではない。
曲に関しては申し分ない。しかし詩の方は素人の上坂が書いたものだ。
詩の作り方を幼馴染の美竹に教わり後は独学。
作り方は美竹と同じで気持ちを歌に、それともう一つ自分の軌跡、経験も上坂は歌にした。
『コード
しかし詩の内容はギャグやコミカルな要素はなく、 伝えたいのは絆。
人の繋がりは硬い。喧嘩をしても絆の糸は切れたりはしない。たゆんでいるだけ。
熱した鉄を叩くように糸を叩きダイヤのような硬い糸を作ればいい。
そして苦楽を共にしダイヤの糸で作られた絆は自分を成長させてくれる。
そういう詩だ。
勿論これは上坂と幼馴染達の事である。しかしそれだけではない。
上坂は幼馴染だけではなくたくさんの人とぶつかった。少なくとも、相沢、四季、渡辺とはぶつかった。
熱い鉄を叩いて叩いてできたダイヤの糸が4Cだ。
上坂がこの詩を作った時にもう一つ伝えたいことが一つあった。
ダイヤで出来た糸を希少だと思うかもしれない。
それこそ砂漠の中から砂金を探すようなものだと思うかもしれない。
だけど探す必要なんてない。
すぐ近くにある。
『話したい』、『仲良くなりたい』そう思った人にダイヤの糸がある。
運命なんて不確定なものに頼らず、自分の力で切り開く。
そうすれば明るい未来が待っている。
最後にギターの音が鳴り響きこだまする。
会場内は静まる。
激しいのロックにあるまじき反応に上坂は不安を覚えたりはしなかった。
結果は分かっている。
大成功だ。
瞬間、聞いたことのないほどの歓声が上がった。
その大きすぎる歓声に四季は喜びの余り叫び、相沢は渡辺と肩を組み喜び、その渡辺も背中越しでも照れているのが分かるぐらい喜んでいた。
そして上坂も説明が出来ない高揚感があった。
「俺達バンド結成して今日が初めてのライブなんだ。だからライブが終わった今でもすごく心臓がばくばくで、すげーやりきったって感じだよ」
マイクで話しているのに心臓の音が聞こえてくる。
あまりの大きな音に心臓の音をマイクが拾うのではないかと思った。
これだけ音が大きいと絶対体に悪いと思う。
だけどそんなしょうもない理由でライブをしないなんていう選択肢はない。
「俺達はこれで終わりだけどみんなはまだまだ楽しんでほしい。次もバンドなんだけど、俺は凄く期待してる」
ステージの袖を見ればpoppin'partyの姿がある。
「こんな事言ったら凄く痛い奴だけどさ、俺達は今日の文化祭自分の事主役だと思ってた。なっ痛いだろ?」
三人から、お前と一緒にするな、とツッコミが入る。
「だけど違った。控え室でさ、……次の奴らまぁ友達なんだけど、そいつらと話してたんだ。そしたらさ直感なんだけどなんか分かったんだ。今日の主役は俺達じゃない、あいつらだってな。直感だけで何の根拠もないけど期待していいと思う。そういう訳でそろそろ時間だし話しはこれぐらいにして、脇役はさっさと後段して本日の主役にバトンタッチするよ。みんな今日はありがとう」
静かにマイクを下ろしステージから降りた。
控え室に入ると戸山達がいた。
「澪くん凄かったね。私達も期待に答えなきゃ」
「楽しみにしてるよ。お前達なら……沙綾、間に合わなかったんだな」
戸山が頷く。
poppin'partyは戸山、市ヶ谷、牛込、花園の四人しかいなかった。
あと一人の姿がなかった。
「……ごめんね。折角澪くん達が頑張ってくれたのに」
顔色に覇気がない。
とても今から演奏するような顔つきではなかった。
「気にするな。沙綾は今日来れなかっただけだろ? だったら次は五人で演奏出来るよ。それより香澄、沙綾の事ばかり気にしてるけどよそ見してる余裕あるのか?」
「うっ……!」
戸山はギターを始めてまだ三カ月も経っておらず余裕があるはずがない。
予想通りの戸山の反応に思わず笑いさえ出てしまう。
「ほらないだろ? だったら今は目の前に集中。そんな顔で演奏しても人を感動させることなんてできないよ。ステージってのは全力で楽しむところだろ? だから香澄は笑って、いつもの明るい顔をステージの上で見せてくれよ」
無茶を言っているのは分かっているつもりだ。
だけど落ち込んでいても良いことが無いことを知っている。
「分かった。私達の演奏を澪くん達や会場のみんなそしてここには居ない沙綾にも届くような演奏をしてくる」
「その域だ。行ってこい」
戸山達は勢いよく階段を駆け上がりステージに上がった。
4Cのライブは終わった。
扉を開けて体育館に戻ると観客の一人に戻る。
「あなた達自分が何をしたのか分かってるのですか?」
扉を開けると長いライトブルーの髪の少女が待ち伏せをしていたかのように立っていた。
「紗夜さん違うんです。これには深い理由が……」
「理由がどうであろうとあなた達が先生方やこれまで頑張ってきた人達に迷惑を掛けた事には変わりはありません」
一番付き合いの長い相沢がなんとか説得しようとするが、間違えた事をしている分、正しさの前では太刀打ち出来ない。
「相沢さん、そしてあなた達も今から生徒指導室まで来てもらいます」
氷川は相沢の腕を掴む。
相沢自信も諦めたのか抵抗はしなかった。
「ほらあなた達も早くついて来なさい」
ついていくことは正しい。
悪いことをしたという自覚もある。
「すみません。待ってください」
だけどついて行ってしまったら友達の初ライブを聴くことができない。
それだけはどうしても嫌だった。
「なんですか? 要件は早めにお願いします」
「今ステージで演奏してるの友達なんです。友達の初ライブなんです。お願いです、これだけ見させて下さい。この演奏が終われば必ず生徒指導室に行きます。だからお願いします」
「紗夜さんお願いします。俺もあいつらの演奏聴いてやりたいんです」
上坂の言葉に焚きつけられた相沢の目に力が入った。
氷川は目を瞑りため息をこぼす。
「はぁ、そこまで必死にならなくても大丈夫です。ただし生徒指導室には必ず来るようにして下さい」
「ありがとうございます」
「紗夜さんありがとうございます」
「ほら、あなた達ライブ見るのでしょ?そこにいたら通行の邪魔になりますので、端によってください」
二人の熱意に折れた氷川は上坂達と同じように壁に背を預ける。
「あれ? 紗夜さん。紗夜さんは俺達のこと気にしないでもっと見えやすいところで見てもいいんですよ」
「そうですね、あなた達が何も問題を起こさなければ、きちんと聴けたのですが」
「すみませんでした」
相沢は綺麗に頭を下げた。
poppin'paartyの一曲目が終わった。
クライブの時と比べれば違いがはっきりと分かるほど成長していた。
しかし同時に物足りなさも感じる。
「ありがとうございました! 次は今日の為に作った曲です! みんなで作った曲……今日は一人いないけどいつか一緒に歌おうって約束しました。いつかはまだだけど……しんじてる。一緒に歌うことができるって。そんな気持ちを込めて歌います聞いてください……」
戸山は吹っ切れていた。
ステージを五人ではなく四人で乗り越えようと、
しかしそんな覚悟を裏切るように『いつか』は迫る。
『いつか』はまだなんかではなかった。
『いつか』はすぐそこまで来ていた。
バンッ、と勢いよく開く体育館の鉄の扉の音に上坂は笑みが零れる。
「みんな!」
ヒーローは遅れてくるものだ、とはよく言ったもんだ。
「さーや!」
ステージに立つ五人が同じように叫ぶ。
栗色の髪をしたポニーテールの少女、
山吹沙綾だ。
山吹はステージまで一直線に走る。
「沙綾!」
上坂は自分の前を横切る山吹に声をかけた。
「澪、どうしたの?」
「……ごめんなんでもない。止めて悪かった。頑張れよ」
上坂は手ぶらでステージに向かう山吹にスティックを渡そうとした。
しかし山吹の手には既にスティックが握られていた。
病院にいた山吹がスティックを持っているはずがない。
きっと体育館に来るまでに何か素敵なドラマがあったのだろう。
とは言ってもこれは上坂の推測でしかないのだが、
「うん。ありがと」
山吹がステージに上がりようやくPoppin’Party は一つになった。
「香澄達ここまで来るのに長かったな」
「そうだな」
上坂と四季は感傷に浸っていた。
上坂と四季は他のバンドのコーチをしている相沢や渡辺と違い、戸山達がここまで来るのにどれだけ大変な道のりだったのかよく知っている。
「俺嬉しさで涙が」
「泣くには早いぞ。ほら、しっかり目を開けてあいつらの演奏見るんだろ」
二人の気持ちは最早子供を持つ父親のようだった。
ステージを見ると戸山がマイクを持っていた。
その顔は生き生きと言うよりはうずうず。
「みんなが揃った事だし聞いて下さい、STER BEAT! 〜ホシノコドウ〜」
戸山、花園、牛込、市ヶ谷、山吹、全員が揃った初めての演奏だ。
全員が伸び伸びと音を奏でる。
少し演奏が早いところがあったがそれはみんなで演奏する事が楽しい、待ちきれないという気持ちが出ていたのかもしれない。
えっ! 演奏はどうだったかって?
そんな事決まってる。
最高だった。
今回の挑戦、ハイッ、オリ曲です。そうは言っても曲なんて作者は書けませんからこんな感じの曲ですってのを書いただけなんですけどね( ´∀`
話は変わりますが今回で2章は完結します。長い間付き合っていただいた皆様には感謝しかありません。
物語は続き3章に入りますが引き続きよろしくお願いします。