今回はプロローグ的な感じで短めになっています。
26話 『始まりは突然に』
楽しい文化祭を終え、辛い期末試験も終え、後は夏休みが来るまでの半日授業をただのんびり過ごすだけだった。
少々刺激は足りないが充実しすぎた三カ月を過ごした彼には丁度良い休息だ。
と、夏休みまでスケジュール帳を空白にしていた少年
「もう一度だけ言うわ」
銀色の長い髪をした少女が上坂達4Cを静かに見る。
「そのイベントが私達が参加するに値するか見せてもらうわ」
どうしてこうなったんだろう?
楽しかった文化祭も終わり季節は本格的な夏を迎えた。
空は晴れ模様。連日の雨のせいで顔を見せることが出来なかった太陽は取り返さんとばかりに地を焼く。
おかげ昼だというのに外から人の声らしきものが聞こえない。
早めの昼食(上原の作り置き)を食べた上坂はソファーに座り込み食後のコーヒーを口に含む。
刺激的な苦みと冷蔵庫でしっかり冷やされた冷たさが満腹が理由で襲う睡魔を払い去る。
今日は家から出ない。それは上坂が決めたことだ。
そもそも今までが可笑しかった。確かにここ最近の多忙な日々は上坂にとって理想の学校生活と言ってもいいだろう。
上坂は拗ねていた時期もあり一人でいることが多く、楽しかった半面疲労も出る。
その積み重なった疲労が反動になり、そのような考えに至ってしまった。
今の勢いだと誰からの誘いがなければ華の高校一年の夏を自宅だけで過ごしかねない。
そんな引きこもりに一歩足を踏み入れようとした上坂だったが、幸な事にテーブルの上に置いていたスマホが鳴る。
相手は親友でありバンドメンバーの相沢からだった。
かまっての四季とは違い相沢から電話があるのは珍しい。
そもそも初めてかもしれない。
「綾人どうした? お前が電話かけてくるなんて珍しいな」
『俺だって電話かけるんだったら野郎なんかより女子にかけてえよ』
「そうか、だったら電話切るぞ」
『待て待て悪かった、だから切るな』
「それでなんなんだ?」
『あー、……説明しづらいって言うより面倒だから取り合えず今からCiRCLEに来い』
「CiRCLEって綾人のバイト先のライブハウスだろ? いいのか? 綾人今まで散々来るなって言ってたけど」
『今回だけは特例で許してやるから早く来い! ……ちょっ、湊さん急かさないで下さい。大丈夫ですあいつチョロインで絶対……と、言うことだから澪、全速力で来いよ』
電話の後ろで何やら失礼なことを言われた気がするが上坂は気にせず空になったグラスを水に漬け家を出た。
場所を調べ炎天下の中を歩き回った上坂はようやくCiRCLEの看板を見つけた。
ライブハウスCiRCLE。建物自体は他のライブハウスに比べて大きいが、汚れが目立たない綺麗な外観はまだ出来て新しい。
中はシンプルで楽器が飾られたカウンターにミニテーブルとイスだけだった。
居るのはカウンター席で頬杖をつきながら音楽雑誌をめくっている二〇歳ぐらいの女性だけで呼びつけた相沢の姿はなかった。
呼びつけておきながらいないという事実に帰ろうと考えた上坂だったが、今は少しでも冷房の効いた部屋で減った体力を回復させようと思った。
「君、ここの利用は初めてかな?」
カウンター席に座っていた黒髪ショートヘアの二〇歳ぐらいの女性が読んでいた雑誌を閉じ立ち上がった。
「あ、ハイ」
「私は
「俺は上坂澪って言います。今日はスタジオを借りに来た訳ではなく友達に呼び出されてきました」
「ふ~ん、君が澪君ね~、綾人君なら外のラウンジで美少女に囲まれてるよ」
「そうですか、ありがとうございます」
楽しそうに報告する月島に上坂は頭を下げる。
もう一度炎天下の下で肌を焼かないといけないのか、と憂鬱な気持ちになるが、そんな顔を見た月島は面白くないといった顔をする。
「君って冷めてるんだね」
「何がですか?」
「普通友達がハーレム状態って聞いたら怒らない? さっき来たお友達なんか話したら目の色変えて飛び出して行ったよ」
相沢以外にその手の話で激昂するのは残念イケメンの四季しかいない。
「怒ったりしませんよ。飛び出したそいつが異常なだけです」
小さな頃から女の子に囲まれて過ごした上坂にとってあまり羨むものではなかった。
「そっか~、私って異常だったんだ……」
「それじゃ、俺はラウンジに行きます。教えて頂きありがとうございます」
地雷を踏みつけた上坂は、逃げるようにラウンジに向かった。
「澪、やっと来たか」
ラウンジに上がれば赤いマッシュヘアーの少年
気のせいかいつもより自身に溢れている。
上坂はそんな相沢を無視し、金髪の少年を見つけては近づく。
「? 澪どうした?」
「いや、まりなさんって人から春夏がすっごい顔で出て行ったって聞いたから……」
大変なことになっていると思っていたがラウンジは平和そのものだった。
「俺も最初は綾人の奴をつるし上げてやろうと思ったけど相手がな~」
相沢を囲う少女はみな美少女ばかりいつもの四季なら発狂してもおかしくはないのだが、囲う少女の中に一人上坂が良く知る少女がいた。
「お兄ちゃん、やっと来たー!」
お兄ちゃんと呼ぶ少女は血の繋がりがなければ義理の妹でもない。
相沢を囲む少女達、それはあこが所属するバンドRoseliaだ。
RoseliaとはGlitter*Greenに次ぐ上坂達が住む街では有名なガールズバンドで、相沢はそんな凄腕な彼女達の技術指導をしている。
四季としても一度過ぎた事まで腹を立てたりはしない。
「綾人、揃ったのでしょ? だったら早くしてもらえる? 私達は暇じゃないの」
「大丈夫です湊さん。すぐに終わらせますから」
相沢が長い銀髪の少女をなだめる様に説得する。
少女は
「んじゃ、春夏も澪も来たし全員揃ったな」
「全員って一也はいいのかよ?」
渡辺一也、上坂と同じ4Cのメンバーで世話焼きなことからクラスのオカン的存在の少年だ。
「一也も今頃女の子に囲まれてんだよ」
「つまり仕事中な訳か」
渡辺も相沢と同じようにバンドの技術指導をしている。
相手は本格的アイドルバンドPastel*Palettes。
「だから俺達三人とRoselia、そして香澄とおたえ、これが全員だ」
猫耳少女の
「香澄達も綾人に呼び出されたのか?」
「ううん、違うよ。私達がRoseliaにイベントに出てもらうようにお願いに行こうとしたらまりなさんが綾人くんを貸してくれたの」
「イベント?」
「その辺の話は今からするから。つーか『貸す』ってとこにツッコめよ!」
「綾人、遊んでないで早くして」
「湊さん、それはあまりにも酷くありません?」
相沢は小さく言葉を漏らした。
「Roseliaの皆さんも待ってることだし、ちゃっちゃと澪、春夏、お前等二人を呼んだ理由を説明すんぞ」
そして相沢は面倒臭そうにまるでついでの事かのように言った。
「来週CiRCLEのライブに出るぞ」