「来週、CiRCLEのライブに出るぞ」
相沢は上坂と四季にそう宣言した。
「ライブは別に出るのは別にいいんだけどさ、その前に訳を教えろよ」
要件だけを告げられても分からない。
相沢は面倒くさい事が嫌いで、ライブをに出よう、なんて事は絶対に言わない。それこそ女の子にお願いされなければ自分から動こうとしない。
「なんだよ」
「いや、綾人がライブに出ようなんてありえない事を言うのはそう言う意味だったんだな〜って」
「うるせえ、違えよ! 嫌、違わねえけどさー!」
ジト目で相沢の周りにいるRoseliaを見る上坂を抗議する相沢だが、理由は違えど結果は女の子にお願いされたからと言う事で間違いがない為強く言い返す事が出来なかった。
「それでライブの参加の理由だけど」
「そこにいるRoseliaにお願いされたからだろ?」
「だから違っ! くないけど……あぁもう、うるせー! お前ちょっと黙れよ!」
満足し黙った上坂に苛立ちを遺しながら相沢は話す。
「今度CiRCLEで大規模なライブイベントをするんだけど、その参加条件ってのがガールズバンドって訳」
「だったらどうして俺等を呼んだんだよ、関係ないだろ?」
「それが関係あんだよ。今、そのライブに参加してくれるバンドを探してんだけど……」
答えにキレがない辺りあまり上手くいってないのは明白だ。
「因みに私達は出るよ。それでまりなさん……ここのスタッフさんに頼まれて綾人くんと一緒にRoseliaに参加してもらえるようお願いに来たんだ」
「だからそれでどうして俺と春夏は呼ばれたんだ?」
戸山の話を聞いてもポピパがイベントに参加する事ぐらいしか分からない。そもそもRoseliaの件については落ち着いた状況を見て解決したようにしか見えない。参加バンドは二つ、確かにイベントライブをするには数は少ないが心配する程でもないと上坂は思う。
「だからRoseliaの参加条件がお前等なんだよ!」
相沢は痺れを切らしたように叫ぶ。
説明としては間違いではないのだが何せ言葉が足りない。
その所為もあって、
「Roseliaの参加条件が俺等とのデートって事か? だったら話は早いぜ。なんだよ綾人、そう言うのは早く言ってくれよ」
「バカ春夏! ライブだって言ってんだろ! 俺だってまだなのに、何でお前がデートできんだよ」
「類は友を呼ぶとは正にこの事ですね」
静かな声に相沢は背中が凍るような錯覚をする。それは四季も同様で、四季の場合は声だけではなく冷え切った目も見ている為顔色は相沢より悪い。
視線の主は氷川だ。
「相沢さん、これ以上あなたに任せても話が進まないので私が説明します」
氷川は軽蔑の視線を向けた後にまだ三人の中ではまともな上坂を見る。
「私達は私達に相応しいステージにしか立ちません。申し訳ありませんが参加バンドを探しているようなステージは私達に相応しくはありません」
「はぁ」
話の見えない上坂は適当に合槌を打つ。
「だけど相沢さんの提案は魅力的です」
「提案?」
「ええ、相沢さんはRoseliaの成長の為にライブイベントに参加するバンドの指導を『自分達がする』と言ってくれました」
相沢を見れば苦笑を浮かべてはいたが顔にはしっかりと『頼んだ』と書かれてあった。
暇を持て余していた上坂だ、指導の話し自体に文句はないがやはり呼びつける時に最低限の説明は欲しい。
それは隣で未だに氷川の視線に怯える四季も同じだろう。
「あなた方の実力は文化祭の時に見ていたので分かっています。ですが……」
「たった一度の演奏であなた達を認めた訳じゃない」
突然入ってきた湊の言葉に氷川は、ええ、と頷く。
湊は立ち上がり上坂、相沢、四季と視線を順番に動かしそして最後にもう一度上坂に戻す。
「だからそのイベントが私達が参加するに値するか見せてもらうわ」
湊は一言、先に行ってるわ、と相沢に言い姿を消した。
「それで、RoseliaがCiRCLEであるガールズバンド限定のイベントに参加してもらうために指導者である俺達が力を見せないといけないって事だよな?」
「だからそう言ってんだろ? よろしく頼むぞ」
「はぁ……」
時間が無かったにしても相談はして欲しい、と上坂はため息を吐く。
「これってRoseliaは参加オーケーでいいって事かな?」
結局はっきりしないままに終わった議題に戸山は首を傾げる。
「オーケー、オーケー。問題なし!」
「綾人、無責任な事言うなよ。Roseliaはまだ決まった訳じゃないだろ? 来週俺達の演奏によっては出ないって可能性も……」
「んな事気にすんなよ。俺達なら大丈夫だって」
励ますと言うよりは、ただただ楽観的に笑う。
そう、気にする必要はない。
楽しんで演奏すれば何の問題もない。
この辺りでは有名なRoseliaだが4Cも負けてはいない。
優っている自信さえある。
「上坂、にやにやしてどうしたの?」
花園が若干高い身長から見下ろす。
「別に何ともないよ。ただ来週が楽しみだなって」
「そうだな澪、俺達の力でRoseliaに一泡ふかしてやろうぜ」
「さっきまでビビっていた奴がやく言うよ」
「ビビってなんかねえし」
恐れていた氷川がいなくなった瞬間に調子づく四季から小物臭がした。
「でも上坂達凄いよ、あのRoseliaにライバル視されてるんだから」
「そっか、俺達ライバル視されてるのか……」
実際はライバルになりうるバンドかを見定められているだけだ。
ただ、Roseliaの目に止まった事だけは確実と言っていい。
「うん、自信持っていいと思う」
「別に気遅れなんかしてないよ。おたえも見ただろ? 自信に満ち溢れた顔を」
「うん、気持ち悪かった」
「そこはもうちょっとオブラートに包んでくよ。ま、Roseliaの事は俺達に任せていいから、おたえも安心して他の参加バンドを探したらいいよ」
「うん、そうする。取り敢えず戻ろ。Roseliaの事、ライブの事、言わなきゃいけない事沢山あるから」
「それもそうだな。俺もまりなさんには相談したい事あるし」
上坂は三人を呼び、CiRCLEの館内へと戻った。
「それでRoseliaはどうだった?」
受付の席に座る月島が相沢に尋ねる。
「悪い返事ではなかったですよ」
「流石綾人君。君に任せて正解だったよ」
「まだ出る事が確定したわけではありません。取り敢えず話し聞いてもらえますか?」
相沢は月島に起こった出来事について丁寧に話す。
上坂も、これくらい丁寧に説明してくれればよかったのに、と思うほど丁寧に話した。
月島は話を聞いて何度も頷き、情報を整理する。
「つまりRoseliaの参加条件が綾人君達の技術指導で、君達の力を見るために綾人君は来週のライブに出る。って事で合ってる?」
「それで合ってます。だけど勝手に色々決めちゃったんですけど、よかったですか?」
「問題ないよ。むしろ好都合! いや〜、初めは指導者はこちらで探そうと思ったんだけど、まさか参加バンドより先に見つけちゃうとはね。綾人君の仕事の早さには脱帽だよ〜」
仕事が一つ減った月島は親指を立てる。
そして話を切り替えるように月島は両手を胸の前で一回叩く。
「それじゃぁ、Roseliaの参加は来週の君達次第って事で頼むよ。CiRCLEの未来の為だ、私に出来る事があったら言って、何でもするから。……ただ、やらしいお願いはお姉さん受け付けないらね」
「誰も頼まないんで体を抱くの辞めてもらえませんか?」
「そんなこと言って綾人君、私の体に興味深々な癖に~」
「すみません、一つご相談があるんですが……」
手を上げる上坂に相沢はギョッとした視線を向ける。
「澪、お前マジか⁉︎冗談だよな?」
「はぁ、綾人お前何言ってるんだ? それでまりなさん、来週のライブに準備して欲しい物があるんですが……」
「え、あー……そうだよね。それで何を準備して欲しいのかな?」
上坂の言葉に相沢と月島は力が抜ける様な息を溢した。
上坂は月島だけに聞こえる声で話した。
「確かに面白そうだけど、これってそんなにこそこそする話かなぁ?」
内緒話に期待していた月島は物足りないといった顔をする。
「澪、バンドメンバーの俺等にも内緒か?」
相沢が尋ねる。
「内緒って言う訳じゃないけど、香澄達もいるしな。まぁ言うなら来週のライブは新曲をお披露目しようかなって思ってる」
「そういうことな。澪の言いたい事は分かったけど、ちょっと自意識過剰じゃないか?」
「べ、別にいいだろ⁉︎それじゃぁまりなさん、よろしくお願いします」
「オッケー、任せといて!」
上坂の一週間は新曲の練習と決まった。
空白のスケジュールに予定が埋まった事に寂しさは感じない。
はっきりとする事が決まり、ゴールに向かって走る事は胸が高鳴る。
だから相沢からの急な呼び出しにも答えた。
上坂は何もない暇な時間が嫌いになったらしい。
「それじゃぁ、早速練習するかー。まりなさん、スタジオって空いてますか?」
慌てているのも時間が無いからと言うわけではない。文化祭の時もそうだったのだが4Cのメンバーは個人スキルが異常に高く、個人のパートさえ出来ていれば音合わせは一回だけで殆ど済む。
「もちろん空いてるよ」
「ありがとうございます。綾人、春夏、一也はいないけど今から練習するぞ」
こうして急かすのもワクワクといった興奮からだ。
「俺は行けねえぞ」
相沢がバッサリ切り捨てる。
「どうして⁉︎」
「いや、だって、俺はこれからRoseliaの指導があるし」
「……ごめん、忘れてた」
やる気になっていた分恥ずかしく、上坂は身を縮める思いだった。
「そっかー、綾人君いなくなるんだー。バンド探しどうしようか?」
「私頑張ります!」
月島の表情から不安な色は消えない。
戸山がやる気を見せるが、先のRoseliaの話も事後報告から殆ど相沢が決めた様なものと月島は思っている。それに戸山に参加バンドの当てがあるとは思えない。
しかし初めに頼んだ以上、戸山達に任せないといけないのも事実。
だがそんな不安を抱えているのは月島一人だけだ。誰も心配はしていない。
戸山のコミュニケーション能力は月島が頼りにしている相沢の何十倍も高く、他クラスからも名前を覚えられたり、不登校気味の生徒を毎日学校に通わす様にしたと言う実績がある。
ただ月島が戸山の事を知るには時間が短すぎただけだ。
「ちょっと様子を見に来たら……澪と春夏もスタジオ借りに来たの?」
スタジオのあるエリアからロビーに向かって来たのは山吹沙綾。
「沙綾も知ってると思うけど、俺達もライブイベント関係で綾人から呼び出されたんだよ」
「でも澪、あのイベントってガールズバンド限定だよね?」
「だから俺達は指導者って形での参加するんだよ」
「そうなんだ。……そうだ香澄、Roseliaはどうなったの?」
「絶対大丈夫だよ!」
戸山は自分に言い聞かせる様に言う。
「香澄どう言う事?」
「来週あるライブに澪くん達が出るんだけど、その結果によってRoseliaの人達判断するって」
山吹は少し黙ってから口を開いた。
「そっか、それで香澄は不安がってるんだ。出てくれないかも知らないって。確かに不安だよね、来るか来ないか分からないのって」
山吹が文化祭の時ステージに上がったのはポピパが演奏している途中だった。だから山吹は待っているだけの彼女達の不安を知らない。
「香澄はさ、文化祭の時、私が絶対来るって信じてくれたよね。だったら4Cの事も信じてあげなきゃ。私は知らないけど一番近くで演奏を聴いていた香澄は信じてあげないとね」
だけど五人揃った時の喜んだ顔は知っている。
山吹自身も嬉しかった事は覚えている。
来たらいいな、とかそんなあやふやなものではない。来る、と信じてくれたからこそ本気で喜ぶ事が出来た。
本気で喜ぶ為に友達の事を信じて欲しい。
「そうだね、さーやの言う通りだよ。私澪くん達を信じるよ」
「と、言う事だから澪、春夏、綾人、私達の期待を裏切らないでよ」
「「「そこでプレッシャーかけるなよ」」」
少年三人は綺麗に声を揃える。
「あははー、ごめんごめん。それでまりなさん、Roseliaは決まりましたし次はどこのバンドを探したらいいんですか?」
山吹の中ではRoseliaは既に参加確定となっている。
「そうだね〜、ホントは綾人君と仲の良いAfterglow の勧誘に行ってもらいたかったんだけど、綾人君Roseliaの指導でいなくなっちゃうし……」
「まりなさん、Afterglow なら俺より適任がいます」
相沢は上坂の肩を強く叩いた。
「こいつ俺よりもあいつ等と親しいんで」
上坂は久しぶりに幼馴染達の練習を見に行くことになった。