「わ〜、なんだかこの狭い空間にこんなに女子高生がいるだけでなんかドキドキするね」
「まりなさん。それすげー分かります」
「俺なんて楽しみで昨日は寝れなかったぜ」
上坂達はCiRCLEにいる。
本日は待ちに待ったガールズバンド達の顔合わせの日だ。
Poppin'PartyにAfterglow、ハロー、ハッピーワールドと既に両手の指で数えれないだけの美少女が揃っていた。
どこを見ても目の保養ととんでもない光景に四季はもちろんだが普段から美少女を目にしている相沢もテンションが高い。
「すみません! 遅くなりました! Pastel*Palettesです」
更に追い討ちをかけるようにアイドルという美少女の証であるPastel*palettesがスタジオ入りをする。
「なんやお前らキモい顔して」
遅れて入ってきた渡辺が相沢と四季を見て二人に冷たい視線を送る。
「キモいとはなんだよ!お前だってこの美少女だらけの楽園を見たら文句は言えなくなるんだよ!」
「そうだそうだ」
渡辺は一つ小さなため息を吐き辺りをぐるりと見渡す。
「まぁ確かにこんなに女の子がよおさんおったら目の保養にはなるわな」
「そうだろ、分かったか!俺達はキモくねえんだよ、これが正常なんだよ!」
「んや、悪いけど自分らやっぱり異常やわ。いくら目の保養やゆうてもそこまでだらしない顔にはならへんわ。それに見てみい、上坂だって普通にしとるやん」
「こいつは幼馴染と彼女しか見てねえからカウントしねえんだよ」
「ん?なんか言ったか?」
「こいつマジで聞いてねえ……。こんなリア充はほっといて、そういえば一也、今日はポーチつけてねえんだな」
「ポーチなんやそれ?」
「偶につけてるだろピンクのポーチ」
相沢は渡辺の腰と奥で戸山と楽しく話している少女を交互に見る。
楽しげに笑う相沢に渡辺の視線は冷たくなり、上坂と四季はゆっくりとバレないように距離を取る。
「相沢……ジョークぐらい誰でも言うし、それに俺も好きやねんけどな、流石に好きなアイドルバカにされてまで笑ってられへんわ」
相沢に待っていたのは楽しいお説教タイムだった。
調子に乗った相沢は大勢の美少女がいる中正座で説教されていた。
前々から思ってはいたが相沢綾人と言う人間はいつももバカではあるが、女の子が周りにいると二割り増しぐらい更にバカになるらしい。
上坂は正座をさせられている相沢を見ながら気の毒だと思った。
「澪、あれ見ろよ、白鷺千聖がいるぜ!」
上坂よりニ○センチは身長のある四季が、子供のように興奮気味に裾を引っ張る。
四季の視線の先には長いブロンドの髪に超が付く美少女で女優の白鷺千聖だ。
「そらいるだろ?白鷺さんパスパレのメンバーなんだし」
「お前は何度か会ってるから分っかんねえだろうがな、普通は会えねえんだよ!テレビの中の人なんだよ!芸能人なんだよ!」
芸能人はパスパレ全員だろ、とツッコミを入れそうになるがグッと堪える。多分本人も分かっている。ただ興奮しすぎたせいか四季本人も何を言っているのか分かっていないだろう。
因みに以前上坂がパスパレのライブを見に行き、四季にあげたサイン色紙は家宝として奉られているらしい。
「白鷺千聖、ほんと可愛いよな。ぜってえテレビで観るより可愛いぜ」
「ありがとう。嬉しいわ」
正面にいた白鷺が四季が悶絶している間にわざわざ後ろに回り込み優しく声をかける。
「うわぁぁぁあああ!」
白鷺は想像以上な驚き声に一瞬驚くが目と口を黙って開け閉めす?四季の姿にクスクスと笑っていた。
「一也くんがいない場で話すのは初めてね。改めて白鷺千聖です。今日からイベントが終わるまでの間お互いに精一杯頑張りましょ」
白鷺の佇まい、礼儀はさっきの悪戯が嘘に見えてしまうぐらい完璧でとても同じ高校生には思えなかった。上坂はアイドルとしての白鷺しか知らないが四季や渡辺の話によれば白鷺は人生の半分以上を芸能界で過ごし生きてきた。
白鷺のそれらは厳しい芸能界で生き残る為に身についた言わば護身術の一つに違いない。
「先日はお世話になりました。話は一也から聞いてます。パスパレが参加してくれる事嬉しく思います。今日から一ヶ月とちょっとですが精一杯お力添えをさせて頂きますのでよろしくお願いします」
「随分とご丁寧な挨拶ね。そんなに固くならなくても大丈夫よ。ここにいるのはあなたと同じ高校生なのだからもうちょっと砕けた態度でも構わないわ。ただ同じ高校生と言っても私は二年であなたは一年そこだけはわすれないようにね」
悪戯に笑う白鷺に話し相手の上坂ではなく隣の四季にダメージが入っていた。
「分かりま……」
「白鷺先輩、こいつ白鷺先輩の前だから猫被ってるんですよ。普段のこいつは全然違いますから」
「澪くん、そうなの?」
返事をしようとした上坂の前に金髪ツインテの市ヶ谷が割り込み白鷺は首を傾げる。
「猫は被ってませんが、まぁそうかもですね」
「ほら見ろ!見たか!」
「……あのな市ヶ谷、先輩と同級生なら多少態度を変えるのは当たり前だろ?」
「それでも変えすぎだ!って言ってんだよ。誰だよ、全くの別人じゃねえか!」
「確かにちょっと硬いかなって思ったよ。だから砕けて話そうとしたのに市ヶ谷、お前が割り込んできたんだよ」
「な、なんだよ。私が悪いって言うのかよ!」
「別にそんな事言ってないだろ?」
「フフフフフ……」
言い合う二人の様子に白鷺は微笑ましく笑う。
「白鷺先輩、急に笑ってどうしたんですか?」
「あなた達二人、とても仲良しなのね」
「なっ!……」
市ヶ谷は白鷺の思わぬ言葉に言葉が詰まる。
「白鷺さんやっぱりそう見えますか?いや〜、俺も市ヶ谷とは仲が良いとは思ってるんですけど……いったいなー、何するんだよ!」
視線を落とせば、市ヶ谷がつま先を力強く踏みつけていた。
「うるせえ、黙ってろ!」
「やっぱり仲よ」
「白鷺先輩、仲良くなんかありません! 私他の参加者の人にも挨拶してきます。すみません、失礼します。」
市ヶ谷は一礼し、逃げるようにその場を離れた。
「あの子、名前は……」
白鷺は市ヶ谷の背中を見て呟く。
「市ヶ谷有咲です」
「そう、有咲ちゃんだったわね。あの子面白いわね」
「分かります?市ヶ谷ってめちゃくちゃ面白い奴なんですよ」
「そうね、それと澪くん、あなたも面白いわよ」
「えっ……」
小さく、上品に笑う白鷺の目に上坂は蛇にでも睨まれたみたいに背筋が固まった。
「(なぁ、なんでそんな普通に白鷺と話せるんだよ)」
白鷺に見惚れていた四季がようやく意識を取り戻した。
「あぁ悪い、忘れてた」
「?」
上坂の独り言に四季は顔をしかめる。
「白鷺さん、こいつが白鷺さんのファンの四季春夏です。春夏もこのイベントを成功させるのに力を貸しますのでよろしくお願いします」
「‼︎」
四季は突然自分の事を紹介され驚きを隠せなかった。
「あなたが春夏くんね、いつも応援ありがとう。はじめまして私は……って知ってると思うけど白鷺千聖です」
「‼︎」
四季驚きで首を左右に動かす。
普通の女の子でもまともに話せない四季が、超の付く美少女白鷺千聖と話せるはずがない。
いつもの軽口を叩き真っ赤になるのが先の山だ。
「初めましてこね……こ、こ……」
予想通りの軽口ではあったがそれすら言えず四季は逃げ出した。
「春夏!……千聖さんすみません」
上坂は四季を追いかけた。
逃げたと言ってもその場からというだけですぐに追いついた。
四季はスタジオの隅で膝を丸め長身には似合わず小さく座っていた。
「春夏、どうして逃げたんだ?春夏にとって白鷺さんは憧れなんだろ?」
憧れの白鷺を前に四季がどうして逃げ出したのか上坂には分からない。
四季はゆっくり伏せていた顔を上げる。
今にも泣きだしてしまいそうなそんな顔だ。
「澪、お前が上原さんから逃げようとしたのと同じだ、怖えんだよ」
「そうか……」
上坂は四季の肩を叩き隣に座る。
「春夏はただのファンじゃなくて、どうしようもないファンなんだな」
上坂はアイドルに本気で熱を出す四季を笑ったりはしない。
それが偶像だとしても次元が違っていても笑わない。
本気なら背中を押すのが友達だ。
そんなに難しいことではない、あの日、SPECEでしてくれた事をそのままするだけだ。
「都合のいいことかもしれないけどさ、結果だけを見れば俺はあの日、逃げてなんかいない。だから今の春夏があの日の俺と同じだって言うなら大丈夫だ」
「お、俺は……」
「春夏、お前はどうしたいんだ?あの日俺に春夏がいたように今の春夏には俺がいる。俺は春夏に勇気をあげたいんだ」
四季は黙って立ち上がり一直線に走り出した。
上坂が四季に追いついた時には既に少女を呼び止めていた。
「さっきは突然いなくなって悪かったな子猫ちゃ……」
ゴツッ、と鈍い音と同時に四季の口端から赤い液体が垂れる。
四季は軽口を言おうとした自分の口を止める為に頬を殴ったのだ。
「ちょっとあなた!何してるの⁉︎」
「さっき言ったことは忘れてください」
「え、ええ……」
慌てて駆け寄る白鷺を四季は追い返し口元の血を拭う。
「は、はじ、初めまして。四季春夏って言います。子役時代からずっと応援してました!」
噛んではいるが初対面の女の子を相手に四季が普通に話しているのは大きな成長だった。
白鷺は大声に驚くが瞬時に笑顔を作る。
「子役の時から応援してくれてるのは嬉しいわ。これからも応援よろしくお願いね」
「はい! あ、あの……」
「どうかしたかしら?」
背中越しでも分かるぐらい四季は耳まで真っ赤になっていた。
「千聖さんって……呼んでもいいですか?」
いつもの四季では考えられない行動だった。四季はまず戸山のような例外はあるが、四季は女の子と話す事が出来ない。話せないと言ったら語弊があるが主に上坂や相沢、渡辺がいないところで女の子と話している四季は大概軽口を叩き後悔する。
四季も自覚があるのか入学時に比べ一人で女の子と話す事はなくなった。そんな四季が初めて話す女の子、それも超が付く美少女に下の名前で呼ぶなんて上坂には考えられなかった。
白鷺の優しく笑う表情を見れば四季がどんな顔をしてるのか想像が付く。きっと顔を真っ赤にし折角のイケメンを台無しにしているのだろう。
「ええ、もちろん良いわ。春夏くんごめんなさい、私も他の方々に挨拶しないといけないからこれで失礼するわ」
そう言って白鷺は人混みに紛れた。
「それにしても春夏すごいな、よく頑張っ……」
上坂は成長を見せた四季に賞賛を送ろうとして声をかけようとしたが四季は緊張の糸が切れ崩れるように座り込んだ。
「澪笑うなよ。俺……千聖さんに恋をしてしまったかもしれない」
上坂は瞬きを数回入れた。
「……マジ⁉︎」
四季の発言が信じられなかった。
「おい、澪!笑うなって言っただろ!俺みたいな一般人が芸能人を好きになるのってそんなにおかしい事かよ!」
「そんな事ねえよ」
四季のパンチを上坂は笑いながら流す。
誰を好きになろうが笑ったりはしない。
「春夏、俺はお前の恋を応援するよ」
だけど『好き』の気持ちを自覚していないのは別だ。