六年前を覚えている   作:海のハンター

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38話 『合同練習三日目』

 今日も今日とて合同練習である。

 前の練習では終始美竹と湊が相沢を取り合いあまり練習にはならなかった。正直なところ二回の合同練習を終えた今でもまともに練習できているとは思わない。

 だけど焦りはない。

 練習よりも交流が大切だと考えているからだ。

 そして最低限、参加バンド達は必要な課題を見つけているからだ。

 

 だが今日に限っては別だ。

 上坂は頭を悩ませていた。

 今までは練習こそ進まないにしても課題はしっかり見つけている。

 しかし今日に限っては、練習が成り立つのか? と言う不安があった。

 

「ん〜、やっとわたし達の日ね! 楽しみだわ。ねっ、澪」

 

 弦巻の調子は既に温まっている。

 その証拠に上坂を跳び箱みたいに飛び越え更に前宙まで加る体操選手ビックリの運動神経を見せていた。

 

 三回目の合同練習の相手はハロハピとパスパレだ。

 空を飛ぶ鳥のように何者にも縛られない自由人弦巻がいて練習が成り立つするのか、と言うのが過去の経験から上坂が導き出した不安だ。

 

「こころ、残念だけど俺は今日で三回目なんだよ」

 

 弦巻は同意を求めるが上坂は合同練習が初めてではない。

 

「澪あなた初めてじゃないの?」

 

「顔合わせの日に説明したし誘った時にも話しただろ。俺達は指導する側だから合同練習は全部出席なんだよ」

 

 弦巻は初めて聞いたかのような驚いた顔をし口をポカンと開けた。

 

「澪ばかり楽しい思いをしてずるいわ」

 

「楽しいからどうかは知らないけど、仕方ないだろ。俺は教える側なんだから行かないわけにはいかないだろ?」

 

「だったらわたし達ハロハピも澪達と一緒に教えるわ。……そうよ何でこんな楽しい事が思いつかなかったのかしら」

 

 弦巻はキラキラした瞳を上坂に向ける。

 昔から碌でもない事を思いつく時はキラキラと瞳を輝かせていた。その綺麗な瞳は悪意が無いからこそタチが悪く、上坂は何度も悪意のない純粋な瞳の犠牲になった。

 

「こころん! 何か面白い事でも思いついたの?」

 

「こころはいつも私達を楽しませてくれる。それで、今日は何を思いついたんだい?」

 

 北沢と瀬田は弦巻に期待の眼差しを向ける。

 

「わたし達もこれからの合同練習で澪達と一緒に教えようと思うの?」

 

「こころんナイスだよ。絶対、ぜーったい、その方が楽しいよ」

 

「さすがこころ、やっぱり君は面白い子猫ちゃんだよ」

 

 暴走した弦巻を止めるものはいない。

 上坂自身も昔からの事もあり弦巻に強く言えない。

 それだけじゃない、北沢と瀬田が加わる事で更に収集が付かなくなった。

 頼りのバンドメンバーは遠巻きで上坂を観ている。

 基本的に人見知りとめんどくさがりで構成されているのが4Cだ。

 

 このままではライベントが弦巻に、いやハロハピに乗っ取られてしまう。

 

「あんた達その辺にしときなよ。上坂困ってるでしょ」

 

「でも、私達も一緒に教えた方が、みんなで練習出来てぜっ──たいに面白いわ」

 

「はいはいそうですね」

 

 奥沢は弦巻の言葉を右から左に綺麗に聞き流す。

 

「でも。私達って人に教えれるほどまだ上手くないんじゃない? だからまた今度にしよ」

 

「美咲ちゃんの言う通りだよ。こころちゃんも4Cの演奏聴いたでしょ。みんな凄くレベルが高くて……わたし達が入ったらかえって足を引っ張っちゃうよ」

 

 奥沢と松原は弦巻の好奇心という大火を説得という水で消火活動を行う。

 

「うーん、それもそうね。じゃあ次の機会にでもしましょ」

 

 奥沢や松原の力もあってライブイベントが乗っ取られる事はなかった。

 

「あんたも立場があるのは知ってるけど、こころを好き勝手にさせると、いつまたさっきみたいなことになるか分からないよ。ね上坂! ちょっと、聞いてる⁉︎」

 

 奥沢は甘やかしすぎと指摘するが上坂はぼーっと立ち尽くし話など聞いてもいない。

 

「女神」

 

 上坂の口から声が漏れた。

 

「上坂まで何言って……花音さん、言われてますよ」

 

「ふえぇぇぇ〜……あのね美咲ちゃん、上坂くんは美咲ちゃんの事を言ってるんじゃないかな?」

 

「何言ってるんですか花音さん。そんな訳……」

 

 上坂の視線はしっかりと奥沢に向けられていた。

 

「えっ、マジ?」

 

 

 

 話が終わり蚊帳の外となった弦巻の興味は別のものに移っていた。

 

「もうすぐ合同練習の時間でしょ。やっぱり演奏する前は準備体操が必要だと思うの」

 

 至極当然な事を言っているようだが弦巻の言う準備体操は逆立ちや側転だった。しかし途中から側転が車輪の様に回るのが楽しく感じスタジオ中を側転で回っている。

 

「こころんそれ面白そう、はぐみにも教えて!」

 

「こころちゃんそんなに回ったら危ないよ」

 

 松原は頑張って止めようとするが止めるどころか参加者は増えている。

 上坂は自分の無力を悟りその光景を眺めていた。

 

「上坂あんたもあたしの事を女神って正気じゃないね」

 

「声に出てた?」

 

「はっきりとね。冗談にしてもホント恥ずかしいからそう言うの辞めてよね」

 

「分かってるって、もう言わないよ。それとさっきはありがと、助かったよ」

 

「女神ってそう言う事ね……。別に、気にしなくていいよ。こころがあーなのはいつもの事だし」

 

 側転のまま松原を追いかける弦巻を見てため息を吐く。

 

「さっきも言わなきゃいけないって分かってたんだけど、関係ってそう簡単には変わらないんだよ」

 

 上坂は過去の弦巻との出来事を思い出し身震いをした。

 

「あんたとあいつの間に何があったの?」

 

「聞くか?」

 

「いや、聞かない」

 

 奥沢にとって正直とても気になる話だ。

 だが奥沢は聞けなかった。

 この話は上坂が弦巻の思い付きに付き合わされ振り回された話で、いずれ自分も味わうかもしれない予言書の様なものだったからだ。

 

 そんな呪われた予言書、奥沢に読む勇気はなかった。

 

 

 

 もうすぐ練習時間になるがパスパレメンバーはまだ1人も来ない。

 ポピパとの合同練習の時も時間ギリギリの参加だった。芸能人はやっぱり忙しいのだろう。

 スタジオでは今か今かと渡辺と四季はパスパレ待っている。

 

「オッはよー」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 氷川、大和、若宮が到着した。渡辺は孫を迎えるおじいちゃんのように出迎え、四季は白鷺の姿がない事から分かりやすく肩を落とす。

 

「ほらほらっ! あたしならもっともーっと動けるわよーっ! ついてきなさい!」

 

「こころん負けないよー」

 

「ふふ……君たちは相変わらず身のこなしが軽やかだね。まるで、蝶のようだ……儚い」

 

 弦巻と北沢はスタジオ内をぐるぐると周り、瀬田は二人についていけなくなりぐったりとした様子で床に座り込んでいた。

 

「おおっ! その動き……もしかして、ハグミさんとココロさんはニンジャですか?」

 

「あははっ! 面白そー!! あたしも側転するー」

 

「コラ、氷川さん何行こうとしとるんですか? やめなさい!」

 

 渡辺は弦巻達に混ざろうとする日菜の腕を掴む。

 

「いいじゃん混ざってきても。面白そうだよ?」

 

「あかんもんはあかん! 怪我したらどうするねん!」

 

「ぶー、けちぃ、あたし怪我なんてしないもん!」

 

「するかせえへんかなんか分からんやろ」

 

「もういい、一也君の分からずや……イヴちゃん!」

 

「カズヤさんすみません」

 

 体当たりに近い勢いのあるハグに渡辺の身体が揺れる。衝撃に気を取られている間に日菜は渡辺の腕を振り解き騒ぎの中心に向かった。

 

「氷川さん、もう知らんからな!」

 

 大丈夫大丈夫、と言う声が聞こえ渡辺は頭を抱えた。

 

 

 

 スタジオはとても悲惨な状況だった。

 楽器を練習する所のはずのスタジオで誰一人楽器を持たず身体を動かしている人の方が多い。次に入ってくる人が見れば確実に体操教室か何かと間違えるだろう。

 

「ちょっと俺も行って来る」

 

「あっ、ちょっ……もう好きにしろよ」

 

 上坂の隣にいた相沢も弦巻に合流した事で勢力は更に拡大した。

 昔から弦巻には人を巻き込む謎めいたカリスマ性があったが発揮するのは今ではない。

 

「春夏も行きたいとか言うなよ。もう練習が出来るかどうかも怪しくなってくるから」

 

「千聖さんが来るのに迷惑なんてかけられないだろ?」

 

 裏を返せば白鷺さえ来なければ行くと言っているようなものだ。

 合同練習にパスパレがいて良かったと上坂は少なからず安堵する。

 

「澪、これどうするんだ?」

 

 状況は悪化の一歩を辿っていた。

 

「そりゃぁ」

 

 奥沢に視線を送った。

 

「あたし!! ムリムリ絶対ムリ! さっき助けてあげたんだから、今度は上坂が何とかしてきなよ」

 

「いやいやあれは釣り合い取れないだろ⁉︎どう見たってこっちの方がヤバいって」

 

「釣り合いが取れない分は利子だと思って行ってよ」

 

 奥沢に背中を押されるも上坂は必死に足を踏ん張り抵抗する。

 それでも奥沢の力は強く少しずつだが上坂は前進する。

 

「そうだ春夏が行けばいいんだよ。あれを何とかしたら白鷺さんも悲しまないだろ?」

 

「ダメ、あんたが行く! あれは生半可な覚悟で行ったらミイラ取りがミイラになるんだから」

 

 ズリズリと足は前に進み、犠牲になるのも時間の問題だった。

 

 

 

 丸山はスタジオを目指して一直線に走っていた。

 忘れないように練習の一時間前にアラームをセットし、今日こそは渡辺がギターを愛でてる姿を見ようと思っていた。

 

 丸山の家からCiRCLEまでは距離がある。行くにしても交通手段は必須。

 丸山にタクシーを使う程の経済的余裕はなく選択肢は電車しかない。

 迷う事なく駅に向かった丸山だったが改札を前にICカードの残高がなくなり切符を買うにしても財布を忘れた事に気付いてしまった。

 

 そうして家まで財布を取りに帰った結果が今の丸山だ。

 

「すごい音がしたけど、一体……」

 

 遅れて来た丸山がゆっくりとドアを開ける。

 

「あ、彩さん〜!! 大変、大変何です……」

 

「大変って何が? ……こ、これは凄いね」

 

 スタジオ内に協調性のカケラもなく、正に学級崩壊の様な構図だった。

 

「丸山先輩、あん中楽しそうに見えるかも知れんけど行ったらあかんで」

 

 どれだけ厳しい練習をしたのか渡辺は既に疲れ切っていた。

 遅刻はしたとは言え時間にしては一○分とちょっと、渡辺の体力がなくなるにしても早すぎる。

 

「一也くん何言ってるの? 確かに最初は面白そうって思ったけど、私高校生だよ? そんな興味だけで動く程子供じゃないよ。……えっ! 一也くんどうしたの⁉︎」

 

「先輩すみません。正直先輩の事自分より子供やと思ってました。やけど先輩も成長して……あかん感動して涙が出て来てもうた」

 

 渡辺の瞼には涙が浮かんでおり、腕で涙を隠した。

 

「ねぇ千聖ちゃん、これって褒められてるって受け取ってもいいのかな?」

 

 丸山には遅刻仲間がいた。

 遅刻仲間は電車の乗り換えを間違え最寄りの駅で出会った白鷺千聖だ。

 

「彩ちゃんも普段から頑張ってるのは一也君も知ってるし、そう受けとってもいいんじゃないかしら?」

 

「そ、そうかな」

 

 褒められるのは嬉しい筈なのだが素直に喜ぶ事が出来なかった。

 

「す、す、すみません〜〜!!」

 

 丸山が反応に困っている中、松原が申し訳なさそうに駆けつけた。

 

「合同練習までに何とかしようと思ったんですが、ぜ、全然収捨がつかなくなってしまって〜……すみません、私が止められなくて……」

 

「花音が謝ることじゃないわよ。ふふ、ハロー、ハッピーワールド!の皆さんは元気がいいのね」

 

「おや……! 千聖じゃないか。相変わらず麗しいお姫様だね。元気だったかな?」

 

 突然王子様の様なカッコいい女子が現れ白鷺は女子でも見惚れる顔を見て顔をしかめた。

 

 

 

「あっ、千聖さん!」

 

 四季が白鷺の所へ行こうとするが上坂が肩を掴み止める。

 

「待て! ここで春夏が行ったら本当に収拾がつかなくなる」

 

 初めは抵抗していたが抵抗は時間と共に弱まり最終的にはピタリと止まった。

 

「なんなんだあの野郎!千聖さんに馴れ馴れしい!」

 

 四季は白鷺へ話しかける瀬田にギリギリと奥歯を鳴らしていた。

 

「春夏、野郎っ言ってるけど瀬田さん女の人だからな」

 

「へっ?」

 

 やはり四季は瀬田の事を男性だと思っていた。

 瀬田は男性にも見えない事はない。ほんと宝塚何ちゃらに行けば直ぐにでもトップを取れるだろう。それでも瀬田は女性、普通は間違えないが、意中の相手に親しく話しているのを見て四季は正常な判断ができなかったのだろう。

 

 四季は確認する様に奥沢を見るが黙って頷く。

 

「美咲、一応こいつを抑えておくから、ちょっと二人の関係について聞いてきてくれないか?」

 

「分かった」

 

 奥沢はスタジオ唯一の安全地帯へむかった。

 

「……と言うわけだから別に薫さんを敵視する必要はないんじゃないかな」

 

 安全地帯から帰って来た奥沢は白鷺と瀬田の関係性を説明した。

 結論、二人は親同士に繋がりのある幼馴染だった。

 上坂で言えばAfterglowのメンバーと言うより弦巻との関係の方が近い。

 

「美咲、助かったよ」

 

「どういたしまして」

 

「そういうわけだから、春夏落ち着いたか?」

 

 四季はさっきの激しい感情とは違い落ち込んでる様に見えた。

 

「春夏、今の話のどこに落ち込むところがあるんだよ」

 

「親同士の親交があったのが羨ましい……」

 

「ああ、そこね」

 

 四季の意見に奥沢はなんとなく納得した。

 

「親同士の親交がそんなに羨ましいか?」

 

「幼馴染が沢山いるお前にはわからねえよ」

 

 幼少期から可愛い女の子に囲まれて人生イージーモードな上坂には四季の悩みは分からないように見えるが実際は違う。

 

「そっか、上坂もこころと親同士の親交あるから分かるんだ」

 

「俺はあっちの二人と違って完全に上下が決まってたからなー」

 

 もし上坂の父親が弦巻の父親と同等の関係だったら少しは弦巻に自分の意見を伝える事が出来ただろう。

 

「?」

 

 置いてけぼりな会話に四季は首を傾げる。

 

「春夏は知らなかったよな、俺とあそこで綾人と一緒にはしゃいでる黄色い髪のこころって言う女の子は親同士の親交があってお世話をし……世話になった事があるんだよ」

 

 弦巻は側転は辞めており、今は前転競争をしていた。

 回る事を辞めたと思えばまた回る。一体三半規管はどうなっているんだろう、と上坂は思った。

 

「今、世話したって言おうとした?」

 

「言ってないし思ってもない」

 

「お前も苦労してるんだな」

 

 四季は軽く上坂の肩を叩いた。奥沢も同情する様な目で上坂を見ている。

 

「あいつらあんなに動いて元気って化け物か……はぁ、はぁ」

 

 体力の限界を迎えた相沢がノロノロと足を引きずりながら戻って来た。

 

「は、早く練習始めねえと死ぬ……」

 

「綾人、早く戻って来なさいよー」

 

 スタジオの真ん中から聞こえる弦巻の声と共に相沢は倒れた。

 楽しそうの興味本意で近づいた結果が今の相沢だ。相沢は自分の身を削って弦巻こころの恐ろしさを痛感した。

 

 弦巻を止めれるのは上坂と奥沢の二人しかいない。

 奥沢には一度助けてもらった借りがあるし、相沢にも前回の合同練習でもめないように取り持ってくれた。

 

 倒れる相沢を見て上坂はため息を吐く。

 

「こころー! 全員揃ったぞ、練習しないのか?」

 

 前転のモーションに入った弦巻は腕をバネのように勢いよく伸ばし立ち上がった。

 

「そうよ、練習よ! すっかり忘れてたわ! ……でも澪、あなたも忘れてない? まだミッシェルが来ていないわ。ミッシェルー、ミッシェルー。もぅミッシェルはいつも遅いんだから。皆んな困ってるじゃない」

 

 上坂は、困らせた元凶が何言ってるんだ? と言いたい気持ちを押し込め信じられない物を見る目で奥沢を見る。

 

「えっ、こころ何言ってるの? まさか美咲が……」

 

「そう言う事。こころは……と言うかはぐみも薫さんもあたしがミッシェルだって理解してないの」

 

 理解していないという事は一度は正体を明かしているという事だ。

 それが弦巻だけの問題じゃなく後二人もいる事に奥沢の苦労が目に浮かぶ。

 

「それじゃ、さっさとミッシェルになってくるから上坂達は練習の準備しといてね」

 

 奥沢の着替えは早く部屋を出たと思ったら直ぐに戻って来た。

 多分服を着替えるよりも早いと思う。

 

「みんなー、集合だよー!」

 

 ミッシェルは教育番組に出てくるキャラクターのようだった。

 ピンク色の毛を除けばこれといった特徴がないクマのキグルミ。

 ミッシェルは元々商店街のマスコットになる予定だったが誕生日(顔出し)を過ぎた翌日からは色んな所で見られる野生のクマのマスコットになった。

 

「ミッシェルやっと来たのね!」

 

「今日はPastel*Palettesの人達にパフォーマンスと4Cの人達に技術を教えてもらう日なんだから、失礼のないようにしないとダメだよー」

 

 奥沢は抱きつく弦巻を簡単に持ち上げる。

 

「そうね! まずパレットなんとか……? の人たちの話をして聞かないとね」

 

「えっ……これ、どういう状況ですか?」

 

「全然わかんない……」

 

 突然始まった教育番組の様な光景にパスパレはついていけない。

 

「あなた達、アイドルなんでしょ? プロのパフォーマンスを知りたいのよ! ドーンと! 盛り上がる様なやつをね」

 

 弦巻はパスパレからプロのパフォーマンスについて学ぼうとするがアイドルを何か勘違いしている。

 

「ど、ドーンって言っても……なんか、こころちゃんって日菜ちゃんとちょっと似てるね?」

 

 パスパレは弦巻の質問にどう対応すればいいのか悩んだ。

 

「すみません、いきなり言われてもわからないですよね。顔合わせの時にみなさんの演奏を聞いてて、こう……パフォーマンスが完成されてるなあと思ったんですよね」

 

「だから、あの……どうしたらそんな風に出来るのか知りたくって……」

 

 弦巻の分からない質問をが通訳のようにしパスパレに伝えようやく分かった様な顔をした。

 

「ジブンはアイドルから一番遠い存在なんですけど、一也さんからよく言われるのは『イメージを持て』ってことでしたね」

 

「イメージ?」

 

「ステージにいる自分や、バンドを想像するんです。そこで自分はどんな風に演奏しているのか? 周りはどんな表情をしているのか? 最高の演奏をしている姿を想像するんです。常にその理想を自分の中で持ちながら、それに近づくようにレッスンを重ねていくんです」

 

 結局は自分の成功が想像できなければ成功する事は出来ない。大和はそう伝えたかった。

 

「なんだ〜、一也そんな事言ってたのか」

 

「なんや悪いか? 逆に相沢はそういう話せえへんのか?」

 

「俺? しねえよそんな事。俺が出来るのは精々技術を教える事ぐらいでそう言ったのは専門外だ」

 

 技術面だけではなく気持ちや考え方を教える事ができるあたり同じ指導者としても渡辺はレベルが違う。

 

「はぐみもソフトボールの監督に言われたことあるっ! イメージトレーニングってやつだね」

 

 北沢の回答はしっかり的を射ていた。

 

「そうっ! スポーツと同じだよ! 一生懸命練習して、本番のイメージに、自分をどんどん近づけていくの」

 

「常に頭の片隅にステージを意識しておくこと……これは大切なことね」

 

「なるほどー。うちの爆弾は当日までどう爆発するかわかんないからなあ……もっとそのへんをイメージできていれば……」

 

 パスパレの意見が参考になり納得したは頷いた。

 

「爆弾? そんな危険なものは早めに取り除いたほうがいいわね!」

 

「はいはい、そーですね」

 

 弦巻は自分が爆弾と言われていることに気づかず危険なものは取り除くべきとに忠告した。

 

「でも、あなた達の演奏をみたところ、何が起こるかわからないのがよさという感じもするから、一概に私たちのやり方がいいとは限らないわ」

 

「ハロー、ハッピーワールド! のみなさんのライブはびっくり箱みたいで、とっても楽しかったです!」

 

「うんうん、あたしも超超楽しかったよー!」

 

 パスパレはちゃんとハロハピの良いところを理解している。

 

「そうだな俺もハロハピの演奏にはすっげえ驚いた」

 

「歌いながらバク転とかほんとやばかったぜ」

 

「あの発想逆に教えてもらいたいぐらいやわ」

 

「俺はハロハピって何かやってくれるんじゃないかっていう期待はあるよ」

 

 4Cもハロハピの良いところを理解している。

 

「さてとパスパレからパフォーマンスについて聞くことは出来ましたし」

 

 体の大きなミッシェルが上坂に向く事で次第に視線が集まる。

 

「そうね」

 

 弦巻も頷き上坂を見る。

 

「次は澪、あなた達の番よっ! 一体私達にどんな素敵な事を教えてくれるのかしら?」

 

 派手さで言えばハロハピやパスパレに勝てるはずがない。

 教えれる事は技術指導が大半だ。

 

 本当に弦巻は難しい事を言う。

 応えることがどれだけ難しいか分かっていないだろう。

 だけど応えるたびに弦巻は笑った。

 結局、上坂が甘やかしたのも笑顔が見たかっただけかも知れない。

 

「仕方がないなぁ、とっておきを教えてやるよ」

 

 考えはない、ノープランだ。

 上坂は音楽を教えるプロではなくとも弦巻を笑顔にするプロだ、どうにかして上がりに上がったハードルを乗り越えてくれるだろう。

 

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