六年前を覚えている   作:海のハンター

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39話 『合同練習四日目』

 

 合同練習も四回目、しつこい様だが練習は出来ていない。

 それもこれも一癖も二癖も強い少女達の手綱を一般庶民の男子共が掴めていないせいだ。

 上坂は学校では教師の目に留まり騒ぎの中心となったりと少なからず目立っている自覚はあったのだが、あくまで一般人の域の話だ。

 曲者揃いの少女達の中だと上坂はおろか4Cのメンバーは目立つ事はなく少女達に振り回されている。

 

 来週にはミニライブが控えている。成功させると気持ちが早るのかと思えばそうではない。練習はしていないにしても少女達の意欲は高く会話を交わし、情報や切っ掛けを掴むだけでどんどん成長していく。

 

 玄関で靴を履き終えた上坂は座り込んで大きなため息を吐いた。

 少女達が成長していくのは嬉しい事だが、上坂自身はあまり成果を上げていない。何もせずに成長する少女達に、自分は必要なのか、と思う他に実績を上げてもいないのに感謝の言葉が贈られると言う事に罪悪感があった。

 

 今日こそは、と意気込み立ち上がる上坂だが自信がない。

 家の鍵を閉め、重い足取りで進んだ上坂はもう一度ため息を吐き門扉の鍵を閉める。

 

「澪、どうした? 朝からテンション低いぞ」

 

「澪君、調子悪いの?」

 

 家の前まで幼馴染達が迎えに来てくれていた。

 前回、上原と二人で行った為相沢の愚痴を長々と聞かされてしまった。だったら全員で行って文句を言えなくしてやろう、と言う考えだ。

 何しろ相沢への対処、と言うより手が早い美竹がいる方が物事がスムーズに進む。

 

「ありがとうつぐ、調子は良いよ。ただ……」

 

「ただ何? れーくんはこーんな美少女に家まで迎えに来てもらって何か不満でもあるの?」

 

「不満なんてないよ。みんなに来てもらえて両手に花どころか花束を持ってる気分だよ」

 

「そんな花束を抱えたれーくんはどうしてため息を吐いてたの? そんなんじゃ綺麗に咲いた花も枯れちゃうよ〜」

 

 覗き込む様な青葉の瞳に上坂はたじろぐ。

 

「うっ、悪かったよ。ただ俺って、合同練習で指導するって言ってた割に全然教えれてなくて、それでみんなから手柄をもらってもいいのかなって思ってさ」

 

 ライブは成功する。これは確信している。

 ただ両手を広げて喜ぶ事が出来るのか、と問われれば分からない。

 

「澪、そんなの気にするなよ」

 

 宇田川は呆れた表情を浮かべていた。

 

「そうそう。澪は実感が湧いていないだけで私達は澪達のお陰ですっごい成長してるんだから」

 

「巴、ひまり……」

 

「おっ、流石はひーちゃん。彼女なだけあって効果は抜群」

 

「……モカはホントブレないな」

 

「それがモカちゃんの長所ですから〜」

 

 掴み所のない飄々とした青葉を見ていると問題でもない事を問題にしうじうじと考えていた事がバカらしく感じた。

 

「あー、うじうじと考えるのは辞めだ、辞め。俺はイベントの成功とみんなの成長の事だけを考えればいいんだ」

 

 目的はイベントの成功と少女達の成長。その二つさえクリアさえすれば何一つ問題はない。

 

 上坂は盛大な独り言を言いながらCiRCLEを目指し歩く。

 

「澪?」

 

「これは吹っ切ったって事でいいのか?」

 

「みんな何してるんだ? 早く来ないと置いていくぞ」

 

 幼馴染達は戸惑いながらも上坂の後を追った。

 

 

 

「ねえねえ、今日一緒に練習するハロー、ハッピーワールド! のギターの人、超かっこよくない?」

 

 道中全くバンドに関係のない話をしていたがCiRCLEの自動ドアを潜った瞬間から話題が変わった。

 それでもバンドとは関係なく、あくまで今日の合同練習の相手についてだ。

 

「どんなひとだっけ?」

 

 あまり他人に興味を持たない美竹はもちろん覚えてはいない。

 

「もお〜! 覚えてないの? 同じ学校の先輩だよ? 背が高くて、ポニーテールの」

 

「瀬田さんの事だろ?」

 

 すっかり調子の戻った上坂が答える。

 ハロハピにカッコいい人なんて一人しかいない。

 

「なんで学校違うのに澪が知ってるの?」

 

「なんでって、前の合同練習で一緒だったからだよ」

 

「やっぱり薫先輩って練習中もかっこいいの⁉︎」

 

 上原は目を輝かせている。

 

 上原はミーハーな所があり上坂家でテレビを見る時も好きな俳優、女優が出てたら彼氏である上坂をそっちのけで興奮する所がある。

 

「まさかひまりも瀬田さんの事、男だと思ってたりしないよな?」

 

 既に瀬田を男と間違えた残念な奴がいる。だから二人目がいてもおかしくない。

 

「澪、何いってるの? 薫先輩は女の人だよ。さすがの私も間違えたりしないよ」

 

 上坂の言葉が冗談だと思い可笑しそうに笑っている。

 

「それを聞いて安心したよ」

 

 上原が四季と同じく性別を間違えるぐらいの頭の悪さじゃなくてよかったと思った。

 

「れーくんもしかして妬いてるの?」

 

「えっ、澪妬いてるの?」

 

 青葉の言葉に上原は嬉しそうな表情を浮かべる。

 上坂の言葉は瀬田に嫉妬をしているように聞こえてもおかしくはない。

 

「なんでそうなるんだよ」

 

「だって〜、薫先輩、れーくんより顔もいいし背も高いし」

 

 容赦のない言葉が上坂に刺さる。

 上坂も決して顔が悪いわけではないただ相手が悪い。瀬田と顔で渡り合えるのは上坂の知る限り四季ぐらいだろう。

 

「顔が勝てない事はわかってるけど、背の高さは言わなくていいだろ」

 

 上坂のコンプレックスの一つが低身長だ。

 身長はコンプレックスと言う程低い訳ではないのだが4C のメンバーである相沢も四季も上坂よりも一五センチ以上背が高い。その所為もありクラスの数少ない男子からは"上坂が真ん中にいると凹凸の凹の字みたいだな"とバカにされる。そしてバンドメンバーの中では一七○前半と一番身長の近い渡辺はバカをする三人を見守る母親的ポジションな為二人に比べて距離が遠く、並ぶ時は相沢と四季に挟まれる事が多い。

 

「れーくん、今何センチ?」

 

 青葉は無神経にも上坂のコンプレックスである身長を聞く。

 

「……一六○」

 

 本当は教えたくなかったのだが、話さなければ逆に気にしてるみたいに思われて嫌だった。

 とは言え長い付き合いの幼馴染には実際上坂が気にしている事はバレバレだった。

 

「ともちんより背が低いんだー」

 

 宇田川の身長は上坂より少し、見れば分かる程度に背が高かった。

 だから声に出さなくても見れば分かるのだが、わざわざ言うあたり青葉の悪意を感じる。

 

「澪、気にするな。身長なんてこれからいくらでも伸びるって」

 

「そうだよ。今度私が身長が伸びるように牛乳たっぷりのシチューを作ってあげるから」

 

「その優しが辛い」

 

 上坂は両手で顔を覆った。

 

「ねえ、あれって……」

 

 美竹が上原の服の袖を軽く引っ張りドアの前で立っている人物を指差した。

 

「薫先輩!」

 

 上原の声に気づき瀬田が近づいてき声をかけた。

 

「やぁ澪、と言うことは君達がAfterglow のメンバーだね」

 

「はいっ! あの……ハロー、ハッピーワールド! の瀬田薫さんですよね?」

 

 上原は有名人を見てるかのような高い興奮があった。

 

「そうだよ。こんな可憐な女性に私の名前を覚えてもらっていたなんて、光栄だな。ところで澪、先ほどから声をかけてるのに答えてくれないなんてつれないね」

 

 瀬田は上坂に無視されてるのに傷ついた様子は一切なかった。それも同じような態度をいつも幼馴染である白鷺から受けているからだ。

 

「瀬田さん、身長はいくつですか?」

 

 見た感じ明らか自分より高いのは分かっていた。しかし聞いておきたかった。

 

「身長? 君は私の背の高さが気になってたのかい。私は一七一センチだ。この間衣装の採寸に身長やウエストを測ったから間違いはないよ」

 

 上坂はあまりの衝撃に思わず膝をつきそうになる。

 

「ひゃ、ひゃくななじゅう……」

 

 見た目からも背が高いのは分かっている。

 だが上坂が夢にまで見た一七○センチ台に瀬田が入っているとは思いもよらなかった。

 

「澪、どうしたんだい?」

 

「大丈夫です。気にしないでください」

 

 瀬田が手を伸ばすも美竹が断る。

 

「ところでドアの前で何してるんですか?」

 

 落ち込んでいる上坂を無視し扉の前から一歩も動かない瀬田に問う。

 

「スタジオへと続くこの扉を開けてもらえるかな? 何度押しても開かないんだ。まるで、この扉は私とスタジオを隔てる天の川のようで……」

 

「このドア『引く』ですよ」

 

 大抵の扉は引き戸だ。それは扉を押して中に居る人に扉が当たってしまうのを防ぐ為だ。

 

 瀬田はフッと少し笑い何事もないように扉を押すのではなく引いた。

 

「ど、ドア、開きましたねっ! おめでとうございますっ! じゃあ早速、中にはいりましょうっ!」

 

「……こういう時つぐがいてよかったって思うよ」

 

「あたしも〜」

 

「ほら澪、いつまで落ち込んでるの合同練習始まっちゃうよ」

 

 上坂は上原に腕を引かれとぼとぼと扉の中へ入って行った。

 

 

 

 スタジオには既に全員が揃い、ハロハピが最後の一人である瀬田を見つけた。

 

「あっ! 薫くんにれーくん! それにAfterglow の人たちだー」

 

「薫! やっときたわね!! それじゃあ一曲やるわよー」

 

 瀬田が来るのを今か今かと待っていた弦巻は顔は笑顔であるが言葉は少し急かして見える。

 

「主役は遅れて登場するものさ……! さあ、奏でよう! 私達の歌を!」

 

 瀬田はいつでも演奏できるようにギターを構え腕を広げ、役者のように自分を大きく見せる。

 

「えっ、そういう感じ⁉︎ちょ、ちょっと待ってって」

 

 奥沢が慌てて姿を消した。

 それもそのはずハロハピのDJは奥沢であって奥沢ではない。

 ミッシェルなのだから。

 

 

 

 ハロハピの演奏が終わった。

 

「薫先輩、超かっこいい〜」

 

 上原は瀬田の演奏にうっとりしていた。

 

「澪、いいのかよ! 上原さん目がハートだぜ」

 

 四季は上原を指差して上坂に訴える。

 

「まだ言ってるのか? 瀬田さんは女の人だぞ」

 

「それはもう分かったって」

 

「何だ分かってるのか。ひまりの事? 別に気にしてないって。だってひまりミーハーだし」

 

 だから上原がカッコいいと言ってもあまり気にはならない。

 

「いつ見ても自由な演奏だな……これでまとまってるってのが不思議なぐらいだ」

 

「あたしが五人いるみたいだね〜」

 

「モカが五人いたら破綻するわ!」

 

 相沢がツッコミを入れる。

 一見ハロハピの演奏を見れば演奏の自由っぷりから青葉が五人いるように見えない事はない。しかしハロハピには自由人をまとめるミッシェルと松原がいる事を忘れてはならない彼女らのおかげでハロハピはまとまっている。

 

「でも……すっごい楽しい」

 

 各自ハロハピの演奏に感動を表した。

 

「よしゃ、さっそく各楽器ごとで練習……と言いたいけど、ハロハピには、キーボードがいないからなー」

 

 相沢が頭を悩ます。

 ハロハピにはキーボードがいない。その代わりにDJがいる。

 

 前回の合同練習では互いに曲の披露こそすれどそこから先は進まなかった。

 進まないと言えば練習が全く進まなかったと思うが実際は演奏→討論会→弦巻のテンションが最高潮になり演奏の繰返しで個人練習が出来なかった。

 

「あら。キーボードがいないのってそんなに変な事なのかしら?」

 

「へんじゃないよ。キーボードがいないというより、DJがいるっていうことの方が珍しいかな?」

 

「でも編成に決まりなんてないでしょ? 元からある枠の中にいるなんて、きゅうくつすぎるじゃない! そんなんじゃあたしのやりたい事はやれないもの!」

 

 弦巻はバンドの事を全く知らない状態からハロハピを作った。バンドを組むにしても本やインターネットで調べたりもしていない、全く白紙の状態から初めた。

 だから当然弦巻は当たり前を知らない。そのたくさんの当たり前じゃないが集まり重なって今のハロハピが出来ている。

 

「こころらしい良い考え方だな」

 

「澪、あなたなら分かってくれると思っていたわ」

 

「ちょっ、上坂余計な事言わないでよ。これで振り回されるのは私なんだから」

 

 奥沢は不機嫌な顔で上坂に詰め寄り、弦巻はその様子を見て笑っていた。

 

「あたし達は世界を笑顔にしたいの。そしてその方法がこれって訳よ」

 

 弦巻は指でヘッドマイクを触る。

 ハロハピは決してバンドをやってるつもりはない。ただ世界を笑顔にする手段がバンドなだけだ。

 

「世界を笑顔か……難しい事だけどこころならやってしまいそうだな」

 

「あたしだけじゃないわ。ハロハピみんなでやるのよ!」

 

「あははっ。壮大で面白いかも! 夢はでっかく! だね」

 

「うんっ! 難しいことはわかんないけど……みんなが笑顔になれれば、それでいいと思うんだ! はぐみ達にとっては、それが一番大事だから!」

 

 もちろん、みんなが良ければ自分はどうでもいいという自己犠牲な話ではない。みんなが笑顔だから自分達も笑顔になれる。という事だ。

 

「いいね。あたしはそういう考え、嫌いじゃない」

 

「あたしも〜。自由って、サイコーだよね〜。なんか、海賊みたい〜。よーほー! ってね」

 

「アタシ達も好きにやってたけど、それはロックって枠の中での話だ。文字通り何もとらわれないスタイルは見てて気持ちがいいな!」

 

「俺も色んな楽器をやってるけどまだ枠の中って事だったんだな」

 

「俺達もそろそろ次のステージに進まねえとな」

 

 相沢と四季は渡辺をチラ見する。

 

「はあ、自由にするのは勝手やけど迷惑はかけんようにな」

 

 北沢の言葉は渡辺さえも納得させるほど人の心を掴んだ。

 

「なんか、わかんないけどはぐみ褒められた?」

 

「はぐみはちゃんと褒められてるよ」

 

「そうなのみーくん? やったー! みんなありがとうっ!」

 

 北沢は体全身を使って喜びを表した。

 

「ま、自由すぎてめんどくさいことばっかりだけど他のバンドからそう言ってもらえると、まんざらでもないね」

 

 奥沢も日頃自由すぎるバンドに不満や文句はあるが、人から肯定されると嬉しい物がある。

 

「自由だけど、ちゃんと『世界を笑顔にしたい』って気持ちはみんな同じだもんね。だから一つの音楽が生まれるんだろうね」

 

 ハロハピのメンバーは道を進む時、寄り道を沢山する。しかし進む道は違っていても最後のゴールは何一つ変わらない。

 

「はいっ! そうだと思います。みんな本当に、世界を笑顔にしたいって気持ちを持っていますから……」

 

「なんか、うちらのバンドがこんなにキレイにまとまった言葉で褒められるとはね……」

 

 文章にならないようなハロハピの良さを簡単に分かりやすくまとめられ奥沢は嬉しさより驚きがまさった。

 

「あのっ! みんなに相談があるんだけど……」

 

 ハロハピの話を黙って聞いていた羽沢が口を開いた。

 

「おっ? つぐ、ひらめいちゃった〜?」

 

「私……今までの枠から外れるために、キーボード、やめようと思う!」

 

 羽沢の一言はAfterglow と4Cに衝撃が走った。

 

「つぐ待て、なんでそうなる?」

 

「ハロハピの話を聞いて思ったんだ。4Cやハロハピの演奏がどうして人を惹きつけるのか、それは表現力が高いからだと思うんだ。型にはまっていた私達がいきなり自由な演奏が出来るはずがない。だから澪くん達みたいに別の楽器を覚えて視野を広げたいの」

 

 羽沢はただハロハピに影響を受けただけでなく自分の考えを持っていた。

 

 別の楽器に挑戦する事で視野が広がるのは確かだ。相沢と渡辺はギター、ベース、キーボード、ドラムと四つ種類の楽器を演奏する事が出来、それぞれの活かし方を知っている。

 だから急遽演奏することになっても上坂や四季に合わせたり、時には前に出たりと、様々な楽器が出来るからこそ楽器の生かし方を知っている。

 

「なるほど、いい心意気じゃない! あたし達も、いつまでも決められた楽器ばかりやっていてもダメよね!」

 

「じゃああたしもこれを機に別の楽器でもやろうかな〜」

 

「それならはぐみの楽器貸してあげるよ!」

 

「それ誰が教えるんだよ!」

 

 相沢は青葉が北沢から借りたベースを指差しす。

 

「そんなのあやとんに決まってるじゃん。全部できるんだし〜」

 

「だったら一也はどうだ? あいつも、って言うよりあいつの方が俺より楽器扱えるぞ」

 

「相沢、勝手に巻き込むなや!」

 

「えっ、一也君も色んな楽器扱えるの?」

 

「そやで、俺に任せたったら全部解決や。しっかり鍛えたるさかい、覚悟しいや」

 

「相沢、何勝手に話してくれとんねん! それとなめた関西弁使いよって! ちょっとそこに直らんかぁ!」

 

 逃げた相沢を渡辺は鬼の形相で追いかけて行った。

 

「つぐもモカも別の楽器するなら、わたしもキーボードとドラムに挑戦する」

 

「なんでその二つな訳? 上原さんベースでしょ、別の楽器ならギターでいいんじゃない。なんで全く違うドラムとキーボードな訳?」

 

 奥沢はハロハピが原因で、Afterglow が楽器移動をする流れになってしまい、本来であれば止めなければならなかった。だけど上原の具体的な移動に、羽沢のようなハロハピの影響を受けたのではなく、以前から考えていたような気がした。

 

「だってドラムとキーボードなら、澪に教えてもらえるから!」

 

 上原の答えは欲の塊だった。

 上原はそう言って上坂に腕に抱きついた。

 奥沢はいつものだるそうな目を大きく開き上坂と上原を交互に見た。

 

「上坂と上原さんってどんな関係?」

 

 野暮だとも思ったが、奥沢の予想が正しければ目の前の二人は別に隠しているようには見えず、聞いても問題ないのだろうと奥沢は思った。

 

「どんな関係って……幼馴染で」

 

「恋人!」

 

「やっぱり」

 

 奥沢の予想はやはり合っていた。

 目の前でここまで見せつけられたら嫌でも分かる。しかしここまで堂々とされれば嫌な気は起きずいっそ清々しかった。

 

「いいのか? このままだとお互い大変な事になるけど」

 

「あ、ほんとだ。すっかり忘れてた」

 

 奥沢にしては珍しくハロハピから意識がそれていた。奥沢も女子高生、色恋に興味がないわけではない。友達に彼女がいるとならば尚更だ。

 

 今こうして話してる間にも相沢は渡辺に追いかけられ、四季は上原を除く幼馴染に流されるままにベースを教え、松原だけが事態を抑えるのに奮闘していると中々の状況が広がっていた。

 

 手遅れに近い場所に飛び込むのは気が引けるのだが、放っておけば問題ないと安心していたイベントライブの成功が危ぶまれる。

 

「じゃあ俺がAfterglow を抑えるから、美咲はハロハピを頼む」

 

「あんたさらっと私にしんどい方押し付けてない?」

 

 日頃から弦巻、瀬田、北沢の問題児ばかり見てる奥沢にとってAfterglow のメンバーは全員優等生にしか見えなかった。

 

「押し付けてない」

 

 上坂は奥沢の目を見ず視線は明後日の方向に向いており、そのまま逃げるように事態を抑えにいった。

 

「あーもう、仕方ない」

 

 奥沢もこれには仕方がないと思った。

 自分がそんな役回りとはいえこれしかなかった。上坂なら一番の問題児である弦巻と関係がある事からハロハピの方も鎮める事が出来る出来るだろう。しかし自分は顔合わせの日と今日二回しか合ってない人たちを抑えることができるだろうか、

 

 奥沢は上坂に腹を立てながらも言われた通りに問題児を抑えにいった。

 

 

 

 上坂は奥沢ほどではなかったが、幼馴染の説得に苦労した。美竹と宇田川は上坂が行った頃には、楽器移動の話は終わっていて、羽沢に関しては楽器移動のデメリットを伝えると引いてくれた。大変だったのは青葉と上原の二人。

 

 青葉は、

 

「モカちゃん天才だから楽器の二つ三つ掛け持ちしても問題ないよ〜」

 

 と言い。

 

 上原は

 

「澪、私と一緒に練習したくないの?」

 

 と情に訴えてきて大変だった。

 

 青葉に関しては、二つ三つ出来る才能を一つに集中してのは増した方がかっこいいと持ち上げ、上原に関しては上坂自身何を言ったのかあまり覚えてない。

 

 覚えているのは解決した後の上原の真っ赤な顔と何故か弦巻の興奮した賞賛だった。

 


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