六年前を覚えている   作:海のハンター

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今回から暫く地の文の書き方を苗字から名前に変更します。



40話 『合同練習五日目①』

 

 合同練習も五回目となり大詰めに入る。

 大詰めと言ってもこれで終わりと言うわけではない。今日が終われば待つのはミニライブ、だから大詰め。

 

 そんなミニライブ前最後の合同練習を飾るのはPoppin’partyとRoseliaだ。

 

「悪い、サビのとこ入るの早かった!」

 

 ポピパとRoseliaがメインの合同練習だが、演奏をしていたのは4Cだ。

 演奏が終わると同時に澪はサビ前のリズムを何度も叩く。

 

「すっごく良かったけど、どこがダメなの?」

 

「私には全然分かんないや」

 

 香澄と沙綾だけではなくポピパには4Cの演奏のどこがいけないのか分からない。

 

「歌う側からしたら少し……殆ど気にならない程度だけど違和感を感じるわ」

 

「言われてみればそうですね。私も少し違和感を感じました」

 

 Roseliaでさえも4Cの演奏はやっと問題点を見つけれるレベルだ。

 

「気になるところがあったらどんどん言ってください」

 

「もちろんそのつもりよ。と言ってもあなた達の演奏が高いレベルなのは事実よ」

 

「ええ、ですからこちらも良い練習になります」

 

 4CとRoseliaが互いに質を高め合う中、今の状況に我慢できない人がいた。

 

「今日は私達とRoseliaの合同練習だろ? 何で4Cが普通に混じってんだよ」

 

「何でって、そりゃあ俺達が市ヶ谷達のコーチだからだろ?」

 

「そんな事は分かってるつーの! なんで4Cがコーチじゃなく普通に演奏してるんだって事」

 

「それに着いてはみんなで決めた事だろ? それに俺等は今度のミニライブが本番なんだよ」

 

 話し合って決めた事だ。

 だからどうして4Cが演奏しているのか有咲も分かっているはずだ。

 それでも顔は納得している様には見えなかった。

 

 

 

 

 

 時間は遡るにしては短い五分程前まで遡る。

 

「日曜日はミニライブ! 今から待ちきれないよー!」

 

 香澄が興奮気味にギターを鳴らす。

 興奮するのも納得がいく。

 彼女達は約三週間ミニライブの為に練習を重ねた。合同練習ではあまり練習をしている様には見えなかったが、他バンドから得た物を個人練習でしっかり落とし込んでいる事は演奏を聞いた限り分かる。

 

 しっかり仕上がっていればライブも楽しみだろう。

 

「ミニライブと言えばあなた達は大丈夫なのかしら?」

 

 友希那が澪に声をかける。

 友希那が綾人ではなく澪に話しかけるのは珍しい事で、話の内容は大体がバンドについてだ。

 

「問題ありません。俺達も合同練習とは別の日に集まってちゃんと音合わせしてますから」

 

 4Cは週に二回ある合同練習とは別に週に一回バンド練習をしている。

 つまり澪は約二日に一回のペースでCiRCLEに来ている。

 

「なら、今日の練習は変更ね」

 

「えっ、ちょっと湊さん?」

 

 友希那は澪の言葉を聞かずポピパの所へと歩いていく。

 

「戸山さん、今日の練習はいつもと少し変更でいいかしら?」

 

「ハイ! 大丈夫です」

 

 香澄は理由も聞かず元気に返事をする。

 

「ちょっ、香澄! 何勝手に返事してんだよ。まだどう変わるのかも聞いてねえし」

 

「香澄、有咲の言う通りだよ。それで湊さん、今日の練習はどう変わるのですか?」

 

 有咲や沙綾が驚くのも無理はない。

 香澄が言った事は友希那の言う事を無条件で受け入れると言っている様なものだ。

 

「簡単な事よ。今日の合同練習、私達だけじゃなくて4Cも加えての練習に変更するのよ」

 

「本番前だから4Cに練習の場を作ってあげるって事ですか?」

 

 沙綾の質問に友希那は首を横に振る。

 

「練習をしていなかったらしていないでそれは彼等の責任よ。優しく面倒を見るつもりはないわ。私はただRoseliaの成長の為に彼等の演奏を聞く必要があると判断しただけよ」

 

 友希那は4Cが普段あまり練習をしていないのは知っている。

 それは練習を見てくれる綾人が多忙で4Cが集まる事が出来ないからだ。

 週に一回Roseliaの練習を見るだけでは無く、綾人は他にAfterglowの練習も見て更にCiRCLEでもバイトをしており放課後の青春を全て音楽に注ぎ込んでいると言っても過言ではない。

 毎日が多忙な綾人や一也がいる事もあり、4Cは個人練習こそ出来ても音合わせは殆どしていない。

 実際暇なのは澪と春夏ぐらいだ。

 

 そんな集まるの事が困難な彼等が練習したと聞けば気にならない訳がない。友希那はRoseliaが音楽界の頂点に立つ為に上のステージの音を知る必要があった。

 

「湊さんの言いたい事分かる気がします。確かに私も4Cの万全な演奏は気になります」

 

「決まったようね」

 

 友希那はゆっくり視線を澪に戻す。

 

「私達の演奏は終わったわ。次はあなた達の番よ」

 

 澪達4Cは女子達の圧のある視線に押されながらも楽器の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 そして時は現在に戻る。

 

「だから今日は俺達も練習なんだよ」

 

 過去あった四回の合同練習のような練習が殆ど進まないような事態なら断ろうとも思ったが圧倒的最速タイムで演奏まで終われば言葉に甘える。

 

「グッ……、そう言えばそうだったな。でもさ、やっぱりそれって責任放棄してねーか? 指導する為のお前等だろ?」

 

「市ヶ谷は納得してないかもしれないけど一応みんなで決めた事だからな」

 

「その言い方だと私がわがまま言ってる見てえじゃねえか!」

 

「まっ、そう言う事だ。市ヶ谷もわがまま言わないで今日は俺達の演奏から盗めるものは盗むんだな」

 

「勝手に話を進めんじゃねえ!」

 

 

 

 沙綾が有咲をなだめた事で練習は無事再開された。

 練習内容は至って単純。三バンドが順番に演奏するだけだ。

 そして問題点を指摘し修正する。その繰り返しだ。

 

「今のところ、ベースが少し遅れたわね」

 

「す、すみません……っ!」

 

 指摘をされたりみは慌てて頭を下げる。

 

 りみだけに限らないが似たような事はもう五回目になる。

 

 順調に滑り出したと思われた合同練習だが、完全に動きが止まった。

 友希那がポピパの演奏で問題点を見つける度に演奏を止めているからだ。

 

「もう一回お願いします」

 

 友希那の言葉に挫けない香澄に感嘆の声が漏れる。

 

「ゆーきな! 熱血指導もいいけど、ほどほどにね〜?」

 

「綾人はいつもこうじゃない」

 

 リサは力を入れすぎる指導に注意をするが友希那が制する。

 

「俺っていつもこんなスパルタな感じですか⁉︎」

 

 綾人自身は優しく教えているつもりだった。

 決して友希那のようなスパルタな指導をした覚えがない。

 

「ええ、綾人さんの指導はいつもこれぐらいです」

 

「それに加え友希那や紗夜の指摘もあるからそれ以上かな」

 

 綾人はメンバー全員の共通認識だと知り開いた口が閉じなかった。

 次からはもう少し優しくしようと思ったのだが、

 

「綾人、手の抜いた指導なんてしたら許さないわ」

 

 友希那が釘を刺す。

 

「意外だなー、綾人のコーチって厳しいんだ」

 

「そりゃすっごい厳しいよー。あこがちょっと早いなーって思ったらすぐ気づくんだもん」

 

 レベルの高いRoseliaの演奏でもすぐに反省点が分かりそれを指摘するあたり綾人のコーチの厳しさが見えた。

 

「ポピパも偶に澪と春夏に見てもらってるんだろ? あいつらの指導はどうなんだよ」

 

 ポピパが教室で練習をする時のみ澪と春夏は指導と言うよりは練習を見に行っている。香澄は、蔵で練習する時も来て欲しい、と言っていたが有咲が首を縦に振らないので教室と言う条件付きで二人は練習を見ている。

 

「澪くんも春くんも静かだよ。春くんは聞いたところを教えてくれる感じで、澪くんは演奏が終わったらアドバイスをしてくれて後は自分で練習する感じだよ」

 

 澪も春夏も基本的には問題がなければ見ているだけだ。

 

「澪も春夏も厳しくしろとは言わねえけどそんなんで大丈夫か?」

 

「問題はない、って言うより俺と春夏はただ練習を見てるだけ。それで気になるところがあったらちょこっと口を挟むだけだよ」

 

 澪も春夏も教えているつもりはない。お節介程度にアドバイスをしているだけだ。

 

「なんか草野球を見に来たおっさんみてえだな」

 

「例えが酷すぎるだろ。人には人のやり方があるしそれにRoseliaみたいに既に形が出来ていたらそれでもいいんじゃないか? だけどポピパは結成されたばかりでまだ足りない部分が多い」

 

「だったらなおさら……」

 

 反論をしようとすると澪が首を横に振った。

 

「違うんだ。足りないからこそ自由にさせてあげたいんだ。俺とか春夏がしっかり教えれば違う結果になったかも知らない。でもさ、そんな事してしまったらこれから伸びる香澄等の個性を潰してしまうだろ? 俺は俺自身が絵の具になるんじゃなくてポピパ五人の色がしっかりキャンバスに伸びる為の水になりたいんだよ」

 

「個性を伸ばすか……お前の考えは分かったけど、相変わらずそんな恥ずかしいセリフよく真顔で言えるな。春夏だったら悶絶してるぞ」

 

「別に恥ずかしいことなんて言ってないだろ?」

 

「じゃあ見てみろ、あこが目をキラッキラさせてるのが証拠だ」

 

 綾人の指さした先を見ればあこが興奮気味に『お兄ちゃんかっこいい』と言っていた。

 

「俺だって『お兄ちゃんかっこいい』って……じゃない、お前の言葉は厨二心を刺激するんだよ!」

 

「綾人が何を言いたいか分からないけど、『かっこいい』って言われるならそれでいいんじゃないか?」

 

「無知ってめんどくせー。もうそれでいい。お前はこのまま厨二病を突っ走ってろ」

 

 綾人が鬱陶しそうに手をひらひらさせていると、いつの間にか香澄が澪と綾人の側まで来ていた。

 

「香澄、どうした?」

 

 澪は尋ねる。

 

「本当は演奏が終わった後の方がいいと思ったけど思い立ったら来ちゃった」

 

 香澄は可笑しいと声を上げて笑う。

 

「あのね澪くん。澪くんが私達の事を考えてアドバイスしかしなかったのは嬉しかった。でも私もっと上手になりたい! Roseliaにも4Cにも負けないぐらい! だから澪くん、アドバイスなんかじゃなくて私達が上手くなるように教えて下さい!」

 

 必死に思いを伝え頭を下げる香澄に澪はため息をこぼす。

 

「香澄、言っただろ? 俺は香澄等の個性を……」

 

「負けない!」

 

 頭を上げた香澄の瞳は力強く澪を射抜く。

 

「私達は澪くんがどれだけ厳しい事を言っても負けない! poppin’partyは絶対に自分達の演奏を見失ったりしない!」

 

 必死に思いを伝え頭を下げる香澄に澪はもう一度ため息をこぼした。

 

「言っとくけど俺は綾人や一也程教えるのは上手くないからあんまり期待はするなよ」

 

「うん!」

 

 幼馴染達Afterglowに次ぎポピパの指導まで、澪も等々暇とは言えなくなってきた。

 

「それで香澄、言う相手がもう一人いるだろ?」

 

 澪は視線を投げる。

 

「澪くんありがとう。今から春くんにもお願いしてくる」

 

 香澄は駆けていく。

 澪の時と同じように頭を下げるのだろう。

 

 澪は小さく笑う。

 

(俺じゃなく春夏から頼めば早かったのに)

 

 春夏が断る訳がない。

 

 流石の澪も外堀がしっかり埋まっていれば断りはしないのに。

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