六年前を覚えている   作:海のハンター

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41話 『合同練習五日目②』

 澪と春夏が練習を見る事が決まりモチベーションが上がったポピパはその後指摘される事なく演奏を終える事が出来た。

 

 今は体力が限界に近いポピパの為に休憩を挟んでいる。

 

「ねぇ4Cのみんなはどうしてそんなにうまくなったの?」

 

 香澄が思うのも当然だ。

 始めた時期こそ違えど4Cのメンバーは全員香澄と同じ高校一年生。

 とても同じだとは思えない。

 それこそ大人を相手取っていると言ってもいいだろう。

 

「うまくなったつってもなー」

 

「それは私も気になります。相沢さんに演奏技術を教わってはいますが、彼の根本を私達は知りません」

 

「紗夜さん、俺そんな特別な事してませんよ。小さい頃、う〜んあれは小学校三年生ぐらいだったかな。家の引き出しで昔親父が使ってたギターを見つけて、弾いたのが始まりです。その音が凄くかっこよくて……まぁ、好奇心のまま好きなように弾いた結果が今の俺です」

 

「『好奇心のまま好きなよう』ですか……見える結果として技術だけを追いかけた私には難しい事ですね。やっぱりあなたやあの子のような純粋に音楽を楽しめる人が上手になるのかもしれませんね」

 

 紗夜は綾人の言葉を理解した上で寂しそうに呟いた。

 

「そんな事はあらへん」

 

 紗夜の言葉を否定したのは綾人ではなく一也だった。

 

「音楽が好きやないと上手くならへんなんてそんなルール決まってなんかあらへん」

 

「練習前あんな事してたお前が……」

 

「その話しはええねん!」

 

 練習前の楽器を愛でるヒーリングタイムはバレこそすれど極力広められたくない案件のようだ。

 

「俺も昔からあんなんやなかったわ。寧ろ少し前まで音楽が嫌いやったぐらいやわ!」

 

 一也の告白にポピパやRoseliaからだけではなく澪達4Cからも驚きの声が上がる。

 

「両親は売れへんバンドマンで金があらへんのに音楽の環境だけはムリして揃えとったわ」

 

「良いご両親じゃない。一体何処に不満があるのかしら?」

 

「不満しかあらへんわ!……先輩やのにすいません。ちょっと熱くなってしまいましたわ」

 

 一也は先輩にも関わらず友希那を怒鳴りつけた。

 

「両親は稼いだお金も殆ど音楽に注ぎ込み貧しい生活をさせられて、敵討のように興味がなかった音楽を無理矢理やらされ、そんな両親不満しかあらへんかった。友達が外でゲームやサッカーをしとる中一人楽器の練習や。それが嫌やったから高校生になったと同時に家を出た」

 

 自ら人を避けていた澪とは違い一也は人から隔離された環境で育っていた。そう言った人と関わりたいが関わらない環境で育った事もありお節介だが無愛想という性格になったのだろう。

 

「気分のいい話やなかったなすまへん。俺が言いたいんは上手くなるんに好き嫌いなんか関係あらへん。大事なんはここや。心が折れてしもうたら先には進まれへんねん。一度折れてもうた俺が言っても説得力がないかも知れんけど一度折れたからこそここが大事やてよう分かるんや」

 

 一也は握った拳を左胸に当てた。

 

「折れない心が大切ですか……」

 

 紗夜は呟くが表情は曇ったままだ。

 

「氷川先輩、お節介かも知らへんけど先輩が焦っとるんは氷川さんが理由やろ?」

 

 瞬間、紗夜の曇った表情は険しくなった。

 

「本当にお節介よ。貴方に一体私の何が分かっているの?そうよ!悪い!いつもいつも私の真似ばかりして、比べられる私の身になってよ!」

 

 普段の落ち着いた態度は全く感じられない程紗夜は荒れていた。

 

「紗夜落ち着いて」

 

「一也言い過ぎだ。紗夜さんに謝れよ」

 

 リサと綾人が止めに入るがあってないようなものだ。

 

「俺は先輩が思うとる以上に先輩の事を知っとるつもりや。好きな食べ物に嫌いな食べ物、休日の過ごし方、他にも先輩の事色々氷川さんから聞いたわ」

 

「あの子は勝手に……」

 

「先輩はそんなに氷川さんからの好意をどうして拒むんや!」

 

 一也の叫びに紗夜は身体の動きを止めた。

 

「さっきから言ってるでしょ、あの子と比べられるのがしんどいのよ」

 

 疲れた声だった。

 

「お姉ちゃんお姉ちゃんって勝手に憧れて、私にかかる負担なんて何も考えてないじゃない」

 

 酷く疲れた声だ。

 吐き出しても吐き出しても紗夜の顔色は一向に晴れない。

 

「相沢、すまん離してくれんか?もう暴れたりせえへんから」

 

「お、おぅ」

 

 異様に落ち着いた一也の声に綾人は掴んでいた腕を離す。

 自由になった一也はゆっくり紗夜に近づき俯いた頭に手を乗せた。

 

「氷川先輩は必死に期待に応えようとしとったんですね。さっきは色々ゆうてしまいすいませんでした」

 

「別に構いません。ですが早く手をどけて下さい、訴えますよ」

 

「おっと、これはすまへん」

 

 一也が慌てて手をどけ、紗夜は顔を上げる。

 

「貴方は先程意味の分からない事を言ってましたがどういう事ですか?」

 

「言葉のままや。氷川先輩は氷川さんの理想の姉であるために頑張って来たって事です。そうやなかったら『お姉ちゃん』って言葉をそこまで忌諱せえへんやろ?」

 

「理想の姉?そんなん綺麗なものじゃありません。私はあの子に、日菜に負けないように努力してるだけです」

 

 紗夜は小馬鹿にしたように笑う。

 

「本当に氷川先輩は氷川さんがゆうように凄い人やわ」

 

「どう言う事?」

 

 小馬鹿にした紗夜は一也の言葉を煽りと受け取り睨みつける。

 

「普通あんなごっつい要領のええ人相手に勝負なんか仕掛けへんやろ」

 

「仕方ないでしょ、双子の妹なんだから!私だって日菜みたいな天才、相手にしたくないわよ!」

 

 紗夜は真っ直ぐ一也を睨みつける。

 周りは刺すような紗夜の気迫に押され近づく事さえ出来ない。

 

「そこで諦めずに食らいつくのが凄い言うとるんや」

 

 ただ一人、中心にいる一也だけが台風の目の中にいるように平然を保っていた。

 

「それに氷川さんは天才でも何でもない、ただ要領がええだけの普通の女の子や!」

 

「違う!あの子はまぎれもない天才よ。勉強だってギターだってそう、嫌がらせのように私の後ばかり追って、必死に頑張ったものをあの子は簡単に追い抜かすのよ!」

 

「後を追う事の何が悪いんや?」

 

「後を追うだけだったら自分なんていらないじゃない!」

 

 紗夜は傷口を抉るだけではなく塩まで塗り込む、今日初めて会話をした男がこれ以上ないぐらい憎かった。

 今まで自分を律っし強く育った理性がなければ男がどうなっていたのか正直分からないと言うのが紗夜の感想だ。

 

「やったら先輩はマネをした事ないって言うんか?違うやろ。極論な話し、勉強やってギターやって先人が見つけ積み重ねてきたから今があるんやろ?だったら一緒やん」

 

「そんなもの屁理屈でしかありません」

 

 冷静を保っているように見えるが奥歯の音はしっかり鳴っている。

 

「そうや、こんなん屁理屈や。けどなこれだけは言っとかなあかん。氷川先輩は天才の妹にコンプレックスを持っとるけどな、天才って言うのはただ優れてる奴の事を言うんやない、無い道を自分で開拓して突き進む奴の事を言うんや。その分、氷川さんよりもまだ氷川先輩の方が天才やと俺は思うとるで」

 

「私が日菜より天才……」

 

「そうや。ギターやって先輩が先に始めたんやろ?氷川さんゆうとったで『お姉ちゃんがギター弾いてて楽しそうだったから始めたんだー。そして早く追いついてお姉ちゃんと一緒に演奏するんだ』って初めておうた日に聞いてもないのに言うとったわ」

 

 一也は軽く笑いながら語る。

 表情から分かるように些細な思い出も一也にとっては楽しいものだったのだろう。

 

「言うても氷川さんが優秀なんには変わらへん。せやけど氷川先輩と言うこれ以上ない手本がおるお陰で今の氷川さんがおるんやけどな」

 

「…………」

 

「あの人は、双子やったら当然知っとると思うけど超が付く程の気まぐれ者や。せやけどそんな気まぐれ者にも『お姉ちゃんと一緒』ちゅう行動基準がある」

 

 紗夜は静かにまるで物語を聞くように一也の言葉を待つ。

 

「すっごい要領のええ氷川さんが、天才の氷川先輩のマネをしたらそら天才って言われるわ」

 

 小馬鹿にしたように一也は笑うが紗夜の表情は変わらない。

 

「貴方は本当に私の事を天才だと思ってるんですか?」

 

 紗夜自身、恥ずかしい言葉を言っている事は分かっている。

 しかし今まで妹にかけ続けられた言葉が自分に返ってくるとは思っていなかった。

 それだけ『天才』という言葉は紗夜の中では特別な言葉だった。

 

 しかし一也は首を横に振った。

 

「言いましたやん。あくまで氷川さんよりはちゅう話や」

 

 紗夜は全身が熱くなるのを感じた。

 今まで紗夜の事も天才と呼ぶ人も少なからずいた。何せ少々頭が固いにしても文武両道絵に描いた模範性だったからだ。

 その天才という言葉を天才をしる紗夜は冷やかしや戯言にしか感じなかった。事実、呼んだ人は例もなく天才(日菜)を知らない人だった。

 

 だから天才(日菜)を知った上での一也の言葉には気持ちが揺れた。

 

 そんな彼の言葉も語弊があり、

 

 言うならば、

 

「私も日菜も何も特別じゃない普通だったと言う訳ですね」

 

 体の中で溜まっていた熱を外に逃すと同時に何か重りのような物がストンと落ちるような感覚が紗夜に起きる。

 

「その通りや。少しぐらい差があったとしてもそんなん誤差や、気にする必要なんかあらへん」

 

 言い切った一也は両手を打ち合わせ悪い空気を断ち切った。

 

「納得いったんやったら、これで氷川先輩が氷川さんを拒む理由は無くなったやろ?」

 

 紗夜が抱えていたコンプレックスは天才だと思っていた日菜の存在だった。

 天才と言う壁さえなければ紗夜に日菜を拒む理由はない。

 

「そんな簡単な問題じゃありません」

 

 長い時間かけて出来てしまった関係は、たった一日それも数分の出来事だけで劇的に変わったりはしない。

 関係を崩すにもそれなりの時間がかかる。

 

「別にそこは急かしたりせえへん。氷川先輩にその気さえあれば後は時間が勝手に解決してくれるわ」

 

 関係を戻そうと気持ちが前を向けばどれだけ時間がかかろうと良い方向に前進する。

 

「そうですね。取り敢えず日菜と話す事があればあなたの話をしようと思います」

 

「ん?ギターやなくて俺の話か?まあ、生意気な口叩いたし不満はあるやろな。しゃあない氷川さんと氷川先輩の為や犠牲ぐらいなったる。せやから氷川先輩も氷川さんに思いっきり愚痴ったらええわ」

 

 一人話を進める一也に紗夜はため息を吐いた。

 

「確かに貴方は失礼ではありましたが、だからと言って陰口を叩く程私は卑しい人ではありません。それと氷川さん、氷川先輩と私達の呼び方がややこしいです。どうにかしてもらえませんか?」

 

「やっぱりややこしかったか。名前呼び苦手やねんけどな。……氷川さんと紗夜先輩。これでどうです?」

 

「どうして私の方が名前なのですか⁉︎普通は日菜の方でしょ?」

 

 大抵の人は名前呼びをするなら話しにくい人よりも話しやすい人の方を名前で呼ぶ。

 一也はわざわざ難しい方を選んだ。

 

「今更氷川さんの事名前呼びしたら絶対からかわれるやん。それに丸山先輩やそれを面白がった白鷺先輩とか来て、結局パスパレ全員名前呼びせなあかん羽目になるんが簡単に目に浮かぶわ」

 

「渡辺さん、貴方の名前呼び嫌いは相当な者ですね」

 

「名前で呼ぶなんて小っ恥ずかしくて俺にはできひんし、キャラちゃうねん。せやから紗夜先輩あんたは特別や」

 

「そんな特別、嬉しくも何ともありません」

 

 紗夜は小さく笑った。

 控えめな笑顔ではあるが、それでも十分綺麗だと思わせる笑顔だ。

 

「紗夜先輩、折角の笑うてる所申し訳ないんやけどな、先輩も俺の事名前で呼んでもらうで。俺だけ名前で呼ぶなんて不公平やん」

 

「貴方が勝手にした事ですが分かりました。一也さん。これでいいですか?」

 

 紗夜は照れる事なく名前で呼ぶが、一也は顔をしかめていた。

 

「先輩相手に『さん』付けさせるなんて恐れ多いです。呼び捨てでかまいません」

 

「だったら貴方こそ『先輩』は不要です」

 

「なんでですか?先輩に敬いの気持ちがあって何が悪い言うんですか?」

 

「生意気な口ばっかり言って貴方の何処に敬いがあると言うんですか?それと『先輩』っと言う敬称があるから苦手な名前呼びが出来るんじゃないんですか?」

 

 分かりやすく顔が引き攣り、紗夜の言葉が図星だと言うのが丸分かりだと誰が見ても明らかだった。

 

「後、口調もさっきのままで結構です。今更違う口調で話されても違和感しかありません」

 

「なんやそこまで言うんやったら言うたろやないか!さ、さっ、さ……」

 

 強気に出るが、声が詰まり先の言葉が出ない。

 

「やっぱり貴方は名前で呼ぶのが相当苦手なようですね」

 

「そうや言うとるやろ!なんなら自分も言うてみい」

 

「そうですね、では、かっ、かず、かず……」

 

 名前を言えなかった紗夜は静かに黙った。

 一也を小馬鹿にした分、名前を呼ぶ事が出来なかったダメージは大きい。

 

「ほら見た事か」

 

「…………」

 

「…………」

 

 視線を外す紗夜の仕草に気まずさを感じた一也も黙り込む。

 人間関係を不器用に生きてきた二人にとって名前で呼ぶ事は告白と同じぐらい恥ずかしい事だった。

 

 二人は唾を飲む。

 覚悟が決まったとかそんなかっこいいものではない。二人の頭の中はどっちが先に名前を呼ぶのかにシフトしていた。

 かっこよさを追求するバンドマンにとって後出しはかっこ悪い。

 それが分かっての早撃ち勝負。

 

「さ……」

「か……」

 

 名前で呼び合う。

 たったこれだけの事で真剣になれる人はそうはいないだろう。

 

「一也、何甘酸っぱい、それも紗夜さん相手に出してるんだよ!」

 

「綾人はもう、どうして行くかな〜。折角今いい所だったのに。でもあの紗夜がね〜」

 

 二人の間に痺れを切らした綾人が割り込み、遅れてリサが二人の下に飛び込んだ。

 

「いい所って何ですか今井さん」

 

「それはもちろん、綾人の友達と仲良くなった事に決まってるじゃん」

 

「誰があんな人と……ちゃかさないで下さい」

 

「ごめんごめん」

 

 調子良く謝るが、リサは真面目な様子で羽交い締めで引きずられる一也を見る。

 

「改めて思ったけど綾人の友達って凄い人ばかりじゃない?」

 

「ええ、そうですね。どの人もレベルが高くとても参考になります」

 

 一瞬リサはキョトンとするがおかしく感じ笑う。

 

「紗夜、私が言いたいのは、仲間である私達が出来なかった、触れようとしなかった事を初めて話したと思う一也が変えようとしたところだよ」

 

「…………」

 

 忘れかかっていた事だが、紗夜は今日初めてギターの事以外で一也と話した。だけどたった一日で渡辺一也の存在が大きくなってるのも確かだ。

 

 リサが背中を叩き紗夜は体が大きく前に出る。

 

「名前で呼ぶぐらいいいじゃん。私も今さっき呼んだよ」

 

「私は今井さんみたいに簡単にはできません」

 

「でも紗夜、のんびりして先越されても知らないよ?」

 

 視線の先で羽交い絞めをされ疲れた表情を浮かべる一也が苦笑いをしていた。

 

 

 

 いつもなら羽交い締めなんてされれば怒る一也も今日ばかりは疲労が溜まり抵抗はなかった。

 

「一也は澪や春夏と違い女子に興味がないと思っていたのに、まさか紗夜さんに手を出すなんて。ウチのバンドメンバーは誰一人油断出来ねえじゃねえか」

 

 綾人は気持ちが入り締める力が強まる。

 

「痛いからもうちょい力緩めんか。油断できん言うとるけどあの二人は自分と違うて一直線に走っとるやろ?油断ちゅうかふらふらしとるんは相沢、自分だけや」

 

 澪はともかく以前の春夏なら油断は出来なかっただろう。

 しかし恋を見つけた春夏は横見をせずに進んでいる。

 そんな春夏を油断出来ないと言うのなら、それはライバルとして油断出来ないと言う。

 

「澪と春夏は分かったよ。お前はどうなんだよ」

 

「俺か?それこそありえんやろ。俺が好きなんはキラキラと夢を与えてくれる存在や」

 

「このドルオタが……」

 

「アイドルはええで、相沢にもアイドルの良さ教えたるわ」

 

「お前に教わるのだけは勘弁だ」

 

「なんやつれへんなぁ」

 

 一也は締め上げている綾人から視線を落とし少し先でリサからかわれている紗夜を見る。

 

「お互い大変やな」

 

 同情を誘ったつもりだったが紗夜は首を横に振る。

 

「私は貴方と違いメンバーに悩まされたりはしてません」

 

「紗夜、嬉しいんだけど今チャンスだったんじゃない?」

 

 リサの言葉に紗夜は分かりやすく悔しがる。

 

「羨ましいな。()()の方はメンバーに恵まれとるんか?問題児ばかりのウチとはえらい違いやわ」

 

「ええ、()()と違って私はメンバーに恵まれています。Roseliaなら音楽界の頂点にだってなれるでしょう」

 

「音楽界のトップってえらい大きく出たな」

 

「大きくなんてありません。Roseliaにはそれだけの可能性があります。一也には目標はないのですか?」

 

「俺の目標はパスパレを日本一のアイドルにする事や。……でも紗夜の目標が簡単に叶わんように邪魔するんも面白そうやな」

 

「つまり一也も音楽界の頂点を目指すって事でいいんですね」

 

「こいつとあいつらにやる気があったらの話しやけどな」

 

 バンドとは運命共同体、一人の意思では動かない。それを無理矢理動かそうとすれば気持ち、音楽性の違いで解散もある。

 

「俺はそんなめんどくせえ事はやらねえぞ」

 

 一也を締め上げるだけで傍観に徹していた綾人が吠える。

 

「相沢さん、貴方に拒否権はありません。それとRoseliaの指導者なら私達の為に後の二人を説得して下さい」

 

「いや〜、これでRoseliaも更なる成長に期待かな?」

 

「リサさん、無理矢理話をいい感じに終わらせないで下さい」

 

 綾人は締め上げている一也に視線を落とす。

 今ここで締め落とせば面倒くさい話がなくなるのでは、と綾人は考えるが後が怖く腕に力がかかる事はなかった。

 

 

 

 長い話は終わり紗夜はRoseliaの下に戻り頭を下げていた。

 一也が原因とは言え迷惑をかけた事には変わらない。

 Roseliaは誰一人頭を下げる紗夜を責める事はなかった。寧ろ音楽界の頂点を目指すと宣言した紗夜に称賛が送られていた。

 

 そんな平和なRoseliaとは違い4Cは厳しい。

 

「一也ホントありえねえよ。普通あまり知らない人の傷口をえぐるか?」

 

 厳しいと言っても綾人が一人怒っているだけだ。

 

「俺でも紗夜さんの妹の話はしなかったって言うのによ。一也、なんか言ったらどうだ?って言っても言い返せないだろうけどな」

 

 綾人の表情は生き生きとしており怒っていると言うより、日頃の恨みを晴らしているようだった。

 

「相沢ぁ、自分が本気で怒っとるんやったら分かるけどなぁ」

 

「な、なんだよ」

 

「一也落ち着け」

 

「四季、止めんな!こいつは自分の欲求を満たす為に怒っとるんや!そんな奴ゆるせるかぁ!」

 

 綾人に詰め寄ろうとする一也を春夏はしがみつきながらも懸命に止める。

 

「澪も見てないで止めてくれよ!」

 

 春夏が泣き言をいうが、澪は考え込んでいた。

 

「なぁ一也、どうして氷川さんにあんな事言ったんだ?世話焼きの一也にしてもお節介が過ぎるんじゃないか?」

 

 一也は勉強を教えてくれたり、弁当のおかずを分けてくれるお節介だが、人の心に深く踏み込んだりはしない。

 人との距離を分かった上でお節介を焼くのが渡辺一也だ。

 

「お節介って、お節介でバンドに引きずり込んだ自分にだけは言われたくないわ」

 

 毒気が抜かれたのか一也の動きがピタリと止まる。

 

「でも、らしくはないのは確かやな」

 

「仕方ないんじゃないか?」

 

 澪の言葉に一也は小さく笑う。

 

「ああ、そうやな。俺は紗夜の為やない、推しの為に頑張ったんや」

 

 堂々と格好をつける一也に澪も小さく笑う。

 

「よく言うよ、箱推しのくせに」

 

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