"四代目"Big Red story   作:シンバル・シャンシャン

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8話です。
ダービー前夜とありますが実際はダービーの数週間前です。

余談ですが作者の1番好きな馬は1997年のダービー馬です。


俺、ダービー前夜

ダービーを数週間後に控えた今、俺は行き詰まっていた。

皐月賞で自分には足りないモノがあると思い知らされた。しかし、それが一体何なのかがどれだけ考えても分からない。おかげで最近は調教にもいまいち集中出来ていない状態だ。

集中出来ていない俺を見て疲労が溜まっていると思ったのか、今日はいつもより少しだけ早く調教が終わった。

 

調教が終わった後、俺は馬房に戻ってひたすら考え込んでいた。すると、クマさんが俺のもとにやって来た。何か用だろうか?

 

「イージーゲーム、調子はどうだ?」

 

あまり良くはないかな、体調は問題無いんだけどね。

 

「ハハハ…その感じだとあんまり良くなさそうだな。」

 

クマさんは俺の不調を気遣って来てくれたのかな?別に気を遣わなくて良いのに…。

 

「何しに来たんだって顔をしてるな、今日来たのはイージーゲーム、お前に言いたい事があるんだ。」

 

…?俺に言いたい事?一体何だろうか?

 

「この間の皐月者、俺は途中で下げる様に指示したのに従わなかったよな。何でだ?」

 

それは…弥生賞では前に届かずに負けてしまったから、皐月賞ではもっと前につけた方が良いと思ったんだ。

 

「…何が言いたいのかは分からんが、お前は賢い馬だからお前なりに考えがあったんだろう。」

 

まあ、そういう事だな。

 

「イージーゲーム、お前は騎手の役割は何か知っているか?」

 

騎手の役割……レースで馬に乗ってちゃんとコースに沿って走る様に指示したり、ペースの管理をしたりする事か?

 

「騎手の役割はな、一言で言うなら馬の司令塔だ。

スタートの時は馬に気合いを入れて、コーナリングを促したり、進路を選択したり、直線に入ればムチを打ってスパートをかけさせたりするのが騎手の役割だ。」

 

……………。

 

「お前は賢いからさ自分で全部やろうとする、つまりお前は一頭で一人と一頭分の事をしようとしてるんだ。

でもさ、数分間全力で走りながら他の十数頭の位置を把握しながら展開を予想してその通りに動くなんて無理だと思わないか?」

 

……それは、そうだが…。

 

「だから今度のダービーはさ、俺に任せてくれないか?ダービーの大舞台で他人に全部任せるのは不安かもしれないけどさ。」

 

………。

 

「俺もこれでG1ジョッキーなんだぜ?進路取りとかペース管理、仕掛けのタイミングなんかは全部俺に任せてお前は道中は最後の直線に向けて集中力を高めてさ、直線に入ったら他の馬なんて見ないで全力で少しでも速くゴール板に向かって走ってくれ。俺は振り落とされない様に邪魔にならない程度に掴まってるからさ。」

 

…でも、

 

「俺達騎手はただの重りじゃないんだぞ。」

 

!……そうだな、クマさんの言う事はもっともだ。今まで賢さこそ武器だと思ってたが俺の武器はそれだけじゃねえしな。俺には酒田さんお墨付きの瞬発力とパワーがあるじゃねえか、道中の事はクマさんに任せて直線でパワーと瞬発力を爆発させる。その方がよっぽど賢い選択だぜ。

 

「……まあ、いくら賢いつってもこんな事言って分かるわけないか…。とりあえず、ダービーは頼むよ。」

 

クマさん……大丈夫だ、ちゃんと伝わったぜ。今までごめんな。

 

クマさんが俺の馬房を後にする。

 

 

……今は、自分に足りないモノを考えるよりも今出来る事をするべきだな。よし!そうと決まったら明日の調教から気合い入れてくぞ!!燃やせアメリカ魂だ!!!

 

──────────────────────

酒田Side

 

最近、イージーゲームがやけに気合いが入ってる。

この間まで調教中も上の空だったのに最近では軽めで良いと言っても全力で走ってきやがる。調教でぶっ壊れない様に調整しなきゃな……

 

相変わらず低い体勢で走ろうとするし、それを注意してもキョトンとした顔してやがる。まるでそんな風には走ってないとでも言いたげな顔だ。

 

日本ダービー───日本中のホースマンにとっての夢である競走馬達にとっては一生に一度の大舞台だ。かくいう俺も、日本ダービーを勝つ馬を育てる事が調教師としての夢でもある。

 

イージーゲームは強い馬だ。素質だけなら前年の3冠馬ナリタブライアンにも劣らないと俺は思ってる。そんな馬一生に一度会えるかどうか…いや、殆どの調教師は一生会えないだろう。だからアイツが俺の下に来たのはこの上なく幸運な事なのだ。故に失敗は許されない。

皐月賞は俺のせいで負けた様なものだ、多少の不利や暴走なら跳ね除ける様な強い馬に出来なかった俺のせいだ。同じ失敗はしない、ダービーでは皐月賞以上の不利を受けたとしても圧勝出来る様に仕上げてみせる……怪我はさせられないから無茶は出来ないがな。

 

そんな決意を新たに俺は明日からの調教の事を考え始めた。

 

──────────────────────

 

最近、酒田さんに調教中に怒られる。いい加減USAスペシャルの練習を止めろって。

今はUSAスペシャル不発の理由も考えない様にしてるから調教中は普通に言われた通りの走りを全力でしてるだけなんだけどな……軽めって言ってるのに全力で走るやつがあるかって言われもしたけど。

 

そんなことより今はダービーに向けて1分1秒を無駄にしない様にしないとな。

 




8話終わりです。
要するに余計な事考えずにちゃんと走れって事ですね。
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