【SAO】ハイドGMなのにJCプレイヤーにばれた件について 作:伊葉 翔
「それでは今戦ってる敵を倒し終わったら安全地帯まで移動してくださいー!」
パーティリーダーがそう叫ぶと周囲のプレイヤー達が通路へと移動していく。
ここは浮遊城アインクラッド第七十四層のダンジョンの奥地。
今こうして集まった野良プレイヤー一人一人が流れ作業の用に敵をばっさばさと倒していくが、これが75層からはそうもいかない。
一体相手にフルパーティで挑んでもかなりの時間がかかり、最悪もう一匹の敵がリンクしようものなら退却は必然。その時に戦闘不能……つまり死亡した奴も数多いと言う話を聞く。
「盗賊さん、もう良いですよ」
「はいよ」
盗賊さんと呼ばれた俺は、退避完了したパーティメンバー達とは別の方向へ移動して短剣を投げて
「凄いですね。
通路へ戻ってくると本当に尊敬の眼差しで質問してくる大剣使いがいた。
「両方とも
鼻の下から全身をフードで隠した服装な挙げ句に、
「かなり腕の立つ盗賊さんに見えますけど、それでも七十五層は無理だったんですか?」
「そうだな。やっぱりソロじゃ限界があったんでしばらくここに籠もって装備集めをしてた所さ」
本当は盾役をしてくれた相棒がいたのだが、過去形で語っている地点で察して欲しい。
そんな訳でかれこれ一週間はここに通い詰めてるかもしれない。それほどまでにこの狩り場は美味しすぎた。
敵はすぐに沸くし、経験値は倒し続ければ増えていくし、ドロップ品もエンチャント付きが多くて今の装備よりも強いのがかなり出てくる。おまけに討伐クエストまですぐそばで受けられるのでクリアして更に経験値まで貰える至れり尽くせりな狩り場であった。
「それじゃあ今回はここで解散します。残業する方は気を付けて下さいね」
リーダーの指示でみるみるパーティメンバーのウインドウから名前で消えていく。
確かに美味しい狩り場なのだが、このフィールドだけは制限時間がある上に1日に入れる回数が制限されていたりで、ソロだとどうしても限界がある。
「盗賊さんは残業ですか?」
「ああ、お陰様で入場時間も稼げたからもうひと頑張りさせて貰うさ。大剣使いさんはやっていくのか?」
それをパーティでこなせばクエストの進行度や、入場時間延長などの特殊効果が参加者全員にかかるのでそれを利用させて貰ってこうしてパーティを組んでいた訳だ。
「いえ、今日は他にこなしたいクエストが残ってますのでこれで」
「そうか、またどこかでな」
「はい、有り難うございました」
簡単なやり取りで俺もメニューからパーティ脱退のボタンを押す。
「さて、入場時間が半日になった所で、もう一働きと行きますか」
「で、これが今日の収穫か」
「俺が鑑定できた奴でも、この辺の連中だったら結構良い値で買ってくれる物が多いと思うがどうだ?」
その日の夜、ハゲた頭がトレードマークの斧戦士でもあり買い取り屋でもあるエギルの所へ顔を出す。
「武器と防具自体はありふれた物だが、確かにエンチャントが凄いな」
エギルが鑑定した防具は数カ所だけでも七十四層のフィールド上なら棒立ちで武器を振ってるだけでも勝てるようになる、それぐらいのエンチャント補正がある代物だった。
「これぐらいの装備でも75層は怪しいぐらい敵が強かったからな」
「それとこれ、未鑑定だが俺でも鑑定出来ないな」
と、未鑑定の武器を突っ返される。
「え? 俺からは武器に見えるんだが」
「何? これは武器なのか?」
アイテムの詳細をメニューから確認すると俺からはカテゴリーの項目には武器と書いてある未鑑定アイテムが表示される。
「俺から見たらカテゴリーすら解らん完全未鑑定のアイテムだったぞ? どういう事だ?」
エギルも首を傾げて同じアイテムのメニューを開くと確かにカテゴリーにはアイテム?と表記してあった。
「試しに装備してみたらどうだ?」
気軽に言ってくれるエギルだがさすがにこれは困った。
「装備したら呪われるとかって、まさかないよな?」
「この世界で呪われたアイテムなんて鑑定前から「呪われた」って接頭が着いてるからすぐに解るだろ?」
「そう言えばそうだったな」
それを聞いてこの謎の武器に怪しい単語が着いてない事を確認して、メニューから装備してみる事にした。
「おい、お前その武器!」
俺の右手に短剣の代わりに表示されたアイテムを見て奇声を上げたのはエギルだった。
「なんだよ……これ」
その武器をじっくりと確認すると、この世界にあってはならない物が俺の右手に握られていた。
「……ったく、この世界に来てもう2年か」
うんざりとしながらアルゲードの街を出てすぐのベンチで空を仰ぐ。
「それにしても見た目の良い女用装備ばかり揃ってきやがって……くそっ」
詳細を眺めては溜息をつく。
女性の短剣使い専用装備。いわゆる忍者だのレンジャーだの軽装で絶妙な露出度がウリの装備で見事に俺好み。あの時手鏡さえ使わなければと、今でも思う程後悔していた。
「そうさ、本当ならこれ一式装備して『うおおー! 姉御セクシーだぜー!』とかあいつらに言われてただろうにな」
基本的に男が女キャラを使う場合、大体最低身長最低体重のいわゆるロリキャラで、俺みたいに姉御系キャラの
ロリじゃないのに性別すら変更を認めてくれんとは! と今更ながらあの開発者を憎みつつもこれが女キャラだったときの自分が着れたらなと、更に溜息を深くする。
「ん? なんだあいつら」
視線を元に戻すと、その先には男二人に言い寄られて本気で嫌がっている少女が一人。
「直結厨どもの強引なお誘いってか? まぁ良いや、丁度ウサ晴らしに付き合って貰うとしよう」
俺は頷きながら右手から投げナイフを取り出してメッセージを入れる。
文字の入力ウインドウが出して、表示されたキーボードでカタカタを一言入れ終えた後はひたすらそれをコピーアンドペーストで入力限界まで入れる。
「よし、こんなもんか」
ナイフにメッセージが入った事を確認してこちらから手前の男へ狙いを定めて投げつけると同時に
ナイフを食らった男はすぐにこちら周辺を見渡すも全くこちらに気がつく気配は無く、俺の投げつけた投げナイフを抜いて手元に持った瞬間にその場に倒れる。麻痺毒を塗っていたナイフなのでここまでは計算の内だ。
そして隣の男が投げナイフを拾って俺の書いたメッセージを読むと、途端に全身を真っ青にして叫び出しながら何やら女の名前を叫んで街中へ一目散に走っていった。
最後に麻痺で倒れている男へ少女が一言何かを話した後にこちらへ向かって頭を下げる。まぁ、どうせ見えてないから見知らぬ誰かにお礼を言ったのだろうとこの時はそう思っていた。
「あっはっは! 実に愉快愉快」
街に入り俺の仕掛けた策略にまんまと引っかかって逃げていった連中を思い出す度に、人前だと言うのに思い出し笑いそうになってしまう。
「ん? tellか?」
tell、誰かが直接俺個人に飛ばして来たいわば電話のような形のメッセージログが表示される。
『先ほどのお礼をさせて下さい』
メッセージを飛ばしてきたプレイヤー名はMakotoと表記されていた。名前から見て男に違い無いと思いつつ、さっきいたずらをした2人の男、あるいはそいつの知り合いで知覚スキルが異常に高い誰かが復讐に来たのか。そう考えると、どう返答すれば良いか考えてしまう。
いや、
『何の事ですか?』
だとすればとぼければまず問題ないだろう。そう思っていたが甘かった。
『先ほどナイフを投げてくれましたよね?』
くっ、完全にばれていた。さて、どうする。
『解りました。ではこちらを見つけられたらお話を聞きましょう』
最後のメッセージを飛ばして
「ふう、さすがにバレないと思うが」
途中数カ所寄り道を行って、水上を移動したりワイヤーを使ったりして様々な経路で最後に宿屋の窓から自室に入ったのでこれが解れば相手の
落ち着く暇もなく扉をノックする音が聞こえた。嗅ぎ付けたにしても早すぎる!
その瞬間、再び
街中で
そして扉はいともあっさり開けられた。ある程度予想はできたが今開けられた扉にもかなり高いスキル値で仕掛けたトラップがあるのにも関わらず、すぐに開けられたという事は
「すいませんー、セスさんいらっしゃいますよね?」
最悪死を覚悟した割には気の抜けた少女の声が俺のプレイヤー名を呼びかける。
そして入ってきた相手は先ほど二人の男に言い寄られていた少女の方だった。
装備は俺と同じ軽装型の装備だが、NPCの村娘や商人が着てそうな一般的な飾り気の無い服装で、髪型もこれと言って特徴は無かったが、あえて言うなら後ろで大きめのリボンで束ねた黒髪のお下げな髪型ぐらいか。
「見えてますので
と、目の前までやって来ると俺よりも頭一つほど身長の低い少女が先ほどと同じようにぺこりと礼をする。
「初めまして。ログでもおわかりかと思いますがマコトと言います」
敵意も殺意も感じられなかったが、それでも姿勢を低くしていつでも逃げられる体勢を解かずに相手の動きを見逃さないように警戒していた。
「約束通り話は聞くが、用件は何だ?」
「戦うつもりはないいのでそんなに警戒しないで欲しいんですが、一言で言うなら依頼です。その完璧な
「あんたにばれたんだから完璧でもないだろ。それに
警戒を解きつつも俺個人に依頼をしてきた所から考えて、ペアでの
「いえ、目的は人捜しなんです」
「それなら情報屋にでも聞いた方が早いだろ?」
「はい、その結果貴方の名前が出てきました」
「なん……だと?」
ここ最近マークされるような程怪しい奴と関わった、あるいはマークされたのだろうかと記憶を辿ってもそれらしき覚えは全くない。ここ一週間は野良でパーティを組んでひたすらあそこに籠もってたぐらいなのだから。
「それで、探してる人の特徴は?」
「えっと……それがよく解らないんです。ただ重装型の人だったと情報しか無いので」
「そんな情報で見つかるのか?」
「はい、他に情報があれば私の記憶から掘り起こせるかもしれないので、時間がある時にでも情報収集を手伝って欲しいんですよ」
「なるほどな。でもな……」
言葉に詰まった俺を見て不思議そうに顔を傾げて覗き込んでくる。
正直俺は女運が無い。
ある程度面識のある相手すら敬遠される。いや、面識があればあるほど避けられると言うべきか。
そういや俺の相方と一緒にいたあの女もそうだったなあと思いつつ頭を掻く。
「でも、何ですか?」
あどけない表情でこちらを見つめてくる相手から視線を外して対応に困る。
正直こうして向こうからまともに話しかけてくる女なんて、詐欺トレード以外経験した事がない。
詐欺かどうか確認する方法を考えるも『お前詐欺だろ?』なんて言っても、例えその気があったとしても否定するだろうし意味もなければ逆効果だ。
「依頼って言うぐらいなら報酬とか用意してるんだよな?」
だとすればこちらから先に要求を伝えてみる。これで詐欺の一種であれば『少し待って下さい』系の返答が来る。そう思っていたが……。
「はい、私が体で払います!」
「そうか。体で払うのか……って、体!?」
返答をそのまま返す最中にとんでもない事を口走った事に気がついて、思わず声が裏返ってしまった。
「まっ、待て。そう言うのは心の準備とかそう言うの……あるんだろ?」
「えっと、勘違いしてると思われますので補足しますと、セスさんに必要なアイテムの発掘とか狩りのお手伝いや情報収集を手伝うって意味ですよ? 性的な意味では無いですが、そこら辺はもう少し仲良くなってから考えさせて下さい」
と、さりげなくワンチャンあるような言い草を迷う事無くゆったりと口走る様子が、中学生程度の見た目なのにやけに大人びて見えた。
「あ、ああ。そうだったのか。手伝いを受け付ける時間帯とか条件とかはあるのか?」
「基本は寝ている時以外はいつでも受け付けていますけど、急用があったり場合はご了承下さい」
「そんなに俺に都合の良い内容で良いのか?」
もう一度確認させるも、その意志は揺るぐ間もなく頷いていた。
「はい、現状を考えるとそれが私にとってもベストだと思いましたので」
「そっか……それじゃあ試しに一つ手伝いを頼まれて欲しいって言ったら大丈夫か?」
「解りました。ではどんなお手伝いから始めましょうか?」
そういいながらマコトと名乗った少女は俺へ屈託のない笑顔を見せた。