【SAO】ハイドGMなのにJCプレイヤーにばれた件について 作:伊葉 翔
「それで結局ここに行き着いた訳か」
俺の背中を叩きながら豪快に笑うエギル。
「そう言う事だ。まさに灯台もと暗しって奴だな」
それに合わせて俺も少しだけにやけて買い取り屋にそう答える。
「セスさんの要望をまとめて情報収集をした結果ですが、苦労した割にはなんだかやるせませんね」
と、珍しくつかれたように溜息をつくマコト。
俺が依頼した内容はこうだ。
『俺のユニークスキルを使わないと行けない隠しダンジョンへ同行してくれるメンバーを見つけて欲しい。条件は少数精鋭でかつ秘密を守ってくれそうな奴』
といった依頼なのだが、これを依頼する前に結構紆余曲折があった。
まずは俺のユニークスキルについて。
これは正直話すべきかどうか迷ったが、攻略の際にはどのみち見せる事になるのであらかじめマコトに伝えておく事にした。でもってこの前エギルと未鑑定アイテムについて話が合わなかったのは、俺がいつの間にかこのユニークスキルを持っていた事が原因だった。
まぁ、そのおかげでこいつが装備出来る訳で、これを使えばこれまで行けなかったダンジョンへ行けそうだと今になって思い出してマコトを引き連れて行って確認すると予想通り道が開いて奥へ行けたが、その先の敵が強すぎて二人では全く攻略できそうになく撤退した。
そこでこの条件に合う人を俺とマコトで手分けして探す事になったのだが、それがエギルの店に良く顔を出す奴だと言う事に気がついたのはそれから三日後の話だった。
「お、おいでなすったぞ」
これまでの経緯を思い出しながらも扉の鐘がカランコロンと鳴って約束の相手が姿を現した。
「よっ、エギル! で、あんたがセスさんで良いのかな?」
最初に姿を見せたのが俺よりも少し年下に見える黒髪黒鎧に黒マントの少年。
「キリト君、本当に行くの?」
そしてその後ろから漆黒の剣士の腕を絡ませながらやって来た正反対の白を基調とした鎧、と言うかドレスに近い正装をしたマコトよりも少し年上そうに見える少女の剣士を見て、思わず昔の嫌な思い出が蘇って額にしわを寄せてしまう。
「ああ。俺がセス、呼び捨てで結構だ。こっちがマコトだ。よろしくなキリトさん」
まず目の前にやって来た漆黒の剣士キリトにマントの隙間から左手を出して礼をしているマコトを紹介してから、右手を差し出す。
「こちらこそよろしく。それなら俺も呼び捨てで呼んでくれ」
そう言ってキリトも快く応じて握手をしてくれた。ビーターだの仲間を見殺しにしただの酷い噂しか聞かない有名人でトラブルの一つや二つぐらいは起きるだろうと少し身構えてはいたが、これまでの会釈では何ら問題のない良プレイヤーに見える。やはりこの辺りはどのネトゲでもある有名税かなと思い少しほっとする。
「了解だ。これからよろしく頼む、キリト」
さて、問題は次だ。コブ付きの女が俺に見せる態度ってのはほぼ決まってるんだが……今回は凶と出るか吉と出るか試させて貰うぞ。
「えっと、アスナさんで良いんだよな? よろしく」
続いてキリトの腕を掴んでいる女性の方へ右手を差し出して反応を伺ってみる。
「ねぇ、キリト君?」
チラリと横目で俺を見定めた後、視線どころかキリトの腕から手を離す素振りすら見せず俺を無視して話をしているようで、ものの見事に凶と出た。流石俺だ、例に漏れず石ころ扱いされてるぞ!
「どうしたんだ?」
「この人信用できるの? どう見ても怪しい所だらけなんだけど」
と、まるで全てキリトを通して話せと言わんばかりの避けようで、ぼくがかんがえた【男ができた女のテンプレート】に見事ピッタリとはまるお方であった。
「んー、そうだな。できればセスの装備とか見せて貰えるか?」
そう考えているとキリトから建設的な意見が出てくるがここで一つ疑問が発生する。
「それについてはエギルから聞いてないのか?」
ここに集まるという事はエギルを通して伝えたはずなのだが、どうにも俺の情報が行き渡っていない感じがする。
「何言ってんだ。キリトはもう有名になっちまったから仕方ないとして、セスについては今の所俺とマコトしか知らない情報だし、例えなじみの客にでも俺から話す訳にはいかんだろ?」
そう言われれば確かに納得だ。つまり必要な情報が相手に行き渡っていないのにこちらは相手を知っている。そんな気味の悪い状況で信用してくれ何て言う方がおかしい。
「否定しようが無い意見だ。すまん、恩に着る」
「何、気にするな」
「悪い、順番を考えると先に俺から自己紹介するべきだったな。その前に店の鍵と窓にカーテンをして貰っても良いか?」
両手を引っ込めたマントを揺らしてエギルへ目で訴えると、向こうも禿頭を振って答えてくれる。
「ああ、ここで自己紹介をするならそれは最優先だな」
その後全員で仮店じまいをして、マコトに
「噂では聞いていたが、まさか本当に存在したのか」
俺の武器を見てキリトが驚きの声を上げる。まぁ、エギルなんて奇声で叫んでたぐらい驚いてたしな。
「元からマントは羽織ってたんだが、こんなもんを腰にぶら下げる事になったんで最近は念入りに隠す必要性が出てきたって訳だ」
「それがセスのユニークスキルなのか?」
「ああ、ユニークスキルを持っていないとカテゴリーすら解らないアイテムに見えるらしくてな。おかげでこうやって隠してるだけでバレずに済んでるって感じだな」
と、俺が自己紹介を終えた直後にアスナがキリトの腕を引っ張って呼び止める。次はマコトに紹介をさせる番だったんだが……。
「ねぇ、キリト君?」
「うん? どうした」
「帰ってごはんにしよ?」
怪しいと突っ込まれて、ややこしい状況になったから弁解するべく自己紹介を終えた直後にこの空気の読めない発言。俺とキリトはもちろん、エギルとマコトも唖然としてアスナを見つめている。流石です、先生。でもそれも見事に俺のテンプレートに入ってる行動です、はい。
「えっ? でもこれから予定を聞かないと……」
「大丈夫だよ。今日はとっておきの素材を用意したんだから、早く帰らないと鮮度が落ちちゃうよ」
「参ったな……」
そりゃ参るだろうさ。どっちを選んでもお互いの関係にヒビが入りそうな選択を迫られている訳だしな。だが、このパターンもテンプレート通りの行動なので、キリトが最終的に出す答えも当然ながら俺は知っている。
「そういう事ならすぐに戻った方が良い。後はこっちである程度決めてエギルに伝えておくから、気になる事があれば俺に直接tellでもよこしてくれ」
だからどちらの関係も壊さない返答を促す。こちらの用件は保留にしてくれて構わない、そうした態度を見せるとキリトはすぐに答えを出した。
「すまん、そうさせてもらう。続きは明日でも良いか?」
ああそうさ。迷わずアスナを取るに決まってるよな? 本当にここまで面白いほどテンプレート通りに事が進んでしまうと自分が予言者にでもなったのかと思うほどの高揚感と、あらかじめ伝えておいた約束よりも突発的に出した女の意見を優先され、結局俺は石ころみたいな存在なのかと思うほどの喪失感に何とも言えない気持ちになってしまう。これが正しい価値観って言うなら本気で恋愛なんざしている連中の気が知れないと、改めて思い知らされるハメになってしまった。
「いや、勘違いで時間を取らせた以上謝るのはこっちの方だ。無理に明日じゃなくても良いし、空きそうな時間帯があったらエギルに伝えておいてくれ」
と、無理矢理笑顔を作りながら今すぐ壁をぶん殴りたい気分を、マントの中に隠した拳を握りしめて何とか押さえ込む。
「本当にすまない。埋め合わせは今度させて貰う」
最後にキリトはアスナに引っ張られながらも俺達に頭を下げて店を出て行った。そしてアスナの方は結果的にキリト以外とは一切口を聞かなかった。
「うーん、ずいぶんとアスナに嫌われてたようだが、会う前に何かやらかしたのか?」
あのやり取りは他人から見ても異常に見えたのか、まずエギルが俺に質問を投げてくる。
「いや、やらかすも何も今回が初対面であそこのギルドメンバーと話した事も会った事もないぞ?」
それでもエギルは腕を組んで頷くもそこから更に首を傾げている。まだ何かあるんだろうか?
「それにしてはかなり手慣れた引き下がり方に見えたが?」
そう言う事か、確かにあの空気の中怒らず焦らず冷静に言葉が出せる地点で異常ではあるよな。
「現実でも
「じゃあ、あのままセスが引き下がらなかったらどうなってたんだ?」
それを聞きに来たか。
「多分だが、あのまま俺が引き下がらなかったら
今にも何か言いたそうに俺へ視線を向けているマコトへ掌を差し出してエギルにそう伝える。
「マジ……かよ? マコトも切れそうだったのか?」
エギルがマコトを見るとすぐに髪を揺らしながら何度も頷き始める。
「はい、あの人は初対面の人に対して礼儀が無さ過ぎます。話すタイミングがあれば一言文句を言うつもりでした」
普段はゆったりとした表情のマコトの眉が上がっている。数日の付き合いではあるが始めて見せる顔つきで、これは相当怒っているように見える。どれ、それなら一つ試してやるか。
「ま、言いたい気持ちは解るがマコトだって好きな男ができたらきっとああなるぜ?」
背中を向けながらやれやれと呟きつつ挑発してみる。さて、どんな答えが返ってくるか。
「セスさん。さりげなく失礼な事言ってませんか?」
ほう、迷わず反論に出るか。面白いから顔を見て議論してみようかと思ったが、眉毛を上げたまま目が凄い細くなってすっげー怖いんですけど!
「残念ながら俺の見てきた世界では失礼な事じゃなくて事実さ。だから女は苦手なんだよ」
かなり気迫のこもった表情に思わずもう一度背を向けつつも、俺なりの反論を出す。
「では、もし私に付き合う人が見つかってもセスさんと普通に会話したら、今の台詞が失礼だと認めますか?」
それでも食らいついてくるのか、こいつは。
「その台詞、本当に同じ状況になっても言えたら詫びて撤回してその時持ってる俺の財産全部くれてやるよ」
どうせお前もいずれああなるさ、三度目の正直となれば流石に確証としか言いようの無い俺の結論だ。
「言いましたね?」
声色を低くして語尾を上げ、今すぐにでも喧嘩を売ってきそうな口調でマコトが問いただしてくる。
「ああ、言ったな」
無駄さ。お前ほど真面目……いや、真面目な奴ほどハマったら間違いなくああなるに決まってる。
「セスさんこそ今言った台詞。絶対に忘れないで下さいね?」
「当然だ。どうせできないだろうしこれぐらい言っても問題はねえ」
結局この日は計画を立てられずに解散する事になった。マコトの事ならあのぐらいの挑発でもさらっと受け流すと思われたが、何故あそこまで食いついてきたのか俺の安眠を妨害するには充分過ぎる謎であった。