【SAO】ハイドGMなのにJCプレイヤーにばれた件について   作:伊葉 翔

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3話 疑心

「……スさん?」

 体が揺れる。一体何が起きているのかと意識がはっきりとしないまま目を開けると、お下げで整った黒髪の少女、つまりマコトが目の前にいた。

「あ、ああ? ああ……」

 そう言えば昨日、エギルの店でマコトと意地の張り合いになってからすぐに一人で帰って寝たんだっけか。

「今日は何か用事でもあるのか?」

 昨日あれだけ怒っていたのにもかかわらず、マコトの表情は穏やかな通常営業モードになっていた。

「はい、結局ダンジョン攻略の計画が立てられませんでしたから」

 そうだ! 昨日寝る前にあの出来事をゆっくりと思い出しながら、今度マコトにあったら何と答えようかと結論を出したら意識が飛んだんだった。

「マコト……?」

 この時見せた俺の表情がいつになく真面目だったのか、マコトは俺を見て大きな目を更に開いてぱちくりとさせている。

「はい、何でしょう?」

 不思議そうに返答するマコトに、俺はベッドから体を起こして座った状態から深く頭を下げる。

「すまん、昨日は言いすぎた。もっと簡単に受け流してくれるとばかり思ってたんだが」

 女に散々騙されてきたが、ここまで真剣に俺に対してぶつかってくる相手ならそれこそ男でも女でも関係無しで信用したい。だからまだ俺に女を信じる希望を持たせて欲しい。それを踏まえた上での謝罪だった。

「その件に関しては私も謝ろうかと思ってました。こちらこそ冷静さを失って申し訳ありませんでした」

 マコトもしゃがみ込んで俺の下げた頭に視線を合わせて頭を下げる。向こうも非を認めてくれたという事は、こちらもそれなりに信頼されているのだろうなと何となくだが思いこむ。

「それじゃあ、何からやれば良いんだ?」

「私の方で計画を考えましたので、後はセスさんが確認して問題なければこのままで行こうと思います」

 メニューを出して俺にメモ帳のウインドウを開いて見せてくれる。

「了解だ、確認させて貰うぞ」

「はい、お願いします」

 以前二人で探索して開拓(マッピング)した地図に、配置されていたモンスターの特徴を書き記し、どのタイミングで何をどうすれば良いのか、攻略手順が抜かりなく詰め込まれていた。

「……すげえな。これ一日で作ったのか?」

 どう考えても一日でまとめる情報量にしては多すぎるし、こんな事を顔色一つ変えずにやってのけたのであれば天才か!? と思ったがマコトは笑顔で首を横に振る。

「流石に一日じゃ無理ですよ。セスさんと探索に行った日から、いろんな人から情報を集めて作成してたんです。これで予想外のパターンにもある程度対処できると思いますよ」

 そうなれば実質四日ほどで作成した事にあるが、昼間はずっと俺と一緒に行動していた訳で解散した夜から朝に書けて一生懸命こしらえた事になる。

「なるほどな、申し分ない出来だよ。後はあの二人に見せて問題無ければ出発だな」

 そんなマコトが作った計画表を見てただ頷く事しかできない、それほどまで完成された代物だった。

「解りました。早速エギルさんに手配して貰えるように伝えておきますね」

 そして嬉しそうに両手を合わせてから、部屋の外へ一目散に駆けだして行く様子を見てこの辺りはやっぱり若い女の子なのだなと思いつつ、まどろんだままの意識をそのままベッドに預ける事にした。

 

「と、言う訳でここから先は計画書の通りで頼む」

「解った、よろしく頼む」

 マコトがエギルに用件を伝えてから結局二日後になったが、こうして当初の予定通り四人で俺がユニークスキルを使って入り口を開けた隠しダンジョンに挑める事ができた。ただ、不安の材料が少しだけ残ったままだが……。

「こんなの無くてもキリト君なら一人で全部片づけられるわ。ね、キリト君?」

 全員に配ったマコトのメモを一人だけ閉じて、メモの作成者へ流し目を向けながらもキリトの腕を引っ張って出発してしまうアスナさん。

 本来なら俺達が前衛に出て、敵の情報が変わってないか確認をしてからキリト達にスイッチしてから敵の殲滅を基本戦術にしますとマコトが親切ご丁寧に動くメンバーの順番も書いてあったのだが、やはり聞いてはくれないようである。

「まったく、ゲームクリアに最も近いお二方だから問題は無いと思うが……」

 どうやって追いかけようかと思考を巡らせるまも無く、今度は俺もマコトに勢いよく腕を掴まれ引っ張られる。

「うおっ!」

「行きましょう。一瞬で追いついて一泡吹かせましょう」

 ちょっと待った、なんかマコトの口調にめっちゃ殺気がこもってるんですけど!?

「ちょいちょいちょい! そんなに引っ張らなくても行くって」

「いえ、こうなってしまっては一刻の猶予もありません。本気で走って下さい」

 体勢を崩されたまま、俺の頭はどうしてこうなったと原因究明のため必死になりすぎて、あれだけ強い敵がうごめく中で道中何をどうやって切り抜けたのか全く覚えていなかった。ただ一つ言える事はこの時のマコトの集中力がこの時だけは異常に高く、急所突きを毎回確実に決めて恐ろしい勢いで敵を葬り去っていた事ぐらいしか記憶に留めていなかったという事ぐらいだった。

 

「やっぱりキリト君は最強だね。もう着いちゃった!」

 隠しダンジョンの最深部、ここだけ異質な何もない真っ白な四角い部屋に一つだけ宝箱が置いてある部屋だった。そこへ俺達が着いた事を確認すると、挨拶代わりに自分の相方を褒めちぎっているアスナさん。

 流石にトッププレイヤーなだけあって攻略速度が俺の予想を遙かに超えていて、ここまで駆け足で宝箱まで辿り着いたのなら、確かにキリト一人でどうとでもなったかもしれない。

 そんなアスナさんの台詞に釣られて殺気を漂わせたマコトが俺の前に出るが、このまま止めないと間違いなくグダグダのキャットファイトが展開されるので俺はすかさずマコトの肩を掴んでそれを制した。

「お二人ともお疲れ様。こっちの力及ばずだったようで迷惑をかけた、すまない」

 止められたマコトが凄く文句を言いたそうに額にしわを寄せてこちらを睨み付けてくるが、謝罪は後でする事にしてひとまず話を進める事にした。

「正直俺もアスナに乗せられてちょっと無茶をしすぎた。だから気にしないでくれ」

 そう言うキリトも肩で荒い息をしていた。確かに向こうさんも俺と同じく無茶をさせられたみたいで、流石にこれは向こうにも同情せざるを得ない。

「了解だ。それじゃあ早速その宝箱はそっちが開けてくれ」

 キリト達に宝箱を開けて貰うと俺とマコトの戦利品画面にもアイテムが保留(プール)される。

「お、片手剣に細剣、短剣と未鑑定のこれは俺の武器か」

 品目はそれぞれのパーティメンバーの持っている一番高いスキルの武器が出てきたようだ。

「片手剣はキリト、細剣はアスナさん、短剣はマコトで、未鑑定のこれは俺が取得って事で良いか?」

「それで問題ない」

「解ったわ」

「解りました」

 財産に関わる事でかつ二人の返答の最中ではあるが、アスナさんが珍しく俺の呼びかけに答えてくれた事が少しだけ嬉しかったと思いつつ、まだ戦利品の画面に残っている素材を見ながらこの先の事を考えていた。

「それじゃあ残りの素材だが……」

 残りのアイテムは一まとまり(スタック)の金属系素材二種類。九九個で一まとまり(スタック)の品なので四人で分配すると、どうしても一人だけ二四個になってしまう。

「すごいね。これあったら武器も強化できるし家具も一式揃っちゃうよ、キリト君!」

「あ、ああ……武器は何とか鍛えられそうだな」

 特に問題の無さそうな発言に見えるが、キリトとアスナさんが装備している武器の(テカ)り具合を見る限り、四人で分配した数では武器の強化だけで素材を使い果たしてしまうだろう。それを予想した上でキリトもどうしようかと首を傾げている。

 つまり次にアスナさんから飛んでくる言葉は大方予想できるので、ここは面倒事を回避する立ち回りで行かせて貰うとしよう。

「そうだな、素材はそっちさんで全部持って行ってくれ。それで足りるだろ?」

 俺達が競争に負けた事を理由に素材を全部よこせ、みたいな流れになると踏んで先手を打たせて貰う。

「ちょっ、セスさん!?」

「おいおい、本気なのか?」

 納得のいかない様子で声を荒げるマコトと、気の抜けた口調で聞いてくるキリト。

 まぁ俺を奇特な人みたいな目で見るのは普通の反応だよな。アスナさんだけは当たり前のように視線をこちらに向けずにキリトへ向けてる事から考えて、まぁおおむね予想通りなのだろう。

「ああ、正直ダンジョンに入ってから俺達は全く仕事できてなかったしな」

「それはお互い様だったじゃないか。そんなに遠慮しなくても……」

 気遣ってくれるキリトの言葉が有り難かったが、俺はその言葉を言い終える前にメニューからマコトを追放(キック)してからパーティ脱退ボタンを押した。

「ほら、これで残りは全部そっちのもんだ」

「セスさん! いい加減にして下さ……」

「本当にすまん! 話は後で聞くから、ここは穏便に済ませて先に戻って貰えないか?」

 とにかくマコトにはひたすら謝って引き延ばし作戦! 何とか理解して貰えたのか、一度大きな溜息をついてからも何とか首を縦に振ってくれた。

「解りました。その代わり、後で理由をしっかり話して貰いますからね?」

「ああ、助かる」

 納得のいかない様子で顔をしかめながらもマコトは転移結晶を使って戻って行った。悪いな、どうしても事態が混乱する前に確認しておきたい事があるんだ。

「それじゃあキリト君。私もこれで」

 まずい! 一番話を聞きたい相手がいきなり帰るとは!

 いや、この状況を考えると帰るのが普通か。

 くそ! どうしたら良い。どうやって呼び止めれば止まってくれる!?

「くっ……」

 そして結局一言も呼び止める言葉が思い浮かばず、戦利品を確認したアスナさんが雪崩れるように転移結晶で帰って行く。

 エギルからアスナさんは普段こんなにおかしな態度は取らないという情報を貰い、それならばと本人に直接聞いて可能ならこの悪い空気が発生する原因を何とかしようとばかり思っていたのだが、その計画もあっさりと失敗に終わる。

「セス。俺から一つ話したい事があるんだが少し時間あるか?」

 もし次があればどうやって引き留めようかと、呆けた顔で白い天井を仰いでいると今度は何故かキリトから話が持ちかけられる。

「おっとキリトから話があるなんて初めてだが、どうしたんだ?」

 まさかこんな高レベルプレイヤーから用件以外で話を持ちかけられるとは、期待半分不安半分でキリトの声に耳を傾ける事にした。

「セスと一緒にいるマコトって娘についてなんだが」

「ん、マコトがどうかしたのか?」

 

 

 

「マジ……なのか?」

 キリトから告げられた内容はあまりにも残酷だった。

「ああ、血盟騎士団内でも名前を聞いたって情報があったんだ」

 しかしその情報の出もとがSAO(ここ)で最高クラスのギルドからだって言うんだから否定のしようがない。

「それでアスナさんの態度があそこまで酷かったって事か?」

 確かにそれが事実だったと考えるならあの態度も納得だった。

「正解だ。俺の事が心配なのは解るんだが、やりすぎだって何度か言ってもあんな感じでちょっと困ってる」

「だから一緒にいる俺も怪しいって言ってたのか」

「そう言う事さ。まぁ、これでセスは無実って事が解ったからアスナの代わりに謝らせて欲しいのと、あの娘にだけは気を付けた方が良い。それを伝えたかったんだ」

 これは帰ってから俺がマコトに謝るどころの騒ぎじゃ無くなってきた。首筋から嫌な汗が流れ落ちる感覚が更に俺の気を動転させる。

「そうか、わざわざ忠告してくれて助かる。詫びなんていらないぐらいありがたい情報だった」

 一刻も早くマコトにこの話を聞いておくべきだと思いすぐに転移結晶を取り出すと、キリトが止めに入ってきた。

「もう戻るのか? 先に俺達の所で情報を集める方が良いと思うが」

 確かにキリトの提案はおそらく一番俺が取るべき手段なのだろう。

「気持ちだけ貰っておく。一番クリアに近い連中をこれ以上足止めさせる訳にはいかんしな」

 だがそんな話を聞いてしまっては、すぐにでも確認してこの情報が嘘だと確認したい。もし本当だった場合は……いや、そんな事考えたくもない。考えたくもないし嘘に決まってる!

「解った。セスのユニークスキルで行けそうな隠しダンジョンを見つけたら付き合って貰うから……死ぬなよ」

 そしてキリトの方から右手を差し出してきた。

「ああ、そっちこそ必ずこのくそったれたゲームをクリアしてくれよ」

 俺は迷わずその右手を握りしめて、揺るぎない友情を確認してから転移結晶で宿屋へと戻った。

 

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