【SAO】ハイドGMなのにJCプレイヤーにばれた件について 作:伊葉 翔
「あ、セスさんお帰りなさい」
転移結晶で戻った先は宿屋の部屋へ通じる扉の目前。
俺の姿を確認すると、側の壁を背にして座っていたマコトが立ち上がって笑顔で俺を出迎えてくれる。
「ああ、今戻った……」
それ以外に何か言うべきなんだろうが、今はそんな言葉すら思い浮かばないほど、俺の頭の中は事実を確認したいと思う気持ちで一杯のまま自室の扉を開けてると、後ろからマコトがお邪魔しますと言いながら入ってくる。
「さて、それでは先ほど一方的に戦利品を破棄した理由をお話して頂けますか?」
出迎えてくれた笑顔がいつの間にか険しくなり、マコトはベッドに腰を下ろした俺に視線を向けている。表情がコロコロと変わる様子は見てて面白いが、キリトの一言を思い出す度にその表情が全部偽物ではないのだろうかとたまらず不安になる。
いや、ここで不安になってどうするんだよ、俺は! キリトの情報は嘘だったと証明をする為に戻ってきたんだろうが。
「最初にアスナさんと話した時と一緒さ。面倒事にならないならそれが一番だろ?」
「それは解ってますが、まだ交渉できる余地はあったと思います」
口調を強くして距離を詰めてくるマコト。一生懸命怒ってくれているようだが……何故だろう、信じようとすればするほどその態度が胡散臭く見えてしまう。
「あの様子からして交渉は無理だよ。こっちの話を全く聞くつもり無い訳だしな」
何だよ、何なんだよ! 信じるって決めて戻ってきたのに、何でこんなにマコトが俺を嘲笑ってるように見えるんだよ!?
「ですが、向こうは一度確認した計画を守らなかったんですよ? あんな勝手な行動を許した上に譲歩するとか信じられません!」
マコトが更に声を荒げて俺に食ってかかる。本気で怒っている様子を確認しながらも、俺は他人事のように冷静にその様子を見届けていた。それこそ演劇を見ている観客のような気分、つまりマコトの表情や態度は全て演技なのだと、俺の中で決めつけてしまったようだった。
「まぁそうだな。ただ、それでも結果オーライだったのは事実だ。仕方ねえよ」
「仕方ないじゃありませんよ! どうして……そんなに投げ槍なんですか?」
涙を貯めて今にも泣きそうなマコトを見ても俺の感情は一切揺れ動かなかった。
ああ、だめだ。俺はもう完全にこいつを信じる事ができなくなっていた。いや、よくよく考えると元から信じる気など無かったのかもしれない。
「他のゲームでも嫌ってほど経験したが、戦利品でもめるのは良くある事なんだよ」
キリトの情報収集を断ったのはいち早く信じたいんじゃなくて、結局は俺が真実を受け入れる勇気がなかったからだと今更ながら理解する。
「そして強欲に主張した奴が男付きの女だったりしたら、そりゃもう酷いもんさ」
だから遠回しに一度真実を知ってしまうより、すぐに結果を見て傷ついた方が痛手は少ない。そう思っていたからなのだろう。
「明らかに女側が悪いのに、相方の男まで巻き込んでの大喧嘩なんてもう見飽きたぐらい経験してきたよ」
そう考えながら、過去に会った嫌な女の思い出を恨み辛みマコトにぶつけていく。
「
「ちょっと待って下さい! その話……」
ああもう、いい加減にしろ。俺の話を止めてまで演技を続けたいのなら、その化けの皮をさっさと剥いでやるよ!
「だからもう良いだろ。俺がユニークスキル持ちだからレアアイテムを大量に発掘してくれる事を期待してたんだろうが、金目のモノを狙うならもっと別の奴にするんだな、
やれやれ、トレード詐欺の次は
「もう……知ってしまったんですね。近い内に私からお話するつもりでしたが……」
マコトは申し訳なさそう視線を落とす。やはりキリトの情報は正解だったか。
「『近い内』じゃなくて『俺を殺す前』の間違いだろ? マコトの調査が終わったら、その情報を元に必要最小限の部隊を送り込んでターゲットを殺して金目の物を回収してギルドの強化と軍資金に充てる、か。ホント上手く考えたもんだぜ」
「違います!」
一生懸命首を振りながら涙を零すマコトを見て、呆れるよりも今度は殺意が沸いてくる。ここまで騙しておいて泣いて謝って済むと思ってるのかよ。
「だったら俺を納得させる反論をしてみろ。できなかったら今すぐお前を圏外に連れ出してぶっ殺す」
諜報員である事はつまりギルドの目として働いてる訳で、今後誰かがゲームクリアするまでここのギルドに命を狙われ続けるとすれば、ここで一人でもその役割をしている奴を潰しておかなければ俺の生存率が確実に下がってしまう。
だから女子供相手でも容赦している余裕なんて無い、それが
それとマコトと一緒に探索をしていた時に一つ解った事がある。こいつの探索系スキルは俺と同等かそれ以上だが、それとは対称的に俺の得意とする隠蔽関係のスキルはそれほど高くない。それこそ俺と丁度対照的な構成になっている為、向こうが
「解りました。お話を聞いてからセスさんが判断して下さい」
逃げられない事を覚悟したのか、マコトはまだ頬に残っていた涙を拭いながらも俺をしっかり見据えていた。
しばらくは泣きやまないと思っていたがすぐに表情を戻すとは驚きだ。年齢は多く見積もっても中学生、最悪小学生と言われても驚かないほど小柄で童顔なマコトの年相応には見えない切り替えの早さと演技力……いや、度胸と言うべきか。命がかかった脅しに動じない上に、女の武器を捨ててまで俺を説得するって訳か。良い根性してるじゃねえか。これで俺に本当に敵意が無いのであれば少しは女って奴を見直せるんだが。
「じゃあ話してみろ」
どんな内容で俺を説得してくるのか聞いてみようと、俺が頭を少し落としてマコトに視線を合わせるとちょっと待って下さいと言いながら鼻をかんでいた。ったく、根性があるというよりも緊張感が足りないだけなんじゃねえかと少しだけ気を緩めて考えてしまうも、まだこいつは敵だという事実には変わりない。
「はい、イリオスと言うプレイヤーはご存じですか?」
ほう。ずいぶんと興味深い名前を出してきやがったな。三ヶ月ぐらい前に死亡した俺の相棒の名前だが、よくよく考えて見れば諜報員ならそれぐらい知ってて当たり前か。
「知ってるな。続けてくれ」
ならば俺から話す必要もなく情報が出てくるはずなので、ここはマコトの話すがまま聞いてやるとしよう。
「私がイリオスの妹と言っても、この時点で信じてくれと言うには情報が足りなさすぎますよね」
唐突に結論から来たか。確かに面倒を見てる家族がいるとは言っていたが、具体的にはどんな奴か聞いてなかったな。てっきり爺さんか婆さんだとばかり思っていたばかりに、これが本当なら驚きの事実って事になるが……。
「確かに足りないな。
正直かなり曖昧で相手にとっても非常に難しい証拠を求めているが、命を狙ってきている相手の弁解ならこれぐらい通させて貰おう。さて、どう出る?
「セスさんになら、兄が
む、わざわざ難解な情報を指定してくるとは。それならその情報とやらを聞かせて貰おう。
「そうだな。
「ではそうしましょう。セスさん、ずっと兄に女嫌いを治せって言われてましたよね?」
「ぐっ……」
確かにその台詞は俺とあいつの二人で話す時、いつも口癖のように言ってた台詞だ。他に知ってる奴がいるとしたら
「確かに言ってたな。それに俺とあいつしか知らない情報に違いない」
じっくり考えても否定できる情報が出てこない。だとすればマコトがイリオスの妹だと言う事実は認めざるを得ないが、それでも俺の疑惑が晴れた訳ではない。
「マコトが相棒の妹だって事は解った。じゃあ何でその妹が
何よりこの事実が重要だ。どちらにせよこれが事実なら俺の命が狙われているという事には違いない訳だしな。
「はい、それに関しては兄の行方を追っていく内に行き着いたんです」
「
「それは兄が
「な……に?」
自分でも言葉が詰まるほどあり得ない事実だった。俺の相棒を好き勝手に利用した挙げ句に殺したあのクソ女の名前。フレンドすら拒否しやがったもんだから足取りが終えず、事件の後に姿を消したんでてっきり一緒に死んだとばかり思っていたが、俺に一言も告げずにのうのうと生きてる上にPKギルドに所属しているだと?
「シェラさんとセスさんの名前は兄から聞いていました。でも、自分でも兄の足取りを一つでも見つけられないかと探索系のスキルを上げていたんですが、層が違うとtellも届かなかったのでお二人がどこにいるのかずっと探した結果、最初に会えた人はシェラさんでした」
「で、シェラに会って何をしたんだ?」
話の流れから考えて返ってくる言葉を予想した俺の表情が解ったのか、マコトはその通りですと言わんばかりに頷く。
「兄についての情報を求めた所、交換条件を持ちかけられました」
「そこで調査の手伝いをしたって事か?」
確かに今まで話した内容と辻褄は合っている。この地点で信用しても良い内容だが最後まで聞いてから判断しよう。それに俺の知らない情報だらけだしな。
「はい、あくまでシェラさんと個人的な取引だったのでギルドに所属こそしていませんでしたが、殺害対象者の装備や交友関係までの身辺調査をしてその情報を渡していました。それと交換で徐々に兄の話を聞けて、最後にセスさんの情報を教えて貰ったんですが……」
「シェラの奴は俺の事を何て言ってたんだ?」
どうせロクでもない内容に決まってるが、何と見下してきたのかやはり気になる所だ。
「『今すぐにでも殺したい恋人の仇』と言っていました」
「はぁ!? あいつ散々俺の相棒を振り回してたクセにそんなふざけた事抜かしたのかよ」
思わず大声を上げてしまった。いくらなんでも一方的すぎるぞ。
「ですので、兄はセスさんが良い人だって言ってましたがシェラさんの言葉を聞いて一度考え直して、最初はセスさんを殺すつもりで調査していました……」
「で、調査中に変な連中に絡まれてる所を俺が偶然助けて考えが揺らいだって所か?」
「はい、悪い人には見えませんでしたので調査してから判断しようと思って、今日に至るまでお付き合いさせて頂きましたが……やはり兄の言っていた事が正しかったようです」
最後に大きな溜息をしてマコトが自分の短剣を取り出して地面に置く。
「これが私が知ってる全ての情報です。後は……セスさんの判断に任せます。それでも私が信じられなければ煮るなり焼くなり好きにして下さい」
そしてその短剣を俺の足下へ転がすように投げ渡してきた。
「なるほどな……」
話に整合性が取れていた上に口調には一切の迷いが無かった。だが、持ち前の度胸がなせる技で無理矢理通したのだとすれば、油断一つで寝首を欠かれる可能性は未だに否定できない。
「じゃあそのまま着いてきてくれ」
マコトが俺に預けた短剣を確保してから立ち上がって、顔で表へ出ろと誘導する。
「はい」
もしマコトが監視されてるとすれば正体がばれた地点で、
「あの、何をするつもりなんですか?」
目的もなくダラダラと郊外を歩いて行く内に、人気の無い場所まで来てしまった。流石にマコトも何をされるか不安になったのか、郊外に出てから初めて口を開くも本当に何も起きない。まさか、反撃用に用意した俺の仕込みがバレてるのか? そうなると俺の方から隙を晒すしか無いって事になるが……。
「こう言う事だよ」
すかさずマコトの後ろに回り込み、腕で首を掴んでそのまま押し倒して首元に短剣を突き付ける。
「うっ!」
かなり強烈に叩き付けたおかげか、苦しそうな呻き声と共に何度も咳き込んでいる。敵さんからすれば俺を殺す絶好のチャンスだが、それでも人の気配はこれっぽっちも俺の
「やっぱり……ダメでしたか。当然の報いですよね、最初に疑ってかかったのは私の方なんですから」
まさにこれから殺されるというのにマコトの表情は穏やかだった。それはまるで死にたがっている余命幾ばくもない病人のように、笑顔で涙を零していた。
「死ぬのは怖くないんです、だってもう私は死んだようなものですから」
ここまでやってマコトからが反撃どころかか逃げもしない挙げ句に、敵も来ないという事は……やはり白か?
「それなら何で泣いてるんだ。怖くないんだろ?」
くそっ、ここまで来て白って事は俺はとんでもない悪党じゃねえかよ! それにマコトもなんでそんなに達観してるんだよ。
「悲しいのはセスさんを傷つけたまま終わってしまったからです。もう謝っても許されないのは百も承知ですが、私を殺すのであれば最後に一つだけ……」
あー、やめだやめだ! これ以上は性に合わん! ここまで誠実そうな奴をこれ以上騙して傷つけるなんて俺にはできねえ。どうやら俺にはチンケな小悪党がお似合いって話だわ、間違いねえ。
「そんな遺言誰が聞くかよ」
すぐに突き付けた短剣を戻してマコトを起きあがらせる。
これで後ろから敵さんか、隠し武器を持ってたマコトが刺して来ても怒りもしないし恨みもしないわ。もし騙された事が解ったとしても悪党になりきれずに殺せなかった俺の負けだよ。
「セスさん……」
「何だ? 俺を殺すつもりなら好きにしてくれ。もう完全に隙だらけだぞっと」
武器の装備を外して、わざとマコトへ背中を向けて両手を上げる。
「いえ、そういう事じゃないんですが一言だけ良いですか?」
「ああ、一言じゃなくても良いから好きなだけ言ってくれ」
「では。セスさん嘘が下手ですね?」
「へっ?」
「私を押さえつけた時の気迫が、先ほど問いつめてきた時と比べて全然無かったですよ?」
うーんと呟きながら、何が足りないんでしょうと考え込んでいるマコト。
「いつから気が付いてたんだ?」
「押さえつけられた時の言葉を聞いてすぐに解りましたよ」
「じゃあ何ですぐに言わなかったんだよ?」
俺の疑問にマコトはすかさず頷いて人差し指を立てる。
「あそこまで話して信じて貰えなかったのが悔しかったのと、ついでだったので言いたかった事を言わせて貰う形でお返しをさせて頂きました」
と言いつつ舌をぺろっと出す。
「くっ、騙しやがったな!」
「それはお互い様ですよ?」
そして笑顔で元気よく俺の背中を叩いてくる。
こいつ、どうやら度胸が据わってるだけじゃなく予想に反しての演技派だった。だが、これで少しだけ女を信じてみようと思ったと同時に、いざとなれば演技もできる更なる恐怖も植え付けられた感じがしてならなかった。