【SAO】ハイドGMなのにJCプレイヤーにばれた件について 作:伊葉 翔
「ここです」
それからマコトが俺に投げ捨ててきた短剣を返すとすぐに着いてきて欲しいと言われ、そのまま着いてきたのが四十八層の宿屋の一室へと繋がる扉だった。
マコトが扉に触れるとパスワード確認のウィンドウが現れるが、全く考える様子を見せずに手慣れた手つきでパスワードを入力していく。
「セスさん、後はお願いします」
そして俺へお願いをするようだが何をすれば良いのだろうかと、表示されたウィンドウを確認するとその謎はすぐに解決した。
「俺のプレイヤーIDと……名前?」
そのウインドウには『対象のIDとプレイヤー名の人がアクセスして下さい』という文字の下に俺のプレイヤーIDとキャラ名が載っている、いわゆる認証型のロックだ。
本当に俺がやっても良いのかと、マコトの方を見るとすぐにやって下さいと側で頷いて俺に答えてくる。もしこれが罠だとしても、マコトがここまで近くに寄り添ってきたら巻き添えは避けられないのでその可能性は無さそうだ。それならばと画面をタッチするとすぐに『認証しました』と画面が切り替わって、ドアノブからガチャリと解錠されたらしき音が鳴った。
「では入りましょう」
罠でない事を見せる為か、先にマコトが扉を開けて部屋の中へ入っていく。
俺もすぐに後を追いかけて部屋に入ったが、そこは入り口のすぐ横の棚に浮いている三角錐型のメッセージボックス以外は、これと言って家具もアイテムも置いていない特徴のない
「セスさん、このメッセージボックスを開いて貰えますか?」
これもまた何故俺なのだろうかとメッセージボックスを見ると、そこに表示されたコメントが『セスへ』なんて書いてある以上は確かに俺が開けるべきなんだろう。
「じゃあ、開けるぜ?」
「はい、お願いします」
マコトに言われるがままメッセージボックスを開いて動画を確認すると、まず最初に現れたのがソファーに座る茶髪の角刈りの重戦士……俺の相棒だったイリオスの姿だった。
『よう、相棒。元気してるか? これが消されずに見られてるって事は、俺が死んだ後にマコトの馬鹿たれが俺のナーヴギアを使って、セスに迷惑かけに行ってここに行き着いたはずだと思う』
「ちょっと待った。あいつのナーヴギアで乗り込んできたって……マジかよ?」
イリオスからすぐにマコトの名前が出たので確信を持てて一安心したのも束の間、思わずメッセージボックスの再生を止めてマコトへ問いただす。
「はい、その通りです。入るまでが前途多難でしたが、何とかなりました」
「何でわざわざそんな苦労してまでこんな所に来たんだ? それこそ
その疑問にマコトはただゆっくりと歩いてメッセージボックスの再生ボタンへ手を伸ばして、俺を見つめてくる。
「おそらくその疑問も兄の方から話してくれると思いますので、続きを再生しても良いですか? その方がセスさんも納得してくれると思いますので」
「……ああ、解った」
確かに色々知りたい情報が多すぎて混乱してしまったが、確かにそれが一番の得策に思えたのでマコトの意見に乗る事にして首を縦に振った。
『真琴とはもう会って色々話してるかもしれんが、俺の従妹だ。ただ、かなり昔から俺の家で引き取ってずっと一緒に暮らしてるんで家族ってか妹みたいなもんだな』
従妹ってか確かにその言い草だと妹ってのも納得だが、その先にはどんな内容が出てくるのか普段よりも集中してイリオスの残したメッセージに見入る事にした。
『引き取った経緯に関しては、叔母さんが旦那の浮気で離婚してから病んじまってな。まだ物心付いてない真琴に虐待し始めたもんだから隔離してこっちに引き取ったって訳だ』
こんな明るい奴にそんな壮絶な過去が? それこそ一昔前の主人公みたいな強靭な精神力だな。
『でもって俺の方も親が両方やたら忙しくて家にいない日の方が多い。そのせいか真琴が頼れる相手は事実上俺しかいないみたいでな。彼氏でも作ってくれたらもうこんな事態にならんかったかもしれんのに』
と、溜息をするイリオス。おいおい、そこまで仲睦まじいならお前が彼氏になれや! と握り拳を作ってその画面を睨み付けると、俺の思いを予想したかのように人差し指を振ってチッチッと舌を鳴らす。
『セスの事だから俺が彼氏になれよって言うだろう。だが、それもなかなか上手くいかなくてな。真琴の方が俺の事を叔母さんから救ってくれた恩人という見解のまま、俺と絶妙な壁を作って困ってるんだよ』
マコトが壁を作ってる? 俺に対する態度を見てる感じだと、とてもそんな風には見えなかったが……。
『つまり、真琴の命の恩人らしい俺が
溜息をつく動画のイリオスを見ながらも俺は頭の中でマコトの記憶を辿る。確かにマコトを追いつめた時『私はすでに死んだようなもの』と言っていた。かなり引っかかる言葉だったがこうして唯一気の許せる家族が死んだら、そんな事言いたくなるのも充分解る。
『真琴の紹介はここまでにしておいて、本題の俺が死ぬと思われる理由を話しておこう』
お、ついに本題が来たか。俺の推理がどこまで正しいか確認してみるとしよう。
『大方セスの方も予想してるとは思うがシェラが俺の命……というかコイツを狙っている』
と、イリオスが
『俺がシェラの部屋に忘れ物をした時に会話してるのを聞いちまってな。あいつが
シェラに関しては間違いなかったが、相棒が狙われる理由は完全に初耳だった。なんでそんな平凡そうなユニーク装備で命を狙う必要があるんだ?
『このユニークアイテムはいわゆるセット効果があるんだが、どの装備でセット効果が現れるかは装備してる奴にしか解らない。この際だから教えておくとセスが装備してる腕輪なんだが、その効果が攻撃速度関係の性能がアホみたいに上がる奴でな。最前線の攻略組ですら喉から手が出るほど欲しい効果だと思う』
腕輪の方は同じ七十層のダンジョンで俺が宝箱を開けた時に手に入った代物だが、セット効果があるなんてこれも初耳だ。これにも攻撃速度上昇の効果がかなり高めに付いてるのだが、あのセットで更に上がるとなると俺の戦闘力は倍近くになるだろう。だからこそ狙っているって話か。
『そんな訳でこれがシェラの手に渡るとセスの命も危険に晒しちまうんで、この
理由が解ったなら別に謝る必要はねえってか、どう考えても謝るのはシェラの方じゃねえかと考えていると、次にイリオスは角にある宝箱を指さした。
『後は俺の装備以外の全財産を鍛冶屋に預けてセスの武器作成を依頼しておいた。多分これを見てる頃には完成してると思う。その時の注文書も一緒に入れておくから
ここで終わりかと思ったが、一息ついたイリオスがまたこちらを向いた。
『そして最後に俺からセスへ言いたかった事とお願いがある』
体張って俺の命を守ってくれた相棒《お前》からなら、意見でもお願いでも何でも聞いてやるよ。俺はそう思ってじっと画面を見続ける。
『まず言いたかった事は、無事に現実へ帰れたらセスを真琴に会わせようと思ってた。だが、その願いは叶わないと考えていたが、この扉を開けられたのなら俺の目論見通りで喜ばしい限りなんだよ』
一体全体どういう目論見で喜ばしいんだってばよ。と、あまりにも唐突すぎてどっかの忍者みたいな台詞になっちまったじゃないか。
『何でかというと、まず前提がセスも真琴も心の深い所に壁を作っている。真琴はそれでも前進して改善しようとしているのに対して、セスの方は……こう言っちゃあ悪いが壁を置きながらも全力で逃げている気がするんだ』
確かに逃げてると言われても仕方ないな。それ以上被害が広がらない為の苦肉の策だとは思ってはいるんだが。
『そんなセスを真琴が見たら、自分と同じ様な人間がいて親近感が沸くのと同時に、何でそんなにやる気がないんだろうと放っておけずに、ガンガンお前さんに突っ込んでくると思う』
その通りだ。特に投げ槍気味な態度を出すと恐ろしいまでに食ってかかってきてたな。
『そこでセスが自分なんかにまともに構ってくる女がいたのかって思ってくれれば、女嫌いを治せるチャンスかもしれんと思ってな。それが上手い所噛み合えば最高のパートナーになるんじゃないかって目論見さ』
すげえじゃねえか、その予想は大当たりだ。一年半程度ではあるが何度も死線をくぐり抜けてきた相棒なだけあるわ。
『そこで遺言を兼ねたお願いなんだが。セスよ、俺の代わりに真琴の面倒を頼む!』
待った。流石にそのお願いだけは色々ぶっ飛びすぎてヤバイ。手順を数段階飛ばしたような願い事だぞそいつは。相棒の遺言とは言え、そいつは俺にとって難易度が高すぎる!
『当然だがお互いが納得できないなら別に破棄してくれても構わない。ただ、もし少しでも可能性があるなら前向きに検討してくれ。以上だ』
動画のイリオスがメニューを開いて録画停止のボタンを押そうとしたするが、そこでふと一端手を止める。
『っと、真琴にも詫びを入れるのを忘れてたな』
メニューとすぐに閉じるとイリオスの表情が一変した。
『悪いな真琴、最後まで面倒を見れなかった駄目な兄貴を許してくれ』
俺にも野良の連中にも見せない落ち着いた穏やかな表情だった。おそらくこれがイリオスが見せる家庭の顔なのだろうと、一目見て直感した。
『願わくば彼氏ができるか結婚してくれるまで頑張ろうとは思ってたが、どうやらここでお別れみたいだ』
すぐに背後で鼻をすするような音が聞こえた。まずい、これは間違いなくマコトが泣いている。
『俺の結末を聞いて自殺なんて考えないでくれよ? じゃあ後はセスに任せる、達者でな』
メッセージボックスの動画が途切れると、背後でマコトの嗚咽が聞こえてくる。チラリと横目でそれを確認すると口を両手で押さえて懸命に首を振っていた。
「悪い、一人にした方が良いよな」
この空気ばかりは流石に耐えられない。どっかのアニメのレーザービーム出してくる立方体を倒した後の会話じゃねえが、こう言う時ってどんな表情と態度で接すりゃ良いのか全く持ってわからねえよ!
戦術的撤退! と、出口へ踵を返した瞬間にマコトに右手を掴まれた。何でじゃあ! こういう時って俺は空気のように扱われるべきだろう、常識的に考えて!
「一人にしないで……下さい!」
がっしりと手を握られながら腕に絡みつかれ、そのまま俺の背に体重を預けてくる。
「今だけでも……この時だけでも良いです……から」
これで俺がイケメンか主人公補正を貰った最強キャラなら、臭い台詞の一つでもかまして正面向いて優しい包容でもしてやればマコトのハートをがっちりキャッチ! なんて事もできるんだろうが、残念ながらそんな経験も実力も資質も無い訳でやるだけ無駄……いや、むしろ悪化するだろう。今までが全部そうだったしな。
なので結局俺ができた事は、泣きじゃくるマコトに背を貸したまま出口の扉を見続けるだけだった。
結構遅れましたが続きです。
評価とかはずいぶんと遅れてから結果出るみたいですね。
最初の結果が出るまでは全く注目されてないと勘違いして戸惑ってましたが、おかげで続きも頑張れそうです!
ここまでいろんな伏線っぽい物と回収を行ってきましたが疑問点などがあれば作品の改善に使わせて頂きますので、感想のコーナー等でお願いします。