【SAO】ハイドGMなのにJCプレイヤーにばれた件について   作:伊葉 翔

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8話 交渉

「では、ここから姿隠し(ハイド)したままでお願いします」

「了解だ」

 リズベットさんの所から矢を回収した後、郊外のゲートを出た先は四〇層。

 そこでマコトがシェラと連絡が取れたらしく、tellでいくつかのやり取りをした後に待ち合わせ場所が決まったらしい。

 その前にいくつかマコトと計画を立てて、最後の確認をした後に姿隠し(ハイド)実行してマコトを追尾する。

 向かった先はバッカニアの街。

 ガードいなかったりPC攻撃の保護がないという特殊な街で、例えPKになろうともこの町ではNPCに襲われる事はない。

 そんな無法地帯に来る一般プレイヤーはまずいない、はずなのだがここは普通の街と比べて物価が安かったり数ランク上のアイテムが素材や装備が売っていたりと様々な点で恩恵がある。

 以上の理由もあってか予想よりもプレイヤーを見かける頻度が多い。

 ハイドでマコトを追尾しつつも、シャドウチェイサーで範囲が通常よりも広くなった自動探知の効果を確認しながら地図(レーダー)を確認すると、確かにポツポツとPK(赤ネーム)が存在している。

 ただ、徒党を組まずに姿隠し(ハイド)のまま動いてもいないのでいきなり襲ってくる可能性は低いだろう。

 どうせなので倒して安全を確保しようという考えが頭に過ぎったが、その相手がこの一件とは無関係だったら非常によろしくない上、関係者の恨みを買って襲われたら逆にまずいと判断して向こうから仕掛ける様子が無い限りやり過ごす事にした。

 マコトが入ったのは窓のない倉庫のような建物の一角。

 階段を上ってドアを開けるとその中は、窓が無く薄暗い部屋にランプがいくつも灯っている大きなカウンターデーブルがある酒場だった。

 周囲も全員白ネームの普通なプレイヤー達がカウンターの店主に酒や食事を出している様子から、どうやらまともな店らしい。

「はーい。元気にしてたかしら?」

 カウンターテーブルから離れたテーブルの一角からやけに語尾を強調させた艶のある声がマコトを呼ぶ。久しぶりだな、この相手をバカにしたような口調は。

「お久しぶりです、シェラさん」

 その相手は聞き間違えるはずの無いシェラの声。向かいの席を空けたテーブルの椅子に足を組んで座っていた。長く伸ばした銀髪を鋭い目つきが印象的な奴で鎧を見て思わず俺は歯を噛みしめる。

 間違いなく相棒《イリオス》の身につけていた重装鎧だ。そもそも、シェラの奴は細剣使いなので軽装鎧を好んで装備していたのにもかかわらず、あいつと同じ重装鎧を装備しているって事は間違いなく殺して奪ったのだろう。

「その様子だとセスの奴を始末できたのかしらぁ?」

 服装を嘗め回すように見るシェラに言われるがまま、マコトが向かいの席へ座る。

「はい、その証拠がここにあります」

 と、俺の渡した短剣をマコトが取り出してテーブルに置く。

「ちょっと見せて貰っても良い?」

「どうぞ」

 シェラがマコトの置いた短剣を握ったまま納得したように頷きながら、テーブルに肘を突いたままそれを手首でぶらぶらと振り回す。

「間違いなくあいつの短剣ねえ。他に装備は取れなかったのかしら?」

「残念ながら騙して手に入れたこの防具と、殺した時に落とした短剣だけでした」

 俺と接する時とはまるで違う、張りのある口調と鋭い目つきで対応するマコト。これが仕事をしているって目つきか、それにしてもマコトの芸達者っぷりはとんでもないと思っていると、不意にシェラの視界外であろうテーブルの下で俺に左手でサインを出して来た。

「そうなのぉ? 残念ねぇ」

 即時撤退だと!? それも散開って何をトチ狂っていやがる!

 そんな疑問を抱くと同時にマコトがサインを出しながら打っていたメッセージが俺の元へやってくる。

『囲まれています』と一言だけ。

 そんなはずあるかよ! と地図(レーダー)を確認すると俺の思考は一瞬停止したが、そんな悠長な事はさせんとばかりにガタンと何かが床に落ちた大きな音が響き渡った。

「それなら死んで頂戴?」

「どういう事、ですか?」

 マコトは立ち上がったその後ろには椅子が倒れていた。更にその後ろの壁には俺の短剣が突き刺さっている。シェラがマコトに投剣しておっぱじめやがった! くそっ、それと同時に赤ネームを示す赤い点が地図(レーダー)の視界ギリギリ、四方八方から徐々に距離を詰めて中心であるこの部屋へ距離を詰めてきていやがる。

「どうもこうも無いわぁ。もう貴女は用済みなのよ」

 さっき待機していた連中か? いや、名前は違う。別人だとしてもどこに潜んでいやがった?

「やはり、笑う棺桶(ラフィンコフィン)のメンバーを知った以上は生かしておけないと?」

「察しが良くて助かるわぁ」

 それにマコトはどうやって逃げる? 散開して逃げたらマコトの護衛はできんぞ。

 今すぐシェラをぶっ殺してから姿隠し(ハイド)でマコトを援護しながら逃げる選択肢もあるが、イリオスがの重装鎧のおかげで不意打ち(バックスタブ)一発だけじゃ沈める事は不可能だろう。更に鎧の効果で状態異常もほとんど効かない相手なので、麻痺を食らわせて逃げる戦術も期待はできない。昔、散々あいつと決闘(デュエル)をやって効果を確かめたので大方検討はつく。

「私も笑う棺桶(ラフィンコフィン)との関わりは表に出したくありませんし、問われない限り二度と口に出すつもりもありませんが、それでも納得いきませんか?」

 それなら弓で攻撃するにも部屋が狭いので一発、あるいは二発も打てずに間合いを詰められるだろう。

 一撃で殺せず気づかれてしまえば、短剣の急所突き(クリティカルポイント)のソードスキルを多用する勝負になるが、こうなってしまうと時間がかかってしまう上に援軍を呼ばれる可能性もあり、最悪俺の方が負けるだろう。

「大問題よぉ。だから消えて欲しいのよ」

 あとは外からじわじわと距離を詰めてくる赤ネームの連中が俺の存在には気づいているかどうかだな。もし見つけられているのであれば、確かに今すぐにでもシェラを何とかしてここから出ないと俺とマコトもアウトだ。いくら何でもこの狭い部屋の中で十人以上の相手は無謀すぎる。

 例え相手とのレベル差が致命的にあったとしてもHP(ヒットポイント)VIT(体力)も低い俺のステータス構成では非常に分が悪い。

 シェラがマコトへテーブルからフォークを投剣したのが戦闘開始の合図、マコトはしっかりとかわしながらテーブルをシェラの方向へ蹴り飛ばす。

 テーブルはシェラの方へかっ飛んでいくも、その上に置かれた食器や皿はテーブルクロス引きの原理でその場に瞬間的ながらも浮く。その時マコトかシェラのどちらかが何かしらの干渉をしたのかは解らないが、食器の落下速度が非常に遅くなっていた。

 マコトが食事用のナイフをそのまま投剣、皿はフリスビーのように、ついでに割れたグラスも一緒に次々と投げての反撃を行う。

 シェラは蹴られたテーブルを何とか避けようと体を捻っているため、すぐに体勢を整える事ができず一方的な防御を強いられている。

 俺は弓で援護するべきか外の連中を止めるべきか迷った。マコトが優勢なら外の連中を止めて逃げ道を確保で正解だが、負けてしまえば元も子もない。

 逆に弓で援護してシェラを倒す事ができても外の連中に逃げ道を封鎖されたらお手上げだ。

 どう動くべきか……いや、むしろ考えれば考えるほど動けなかった。

 テーブルにふさがれた道を乗り上げてマコトに細剣を突き立てるシェラに、マコトはシェラの突きの瞬間に短剣で懐に入って切り込んで応戦する。

 互いの突き合いでの膠着状態を何とか打破したいが、ここまで近距離での斬り合いになると手を出せば逆にマコトに当たりかねない。

 姿隠し(ハイド)したまま弓をシェラに向けて構えながら、二人の戦況を確認しつつも外の連中がどこまで近づいてきているのかを地図(レーダー)を見て確認する。そこにはPK(赤ネーム)達が何故か途中で移動を止めて立ち止まっていた。

 何故止まっているのかは解らないが今の俺にとっては好都合だ。その時間が長いほどマコトに援護するチャンスが生まれる。

 一瞬マコトがシェラから後ずさって距離を取った、援護するなら今しかねえ!

「マコト! 今すぐ撤退だ!」

 シェラへ矢を放った瞬間、しっかりと頭に当たっている事を確認してから出口へ一気に駆け抜けて、ドアを蹴破ってシェラの視界外で姿隠し(ハイド)を実行する。どうせあの鎧のおかげで頭に命中(ヘッドショット)したとしてもまず殺せないのは目に見えて解っていたのですぐに撤退しなければ間に合わない。

 曲がり角からマコトが逃げる事を確認してから追撃してくるシェラの妨害をしてやろうかと思いきや、部屋の奥から音がまるで聞こえてこない。

 何が起きているのかと、そのまま潜伏(ステルス)で移動しながら部屋の様子を確認すると、何故かマコトが倒れていて、その側には長剣を構えた犯罪者(オレンジネーム)の店主が立ち塞がっていた。どういう……事だよ。

「シェラ様。逃げた方の対応は?」

 声を出していない上にしばらく動いていないという事は昏倒(スタン)に麻痺辺りでも重ねられたのか、どちらにせよ芳しくない状況のマコトを大柄な男の店主らしき奴が背負っている。

「あいつはほっといても良いわぁ。どちらにせよこの娘を囮にすればやってくるはずよ」

 どうやらばれてない様子で、倒れたマコトを抱える店主の隙を突いて何とか救出できないかと様子を伺うが、俺達は完全に騙されたという事をここで初めて理解する。

「じゃあ行くわよぉ? あんた達もアジトに着いてきなさい」

 シェラが転移結晶を使うと、それに続く形で店主と周りにいた客が全員転移結晶を使って消えていく。つまり、ここにいた客全員がシェラの息がかかった連中だった。あそこで弓を打たず、不用意に近寄って脅しに行ったら、おそらく俺も近くの客に不意打ち(バックスタブ)を食らってアウトだっただろう。白ネームだと思って油断しきっていた俺の誤算だった。

 シェラが追う必要は無いと言ったのはこの余裕からだろう。例え俺が今攻撃を仕掛けて一人倒せたとしても後の連中が倒しきれない事を完全に理解してやがる。今回の交渉は完全に俺の負けだった。

 いや、後悔する前に外の連中を何とかしなければまだ俺の安全すら保証されんので、地図(レーダー)を確認……って、あれ? いつの間にか数え切れないぐらいいた相手さん方が一人になってるぞ。

 それに姿隠し(ハイド)状態ではあるが、一人で堂々と事の終えた酒場で俺の目の前に突っ立っている。一体何しに来やがったんだ、こいつは。

 だったらここは一つ、駄目もとで情報収集と行こうじゃねえか。

 相手の姿は見えないのでどちらを向いているかは解らないが、俺の探知スキルにしっかりと引っかかって目の前に影が現れている。

 向こうは俺に気が付いてないと言う事はこうしてやれば良いと、影の奥にナイフを投げて地面に縫いつける。

 それと同時に手加減を入れた不意打ち(バックスタブ)のソードスキルで相手を打ち付け、互いに姿隠し(ハイド)が解除された瞬間、近接戦闘技術(CQC)で相手の首を掴んで一気に地面にうつ伏せに叩き付ける。

「ひぃ! たす……助けて! 僕は何もしてないんだ!」

 現れたのはいかにもサラリーマンをしてそうな、俺より年上そうに見える男だった。

 麻痺毒も入れた短剣でのひと突きなのでしばらく動く事もできないだろう。相手のHPも完全に色が解らないまで減っているので手加減を入れたのはどうやら正解だったようだ。

「ずいぶんとお喋りなPK(プレイヤーキラー)だな。だまし討ちでも考えてるのか?」

「違う、違うよ! 僕はただシェラさんと狩りをしてたら突然名前が赤くなっちゃっただけなんだよ!」

 当たりだったのは喜ばしい限りだが、あいつは俺達だけじゃ飽きたらず他の一般プレイヤーまで好き勝手にやってるのかよ。本当にどうしようもねえクソ女だな。ビッチと呼ぶに相応しい最低女だわ。

「その話、詳しく聞かせてくれたら見逃してやるがどうする?」

「話します! 話しますから助けて下さい!」

 この怯え方は間違いなく演技では無いだろう。流石に男が人前で全身をガタガタ振るわせて、鼻水を垂らしながら泣ける演技なんて普通の人にはできない。

「解った。あんたの知ってる事が信用できたら命は助けてやる」

 何とかして助けてやるからもう少しだけ待っててくれよ、マコト。

 




 少し早いペースでの投稿です。
 街の名前に関しては知ってる方がいればニヤリとできるかと。
 今回はとにかく書きたいけど上手く書けない戦闘シーンとなっています、気になる点やアドバイスなどございましたら感想にでもぶん投げて下さい。
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