もし、碇ゲンドウが少しだけ器用で、用意周到な男だったら。 作:煮魚( )
またもや後半が難航しておりまして……(焦)
第3新東京市立第一中学校、屋上。
昼休憩中。
碇シンジと綾波レイは昼食を終え、いつもの様に給水塔裏へ腰掛けて、静かに語らっていた。
「弐号機パイロットに、何を教えたの?」
まっすぐ第3新東京市を見据えて、そう切り出した綾波を思わず見やった。
だけど、いつもの無表情を湛えている。
「……教えた?」
「葛城一尉は、碇君とペアである必要があり、それは、教わる事でもないと言った」
「…………」
僕である必要が……?
「なぜ、彼女は変わったの?」
「分からないよ。ただ……」
「…………」
「ただ、アスカが僕を認めてくれたような……そんな気はするんだ」
「なぜ?」
「……?」
「なぜ、名前を呼ぶ必要があるの?」
「それは、アスカが名前で呼ぶから。そうして欲しいのかなって」
「碇君、嬉しいのね」
「だって……いい事だろ? 人が喜ぶのは、いい事だと思うんだ」
「そう……分からないわ」
「最近、
「ヒトって、なに?」
「…………」
「同じものがたくさん。要らない物もたくさん……碇君の、何を見てるの?」
「いいんだ……例え、僕を見ていなくても」
「……そう」
「綾波」
「なに?」
「必要ないのは、アスカも同じなんだ」
「どうして?」
「あの時、泣いていたんだ。……エヴァに乗れない。自分に」
「…………」
「だからアスカも、同じように見てあげたいんだ。それは、良いことだと思うんだ」
「なぜ……」
「アスカも、強くないんだよ。綾波。きっと、僕らと同じように」
「……死ぬ理由が、ないのに」
「でも、エヴァを降りたらきっと死ぬよ。それは……分かる」
「そう……我儘なのね」
「そうかもしれない。アスカは……我儘だからね」
「彼女が死ぬ時、身代わりになるの?」
「……まだ知らないと思うから。そうしてあげたいと……思う」
「…………」
「綾波は?」
「……命令があれば、そうするわ」
「僕はきっと……そうはさせない」
「……そうね」
綾波は僕の方を見て、少し微笑むと、近くにあった僕の左手を右手で包んで……また街を見据えた。
「私たち、我儘なのね」
「……少しくらい、我儘でも良いと思うんだ」
「どうして?」
「ヒトはみんな、我儘だから」
「……そうかもしれない」
綾波は、静かに考えていた。
温かな左手に、指を絡めて。
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コンフォート17、葛城家。
PM20:12
今日の夕飯は回鍋肉的な肉野菜炒めで、3人は大皿からさえ箸でつついていた。
回鍋肉の実際の作り方は知らないので、ニンニクやコショウ、豆板醤などを適当に使った中華風創作料理というのが確かな所だろう。
「そういえば、アスカとシンちゃんは学校でどうなのよ? 仲良くやってんの〜?」
にやにやとお酒を飲みつつミサトさんが聞いてくる。
このところ、隙あれば僕達を酒のツマミにしようとしているフシがあると思う。アスカとはそういうんじゃ無いのに……。
「どうもこうも無いわよ。シンジが話してる所なんて見たことないわ」
「え〜? だって、鈴原君と相田君が居るじゃない」
「2人が話してる所に僕が居る。というか……とにかく、僕から話すことは、確かにあんまり無いんだ」
「……苦手なんでしょ?」
「「何が?」」
「話すことよ」
「そうなの?」
「まぁ……自信は無い、かな……」
「バッカねぇ。ハキハキ喋ればいいのよ。言いたい事を、ちゃんとね」
「それが出来たら苦労はしないよ」
「そうねぇ……」
「えーっ、ミサトまで苦手なワケ? 向こうで話かけたのもミサトからだし……話すの好きじゃないの?」
「前に、ちょっちね。色々あって……シンちゃんの気持ちも分かるのよねぇ」
「へぇ〜、意外だわ」
途切れる会話。
考え込んでしまったミサトさんを他所に、アスカは何やら真剣な顔つきで回鍋肉と白米を口にした。
しばらくして。
「確かに……シンジの頑張れないってのは深刻ね。改善は急務だと思うわ」
「ごめん……努力は、してるつもりなんだけどね……」
「そーゆー所よ! いい? 第一、シンジの事なんて他の人は1ミリも気にしちゃいないわ! 皆んな言いたい事言ってんだから、言われっぱなしじゃ損するだけよ!」
「他の人は……ねぇ」
「うっ、うるさいわね!! あまり恣意的な解釈をするんじゃないわよ! たとえミサトでも許さないわ!!」
アスカは怒りのあまりか、耳を赤く染めてミサトさんを睨みつけた。
「はいはい。心配しなくても言わないわよ」
涼しい顔でビールを煽るミサトさん。
「ッ〜〜〜〜!! とにかく! 言いたい事は言うのっ! 分かった!?」
「う、うん……」
その噛み付くような剣幕に数回頷くと、アスカは残りを手早く食べてしまった。
「ごちそうさま!」
キッチンに向かうアスカの顔は赤い。
「……ミサトさん」
「なぁに?」
「あんまりアスカを怒らせないでよ。後で酷いんだから……」
「可愛いもんじゃない。男なら、どーんと構えて受け止めてあげなさいよ」
猫のように意地悪な顔をするミサトさん。
「ミサトさんが何を言いたいのか、分かりません」
「またまた〜分かってるくせに〜」
「僕はまだ、分からないよ。アスカが、なぜ怒るのか……」
「本当なの?」
「はい」
「…………」
「アスカは、あなたの為に怒ってるのよ」
「どうして……?」
「教わる事じゃ、無いのよね〜」
「…………」
「…………」
「うーん……やっぱり貴方達は、兄妹よねぇ」
「そうなの……?」
「だって、こんなに似てるもの」
そう言って、懐かしむような目をするミサトさんに、じっと見つめられていた。
そう言われても……。
アスカが好きな人は、きっとたくさんいる。
仲が良い以上の存在。
自分の喜ぶ事をしてくれる存在。
それはアスカにとって、僕である必要は無いはずなんだ……。
恐らく、パイロットとして怒ってくれているだけで、僕の為に怒るというのは……本当に考えられなかった。
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翌日。
下駄箱の近くで『行くわよ』と声をかけられ、放課後に予定されていた訓練の為本部へアスカと向かっていた。
その、バスの車内。
一番奥、左端に座ったアスカ。
今は空いているが、混み具合は日によるし、距離を空けるのもどうかと思われて気恥ずかしさを感じながら隣に座った。
「週末暇でしょ? 空けておきなさいよね」
バスが走り出すと、そう切り出された。
窓の外を見て事もなさげだ。
「どうして?」
「いいから。分かった?」
嘆息するように目を瞑られる。
「いいけど……どこ行くかだけは教えてよ」
「遊園地よ」
ガラスに反射するアスカの表情は、つまらなさそうな、自然体とも言えるもの。
いつも笑っている、学校では見ない表情だった。
「誰と?」
「誰とってねぇ。話せる人なんて、ヒカリにジャージと軍事オタクくらいでしょ?」
指折り数えられると恥ずかしい。
「まぁ、そうだけど……」
「とにかく! 社交ってものを少しは勉強しなさいよ。必要なことでしょ」
僕の友人の少なさを再確認した共感性羞恥心からか、耳までほんのり赤く染めてそう言うアスカ。
「その、なんというか……ありがとう」
数人で遊びに行くことに全く興味が無い訳ではなかった。ただ、自分から動く程の魅力を感じなかった。
こうして誘われるのは、理由がどうあれ嬉しいと思う。
「はぁ〜……当然よ。全く。もっと感謝されても良いくらいね!」
すっかり機嫌を良くして、そう言って胸を張った。
だけど、皆んなで行くと言えば、何か忘れているような……。
「あ、そうだ。綾波も誘っていい?」
「ファーストぉ? なんで? 来るの?」
明らかに怪訝な顔をすると、ちょっと身を引いてこっちを向くアスカ。
「分からないよ。だけど、来れるなら綾波も来た方が良いと思うんだ」
ちょっと考えた後、学校でするように笑って胸を逸らせた。
「……ま、社交性が0なのは間違いないわね。もっとも、ファーストには成長の余地も無いと思うけど」
「そんなことないよ。一応皆んなとは面識あるし、綾波も結構話すし笑うんだよ?」
そう言うと、明らかに笑顔は瓦解した。
「……あの……ファーストが……?」
「うん。屋上でよく話すし……」
「ぁ……な……え……? ホントに?」
「う、うん……」
「なに……話すのよ……」
ちょっと怖い。真剣な、何か思い詰めたような顔をしていた。
「うーん……使徒の事とか、エヴァの事とか……?」
「……それだけ?」
「綾波は、必要なことしか話さないから」
「なにそれ、飽きないワケ? 必要な事しか話さないんでしょ?」
それは僕にとっても必要な事であり、つまり綾波は、本当に必要な事しか話さない。
ここが自分の言語化能力の限界であり、他の言い換えを探してみるも、
「飽きるとかじゃ無いんだ。綾波と話すのは……綾波は、僕を見ているからかな……」
あまり上手く言えた気はしなかった。
「なにそれ……意味わかんないわよ……」
困惑を深めるアスカ。
どうして一緒にいるのか、一言で言ってしまえば……
「うーん……兄妹が一緒に居たいと思うのは、普通のことだろ?」
「は……? 兄妹なの? ファーストと?」
「多分ね。血が繋がってるか、とか、父さんは何も言わないし……そこら辺はまったく分からないんだけど」
アスカは暫く様々な感情を瞳に浮かべて、こちらをジッと見ていたが、
「……分かったわよ。ファーストはシンジに任せるわ。今週の日曜、いい?」
どっと疲れたように片手で頭を抱えて、折れてくれた。
「分かった」
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コンフォート17、葛城家。
PM18:49
ミサトから足りない食材を受け取り、キッチンに消えたシンジを確認するなり、アスカは着替えに向かうミサトを引き止めた。
「ミサト、綾波レイってなんなの?」
「どうしたのよ、薮から棒に」
「今日、シンジから兄妹だって聞いたのよ。瞳の色も髪の色も違うのに、どういうことなの?」
「あぁ、そういうこと……」
「で、なんなの?」
「私も知らないのよねぇ。それ」
「ミサトが知らないの?」
「記録が無いのよねぇ。私には調べようがないわ。問題があるワケじゃないから、諜報部に依頼するのも違うし……」
カリカリと頭を掻くミサト。それは本当に苦々しそうな表情をしていた。
「記録がない……? じゃあ、なんで兄妹なんて話になるわけ?」
「似てるのよ。外見とかじゃないの。なんて言うのかしら……人間として、かしらね」
「意味分かんない……」
「ま、一緒に居ればそのうち分かるわよ」
そう言って自室に向かおうとする所を、更に押し留めた。
「待って……その、チルドレンの親睦を深める為にも、お願いがあるんだけど」
アスカは、規定外の行動をする時に必要な許可もしくはNERV職員の同行を、今、確認してしまう事にした。
「分かってると思うけど、あんまり高額なのは無理よ」
作戦部長の顔になるミサト。
「今週末、ファーストとシンジと私が遊園地に行っても良いかしら?」
「今週末? 日曜日に? 近くのやつ?」
「そ、近くのやつ。良いでしょ? ファーストは知らないけど、シンジと私は実験も訓練も無いワケだし」
「まぁ、そのくらいなら……良いわよ。レイの許可も取っておくわ」
「サンキュー、ミサト」
「レイとケンカとかするんじゃ無いわよ」
「この私がする訳ないじゃない!」
「えぇ……お願いね」
表情を崩して、少し疲れたような声音で自室に入っていく。
「はぁ……私……信用ないのかしら……」
アスカは少しだけ表情に翳りを見せて、虚空に呟いた。
次回 「チルドレン外出計画(後編)」
そして、この小説の趣旨に合いそうなタイトルが思い付いたので、今一度投票のご協力を、宜しくお願い致します。
変更の際にはあらすじも少し変えるかも知れません。
投票期間2021/09/18、PM20:00〜翌日(09/19)PM20:00
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