もし、碇ゲンドウが少しだけ器用で、用意周到な男だったら。   作:煮魚( )

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 今回は6千くらいです。

 後半が書き上がっていないので、今しばらくお時間を頂きます。
 すみません。





第拾肆話 静止した闇の中で。(前編)

 NERV本部 技術部長執務室。

 

「そんなに仕事ばかりで、疲れないかい? りっちゃん」

 

 部屋にふと、現れた。

 

 ニヤケ顔の男に赤城リツコはため息を吐く。

 

「今度は何を企むのかしら。諜報部特務課長さん?」

 

「何も企んじゃいないさ。ただ、ちょっとばかし興味があるだけでね……」

 

 デスクを撫でるように触ると、存在を無視して動くマウスをその手で抑えた。

 

「ミサトが怒るわよ」

 

「つれないなぁ。ま、それでもいいさ」

 

「……いい加減、話したら?」

 

 赤城リツコは画面から目を離し、その男を見据えた。

 

「バレバレか……ATフィールドの事さ」

 

 男は手を離し、それを頭の横を通して所在なさげに垂れ下げる。

 

「それが?」

 

「触れずに使徒を圧壊させるってのは、知っていたのかい?」

 

「どこでそれを……」

 

「皆んな噂してるさ。機密ってのは隠そうとすると、広まるからな」

 

「……そうね」

 

「お見通しか」

 

「いえ」

 

「へぇ……赤城博士も、知らない事があるとはね」

 

 その顔を、赤城リツコは睨む。

 

「おおっと、心配しなくてもいいさ。今回はもうコーヒーを淹れてあるんだ」

 

 事もなげにウインクをしてみせる加持リョウジ。

 

「……呆れた。後で警備班が泣くわね」

 

「だろうな」

 

 加持リョウジは、感情を失うように、その顔から表情を落とすと口を開く。

 

「……第三の少年が相転移空間──使徒と同様のATフィールドを展開したのは、理由があるんだろう?」

 

「聞いて、どうするつもり?」

 

「どうもしないさ。ちょっと気になるだけでね……気になるだろう? チルドレンの事は」

 

「そう、ね……」

 

「第三の少年に続いて、全員が変わり始めている。誰も予測できないだろう」

 

「…………」

 

「いいのかい? りっちゃん」

 

「……答えを用意できると?」

 

「さぁ? 聞いてみないと、分からないな」

 

 そして、またニヤリと微笑む。

 

「あんまり遊んでると、火傷するわよ」

 

 赤城リツコの表情は変わらなかった。

 

「人生には、息抜きが必要だろう?」

 

 しかし、息を深く吐くと、語り始めた。

 

「……ATフィールドは、ほぼ未知の領域にある。ATフィールドでしか中和出来ない──という事すら、当初は推論だったのよ」

 

「いやはや、まさか、本当に分からないとは……」

 

「全くの未知ではなくってよ? 感情に反応していると、本人が証言したわ」

 

「そんな曖昧な……冗談だろう?」

 

「数字上のデータから精神的な動向を推察するのは不可能よ。シンクロ……精神と直結した制御手段では、パイロットの証言が最も重要なの。お分かりかしら」

 

「つまり、まるっきりシンジ君に頼るしか無いわけか。エヴァンゲリオンというのは」

 

「そうね。展開時のデータサンプルが複数あれば、また違うのだけれど……」

 

「実験では展開しないわけか……知ってか知らずか、末恐ろしいな。シンジ君は」

 

「時間の問題よ。戦力が向上している以上、使わざるを得ない」

 

「碇司令か……凍結の危険もあったと?」

 

「……口が過ぎたようね」

 

「いや、面白い話を聞かせて貰ったよ。少し調べてみようかな。もちろん、君にもプレゼントを贈るよ」

 

「どうかしら」

 

「じゃ、仕事はほどほどにな」

 

「お互いね……」

 

 立ち去る加持リョウジの背中に、赤城リツコは呟いた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ねぇ、ファーストは不安じゃないの?」

 

「何が?」

 

「エヴァに乗ること」

 

 本部へは3人で行く事が多くなったが、綾波とアスカの間に会話は無い。

 

 そもそも、綾波が話すこと自体少ないから不思議では無いけど……

 

 突然、不透明だった綾波のスケジュールが僕らと同じになった事に違和感を覚えていたが、それより驚いた。

 

 それとなく変わる並びの中、たまたま綾波と僕が横に並び、少し前をゆくアスカは綾波に声を掛けている。

 

 しかもエヴァの事で……

 

 そういえば、時間があるから徒歩で行こうと言い出したのもアスカだった。

 

「どうして?」

 

「私は、エヴァの為に出来ることをした。なのに、エヴァの事は分からない……貴方もそうでしょ?」

 

「……目標は使徒の殲滅よ」

 

「考えない──私にそう言ったのは、アンタよ」

 

「…………」

 

「要するに何となく、で兵器を扱ってんのよ。分かってる? シンジは心だと言ったけど……私には分からないッ……」

 

「……そうね」

 

「じゃあ、なぜ、エヴァは動くの? 不安にならないワケ?」

 

「動くなら……問題はないわ」

 

「もう! 素直じゃないわね! アンタも。思い出したくない事がある、違う?」

 

 不機嫌そうな、しかし困り顔で振り向くアスカにハッとした。アスカにも、僕にもあるように、綾波にあるとしたら……

 

 なぜ、2人目なのか。

 

 それは、消えた1人目の事なのか?

 

「……知らない」

 

 目を逸らす綾波。

 

「はぁ……それ、もう、答えじゃない……」

 

 今は、言えない……だけど、あるのは間違いない。

 

「だから、動くのかな」

 

「そ、だから聞いたの。はーっ、これで一つスッキリしたわ!」

 

 そう言うアスカの足取りは軽い。

 

「ホントにさぁ、誰かに似て素直じゃ無いわよね〜。ファーストって」

 

「誰かって、もしかして僕?」

 

「他に誰が居んのよ」

 

「アスカには結構素直だと思うけど……」

 

「う、うるさい! バカ! 鈍感!!」

 

「いたっ、痛いって!! どういう事!?」

 

「もう、シンジはいいの! 私が居るから!」

 

「え〜……じゃあ、綾波も素直になれってこと?」

 

「そういう事よ!! レイ!!」

 

「……なに?」

 

「素直になりなさいよ!!!!」

 

「お、怒りながら言わなくても……」

 

「別に怒ってない!! はぁ。もう、いいわよ……」

 

「……素直。汚れなき心……まっすぐなこと……なぜ、私に求めるの?」

 

 遅れて思考の海から戻ってきた綾波は、赤い瞳で真っ直ぐにアスカを見つめる。

 

「素直じゃないからよ」

 

「でも……誰に?」

 

「決まってるでしょ」

 

 アスカは僕をちらりと見ると、前を向いて

 

「自分によ」

 

 そう言った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「あら、副司令。おはようございます」

 

「「おはようございます!」」

 

 技術部、赤城リツコ、伊吹マヤ。司令部、青葉シゲルは早朝の電車で冬月副司令に遭遇した。

 

 電車での遭遇にオペレーター2人は声が少しうわずっていたが、冬月はさして気にした様子でもない。

 

「あぁ、おはよう」

 

 新聞から目線を外し、ちらりと見やると、すぐに情報の摂取に戻った。

 

「今日はお早いですね」

 

 赤城リツコは2人分ほどの席を開けて腰掛ける。

 

「碇の代わりに上の街だよ」

 

「あぁ、今日は評議会の定例でしたね」

 

「くだらん仕事だ。碇め昔から雑務はみんな私に押し付けおって……MAGIが居なかったらお手上げだよ」

 

「そういえば、市議選が近いですよね。上は」

 

「市議会は形骸に過ぎんよ。ここの市政は事実上MAGIがやっとるんだからな」

 

「MAGIが……そんな事までしていたんですね」

 

 伊吹マヤは、技術部として自分に任されたMAGIの意外な側面に驚く。

 

「3系統による多数決。キチンと民主主義の基本に則ったシステムだ」

 

「議会はその決定に従うだけですか」

 

「最も無駄の少ない効率的な政治だよ」

 

「流石は科学の街。まさに科学万能の時代ですね」

 

「……そういえば、零号機の実験だったかな。そっちは」

 

 冬月は赤城リツコに話を振った。

 

「ええ、本日10:30より第2次稼働延長試験の予定です」

 

「朗報を期待しとるよ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 NERV本部 零号機実験ケイジ瑞設モニター室内。

 

 第二次稼働延長試験中。

 

「実験中断! 回路を切って!」

 

 赤城リツコは声を張り上げた。

 

 モニターには緊急事態を知らせる警告が表示されている。

 

『回路切り替え』

 

『電源、回復します』

 

 実験ケイジ内の照明が回復し、モニターには結果が表示されていた。

 

「……問題はやはりここね」

 

「はい。変換効率が理論値より0.008も低いのが気になります」

 

「ギリギリ計測誤差の範囲内ですが……どうしますか?」

 

「もう一度同じ設定で、相互変換を0.01だけ下げてやってみましょ」

 

「了解」

 

「では、再起動実験を始めるわよ」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 同時刻 NERV本部。

 

 司令塔直結エレベーター前。

 

「おーい! ちょっと待ってくれ〜」

 

 ミサトを驚かせようと悠々と近づいていた加持は、予想より早いエレベーターの到着に走り出した。

 

「……はぁ……はぁ。いやぁ、助かった」

 

 開いているエレベーターの扉の前で、減速する加持。

 

「今日は優しいじゃないか。これは、期待してもいいのかな……?」

 

 男は入るなり、肩に伸ばした手を払い除けられる。

 

「いい訳ないでしょ……エレベーターくらい、誰でも開けるわよ」

 

「どうかな」

 

「誰にでもそうやって……」

 

「君にだけさ」

 

「リツコから聞いてるわよ」

 

「は……はは、参ったな。こりゃ」

 

「まったく……」

 

 暫く、無言のまま階数を見上げる2人。

 

「……あら?」

 

「停電か?」

 

「まっさか〜、あり得ないわ」

 

 ミサトは笑ったが、エレベーターは非常灯の仄暗い光に包まれる。

 

「……変ね。事故かしら」

 

「赤城が実験でもミスったのかな?」

 

 

「主電源ストップ! 電圧0です」

 

「わ……私じゃないわよ?」

 

 赤城リツコは、スタートボタンに手をかけたまま、固まっていた。

 

 

「でもま、すぐに予備電源に切り替わるわよ」

 

「……どうだろうな」

 

 

 NERV本部 司令塔

 

 同時刻

 

「ダメです! 予備回線繋がりません」

 

 対応に追われる青葉シゲルは、冬月副司令に縋るように報告した。

 

「バカな……! 生き残っている回線は?」

 

「全部で1.2%。2567番からの旧回線だけです!」

 

「生き残っている電源は全て、MAGIとセントラルドグマの維持に回せ!」

 

「全館の生命維持に支障が生じますが……」

 

「構わん! 最優先だ!」

 

 

 NERV専用連絡通路 ゲート前。

 

「……あれ?」

 

 カードキーを通しても、反応がない。

 

「…………?」

 

 隣のゲートでも、綾波がカードを眺めている。

 

「もう! 壊れてんじゃないの、これ!!」

 

 反対側では、アスカが叫んでいた……

 

 

「……タダごとじゃ無いわ」

 

 非常連絡用のボタンを連打しながら、焦りを滲ませるミサト。

 

「ここの電源は?」

 

「正、副、予備の3系統。それが同時に落ちるなんて、考えられないわ」

 

「となると……落ちたというより、落とされたってカンジだな」

 

「なんであれ、この状況で使徒の攻撃でもあったら……最悪よ」

 

 ミサトはあらゆる手を尽くしたが、力なく受話器を戻した。

 

「……ダメね。非常用回線も繋がらない」

 

「ま、ジタバタしても仕方ないさ」

 

「はぁ……そうねぇ……」

 

 項垂れるミサトに、壁に寄りかかりながら加持は声をかける。

 

「ウチで……子供たちの様子は、変わりないかい?」

 

「何よ、こんな時に」

 

「だからこそさ。焦っても、仕方ないだろう?」

 

「……別に、普通よ。問題は何もないわ」

 

「そうか……年頃の子供2人に普通、かぁ。昔の君からは、想像もできないな」

 

「なによ……文句でもある?」

 

「いや……ただ、どう折り合いを付けているのかな。と思ってね。俺だって、惣流と上手く付き合えている気はしないさ」

 

「アンタが……? けっこう懐いてたじゃない?」

 

「いや……あれは上辺だけだよ。それくらいは分かるつもりでいるが……意外だったかな?」

 

「意外も何も……アンタが嫌われてる所なんて、見たことないわよ」

 

「……嫌われないだけさ」

 

「そうねぇ……私も、陰でどう言われてるか、分からないものね」

 

「へぇ、とてもそうは見えないが……」

 

「……最近、分からなくなるの。シンジ君も、打ち解けて来たと思うわ。でも……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「でも、なんだい……?」

 

 ミサトは胡乱に男を見やったが、頭を振ると、言葉を発した。

 

「これは私の問題よ。貴方に話すような事じゃないわ」

 

「碇、シンジ君の過去か。本当に、彼に何があったんだろうな……」

 

「どうしてそれを……!」

 

「気になって調べたのさ。彼の中学校に、外部から介入の形跡があった」

 

「介入……どうして?」

 

「イジメだよ。それを扇動した何者かがいる。そして、彼は浴槽で自殺未遂を計った……」

 

「ッ……」

 

「俺は恐らく、NERVだと考えている」

 

「そんな訳が!!」

 

「綾波レイ。彼女はどうだろうな」

 

「ある……わけ……」

 

「惣流、アスカ、ラングレー。彼女でさえ、呪われた過去がある」

 

「…………」

 

「運命を仕組まれた子供たち。君が違和感を感じるのは、仕方のない事だと思うよ」

 

「碇司令は……彼らをどうするつもりなの?」

 

 ミサトは『こんな時だからこそ』という、加持の言葉に意味を感じ始めていた。あらゆるMAGIの端末が停止した今、だからこそなのだ。

 

「エヴァへの……依存……だろうな。都合よく使うための」

 

「そんな……! 実の親子なのよ!?」

 

「碇司令がどう思うかは、分からないだろう?」

 

「許せないッ……!!」

 

「おいおい。まだ決まった訳じゃない。だからこそ、避けているかも知れないだろ?」

 

「……どういうこと?」

 

「赤城は精神による直接制御だと言っていた。そして、チルドレン。依存が鍵だとは……思わないか?」

 

「全て、エヴァの為だって……言うの……」

 

「だから聞いたんだよ。葛城。変わりは無いか? とね……シンジ君は打ち解けている。そうだろう?」

 

「……ええ」

 

「変わり始めて、いるんじゃないのか?」

 

「……分からないの……私には……」

 

「……どうして?」

 

「アスカとシンジ君は、確かに変わった。今はよく笑って、通じ合っていると思う。でも、私は……疑って、しまうのよ」

 

「…………」

 

「変わらないのは……私だわ。だから、分からない……」

 

「葛城……君は変わったさ。君が気付かないだけで」

 

「加持君……」

 

「優しくなっただろう? 俺はそう思う」

 

「もう……こんな時だからって、口説くなんて。信じれない」

 

「自分の気持ちには、嘘を吐きたくないからな」

 

「はいはい……」

 

「ま……でも、ありがとう。礼は、言っておくわ」

 

「どういたしまして」

 

「……ふん」

 

 虚空を見つめ、思考を巡らせるミサトは、加持の慈しむような瞳に気付く事はなかった。




 次回 「静止した闇の中で。(後編)」



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