もし、碇ゲンドウが少しだけ器用で、用意周到な男だったら。   作:煮魚( )

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 今回は7000くらいです。







第拾伍話 静止した闇の中で。(後編)

 NERV専用通路。市内出入り口。

 

 緊急用も兼ねる、主要な場所に3人で集まっていた。

 

「ダメ。こっちも繋がらない」

 

 携帯電話を仕舞う綾波。

 

「非常回線もダメね。どの施設も動かないし……どうなってるの?」

 

 受話器を下し、困惑するアスカ。

 

 その様子を見て、さっきから不安に思っていた事をつい口に出した。

 

「……下で何かあった、とか?」

 

「そう考えるのが自然ね」

 

 そう言うと、綾波はNERVの職員パスから非常用のマニュアルを抜き取り始める。

 

「殆どの場合、極力チルドレンは本部待機じゃ無かったっけ?」

 

「そうね。行きましょう」

 

 数行目を通すと、頷く綾波。

 

「行くって、でも、どうすんのよ……」

 

「そこのA-17の手動ドアから入れるわ」

 

 具体的な場所も確認していたらしく、さっさと歩き始める綾波に2人で続いた。

 

「これね……シンジ、手伝って」

 

 そこには、重厚そうなゲートと、右側にemergencyと円状に刻印された手回し用のクランクハンドルが取り付けられている。

 

 アスカは既に手をかけていた。

 

「うん」

 

 2人で唸りながら苦労して扉を開けると

 

「お疲れ様」

 

 そう言う綾波に言葉が詰まった。

 

「綾波……これは、ありがとう。でいいんじゃないかな?」

 

「そう? じゃあ、ありがとう」

 

 そうだけど、そうじゃないんだよ……

 

 前を行く綾波に複雑な心境を抱いていると、アスカが唐突に耳打ちした。

 

「……ねぇ、レイっていつもこうなの?」

 

「まぁ、そうだね……」

 

 こそばゆいのを我慢してそう答えると、アスカは少しだけトーンを落とした。

 

「シンジにこう言ったら悪いけど、やっぱり可愛げが無いわよ」

 

「それも素直じゃないってこと?」

 

「かなり……重症ね」

 

 頷いて、ため息を吐くアスカ。

 

 薄暗い通路を進む中、考えずにはいられなかった。

 

 綾波が自分に素直じゃない。

 

 その言葉の意味を無視できるほど、アスカの事を理解している訳もない。

 

 だが、かといって、アスカに直接……なぜ? とぶつけるのも躊躇われた。そんなのは、アスカに直接反抗するような事だ。

 

 折角言ってくれたのに、否定したくない。

 

 そもそも綾波が本当に素直だったとしたら、もうこの世には居ないかもしれない。

 

 悲しい怒りが湧いてくるのを感じながら、拳を握りしめた。

 

 きっと、恐らくだけど……計画の為に生きていると思うから……

 

 それでも、アスカは素直になれと言ったんだ。

 

 綾波はアスカにどう見える?

 

 考えた事が無かった。僕じゃなく、人が人からどう見られるかなんて……。

 

 そうだ……綾波はきっと、ひどく無口で、必要な事しか話さないから、アスカからは、自分を押し殺しているように見えるのかもしれない。

 

 エヴァのために、自分を殺してパイロットに徹している。

 

 でも、素直になってほしい──

 

 だとしたら、アスカは綾波と話したいのかもしれない。知りたいのかも。

 

 なら、手伝ってあげたい。アスカが綾波を知ったら、綾波がアスカを知ったら、きっと綾波も考えてくれる筈だ。

 

 他人について……!

 

 でも、そうだ。

 

 どうして急に……?

 

 何か変わったとすれば、兄妹だと話したこと、綾波と過ごす時間が増えたこと、アスカと……たぶん、愛し合っていること?

 

 未だに、アスカとの事が分からなかった。甘くて、柔らかくて、苦くて……これが愛なのか……僕には、まだ分からない。

 

 アスカが喜ぶと、自分も嬉しい。自分が笑うと、アスカも楽しそうにしている。それは酷く暖かくて、すべてを溶かしてしまうような……

 

 守りたい、存在。

 

 アスカもそうだとしたら、既に変わっているのかも知れない。

 

 僕と綾波は兄妹だから。

 

 だから、知りたい。

 

 あの険悪な感情は消えて、そう思ってくれているのかも知れない。

 

 なら、僕から話すべきか、どうか……。

 

 綾波を失う意味を理解した。母さんを亡くした父さんが、滅びを願うのは理解できる。

 

 でも、こんなこと、どうやって伝えたらいい? アスカはきっと、生きることに不安が無いんだ。分かる筈がない。

 

 しかし、理解しないからこそ。

 

 だから暖かくて、明るく照らせるんだ。

 

 無理だ……

 

 綾波とアスカ。2人は、真逆の存在なのかも知れない……決して分かり合えない……

 

『だいすき』

 

 分からない。という思考を否定するように、アスカとの日々が思い出される。

 

 遊園地でのこと、買い物に行ったこと、勉強を一緒にしたこと……

 

 そうだ。

 

 僕には、今なら、アスカの気持ちが分かる。自分の為に努力をして、自分の為に装っていた、アスカ。学校ではしない表情を、態度を、してくれているんだ。

 

 それは、安心しているから。

 

 装わなくていい。

 

 受け入れてくれると、信頼してくれている。

 

 それって……きっと……

 

 アスカはとっくに、僕の事を……それは、もう、絶対に変わらないもの。

 

 そう信じても、いいのかもしれない。

 

「……何よ、さっきっから」

 

「え?」

 

「見てるでしょ? ずっと」

 

「あ……いや、僕も、素直じゃ無かったかも……って思ってさ」

 

「なにが」

 

「えっと……色々、かな?」

 

 本当は言っても良かったが、こんな時に話す内容じゃないと思い、濁して頭を掻いた。

 

「……意味分かんない」

 

「後で話すよ。今は急ごう」

 

「絶対よ」

 

「うん」

 

 きっと今なら、応えるだけじゃなく、好きだと、自分から言えると思うから。

 

「静かに」

 

「どうしたの?」

 

「人の声よ」

 

 綾波の言葉に黙ると、微かに声が聞こえてきた。

 

〝現在、使徒接近中。繰り返す! 現在、使徒接近中!!〟

 

 日向さんが、上の通路をを何かで高速に移動しながら拡声器でそう叫んでいる。

 

「「使徒、接近!?」」

 

 こんな時に……!?

 

 第一種警戒体制とはいえ、普段のカレーターの速度から考えるとかなり遅れて到着することになるような……

 

「近道しましょう」

 

 それに少し驚いたけど、確かに、綾波なら知っているのかもしれない。

 

「そんなのあったんだ。なら、最初から……」

 

「そうよ! わざわざ遠回りしてたっての?」

 

「道じゃないもの」

 

 そう言って綾波が指さしたのは……

 

「もしかして……その穴?」

 

「はぁ……通気ダクトで近道って……本気?」

 

 頷く綾波に、アスカと顔を見合わせて……諦めたように頷く。

 

「仕方ないわね。行くわよ!」

 

 その声を聞くまでもなく、綾波は狭い穴に入り込んでいた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 NERV本部 司令塔

 

「このジオフロントは、外部から隔離されても自給自足できるコロニーとして作られている……その全ての電源が落ちるという状況は、理論上ありえない」

 

 冬月は、状況を見守る碇ゲンドウ、赤城リツコに確認するように呟いた。

 

「誰かが故意にやったという事ですね」

 

「恐らく、その目的はここの調査だな」

 

「復旧ルートから、本部の構造を推測する訳ですか」

 

 予想通りの回答を得られ、冬月は嘆息する。

 

「癪なやつらだ」

 

「MAGIにダミープログラムを走らせます。全体の把握は、困難になると思いますから」

 

「頼む」

 

 許可を出した碇ゲンドウを、冷静に見返す赤城リツコ。

 

「……はい」

 

 しかし、そのサングラスの裏を想像して司令塔から降りて行く。

 

「本部初の被害が、使徒ではなく同じ人間によるものとは。やりきれんな」

 

「所詮、人間の敵は人間だよ」

 

 碇ゲンドウはごく平坦な声で応じた。

 

 

「現在、使徒接近中! 直ちにエヴァ発進の要ありと見取る!!」

 

 選挙カーで司令塔に登場した日向マコトの報告を受け、碇ゲンドウは立ち上がった。

 

「冬月、後を頼む」

 

「碇?」

 

「私はケイジでエヴァの発進準備を進めておく」

 

「まさか……手動でか」

 

「緊急用のディーゼルがある」

 

「しかし……」

 

 碇ゲンドウの降りたタラップを見つめ

 

「……パイロットがいないぞ」

 

 冬月はそう独りごちた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねぇ、レイ! 本当に大丈夫なの!?」

 

「何が?」

 

「近道してるのに、着かないじゃない!」

 

 狭い場所と、蒸し暑さに耐えかねてか、僕の背後でアスカが弱音を出した。

 

「……ずいぶん降ってきたし、きっともうすぐだよ」

 

 まさか本部に住んでいたから、と言うわけにもいかず、同じ文句で濁したが

 

「それはさっきも聞いたわよ!」

 

 アスカは限界らしかった。

 

「止まって」

 

「うわっ」

 

「……なに?」

 

 急に止まった綾波をじっと待っていると、ガッ、ガッ、と何かを蹴るような音が響いてくる。

 

「えっ、ちょっと、なにしてんの?」

 

 座っていると、前を見ようと脇から顔を寄せたアスカ。

 

「ケイジがそこの下みたいで」

 

 ダクトの下部分が排気のため開口部になっており、そのカバーを破壊していたのだ。

 

「意外と、容赦がないのね……」

 

「そうだね。ちょっと意外かも……」

 

 真剣に力を振るう綾波というのは、見た事が無かった。

 

 そして、カバーを蹴り落とすと、ひょいと飛び降りてしまった。

 

「ほら、私達も行くわよ」

 

 後ろからせっつかれて開口部を覗くと……

 

「うわ……高……」

 

 そこは、3メートルはありそうな高所だった。思えば、ダクトは天井にあるんだから、当然ではあるけど……。

 

 既に降りた綾波は、何事も無かったらしく、特に心配でもなさそうにこちらを見つめていた。

 

 近くには何故か、何かの機器を操作する赤城博士と伊吹オペレーターもいる。

 

「あ〜。シンジぃ、怖いんでしょ〜?」

 

「そ、そんなことない」

 

「仕方ないわね〜! 怖いなら私、先に飛ぶわよ。何か持ってきてあげるから。ほら」

 

 場所を交代しようとせっついてくるアスカ。だんだんと恥ずかしくなって、大した高さでは無いような気がしてきた。

 

「大丈夫だよ!」

 

 思い切って訓練を思い出して飛び降りる。

 

「ッ〜!」

 

 じんじんする両足をさすりながらアスカの為に場所を空けると、平然としている綾波が居た。

 

「あ、綾波……大丈夫なの?」

 

「何が?」

 

「足、痛くない?」

 

「……痛い」

 

「痛いんだ……」

 

 とてもそうは見えないけど……

 

「降りるけど、見ないでよね!!」

 

 頭上から声が降ってくる。

 

「なんで!?」

 

「いいから!! 上見たら殴るわよ!!」

 

「……分かったよ! 後ろ向いてるから!」

 

 理由が分からないまま背を向けると、背後で着地した音がした。

 

「アスカ、大丈夫?」

 

「楽勝よ! ……って、いつまで後ろ向いてるの?」

 

「えっ、だってそれは……」

 

「……鈍感」

 

 振り返ると、なぜかジトっとした目をされる。

 

 アスカが言ったから……と言葉にするのを躊躇った。

 

 鈍感って……そうか。

 

 スカートだ。

 

「ごめん、アスカ。気付かなかった」

 

「知ってるわよ! だから言ったの!!」

 

「あ、あはは……そうだよね……」

 

「もう……! だいたい、シンジっていつもそうよね! 変なところで敏感なくせに、普段はまるっきりダメなんだから!」

 

「あ、アスカ。ここでそんなこと言わなくても!」

 

「少しは反省しなさいよ!」

 

「ごめん……」

 

「もう、全然分かってないんだから……」

 

「いいかしら?」

 

 声に視線を向けると、赤城博士がポケットに両手を入れて感心するような、呆れたような顔をしていた。

 

「既にエヴァは、スタンバイ出来てるわよ」

 

 予想外の言葉に、どうやったのか疑問で仕方ない。

 

「何も、動かないのに……?」

 

「人の手でね。司令のアイディアよ」

 

「父さんの……」

 

「碇司令は、貴方達が来ることを信じて準備してたのよ」

 

 そう言って、背後を示す赤城博士。

 

 一つ上のブリッジで、作業員に混じって作業をする父さん。

 

 その真剣さを、素直に喜べない自分がいた。

 

 向けられた情熱は、エヴァに対してだ。

 

 向けられた信頼は、どうしても、パイロットに対してではないか……と考えてしまう。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

『第一ロックボルト、外せ』

 

『2番から36番までの油圧ロックを解除』

 

『圧力0。状況フリー』

 

『構わん。各機実力で拘束具を強制除去! 出撃しろ!』

 

 起動が完了すると、集音機からの環境音が響いてくる。

 

 普段の通信は起動しないようで、不思議な感じだ。

 

 

 

 予想よりも重い拘束具を引き剥がすと、換装エリアに進むよう指示され、予備バッテリーの搭載が行われた。

 

『目標は直上にて待機のもよう!』

 

『作業急いで!』

 

『非常用バッテリー搭載完了!』

 

『よし、いけるわ! 出撃!!』

 

 全員が声を張り上げるからか、珍しく大声の赤城博士の声で、竪穴に続く輸送用連絡通路を這って進み始める。

 

 

「……今日はこんなのばっかりね!」

 

 機体のローカル通信で悪態を吐くアスカ。

 

「そうだね。明日は外に居たいな……」

 

 流石に、こうも連続すると同意せざるを得なかった。

 

「じゃあ明日、どっか行くわよ」

 

「分かった」

 

「……竪穴に出るわ」

 

 少し不機嫌そうな綾波の声で黙ると、先頭を行くアスカは既に竪穴に飛び出していた。

 

 両手両足を垂直な壁につけて、慎重に上がってゆく。

 

「……え?」

 

「避けて!」

 

 お互いに集中して無音のまま進む中、唐突にそんな通信が届いた。

 

 

 再び、輸送用連絡通路の中。

 

 前方の竪穴にオレンジの液体が滴っている。

 

「目標は、強力な溶解液で本部に直接侵入を図るつもりのようね……」

 

 さっき攻撃を受けて墜落した弐号機と零号機だったが、綾波曰く溶解液らしい。

 

「どうしようか……」

 

 上までの距離は不明。本部とは連絡が取れない。

 

「初号機のライフルは?」

 

 背部に取り付けられた障害物用の標準ライフルのことなら……

 

「さっきので落ちたんだ」

 

「……作戦があるわ」

 

 真剣なアスカの声に、綾波と僕は弐号機へ機体を寄せた。

 

「ここに留まる機体がディフェンス。ATフィールドを中和しつつ、奴の溶解液からオフェンスを守る。

 

 バックアップは下降。落ちたライフルを回収し、オフェンスに渡す。

 

 そしてオフェンスは、ライフルの一斉射にて目標を破壊。これでいい?」

 

「いいわ。ディフェンスは私が」

 

「……任せるわ。シンジは?」

 

 真剣な目に、温泉宿での事を思い出していた。落ち込む姿は……見たくない。

 

「バックアップをやるよ」

 

 その声にアスカは頷いた。

 

「オフェンスは私ね」

 

「……行くわ」

 

 一拍置いて動き出した零号機に続いて、竪穴を飛び出した。

 

 底に到着すると、右手を下に垂らした弐号機が直上に待機している。

 

「シンジ!」

 

 その声にライフルを投げ渡した。

 

「レイ、どいて!」

 

 響き渡る射撃音。

 

 やがて落下した零号機を弐号機が受け止めた。

 

 そして、上部から響く爆発音。

 

「やった……! レイ!」

 

「なに?」

 

「ナイスディフェンス!」

 

「……ありがとう」

 

 綾波の声は……少し、嬉しそうだ。

 

「ふふん! ここまで上手く行くとは、私はやっぱり天才ね!!」

 

 アスカも楽しそうで、ほっと息が漏れた。

 

 しかし……

 

「それはそうだけど、もう、降りた方がいいんじゃない?」

 

「…………ヤダ!」

 

「……登るの? 後1分で?」

 

「もーっ!! 通路はイヤなのーッ!!」

 

 アスカは吠えた。

 

 それは聞く者の魂を震わせる、心からの叫びだった……

 

 

 数時間後。

 

 結局、竪穴の底から出口へ着く頃には夜になっていて、アスカは魂が抜けていた。

 

 それは無だった。アレは、なんというかこう……何も考えていない。

 

 アスカが話さなければ、会話があるはずもなく……

 

 とにかく、3人で無言のまま背の低い草花に覆われた山肌に腰を下ろす。

 

 プラグスーツの生体情報を追って回収班が来るのを待つしかない。

 

 歩き続けた全身の疲れから体を寝かせると、眼前に満点の星空が広がった。

 

「はぁ……」

 

 本当に吸い込まれるみたいだ。

 

「知らなかったな……空がこんなに綺麗だなんて」

 

「ま、悪くないわね……」

 

 右を向くと、側にアスカが寝ていた。

 

 その瞳にも星空が映っていて、見惚れているように見える。

 

 空いている左手を、右手で包んだ。

 

「なによ、急に……」

 

 不思議そうにこっちを向く。

 

「嫌じゃないでしょ?」

 

 いつもアスカにされるように、悪戯っぽく微笑んでみると、耳まで赤くなって、黙ってしまった。

 

 確かに、これはちょっと……癖になるかもしれない。

 

「素直になろうかなって、思ったんだ。いろいろと……」

 

「……うん」

 

 頬を染めた青い瞳は、何かを期待しているようで……

 

「アスカ……君の事が、好きだ」

 

 彼女は少し目を見開くと、目線を宙に泳がせて、仰向けになり、ぽつりと零した。

 

「……知ってる」

 

「……?」

 

 てっきり、逆襲されるかと思っていたのに……

 

「照れてる……?」

 

「ッ〜! シンジのバカ! 奥手! チェリーボーイ!!」

 

「えっ、なに、どういうこと?」

 

「リードするなら、しなさいよ!! なんでやめるのよ!! そこで!!」

 

「いや、そんな……恥ずかしいよ。僕からするなんて……」

 

「あ〜も〜バカバカバカ!! そーゆー所だって言ってんのよ〜!!!!」

 

「った! 痛い! 強いってアスカ!!」

 

「うるさい!! バカ!!」

 

「何してるのよ……」

 

「ッ〜! レイ、見てたの!?」

 

「何が?」

 

「っと、その……さっきのよ!」

 

「見ていたわ。だから、何? なぜ碇君を殴るの?」

 

「それは……シンジが狡い事するからよ!」

 

「貴女は喜んでいたわ。狡いことって、何?」

 

「それは……!」

 

「……それは?」

 

「狡いじゃない……あんなの……」

 

「嬉しい事をされて、殴るのね」

 

「うっ……それは……だから……つまり……」

 

「何?」

 

「悪かったわよ……」

 

「謝罪なら碇君にするべきだと思うわ」

 

「うっ……悪かったわね」

 

 僕を見据えると、アスカは謝った。

 

「いや、良いんだ。アスカがして欲しい事を裏切ったのは、僕なんだし……」

 

「でも……確かにやりすぎたわ。痛くない?」

 

「うん。大丈夫」

 

「はぁ。なら、良いんだけど……」

 

「……人は、墓を作り、想いとを記録して生きてきた……」

 

「「……?」」

 

「互いを想うことって、何?」

 

「哲学ね……」

 

「……分からないけど、僕たちは大丈夫だよ」

 

「大丈夫って?」

 

「もう寂しくない。何も、怖くないから」

 

「……うん」

 

「ほら、綾波も」

 

 左手を伸ばした。

 

「……そうね」

 

 3人で手を繋ぎ、星を見上げた。

 

 何があっても、きっと……大丈夫。

 

 そう思えた。




 次回 「奇跡の価値は。」






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