もし、碇ゲンドウが少しだけ器用で、用意周到な男だったら。   作:煮魚( )

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 今回は8000くらいです。




第拾陸話 奇跡の価値は。(前編)

「うわっ、ジャージにメガネ。なんでここに居んのよ」

 

 脱衣所から顔を覗かせたアスカは、驚いていた。

 

 濡れた所を見る所だったとは……危なかった……事前に連絡すれば良かったかな?

 

 とは思いつつも、トウジやケンスケが追い出されるのは彼らに忍びないので、苦笑いして頭を掻く。

 

「雨、酷いでしょ? 僕が誘ったんだ」

 

「はぁ……良いけどさぁ。その盗撮魔、ちゃんと見ときなさいよ!」

 

 キッと睨むと脱衣所に消えていくアスカ。

 

「誰がお前の見るかっちゃんじゃ!」

 

「自意識過剰だよ……」

 

 そう言って呆れる2人に少しムッとする。

 

 学校では苗字で呼ぶのに、メガネとジャージなんて呼ばれたのに怒っているのかも知れないけど、家に上がっているのはトウジとケンスケの方だ。

 

「部屋にまで来てるんだから、警戒もするんじゃないかな。ケンスケは特に……前科があるからね……い、ろ、い、ろ、と……」

 

 じろりと睨むと、ケンスケはたじろいだ。

 

「うっ、その、……ごめん! 碇! 遊園地の写真を売ったのは反省してるよ。ご慈悲! ご慈悲を〜!」

 

 前回、次にやったらカメラを破壊する。という話までした事を思い出したのか、縋ってくるケンスケ。

 

「本当に反省してるのかなぁ……」

 

 軽い感じにちょっと不安になる。

 

「ケンスケはアホウやなぁ〜。そない言ったらどうなるか分かるやろ」

 

 落ち込むケンスケの肩をバシバシと叩くトウジ。自分は関係ないって風だけど……

 

「トウジもだよ」

 

「は? ワシもか? 何がや」

 

「アスカと仲が悪いのは知ってるけど、家に来てまで悪く言わないこと。……トウジだって、家にアスカが来て散々言われたら嫌でしょ?」

 

「むう……ま、そりゃあそうや……そうか……気をつけるわ。許してくれや」

 

「あ、いや……許すも何も、気をつけてくれれば良いんだけど……」

 

「碇! やっぱり碇は優しいなぁ〜!」

 

「いや、ケンスケは本当に辞めてよ」

 

「うぐぅ……そんな……お慈悲を……」

 

 この世の終わりのような表情で崩れ落ちるケンスケ。

 

 しかし、こればかりは譲れなかった。

 

「慈悲も何も……散々嫌だって言ったのに、まだ諦めてないの? しかも、それだってカメラの為でしょ? 自分で稼ぐまで、それくらい我慢してよ」

 

「いや、これも立派な商売なんだ!!」

 

「だから辞めて欲しいなって……アスカや綾波や僕を売って稼いでる訳でしょ? どこら辺がケンスケの商売なんだよ」

 

「それは……カメラマンとして! そう! 被写体の魅力を最大限に引き出して」

 

「だから頼んでないし、嫌というか……」

 

「なんて……もったいない……!」

 

 そう言われても、それは新しいカメラが欲しい。という、ケンスケの事情だ。

 

 僕やアスカの写真を売って手に入れなきゃいけない理由にはならない。

 

「はぁ。そもそも……ミサトさんに言ったら、多分、処罰されるよ。いい加減にしないと、本当に怒るから」

 

「ひぃ……! それだけは本当に……」

 

 途端に青い顔をするケンスケ。

 

 前回、不法にシェルターを抜け出して処罰されたのが本当に堪えているらしい。

 

 スラリ。と、襖が開くと、仕事着のミサトさんが現れて

 

「あら、いらっしゃい」

 

 そう言って笑った。

 

 最近徹夜の仕事が多いから、こうして夕方に出勤することが多い。

 

「みっ……ミサト……さん……」

 

「お、お邪魔してます」

 

 ケンスケは完全に固まっている。

 

 その様子を見て、ため息をついた。

 

「処罰なんかしないわよ。シンジ君も、あまり不要な事は言わないように」

 

「ごめんなさい……」

 

「なんだ。良かったぁ」

 

「それはそれとして、盗撮は犯罪よ?」

 

「ひっ……! す、すいません!!」

 

「分かればよろしい。2人とも? 今夜はハーモニクスのテストがあるから、遅れない様にね」

 

「はい」

 

「はーい!」

 

 浴槽から、少し遅れてアスカの声がした。

 

「じゃ、行ってくるわ」

 

 そのまま忙しそうに出て行くミサトさん。

 

「いってらっしゃい」

 

 背中に声を掛けるが、既に玄関の開閉音が響いていた。

 

「はー、やっぱりカッコええなぁ。ミサトさんは」

 

「昇進したんだ……」

 

 ミサトさんが横を通る時、驚愕してそのままのケンスケは呟いた。

 

「どうしたの?」

 

「襟章だよ! 3佐に昇進したんだ!! くぅ〜……何も言えなかったなんて……」

 

 ケンスケはとても悔しそうにしている。

 

「だから最近忙しいのかな……」

 

 それがちょっと心配だった。

 

「そうだぞ! 学生二人を養って仕事もするなんて大変な事だ。しかも昇進するなんて……凄すぎる……!」

 

「そう言われると……そうかも?」

 

 最近はミサトさんが忙しいのもあり、炊事洗濯その他家事はアスカと手分けしてやっている。

 

 ミサトさんは仕事に集中出来ていると思う。それに、全員がこの状況を受け入れているから、別に雰囲気が悪い訳じゃない。

 

 ケンスケの言うような悲壮感はあまり感じなかった。

 

「あーあ。分かってないなぁ。碇は」

 

「ホンマ。人の心を持っとるのはワシらだけやな……」

 

 うんうん。と頷く二人に、仄暗い感情を覚えた。ミサトさんは、どうしても、作戦部長として一線を引いている。それは自分も分かっている事だった。

 

 後ろ向きに壁が無いのは、誰もミサトさんを知らないからだ……

 

 しかし、作戦部長という、時には命を捨てろと命令をする立場だからこそ、知ってはいけないと感じるのも理解できる。

 

 知ってしまったら、ミサトさんの中に僕がいたら、アスカが居たら、綾波が居たら……きっと、壁になってしまうから。

 

「心配なら、僕もしてるよ……」

 

「いやいや……こういうのは普通、お祝いするものだろ? 何か準備してるのか?」

 

「それは、してないけど」

 

「やっぱりな。分かってないじゃないか」

 

「…………」

 

 当然。

 

 という様子の二人に違和感を覚えた。

 

 喜ぶべき。という理屈は分かる。

 

 だけど……喜べないのは、ダメなんだろうか。普通じゃないんだろうか。否定されることなのか?

 

 普通ではないこと。

 

 パイロットと指揮官。

 

 以前の自分なら、恐れ、嫌厭し、何が悪かったのか考える所だったが、不思議と喜ばなくてもいい気がしていた。

 

 それに、ミサトさんを知らなくても……仕方のない事だと思ってしまう。

 

 僕はアスカや綾波に、それが必要だったとしても、死ねとは言えないから……

 

 近づく限界。

 

 閉塞しつつある事は感じていた。

 

 だから、仕方のない事だと思ってしまう。

 

「あはは……そう、だね……」

 

 ミサトさんの事なんて知らないから。

 

 でも、それじゃダメだ。

 

 知らないのに、分かっているからと感情を押し付けるのは、お互いに嫌な事だと思うから……

 

 それで、関わらないのか?

 

 家族なのに……

 

 僕はまた、心にもない苦笑いをした。

 

 自分を偽るのは、まだ、慣れない。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 NERV本部、仮想プラグ実験ケイジ併設モニター室内。

 

 ハーモニクステスト中。

 

「ここの所は3人とも、良い数値ですね」

 

「そうね……」

 

 伊吹マヤの反応に、そぞろな態度で赤城リツコは対応した。

 

「特にシンジ君は……たった数ヶ月の訓練で、ここまで安定するとは。まるでエヴァに乗るために生まれてきた子ですね」

 

「いえ。素質は全員にあるのよ」

 

 技術部の一人の意見を否定する。

 

「ですね。アスカも、最近数値を伸ばしていますから」

 

「……数年の訓練の果てにね。しかも、伸び始めたのは先の使徒戦の後からよ」

 

 伊吹マヤのフォローも切り捨てた。

 

「……?」

 

 普段と違う様子を察知して、伊吹マヤは上司の顔色を伺ったが……

 

「あり得ないわ……そんなこと……」

 

「どうして、そんな事が分かるの?」

 

 壁際で、険しい顔でシンクロテストを見守っていた葛城ミサトが口を開く。

 

「……アスカのデータは数ヶ月単位では無いのよ? シンクロは表層的な問題に左右されない──数年の蓄積を覆すような変化は……ありえない」

 

「子供は成長するものよ」

 

「…………」

 

 赤城リツコは、表情を削ぎ落とした顔で葛城ミサトを見据えた。

 

 葛城ミサトこそ、何も変わりない事を、立場上変わり得ない事を理解していた。

 

「パイロットの管理はあなたの仕事よ。最悪の場合……脱走すら考えられる事は、分かっているでしょうね」

 

 本来なら、代わりを期待しても良かったが、事情が変わってしまった。

 

 今、ここにいるパイロットは一人として逃す訳にはいかないのだ。

 

 残念ながら、諜報部は万能では無い……

 

 葛城ミサトさえ変化があるようであれば、拘束すら考えなければならなかった。

 

「する訳ないじゃない。あの子たちが……」

 

 苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

 

 その矛盾した様子を見て赤城リツコは悟り、矛を収める。

 

「葛城一尉。くれぐれも……過信はしないように」

 

「分かってるわよ」

 

 アンタよりかはね。という言葉を、葛城ミサトは飲み込んだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 テスト終了後。

 

 カーレイン出口から続く一般道を走行中の一般車両。

 

 同車内。

 

「ミサトさん」

 

「……なぁに?」

 

 疲れてシートベルトもせずに眠ってしまったアスカの体温を横に感じながら、前方の運転席にいるミサトさんに声をかけた。

 

「ケンスケが、昇進のお祝いをやろうって言うんだけど……」

 

「…………」

 

 ミサトさんは、真剣な表情で前方を見据えているように見える。バックミラーに映る瞳からは、なにも感じられない。

 

「気にしてない見たいだったし、どうなのかなって思って……」

 

「私が、嫌がるんじゃないかって?」

 

「……うん」

 

「そんな訳ないじゃない」

 

 表情を砕けさせるミサトさん。

 

 しかし、お酒が切れているからか、ひどく乾いたものだった。

 

「でも……嬉しくなさそうですよね」

 

 ミサトさんの、それを、疲れた時に剥がれたそれを指摘するのは初めてだった。

 

 お酒や、他にも様々言わない事は多いけど……最近、増えている気がする。

 

 自分でも分からない。ミサトさんと、どう触れ合っていいのか…….

 

 でも、一歩踏み出すなら今しかない。

 

 これ以上、離れる前に。

 

「…………」

 

 ミサトさんは舌打ちをしそうな、嫌な顔をした。そして、すぐに元の真剣な顔に戻ってしまう。

 

「全く嬉しくないって訳じゃ、ないわよ……でも……それだけがここにいる理由じゃないから」

 

『私と同じね』

 

 その虚空を見つめる瞳に、いつかの言葉を思い出していた。

 

「じゃあ……どうしてNERVに居るんですか?」

 

 ミサトさんの、過去。

 

 その重さに、ごくりと喉が鳴る。

 

 僕は受け入れられるだろうか……

 

「……昔の事なんか、忘れたわ」

 

 サイドミラーをちらりと見やり、そう言われた。

 

 裏切られた。と、思った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕方。

 

「ちょっち付き合って?」

 

 無理に笑ったようなミサトさんは、そう言って車へ誘う。

 

 いつか来た、第3新東京市を一望する公園へ連れられ、ミサトさんは語り始めた。

 

「シンジ君、昨日……聞いてたわね。私がどうしてNERVへ入ったのか」

 

 潮騒のような風の音。

 

 今、指揮官でもなく、ミサトさんでもない……そんな、声の表情だった。

 

 だけど、半分は聞き流すつもりだった。ミサトさんは、僕の事を、心から家族だとは……思っていない。

 

 あの時の言葉は……嘘だったのか。

 

『昔の事なんて、忘れたわ』

 

 あの時の表情は、忘れられなかった。

 

「私の父はね、自分の研究。夢の中に生きる人だったわ。そんな父を許す事が出来なかった──憎んでさえいたわ」

 

 僕と……同じだ。

 

 父さん。怖がりな父さん。エヴァンゲリオンに熱心な父さん……

 

 ミサトさんが、急に近い距離に現れて困惑した。なんて僕は身勝手なんだろう……人を測って、突き放すなんて……っ

 

 

「母や私、家族の事など構ってくれなかった。周りの人たちは繊細な人だと言っていたわ。でも本当は心の弱い、現実から……私たち家族という現実から逃げてばかり居た人だったのよ」

 

 家族という現実から逃げる。

 

 その言葉に、父さんと、ミサトさんと、僕が重なる。

 

 僕は、ミサトさんや父さんを、勝手に測って、拒絶した……

 

 でも、真実が異なっていたら? ミサトさんみたいに、父さんだって父さんなりに努力していたとしたら?

 

 綾波の事を、心苦しく思っていたら?

 

 何か事情があって、綾波とすれ違っている可能性もある。

 

 涙が流れた。

 

 愛したい。

 

 本当は……父さんや、ミサトさんだって、心から信頼して、頼りたい。その痛みが胸の奥で、ずっと存在を主張している。

 

 その事を、自覚したから。

 

 こんなに痛くて、苦しくて、涙が出るのは……

 

 愛したいのに、否定していたから。

 

 人として分かるのに、親の相容れない答えに、子として否定しなければならないと思い込んでいたから。

 

 それが自分で分かるから、悲しいんだ。

 

 親を、人として、見ること。

 

 親の、間違いを、許すこと。

 

 そして甘えることは、全部同じ事なんだ……

 

「子供みたいな人だったわ」

 

 ミサトさんの拒絶に、目が冴えるようだった。

 

 どうして?

 

 ここには何もない。

 

 だから。

 

 誰かを、愛したい。優しくなりたい。

 

 素直でありたい。

 

 そして、生きて分かり合いたい……

 

 お互いに幸せになる一つの方法。

 

 それは、僕がアスカや綾波、トウジやケンスケ……ミサトさんや父さんに思うように、誰もがそうだと思い込んでいた。

 

 ミサトさんは、どうして……

 

「母と父が別れた時もすぐに賛成した。母はいつも泣いてばかりいたもの……父はショックだったみたいだけど、その時は自業自得だと笑ったわ」

 

 それは確信に変わった。

 

「けど、最後は私の身代わりになって……死んだの」

 

 その声に宿る感情は、とても測れない。

 

 死んでしまって、自分の拒絶を理解したら……そう考えて寒くなった。

 

 僕には、超えられるか分からない。

 

 ミサトさんが、どんな地獄を超えてここに立っているのか、分かる気がした。

 

「セカンドインパクトの時にね」

 

 ミサトさんは……強い。

 

「……私には分からなくなったわ。父を憎んでいたのか……好きだったのか」

 

 ……いや、超えたんじゃない。

 

 忘れようとしているんだ。

 

 愛する気持ちを。

 

 どこにも壁が無いのは、自分にすら、愛する気持ちを持っていないから……

 

 そこに、何もないから。

 

 何もないから、求めるんじゃなく、未だに無に還ろうとしている……

 

 ミサトさんに、家族が居ないから。

 

「ただ一つハッキリとしているのは、セカンドインパクトを起こした使徒を倒す。その為にNERVに入ったわ」

 

 それは、アスカに似て、でも、違う……死ぬ為に、努力をしている。

 

 父さんと……同じだ……

 

「結局、私は父への復讐をしたいだけなのかも知れない。父の呪縛から逃れるために……」

 

 そう言うミサトさんを、背後から抱きしめていた。

 

 動機がなんであれ、どうでも良かった。

 

 ミサトさんは、家族になろうとしていて、指揮官だから、僕やアスカが応えないから、仕事として理解して貰おうとしているんだ。

 

 家族を止めようとしているんだ。

 

 だから、話すんだ……

 

 僕のせいだ……

 

「僕は……それでもいいよ。どうでもいいんだ。帰ってきてよ……初めの頃みたいに、笑って話してよ……」

 

 その少しつんとする背中に、額を押し付ける。

 

「シンジ君……」

 

「嫌なんだ……っ、作戦の度に……どんどん、お酒の量が増えるし、仕事ばかりになるし……そんなの、嫌だよ……」

 

「私は……指揮官なのよ」

 

 一度離れると、向き合い、目の高さを合わせるミサトさん。

 

 何度も指揮官と部下の話は聞いていた。

 

 意味する事も分かる。

 

 僕の肩を掴んで、その瞳には悲しい諦めのような鈍い光を宿していた。

 

「僕も……守るためだったら……何でもするよ。方法が無いなら、迷わない」

 

 アスカを……信じているから。

 

 大学だって出ているし、クラスで強かに生活している。何があっても、アスカなら切り抜けてくれる。

 

 父さんだって……超えられるはずだ。

 

 そう思う他、ない。

 

 もしそうなったら、僕は居ないから……

 

『人は墓を使って、想いとを記録してきた……』

 

 想いを託すこと。

 

 人はそうやって、死んで、生きるから。

 

「私は、アスカやレイにも命令するわ」

 

「……恨まないよ。それに、僕は沢山貰ったから……もう、大丈夫なんだ」

 

 ゆっくりと首を横にふる。

 

 人類を救う為に。

 

 命を紡ぐために。

 

 それは、何よりも意味があると思えるから。

 

 僕じゃなくても、将来、似た誰かが想い合うかもしれない。

 

 未来に可能性があること。

 

 それで、生きようと思えるから……。

 

 一人で生きていても、意味がないんだ。

 

 世界のどこかにいる、僕の為に、アスカの為に、綾波のために……。

 

 誰かの為に、生きる。

 

 世界を、守る。

 

「そう……大人なのね。シンジ君は」

 

「関係ないんだ。大人とか、子供とか、指揮官とか、パイロットとか。気にしないよ。そんなの。僕はミサトさんと……皆んなと、一緒に居たいんだ。その為に僕は……出来る事をし続ける」

 

 ミサトさんは意外そうに目を見開いて、そして、ゆっくりと微笑んだ。

 

「ふふ……アスカが、少し羨ましいわ。私は本当にダメな……ダメな大人ね……」

 

 抱きしめながら、耳元でそう呟く。

 

「ダメじゃない。ミサトさんは……ミサトさんだよ。気にしなくて良いんだ。自分の立場なんて……」

 

 溢れるように……押し殺して、涙していた。

 

 大人だって、きっと……子供なんだ。

 

 みんな、同じなんだ。

 

 霧が晴れるように、心からそれが理解できて、涙が流れた。

 

 同じなのに。自分のために拒絶するんだ。

 

 わがままなんだ……。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 コンフォート17、葛城家。

 

 開かれた細やかなホームパーティーには、洞木さん、トウジ、ケンスケ、綾波が訪れていた。

 

「企画立案は、この相田ケンスケ! 相田ケンスケであります!!」

 

 起立して、そう宣言するケンスケ。

 

 飲み物やピザ等が揃って、誰かが音頭を取ろうという話しになった時だった。

 

 少し揉めた末に、ケンスケが動いていた。

 

「ありがとう。相田君」

 

 少し困ったように、でも……

 

 何よりも、ミサトさんが笑ってくれて、良かったと思う。







 次回 「奇跡の価値は。(後編)」




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