もし、碇ゲンドウが少しだけ器用で、用意周到な男だったら。 作:煮魚( )
近日中に後編をお出ししますので、しばしお待ち下さい……
以下、本文です。
無頼気取ればOh Let it burn now YA
無礼決めれば散花?否
どうかしてる
獣化してる
無垢だからだろ?
落ちたARK額のMARK強く照らせDARK
〝肌〟が合わなけりゃ目も合わせないそれでも We don’t care
初期不良だとかRecallだとかオトナが喚いてる
どっち向いて喋ってるの?
ぼくはこっちだよ
「一角獣」(てにをは 2020/5/15配信)
今回は4000文字です。
翌朝。
「それじゃあ」
「「行ってきます」」
「クワワ」
何か言いたげだったペンペンが扉の向こうに消えると、少し先を行くミサトさんを横目に、アスカの鋭い目線を憂いていた。
「その……アスカ」
「分かってる」
そう言って歩きながら、目を瞑る。
「…………」
「任せときなさいよ」
綾波の部屋の玄関前で立ち止まって、腰に手を当てて、でも、自然体だった。
自慢げなんかまるで無く、そう有ることが当然みたいに、微笑んでいる。
数時間前に、嗚咽を漏らしたとは思えない。数センチ背が伸びたような気さえしていた。
「うん」
それに頷くと、表情を変えないままに手を引き寄せられて、後頭部を抑えられ、撫でられる。
「ちゃんと、弔って」
耳元で囁かれた喉を細む声が、突き刺さって。
「……分かった」
緩んだ腕から脱出すると、互いにその真剣な瞳に頷いて、別れた。
◇
エレベーターを開けて待っていたミサトさんは、ふぅ、と息を吐いて、簡単に心配する様に口を開いた。
「何の話をしてたの?」
「……弔って来てほしい。って、アスカが」
「…………」
「僕も分からなかったんだ。本当に母さんが眠っているなんて、思わないから……」
扉が閉まる。
シャフト内を明るくする蛍光灯の光を受けながら、2人で立ち尽くしていた。
「今は、分かるのね」
「……今、父さんが死んでも、きっと、何も言えないと思う。怒るかもしれない」
「……なんで勝手に死んだんだ……って?」
エレベーターの駆動音が、この個室を支配していた。
「きっと僕は、言えるようになりたいんだ。父さんのこと」
「…………」
「父さんは、世界を守っていたんだって」
「っ──そう……ね……そうね……」
前を向いたまま僕の肩を力強く掴んで、頷きながら、涙が溢れていた。
きっと、ミサトさんも……胸を張って、言いたかったのかも知れない。
お父さんのことを。
「家族になる……なんて、まだ分からないけど……もう、ミサトさんの事は言えるよ」
「だから……大丈夫だよ。ミサトさん」
「シンジ君ッ…………」
涙が止まらなくなった、肩を掴むその手を、握っていた。筋張った、大きな手だった。
「もう……ズルいわよ……っ……そんなの……」
俯くその横顔は、どこか嬉しそうで、涙を拭う片手は忙しそうでも、振り解きはしなかった。
それに暖かくなるのは、良いことだと思えたから。
◇
屋外に面する共用廊下に、チャイムの音が響く。
しばらくして。
「なに?」
制服に身を包んだレイが変わらぬ表情で現れるのを、見て。
意を決して言葉を発した。
「図書館に行くわよ!」
「どうして?」
逆にどーして理由を一から説明しなきゃいけないの?
アスカはその言動に段々と苛立ちを感じながらも、なんとか二の句を繋げる。
「そう言うと思ってね……アンタ、アポトーシスって知ってる?」
それに首を振る。
「要するに、あり得ないけど……カスパーゼって酵素群がアンタの体の中で一斉に活性化したら、5分以内に骨と幾つかの固形物と液体に分解されるって事よ」
それを聞いて、目線を伏せて硬直するレイ。
それに微かな手応えを感じていた。
「そもそも、本来なら神経系の遺伝形質を外界の状況に対して運用するだけの脳みそに理性なんて有るのも、不具合みたいなものなんだから」
目を上げて、こちらを見るレイ。
既に勝ちを確信していて。
「知らないんでしょ?」
「……ええ」
「要するに、物を知らなさすぎなのよ。自分の好きな知識だけ覚えてたって、何の役にも立たないの」
「だから、図書館に?」
「そうよ!」
「分かった」
「だからレイも……って……え?」
「行くんでしょう? 図書館」
「まあ……そうね」
とりあえず仕切り直して、さっさと出発しようと口を開いて──
「案内して」
「……へ?」
言葉にならない声が漏れた。
「場所、知らないもの」
「まって、読んでたのは?」
「学校図書」
「なるほどね……」
似ているようで、似ていない。
真面目な癖に、怠惰。
自分が何に苛つくのか、少し分かり始めていた。
「分かった。案内するから、行くわよ」
返事を待たずに歩き始める。
少し先で待っていると、靴を履いたレイが廊下に現れる。
オートロックされる扉。
歩き始めると、そのまま無言でついてくる事も、もはや苛つきはしなかった。
無言の時間にも、圧力を感じなかった。
要するに、面倒なんだ。
喋るのが。
そう考えると、レイと居るのは楽ですらあった。相手が面倒なら、自分も喋らなくて良い訳だし……
そういえば。
シンジと居る時は、何にも気にせず喋ってるじゃん……昨日もあんなに泣いちゃってさ……
何故かは分からない。
でも、それで良い気がした。
そうよ。
別にいいじゃん。
シンジなんだし。
あれ……?
何を……気にしていたんだっけ……?
開放階段を降りる惣流・アスカ・ラングレーは、空を見上げて、そのカラスが飛行する高さまで飛翔する翼が生えたような錯覚さえしていた。
吸気された呼吸は、胸のV8エンジンでエネルギーにされて体中を駆け回り、背中全体から排気されているような気さえした。
別に他人なんて、気にしなくて……いいのに!!
「今日……空が綺麗ね!」
「……そうね」
数秒空を見上げて、変わらぬ表情と声音で応えたレイを、もはや見てはいなかった。
空に笑うのを、やめられなかった。
「ばっかみたい」
そんな自分が。
ひどくちっぽけで、面白かった。
「あ〜私もまだまだ……勉強しなくちゃ!」
「そうね」
「レイに言われたくない!!」
ちょっとムッとしても、表面的な物だった。楽しむ余裕さえあって、その手のひらは、肌色のままだった。
惣流・アスカ・ラングレーは、それには気付いていない……
◇
電車の中。
指定された約束の時間。昼に差し掛かる白い光が、車内の埃を映し出していた。
霊園に近づくにつれて、考えざるを得なかった。弔うこと。
それは、母さんを知ること。
母さん。
朧げな記憶の向こうで、僕に両手を伸ばしている気がする。
母さん。
それは、ミサトさんとは違う。
アスカとも違う。
綾波とも違う。
ナニカだった。
母さんという人間を知るのは、もう父さんしかいない。
父さん。
父さんは、母さんをどう思って居るんだろう。
やっぱり、道具として見ているのかな。
綾波や僕を、パイロットとして見ているように……
でも、そうは思いたく無かった。それは、父さんの一側面でしか無いのかも。
本当は母さんが大好きで、僕や綾波の事も考えていて、苦悩の末に今みたいな事になっているのかも知れない。
この前誉めたのは、本心で……
分からない。
もう、それを知る人はいない。
『父さんは……父さんだよね?』
『ああ』
〝僕の〟
その一言が言えなかった。
やっぱり父さんは父さんなんだ。
それは間違いない。
でも、誰のものでも無い。
或いは、誰かのものでも、父さんだ。
確認したかったこと、確かめたかった事は、まだ未知の中にある。
今度は間違えない。
今度こそは。
絶対に、逃がさない。
◇
黒の背丈ほどの尖塔が並ぶ、無風の荒涼な大地にその名前が掘られていた。
「……碇、ユイ……」
それが碇シンジの知る凡そ全てだった。
「久しぶりだな。2人でここに来るのは」
「……そうだね」
「…………」
「…………」
「ねえ、教えてよ」
「母さんって、どんな人だったの?」
「……よく、分からないんだ。母さんのこと」
「…………」
「…………」
「……人は思い出を忘れる事で生きていける。だが、決して忘れてはならない事もある」
「私はその確認をする為にここへ来ている」
「…………」
「…………」
「父さんにとって母さんって何だったの?」
「…………」
「母さんにとって父さんは何だったの?」
「……もういい」
「父さんにとって綾波は何だったの?」
「…………」
「父さんにとって僕は何なの?」
「…………」
「父さんにとっては……違うことなんだ」
「…………」
「忘れちゃいけないこと。感じないといけないもの。ちゃんと、何となく……分かるよ。父さんが綾波に……感じていないことも……」
「…………」
「でも、良いよ。いいんだ。父さんがエヴァパイロットが欲しいだけでも、綾波を薬漬けにしていても、僕を見ていなくても……」
「…………」
「僕は許すよ」
碇ゲンドウと同じく墓標を見ていた碇シンジは、父親へ振り返る。
「…………」
「ねえ、だからさ。全部、ぜんぶ終わったら……一緒に暮らそう? 綾波、薬はもう要らないんだ。僕は料理だって覚えたし、家事も──」
それは楽しそうな、笑顔だった。
作り物めいてすらいる、純粋な──
「何故だ……?」
その言葉に停止して、段々とその顔を歪め始める。
「…………」
「…………」
「だって……ッ」
ついに溢れ出し、頬を伝うのを気にも留めず、大きく息をしながら、言葉を紡いだ。
「だってッ……だってだってだって……っ゛ぐ……それが……家族なんじゃないの……?」
「…………」
「…………」
「僕は……っ……家族で……いたいよ……」
静かに。
それでいて、止め処なく。
「っ……ぐ……っ……」
止まらない涙を掻き消すように、両手で拭い続けていた。
拭い続けて……
いつしか。
その頭が、大きな手で覆われて。
「……シンジ。お前が知るより、俺は酷い男だぞ」
その呼吸音が、乱れていた。
「……知ってるよ」
「……そうか」
背中へ断続的に当てられる手は、優しく。
「…………」
「…………」
一つ咳払いをすると、語り始めた。
「……いいか。サードは起こされる。それこそが終焉だからだ。俺は……それを利用したが……今後は、お前に全てを賭けよう」
「賭ける……?」
「ああ。結論を全か個かでしか語れない俺ではない……やはり……お前なら、新たな答えを出せるだろう」
「それに賭けよう」
「…………うん」
「強くなったな……」
「うん……っ……」
「それで良い。そのままでいい。お前の答えを……見つけるんだ」
サングラスは胸に掛かっていて。
その少しやつれた濡れる頬に。
深いクマがある瞳に。
困ったような笑みに。
少し笑って。
涙を溢れさせながら。
力強く、頷いていた。
届かない 気持ち1つ
思いが 形にならなくて
手のひらから
音の粒 こぼれ落ちてゆく
覗いた 窓の外
何気なく 交わすその笑顔に
ほっとする
足止めても
世界は動いてる
ブルーに染まる日だって
負けそうな時だって
ほら 耳すませてみて
独りじゃない
繋がるmelody
重なるharmony
So take my hand and fly
不可能を 可能にして
Don't wanna see you cry
もう俯かないで
さぁ 手を空へ
Connective love
一人より 強くなれるから
「connective」(猫又マスター/佐藤直之 2013年リリース)
次回 沈黙/真理の告白。(後編)