もし、碇ゲンドウが少しだけ器用で、用意周到な男だったら。 作:煮魚( )
たった一人ぼっちで生まれてきて
たった一人ぼっちで消えゆくのに
そのわずか刹那に意味を産む
我ら人類の儚さ祝う
「永遠」なんかにはさ
できやしないことが俺らん中で今飛び跳ねてんだ
渋滞起きた奇跡 両手広げ待っててよ未来
光りたいしひっ掻きたい
めんどくさい僕らが手にしたい明日は 儚くて他愛なくて 離したくなくなる かけがえない淡いトワイライト
「俺たちならいけるさ」なんて
グラッグラな星ではしゃごうか
分かってるそんな甘くないって
「だからなに?」って言える今を
「アイス」
どんな不味そうな明日だってさ
頬張ってみるから
ズタボロの覚悟も決意も
まだ息はしてるから
永遠に生きたって飽きるでしょ
うまいことできてる
絶滅前夜に手をとる 君と越えていくよ
明日を迎えにいこう
「TWILIGHT」(RADWIMPS Forever Daze 収録曲 2021)
今回は3000文字です。
第3新東京市、某所バー。
PM23:33
店内。
3人は友人の結婚式を終えて、久しぶりに集まったメンバーとそれなりに盛り上がり、いつしか知った顔で何件かの店を探していた。
そうしてビルの一角、ラーメン構造に特有の全面ガラス張りに満月と整理された町並みが映り、伸びる道からテールランプが店内に赤い光を、月が青い光を、蛍光灯がオレンジの光を落とし、混ざるカウンターは夜の店らしい色をした。
葛城ミサトが席を立ったのを見計らい、溜息を吐いた赤城リツコは、二つ隣の席の加持リョウジへ聞こえる程度の声で独りごちる。
「いい加減、火遊びはもうお終いかしら」
そのグラスを見つめる鋭い視線に、笑ってみせた。
「まさか。と言ったら……君は怒るかな」
ため息を返す彼女を横目に、男は楽しそうにグラスを傾ける。
「呆れたわ……私も暇じゃ無いのだけれど」
「もう、無いさ……」
笑ったまま、その沈む目元が。
「……そう」
横たわった終わりの予感は、二人に纏わりついて、その口を縫い付けた。
「…………」
「…………」
「ミサト、相変わらずね」
「今日は……ちょっと飲み過ぎかな。浮かれてる自分を抑えようとして、更に飲んでる……いや、今日は逆か」
「ふふ……流石に、元、同棲者が言うと重みが違うわね」
「おいおい……笑うところか?」
「加持君が一途らしくてね……そんなの、想像もしなかったわ」
「バレバレか」
「…………」
「…………」
「で、どうするの?」
赤城リツコは、加持リョウジを見つめながら、問うていた。
「……どうもしないさ」
男はその瞳を見ようともしない。
「これでも心配しているのよ……まさか、三十路を捨てて高跳び?」
「ちょっと飲み過ぎじゃないか」
グラスに視線を戻して、ため息をついて、仕方なく滑り出した。
「子供と同居しているせいか、最近は公私混同。誰かさんに似て、やんちゃするのよ」
その瞳は子供でも見るようで……
「…………」
「貴方と違ってずさんだけれど……」
「なるほど……な」
感情こそ出さなかったものの、心底参ったように、俯いた。
氷がひび割れる。
「…………」
「…………」
「戻れないのか」
「聞いてみたら?」
「はは、つれないなぁ」
「え、なになに? 何の話?」
空いた席に戻った軽忽そうな女性に、その変わらない軽快な様子に、二人は笑っていた。
「少し愚痴を聞いてただけさ」
「そうね。最近は仕事が増えているし……私はこの辺でお暇しようかしら」
「ええー、もう?」
「ええ。また……飲めるといいわね。3人で」
「ああ、そうだな」
含みのある瞳に、変わらない表情、が……その奥では刺すような意志がある事を、加持リョウジは知っていた。
だからこそ、笑った。
赤城リツコは振り返らずに、歩き去る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
第3新東京市、市内。
車を停めた駅周辺の駐車場まで近道をしようと、男は女性をおぶって静かな道を歩いていた。
小さな通りの周りは暗闇に隠され、巨大なビルたちは見えず、街灯に照らされたアスファルトが白線を浮かべている。
「いい年して、戻すなよ」
「悪かったわね……いい年で」
「年はお互い様か」
「そーよ……」
「葛城がヒール履いてんだからなぁ……時の流れを感じるよ」
「……無精髭、剃んなさいよ」
「へいへい」
「後歩く。ありがと」
◇
「加持くん……あの時……さ」
葛城ミサトは、暫しの逡巡を見せながらも、既に落とされた解答をその腐泥の胸中から掬い上げようとしていた。
「あの時?」
「ごめんね。あの時……一方的に別れ話して。他に好きな人が出来たって言ったのは、あれ、嘘。ばれてた?」
「いや……」
「気付いたのよ。加持君が、私の父親に似てるって」
「自分が男に、父親の姿を求めてたって……それに気付いた時……怖かった。どうしようもなく、怖かった」
「加持君と一緒に居ることも、自分が女だと言うことも、何もかも怖かったわ」
「父を憎んでいた私が、父によく似た人を好きになる。すべてを吹っ切るつもりでNERVを選んだけれど、でも、それも父のいた組織……」
「……葛城が自分で選んだ事だ。俺に謝る事はないよ」
「もう……自分が良く分からないの。選んだのかさえ……分からない。思い出すと嫌なのに、それで泣くのよ。私」
「葛城……」
「自分は何て嫌な奴なんだろうって思う度に、笑ってるシンジ君に、真剣なアスカに、また何か言って欲しいと考えてる……!」
「ずっとずっと、過去から逃げ続けてるのよっ……」
涙を流す。
加持リョウジは、息を呑んでいた。
「酷い大人よ。おかしいわよね。10年近く幼い子に、慰められてるの。いつまでも……」
「俺は……慰めにもならないか」
「そんなことない!」
「なら、やり直さないか? お互いに、全て忘れて……1からさ」
「それは……」
「街を出よう。葛城。2人で」
背後から密着され、その甘い言葉が耳元をくすぐる。回された両手が熱く縛っていた。
「……本気?」
「自分の気持ちには……嘘を吐きたくないからな」
「…………」
「…………」
「子供たちは立派になった。今なら出来るさ」
「…………」
「…………」
「違うの……嫌なの、もう、嫌なのよ。また慰めて貰おうとしてる自分が……だから」
「……だから?」
「私は……行けない。きっとあの子たちは戦っているわ。今だって……」
「…………」
「…………」
「加持君」
「…………」
「だから……待ってて」
「…………」
「私は……きっと、もう負けないから」
「…………」
「…………」
そのきつく縛られた両手が段々と緩むと、力なく垂らした片手を仕方なさそうに後頭部へ。
「……分かった」
息を漏らして、幾分かスッキリとした表情で目を瞑って頭を掻いていた。
「実はな、俺も嘘を吐いてたんだ」
「……どんな?」
「俺はNERV側じゃない」
「は?」
「あと、これお土産な。必ず旧型のオフラインで開けよ」
押し付けられた何かのチップと、加持リョウジを交互に見る。
「なにこれ? ちょっ、ちょっと待って」
「待たないさ。好き勝手言った仕返し」
「じゃあ、またいつかな。葛城」
そう言って笑った。
少年のような、笑み。
その屈託の無さに泣きそうになりながら、背中に叫ぶ。
「許さないから!」
「死んだら、絶対、許さないから!!」
その距離は、離れてゆく。
「お前もなー!」
響いたその声に、笑っていた。
「ホントに……あいつ……」
くつくつと、底から湧き上がる笑みが、そこには溢れていた。
その笑顔には、何の混じり気もなかった。
満月が、ビルの影を映していた。
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同日。
夕方。
第3新東京市、市内。
レイとアスカは、最後尾の隣席でバスに揺られていた。
2人は流れる市街を見ていた。
「この世界は素晴らしい……戦う価値がある」
「いい言葉ね」
アスカは思わず吹き出した。半分笑いながら、レイに声をかける。
「分かってきたじゃない」
「馬鹿にしてる……?」
「だって……変な顔するんだもん……くくっ」
アスカの言う通り……綾波レイは、先程まで笑っていた。それに、今は不機嫌そうな様子を隠しもしない。
「そんなこと、ない」
「あはは、はいはい。ふふっ」
「むう……」
2人は揺られていた。
楽しそうに。
次回 そして/夜、目覚めの月。