もし、碇ゲンドウが少しだけ器用で、用意周到な男だったら。   作:煮魚( )

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今回は1万2千くらいです。


第捌話 アスカ、来日。

 NERV本部 総司令官執務室

 

 室内

 

「綾波レイの行動は、本来のダミープラグの想定から外れつつあります」

 

 手渡した資料を前に、そう宣言する赤城リツコ。

 

「一度、リセットした方が良いかと」

 

 対して、碇ゲンドウは手を組んだまま、無言を貫いていた。

 

 数十秒の余白を置いて、語り出す。

 

「……現在の目的は、使徒殲滅にある。問題はない」

 

「それでは、逃亡の恐れがありますが」

 

「……問題ない。彼らは逃れられんよ」

 

「なぜ……」

 

「原因究明を急げ」

 

 赤城リツコは碇ゲンドウがこれ以上語らないと悟り、閉口した。

 

「はい。失礼します」

 

 なぜ、2人目に執着するのか。嫉妬の炎が燻りつつあるのを、自覚しないままに……。

 

 同時に決意していた。原因究明、それは、碇シンジの過去を調べるしかないからだ。諜報部には、MAGIのパーソナルデータ解析に必要な程度の調査しか依頼していなかった。

 

 そのパーソナルデータからの行動予測すら外れている碇シンジという少年は、NERVの管理下に入ってから外部との接触をしていない。

 

 であれば、過去に接触があったとしか見方が無いのだ。

 

 MAGIの予想をこうも外されるなんて……男の考える事は、苦手なのかしら……母さん。

 

 ……親子ね、私たち。

 

 沈黙を守る碇ゲンドウの姿を脳裏に浮かべて、赤城リツコは拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

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「あ、そうだ。次の日曜日、空けといてね〜」

 

 何か嬉しそうなミサトさん。

 

「日曜日……? どうして?」

 

 その日は、訓練も実験もない筈だし……。

 

「その時のお、た、の、し、み」

 

 にへへ〜、と笑うミサトさんに、首をかしげるばかりだったが……。

 

「こういう、ことか……」

 

 爆音で回転する上部のローター。

 

 それに揺られてはや数十分。

 

 既に気持ちはお通夜だった。乗り物が好きなケンスケやミサトさんはいいかもしれないけど……

 

「ミル55D輸送ヘリ!! こんな事でもなけりゃ、一生乗る機会ないよ。全く、持つべきものは友達ってカンジ。な、シンジ」

 

「え!?」

 

 隣に座るケンスケの話すら、メインローターブレードが空を切る音でぶつ切りだった。

 

「毎日、おんなじ山の中じゃ息苦しいと思ってね〜、たまの日曜だから、デートに誘ったんじゃないのよ」

 

「えぇ!? それじゃあ今日はホンマにミサトさんとデートっすかぁ!? この帽子、今日この日のために買おうたんです……ミサトさぁん……」

 

 デートと言われ、息を吹き返したトウジが前のめりになっている。

 

 分かりやすいなぁ……。

 

「で、どこに行くの?」

 

 自分はもう、早く降りたかった。このまま遊覧飛行でもされたら、降りる頃には萎びた野菜みたいになってしまう。

 

「豪華なお船で、太平洋をクルージングよ?」

 

 ウインクするミサトさん。

 

 ケンスケは目を輝かせていたけど……。

 

「ふ……船……」

 

 腹の底から魂が抜けていった。

 

 

 

 

 

 

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「おぉ〜、空母が5、戦艦4、大艦隊だぁ! ホント、持つべきものは友達だよなぁ〜」

 

「これが豪華なお船……?」

 

 眼下に見える、鉄塊のような幅広の船は、互いに一定間隔を空けて同じ方向へ進んでゆく。

 

 トウジの言う通り、とても豪華客船には見えない。

 

「ゴージャス! 流石国連軍が誇る正規空母! オーバーザレインボゥ!!」

 

「でっかいなぁ……」

 

 それが近づいて来ると、スケール感覚の違いに思わずそう呟いた。

 

 遠くで見ていると、数十メートルの横幅と数百メートルの縦幅があるようには見えなかった。

 

 まるで陸みたいだ。

 

「よくこんな老朽艦が浮いていられるものねぇ……」

 

「いやいや、セカンドインパクト前の、ビンテージものじゃあないっすか〜」

 

 ケンスケとミサトさんが話しながら、ミル55は着艦した。

 

 減速するローターが最も煩いのは、まるで追い討ちをかけるみたいだ。

 

 

 

 

 オーバーザレインボウ、管制室。

 

「はっ、いい気なもんだ。オモチャのソケットを運んできよったぞ。ガキの使いが……」

 

 国連軍の艦隊司令長官は、悪態をつく。

 

 セカンドインパクト後の地獄を戦い抜いた歴戦の猛者からすると、エヴァの輸送任務は艦隊を出撃させるには及ばない出来事なのだ。彼は、任務開始から不機嫌だった。

 

 使徒がNERVにしか倒せないというのも、第3新東京市では隠しようもないが、遠い異国の地では、噂程度でしかない。

 

「おぉ〜!! すごい! すごい!! すごい!!!! 凄すぎる〜!!」

 

 降りてからも、元気そうにカメラを回すケンスケ。

 

「男だったら涙を流すべき状況だね〜、これはぁ〜!!」

 

 周囲の海には、戦艦や空母だけでなく、補給艦、フリゲート級の船多数や駆逐艦が浮いていて、確かにすごい光景だ。

 

 大艦隊。そんな感じがする。

 

 ただ、そこまで興奮する理由は分からないけど……。

 

「すごい!! すごい!!──」

 

 歩き回るケンスケを追うように、甲板で作業中の外国籍軍人の間を歩いていると、トウジの帽子が風ですっ飛んでいった。

 

「あぁ! 待て!! 待たんかい!!」

 

 いつ帰れるんだろう……。

 

「くぁ……」

 

 追いかけるトウジを見ながら、あくびついでに伸びをする。目を開くと、作業員らしからぬ少女が、トウジの帽子を踏みつけている所だった。

 

 艶やかな明るい茶髪。ブロンドとブラウンの中間色のような、映える色だ。

 

 それを赤い髪留めでツインテールにしている。

 

 青い瞳。

 

「ヘロゥ、ミサト。元気してた?」

 

 日本語は完璧だった。

 

 銀のチョーカーに小麦色のワンピース、赤いヒールという姿は日本では中々見ない。

 

 帰国子女……?

 

「まあねー、あなたも背、伸びたんじゃない?」

 

「そ、他のところもちゃんと女らしくなってるわよ」

 

 ミサトさんと知り合いらしい……なんて、ぼうっと聞いていたが……。

 

「紹介するわ、弐号機専属パイロット、セカンドチルドレン。惣流・アスカ・ラングレーよ」

 

 目を、見開いた。

 

 そうだ。綾波はファーストと言っていた。

 

 呼び名なんか気にしていなかったが、僕がサードなら、セカンドがいるわけだ……。

 

 開いていた視界に、そのセカンドの白い下着があって──

 

 自信ありげなその表情が、羞恥に歪むのを見た。

 

 瞬間、流れるようにトウジ、ケンスケ、僕の頬をしばいて周る。

 

「何すんのや!!」

 

 その声を意にも介さず、一度離れてからゆっくり向き直ると

 

「見物料よ、安いもんでしょ」

 

 不機嫌さを隠しもせずにそう言った。

 

 強い……。

 

 張られた掌もさることながら、なんというか、瞬間に殴るという結論を弾き出す精神も強いと思う。

 

「なんやてぇ!? そんなモン、こっちも見せたるわ!!」

 

 おもむろに脱ぎ始めたトウジは、下着までずり下ろしていて……。

 

 思わず、片手で頭を抱えた。

 

「ナニすんのよッ!!」

 

 両頬を更にしばかれたトウジを一通り睨み付けると、ミサトさんの前に進む。

 

「で、噂のサードチルドレンはどれ? まさか今の……」

 

 目で後ろを指すが、その顔は怒りに染まっていた。

 

 あの顔はされたくないな……。

 

 殴られるだろうし。

 

「違うわ。この子よ」

 

「ふーん」

 

 彼女は目の前まで来ると、暫く目を合わせて、

 

「冴えないわね」

 

 そう言った。

 

 思わず眉根が寄ってしまう。

 

 苦手な人間(ヒト)だ。

 

 冴えてる自覚があって、加害に抵抗がない……。

 

 黒いタールが、熱を持つようだった。

 

 

 

 

 

 

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 オーバーザレインボウ、管制室。

 

 先程合流したアスカも加えて、この太平洋艦隊の艦長であるという人に召喚されていた。

 

「おやおや、ボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていたが、こちらの勘違いだったようだな」

 

「ご理解頂けて幸いですわ。艦長」

 

「いやいや、私たちも久しぶりに子供達の子守りが出来てシアワセだよ」

 

 いきなり険悪な雰囲気。

 

「この度は、エヴァ弍号機の輸送援助、ありがとうございます。こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」

 

 しかしミサトさんは、気にしていない風だった。皮肉っぽい声音とかでもない。

 

「ハッ、だいたいこの海の上で、あの人形を動かす要請など聞いちゃおらん!!」

 

「万一の事態に対する備え……と理解して頂けますか」

 

「その万一に備えて、我々太平洋艦隊が護衛しておる。何時から国連軍は宅配屋に転職したのかな?」

 

 副艦長が反応した。

 

「某組織が結成された後だと記憶しておりますが」

 

人形(オモチャ)一つ運ぶのに大層な護衛だよ。太平洋艦隊勢揃いだからな」

 

「エヴァの重要度を考えると足りないくらいですが……では、この書類にサインを」

 

「まだだ! エヴァ弍号機及び同操縦者はドイツの第三支部より本艦が預かっている。君らの勝手は許さん!!」

 

「では、いつ引き渡しを?」

 

 またもや副艦長が口を挟んだ。

 

「新横須賀に陸揚げしてからになります」

 

 きっと激昂した艦長のフォローだろう。

 

「海の上は我々の管轄だ。黙って従ってもらおう」

 

「分かりました。ただし、有事の際は我々NERVの指揮が最優先である事を、お忘れなく」

 

 そう締めくくったミサトさんは冷静で、作戦部長の時よりも、声に感情がない。

 

「リツコさんみたい……」

 

「カッコえぇなぁ〜」

 

「相変わらず凛々しいなぁ!」

 

 思考は、腑抜けたトウジの声と、茶化すような男の声で遮られる。

 

「加持せんぱぁ〜い!!」

 

 嬉しそうな惣流さんに加持と呼ばれた男は、入り口で身を壁に預けていた。

 

 よれた首元のシャツ、雑なネクタイ。整った背格好。そして自信ありげなニヤケ顔。

 

 惣流さんに好かれる訳だ。

 

 遊び人って感じだし。

 

「うぇ〜?」

 

 ミサトさんが驚愕していた。

 

「加持君! 君をブリッヂに招待した覚えはないぞ!」

 

「それは失礼」

 

 そう言って消えていく。

 

 ミサトさんが再起動して退出するまで、数秒かかった。

 

「では、これにて失礼します。新横須賀までの輸送は、よろしくお願いします」

 

 そう挨拶しているミサトさんを、一足先に出た階段から見ている。

 

「これがデートかいな」

 

 トウジの呟き。

 

「まぁ……忙しいからね」

 

 前に一緒に外出したのも、第4使徒の視察の時だったし。

 

「そないなもんか……」

 

 トウジは残念そうだが、ひとまず納得したらしかった。

 

 

 

 

 再び管制室 

 

「シット! 子供が世界を救うと言うのか」

 

「時代が変わったのでしょう。議会もあのロボットに期待していると聞いています」

 

「あんなオモチャにか!? バカ共め! そんな金があるんなら、こっちに回せばいいんだ!!」

 

 怒る艦長のフラストレーションは、溜まるばかりだった……。

 

 

 

 

 

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 空母のエレベーターは、狭い。

 

 お茶でもしようという事で、エレベーターで階層を移動するという話になったが、詰めれば入るからと一度に乗り込んだのだ。

 

 6人も。

 

「なんであんたがここにいんのよ!」

 

 そう言うミサトさんの胸が頬に当たっており、嫌でも熱くなってくる。

 

 ミサトさんは相変わらず、恥ずかしいとかそんな感性には無頓着だ。

 

「彼女の同伴でね、ドイツから出張さ」

 

 彼女、きっと惣流さんの事だろう。

 

 ドイツから来たらしい。

 

 寒い風土の人々は勇敢だと言うし、皆んな遊び人なのかもしれない……。

 

「うかつだったわ……充分考えられる事だったのに……」

 

 数秒の沈黙。

 

「「ちょっと!! 触らないでよ!!」」

 

「「し、仕方ないだろ〜!!」」

 

 ミサトさんと惣流さんが叫んで、加持さんとトウジが情けない声を出した。

 

 狭いのに……!

 

 しかし、押しつけられたそれで、声を出すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

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「今、付き合ってるやつ……いるの?」

 

 頬杖をついて、優しい声音で語りかける加持さん。

 

「それが……あなたに関係あるわけ?」

 

 ミサトさんは、勤めて無視したい風だった。

 

 どんな仲なんだろう?

 

 二人の様子からは、察する事ができない。

 

「あれぇ、つれないなぁ」

 

 特に意に介してないようで、コーヒーを一口飲むとこちらに顔を向けた。

 

「君は葛城と同居してるんだって?」

 

「え、はい」

 

 加持さんはテーブルの上で両手を組んで真剣そうな目をし、ニヤリと口元を歪めて口を開いた。

 

「彼女の寝相の悪さ、治ってる?」

 

 なるほど。

 

 付き合うのが100%幸せじゃないと知らしめた人だから、やりにくそうなのか。

 

「な……なに言ってるのよぉッ!!」

 

 答えるまでもなく、ミサトさんが真っ赤になって食いつく。

 

 加持さんの意地悪そうなしたり顔。顔がいいから、それすらもカッコいい。

 

「相変わらずか、碇シンジ君」

 

 名前を呼ばれた事に少し驚く。

 

「まぁ、はい。それより、どうして僕の名前を?」

 

 自己紹介をする時間も無かったし、特に話したりもしなかったのに。

 

「そりゃ知ってるさ。この世界じゃ、君は有名だからね。何の訓練も無しに、エヴァを実戦で動かしたサードチルドレン」

 

 有名と言われて、思わず苦笑い。

 

「そんな、偶然です……」

 

 あれは、動かしたとは言い難いのに。

 

「偶然も運命の一部さ。才能なんだよ、君の」

 

 才能と言われてチクリと痛む胸。

 

 必死になって転げ回った過去は、そんな名誉な事じゃない。

 

「じゃ、また後で」

 

「あ、はい」

 

 どうにか笑顔で答えた。

 

 加持さんの含みのある笑いは、僕の何かを透かして見ているようだ。

 

「冗談じゃない……悪夢よ……」

 

 葛城ミサトの呟きを聞き届ける者は、いなかった……。

 

 

 

 

 

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 食堂付近 艦橋デッキ。

 

「どうだ、碇シンジ君は」

 

 鉄柵に体重をあずけ、鉄棒の要領で体を揺らすアスカ。

 

 隣の鉄柵へ寄りかかる加持は、そう問うた。

 

「つまんない子。あんなのが選ばれたサードチルドレンだなんて、幻滅」

 

「しかし、いきなりの実戦で彼のシンクロ率は40を軽く超えてるぞ」

 

「うそ……!?」

 

 アスカは驚愕した。

 

 数年かけて起動させたエヴァが、大幅に起動基準を超える数値でシンクロするなんて。

 

 ありえない。

 

 

 

 

 

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 階層移動中、エスカレーター上。

 

 

「しっかし、いけすかん艦長やったなぁ」

 

「プライドの高い人なのよ、皮肉の一つも言いたくなるんでしょ」

 

 思い出してイラついていくトウジを諌めるミサトさん。

 

 そんな姿を見ていたら、加持さんの事を聞きたくなった。昔の事は話したくないと言っていたけど……加持さんの事は、前に少し話してくれたし……。

 

「加持さんって、賑やかな人ですね」

 

「昔からなのよ! あのヴァーカ」

 

「あ……はは……」

 

 予想よりも険悪そうな物言いに乾いた笑いが出てしまう。

 

「サードチルドレン!!」

 

 これから何が聞けるのかと期待していたら、上りエスカレーターの終わりに、惣流さんが立っていた。

 

「ちょっと付き合って」

 

 その青い瞳で睨まれると、少し憂鬱な気分になるのだった。

 

 

 

 

 

 

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 殴られるのは嫌なので、黙って付いてきたが、まさかフリゲート級の連絡船に飛び乗ってしまうとは思わなかった。

 

 連れて来られたのは、弐号機が保管されているプールのある空母の甲板だった。

 

 テントになっている天井のシートを剥がした惣流さん。

 

 その隙間から、機体が見えている。

 

「……赤いんだ。弐号機って」

 

「違うのはカラーリングだけじゃないわ!」

 

 そう言うと、さっさと内部に入っていってしまう。

 

 追いついた時には、弐号機の上に登って仁王立ちしていた。

 

「所詮、零号機と初号機は開発過程のプロトタイプとテストタイプ。訓練なしのあなたなんかにいきなりシンクロするのが、そのいい証拠よ」

 

「…………」

 

 でも、動かなかったら使徒はどうなっていたんだろう。セカンドインパクトと同じ事が起こって、半球は壊滅。人類は滅亡。

 

「けどこの弐号機は違うわ! これこそ実戦用に造られた、世界初の実戦用のエヴァンゲリオンなのよ!」

 

 とはいえ、人造人間。実戦用とテストタイプとプロトタイプは何が違うんだろう……気にしたこと無かったな……。

 

「正式タイプのね!」

 

 熱弁をふるう惣流さんをぼうっと見ながら考えを巡らせていると、いきなり揺れが襲った。

 

「うわっ……」

 

 プール上に浮かぶ連絡路でバランスを取るのに必死になっていると

 

「水中衝撃波! 爆発が近いわ……」

 

 そう言って滑り降り、走り出す惣流さんの後に続いた。

 

 甲板に出ると、いきなり目の前で爆散する、ひしゃげた一隻の船。

 

「あれは」

 

 水中で、何かが暴れ回っている。大きな水柱が何本も立っていた。

 

「まさか、使徒……!」

 

「あれが? 本物の!?」

 

「第一種戦闘配置……」

 

 パイロットは、出撃準備を完了した状態で待機していなければならない。

 

 でも、ここに初号機はない……。

 

 この場合、どうするんだろう。

 

「チャーンス……」

 

 何かを呟いていたが、意味は分からなかった。

 

 

 

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 オーバーザレインボウ、管制室。

 

「各艦、艦隊距離に注意の上回避運動」

 

「状況報告はどうした!」

 

「シンベリン沈黙! 被害多数! 目標確認できません!!」

 

「くそ……何が起こっているんだ」

 

 慌ただしく行われる報告。

 

 完全に意識外からの攻撃であり、巨大生物との戦闘など行った事が無いのだから、当然であった。

 

 艦長は、完全に手をこまねいている。

 

「ちわー、NERVですが見えない敵の情報と、的確な対処はいかがすかー?」

 

 管制室に、葛城ミサトが顔を出す。

 

「戦闘中だ。見学者の立ち入りは許可できない」

 

「これは私見ですが、どう見ても使徒の攻撃ですねぇ」

 

 未だに、使徒と判明していないから、という理由で駄々をこねる艦長にミサトは辟易していた。

 

「全艦任意に迎撃!!」

 

「了解!」

 

 指示を飛ばす艦長。

 

「無駄なことを……」

 

 仕方なく、葛城ミサトは室内で待つ事にした。

 

「この程度じゃATフィールドは破れない……か」

 

 艦橋のデッキから状況を見守っていた加持リョウジは、そう呟いて行動を開始する。

 

 彼の行先は、自室のトランクケースだ。

 

 そこには、胎児にまで還元され硬化ベークライトで固められた第一使徒、アダムの体がある。

 

 その輸送任務中だったからだ。

 

 

 

 

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「ねえっ、どこいくんだよ!?」

 

 惣流は、来なさいよ! と腕を掴んで移動し始めて、プール周辺のロッカーから赤いバッグを回収すると、階段まで戻ってきていた。

 

 ここに弐号機があるんだから、すぐにでもプラグスーツを着て待機すべきなのに……。

 

 その疑問に耐えきれず、そう聞いたが、不機嫌そうに

 

「ちょっと待ってなさいよ!」

 

 と言われ、階段の前で放置された。

 

 どういうことなんだ……?

 

 疑問に思いながらも、待ってろと言われたんだから仕方ない。

 

 流石に、第一種戦闘配置のことくらいは知っている筈だ。

 

 しかも訓練を受けた正式なパイロットだと言う。僕の知らない別の手順が、あるのかもしれない……。

 

 いや、でも、この感じだと、自由きままに行動してるかも知れないよな……。

 

 だんだんと説明もなく連れ回されている事にイライラしてくる。使徒が来ているのに。惣流には、何の危機感もなさそうなんだ。

 

 そう思っていると、ほぼ赤のプラグスーツを着た惣流が現れて、何かを投げつけけてくる。

 

「これは……」

 

「さ、行くわよ!」

 

「乗るの? 僕も?」

 

「あったりまえでしょ!」

 

 そう言ってプールへ向けてスタスタと行ってしまう惣流。

 

 確かに、考えてみればここに居ても死ぬかもしれない……。一番安全なのは、プラグの中だろう。

 

 意外と考えてくれてるんだ……。

 

 と、思っていたが。

 

「ふふん、私の見事な操縦、目の前で見せてあげるわ! ただし……邪魔はしないでね?」

 

 展開したエントリープラグの前で、得意そうに笑った後、睨んだ顔は、本当にそれ以外考えていなさそうだった。

 

「分かったよ……」

 

 不安だ……。

 

 

 

 

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「こんなところで使徒襲来とは、ちょっと話が違いませんか?」

 

 加持リョウジは用意された自室で、何かを探すように暴れ回る使徒を観察しながら、碇ゲンドウへ通話を繋いでいた。

 

『そのための弐号機だ。予備のパイロットも追加してある。最悪の場合、君だけでも脱出したまえ』

 

「……分かってます」

 

 恐らく、使徒はアダムを探している。どちらにせよ自分が離れた方が安全なのだ。加持リョウジは、そのつもりだった。

 

 

 

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 邪魔しないように。

 

 もはや、なにも考えないようにするつもりだった。

 

「LCL Fullung. Anfang der Bewegung.

Anfang des Nerven anschlusees.

Ausloses von links-Kleidung. Synchro-start」

 

 いきなり英語ともつかない言語を喋り始めたシート内の惣流。

 

 起動準備かな……?

 

 そう思い、シートの一部にしがみついていた。

 

 が、シンクロは中断されると、バグ発生の警告文がプラグ中に表示される。

 

「バグ? どういうこと?」

 

 説明は受けた事があっても、見たのは初めてだ。

 

「思考ノイズ! 邪魔しないでって言ったでしょ!?」

 

「えー、そう言われても……」

 

「……あんた、日本語で考えてるでしょ! ちゃんとドイツ語で考えてよ!」

 

「ドイツ語……ば、ばーむくーへん?」

 

「バカ! いいわよもう!! 思考言語切り替え、日本語をベーシックに」

 

 シンクロできるのかなぁ。

 

 惣流の乗るエヴァもこんな感じだったら、ついていけないな……。

 

 そう思いながら、シンクロはスタートした。

 

 

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「オセローより入電! 弐号機、起動中!」

 

「なんだと!?」

 

「ナイスアスカ!!」

 

 艦長は焦ったように声を発する。

 

「いかん、起動中止だ!! 元に戻せ!!」

 

 そのマイクを、葛城ミサトは横から奪い取った。

 

「構わないわアスカ!! 発進して!」

 

「なんだと!? エヴァ及びパイロットは我々の管轄下だ!! 勝手は許さん!!」

 

「何言ってんのよこんな時に!! 段取りなんて関係ないでしょ!?」

 

 マイクを取り合い始める葛城ミサトと艦長。

 

「しかし本気ですか、弐号機はB装備のままです!」

 

「えぇ?」

 

 副艦長の報告に葛城ミサトは狼狽した。

 

『海に落ちたら、やばいんじゃない?』

 

『落ちなきゃいいのよ』

 

 管制室に響く、エヴァからの通信。

 

「シンジ君も乗ってるのね!」

 

『はい』

 

「こ、子供がふたり……」

 

「試せる……か」

 

 葛城ミサトは、B装備での水中戦闘の危険より、ダブルエントリーの実戦データを優先させた。

 

 指揮官として、今後の選択肢の重要性を取ったのだ。

 

「いいわよ! アスカ、出して!!」

 

 

 

 

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 弐号機とのシンクロは、初号機とあまり変わらなかった。

 

 ただ、いつもより感覚が遠い。

 

 操縦する訳じゃないから、むしろありがたいけど……。

 

 振動が強くなり、使徒が向かって来ているのが分かる。

 

「来たッ」

 

「行きます!!」

 

 弐号機は高く跳躍すると、近くのフリゲート級に脅威的なバランス力で着地する。

 

 操縦に集中している惣流に変わって、周囲を見ていた。

 

「どこ!?」

 

「左、あそこ!」

 

「あと58秒しかない……」

 

「分かってる、ミサト! 非常用の外部電源を甲板に用意しといて!」

 

『分かったわ!』

 

「さぁ、飛ぶわよ」

 

 その瞳は、近くの駆逐艦を見ていて……。

 

 来るべき衝撃に備えて、シートに捕まった。

 

 何度か跳躍し、オーバーザレインボウに接近する弐号機。

 

「エヴァー弐号機、着艦しまーす!!」

 

 最後の一声で若干無理しつつ着地すると、大きく傾く空母。

 

 それを、エヴァの重心移動だけで元に戻してしまった。

 

 訓練された動きは違う……!

 

『目標、本艦に急速接近中!!』

 

「来るよ! 左舷9時方向」

 

「外部電源に切り替え……切り替え、終了!」

 

 なんとか間に合った。

 

 しかし……

 

「武装がないよ」

 

「プログレッシブナイフで充分よ」

 

 今までの使徒で、ナイフで倒せたのはウナギみたいなヤツだけだ……。

 

 邪魔しないために、何も言わなかったが、思わず息をのんだ。

 

「けっこう……デカい」

 

「思った通りよ」

 

 水面から顔を出す、まるで魚のような白い巨体にはコアが見当たらない。

 

 飛び出して、艦橋一直線だった使徒をなんとか受け止めると、組みつく。

 

 だが、止めているだけで、何の解決にもなっていない。

 

「「うわぁ!?」」

 

 状況に歯噛みしていると、左足を戦闘機の格納に使用する昇降機で滑らせ、海へ転落した。

 

『アスカ! B型装備じゃ水中戦闘は無理よ!』

 

 水中で響くミサトさんの声。

 

「そんなの、やってみなくちゃ分かんないでしょ?」

 

 そう言うが、弐号機は相変わらずしがみついているのがやっとだ。

 

「なんとかしなくちゃ……」

 

 操縦技術は凄いが、恐らく惣流にはなんの作戦もない。

 

『ケーブルが無くなるわ! 衝撃に備えて!!』

 

 瞬間、背部からの衝撃で使徒から引き剥がされる。

 

「しまった……!」

 

『エヴァ、目標を喪失!』

 

 水中に漂う弐号機。

 

 考えろ、考えろ、考えろ……

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 オーバーザレインボウ、甲板。

 

「おーい、葛城ー」

 

 そこには、加持リョウジとトランクを乗せた戦闘機が昇降機によって上げられていた。

 

「届け物があるんで、俺、先行くわ〜。じゃ、宜しく〜。葛城一尉〜」

 

 外部スピーカーでそう残し、飛び去る戦闘機。

 

「な……ぁ……」

 

「に……逃げよった……」

 

 葛城ミサトと、トウジ一行はその様子を見守ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

『目標、再びエヴァに接近中!!』

 

「また来たッ」

 

 相変わらず、コアが分からない。

 

「今度こそ仕留めてやるわ」

 

 惣流は意気込んで両手の操縦桿を引くが、エヴァの反応は無かった。

 

「ぁ、何よ!? 動かないじゃない!!」

 

「B型装備だからね……」

 

「どうすんのよ!?」

 

「気合いでコアを見つけて、壊す。しか……」

 

「なぁ〜!? アテになんないわねぇ! サードチルドレンのクセに!!」

 

「来るよ!」

 

 接近してくる使徒は、大きく上下に展開する。その中には牙や、舌のようなものが見てとれた。

 

「クチぃ!?」

 

「あった、コア!!」

 

 その奥、赤い球体が中に浮かんでいる。

 

 が、身動きが取れない弐号機は、そのまま使徒に食われてしまった。

 

 来るべき脇腹の痛みを覚悟したが、シートに座っていないからか、異物感があるだけだ。

 

 ……暫く食われたままなのに、状況が動かない。

 

 とにかく、

 

「なんとかコアを壊さないと……」

 

「うっさいわねぇ! 出来たらしてるわよ!!」

 

『アスカ! 聞こえる!? 絶対に離さないでね!!』

 

「「え?」」

 

 離さないでね……? このまま?

 

『沈降可能な巡洋戦艦2隻による直接攻撃を口内に行います! ケーブルリバースの後、使徒を保持しながら可能な限り口を開けて!』

 

「開けるって……どうすんのよ……」

 

「どうするって、やるんだよ」

 

「また気合いぃ〜!?」

 

「しょうがないだろ!」

 

『2人とも作戦内容、いいわね!?』

 

「はい!」

 

『ケーブル、リバース!』

 

 瞬間、引き剥がされた時よりも強い衝撃で、2人の悲鳴が漏れた。

 

『エヴァ浮上開始! 接触まであと70!』

 

「くっ……動きなさいよ、このっ」

 

『接触まであと60!』

 

「惣流、時間が……!」

 

『接触まであと50!』

 

「あんたもなんか考えなさいよ!!」

 

 そんなこと言ったって、やるしか、無いんだよ!!

 

「きゃっ、なにすんのよ!?」

 

 その声を無視して、横から惣流の手ごと操縦桿を握ると、2人で触れるように引き出し、展開した。

 

「やるしかないだろ!!」

 

『間に合わないわ! 早く!!』

 

「……変なこと、考えないでよ」

 

「分かってるッ!」

 

 力を込めると、エヴァと惣流、自分の感覚が一体になったような感覚に襲われる。

 

 いつもより難しく、だが力強いシンクロだった。

 

 右手で使徒の上顎を掴み、左腕で下顎を押しのける。

 

 口を、開くこと。

 

 その一点で意思が統一された瞬間、惣流と、エヴァと、感覚がフラットになる。口は軽々と開いた。

 

「「やった!!」」

 

 そして、爆発に巻き込まれたエヴァは、空を舞っていた。

 

「「うぁぁぁああ!?」」

 

 電源が切れるまでに、何かに着地したらしい事は、分かった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 二人で乗ることが、こんなに恥ずかしい事だとは思わなかった……。

 

 浮いているためにスースーする胸元を押さえながら、一言も語らない惣流の後に続いていた。

 

 早く着替えたかったが、ミサトさんによると、どうやら漁港まではこのままらしい。車で迎えに来るそうなので、行くしかない。

 

 仕方なく下船ため設置されたエスカレーターを下っていると、トウジとケンスケが待ち構えていた。

 

 惣流と僕の間で視線を行き来させると──

 

「ぺ、ペアルック……」

 

「いや〜んなかんじ」

 

「とっ、撮るなよ!!」

 

 その後、誤解を解くために数十分尽力することになり、惣流の事は頭の片隅に押しやられるのだった……。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 湾岸用作業車。

 

 漁港へ移動中。

 

「また派手にやったわねぇ」

 

 赤城リツコは、傷だらけの空母を見やりながら嘆息した。

 

「水中戦闘を考慮すべきだったわ……」

 

 落ち込んだ様子の葛城ミサト。

 

「あら、珍しい。反省?」

 

「いいじゃない。貴重なデータも取れたんだし」

 

「そうね」

 

 そう言い、捲るページはダブルエントリーのモニター数値に到達する。

 

「ん? ミサト、これは本当に貴重だわ」

 

「シンクロ値の記録更新じゃない」

 

 新しいデータに、顔を綻ばせる赤城リツコ。

 

「たった7秒間じゃ、火事場の馬鹿力でしょ」

 

 葛城ミサトは疲れ切っていた。

 

「ね、加持さんは!?」

 

 そこへ、横からアスカが期待した声を発して乱入する。

 

「もう本部に着いてるわよ!! あのヴァーカ!!」

 

 葛城ミサトはアスカに、そう吠えた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 NERV本部 総司令執務室。

 

「やはり、これのせいですか?」

 

 加持リョウジは、碇ゲンドウに対してトランクの中身を開けてみせる。

 

「既にここまで復元されています。硬化ベークライトで固めてありますが……生きています。間違いなく」

 

「…………」

 

「人類補完計画の、要ですね」

 

「そうだ。最初の人間、アダムだよ」

 

 じっと、その目玉に肉片が付いたような不気味な〝アダムの肉体〟を見る。

 

「全ては……ここからだ」

 

 碇ゲンドウは、眼鏡のつるを直した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 数日後。

 

 いつも通りの朝。

 

 いつも通りの学校には……

 

「惣流、アスカ、ラングレーです!」

 

 制服を着込んで……

 

「よろしくっ」

 

 笑顔を振りまく、惣流が居た。

 

 雰囲気が……違いすぎる……。






次回 「瞬間、心重ねて」

 


 また、クオリティ維持のため隔日投稿とさせて下さい。毎日と宣言した手前、申し訳ありません。
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