獣人で腹筋割れてる系で問題抱えてる感じの女冒険者と二人きりで遭難する話   作:ジョク・カノサ

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人生最大の博打

「お前達!何をチンタラやってるんだ!」

 

 苛立ちを隠さない女の声が響いた。その言葉の矛先は俺を含む十数人の男達。

 

 旅路でくすんだ金色の長髪を揺らし、女にしては珍しい高い身長と赤い瞳で文字通りに俺達を見下す。

 

「足を動かせ!顔を上げろ!歩く事すら出来ないグズなのか!」

 

「いやあ、そりゃアンタが速いんで――」

 

「黙れ!お前達のような雑魚は何も考えずに、ただ歩く事に集中すれば良いんだ。そうでなければここで死ね」

 

 こちらの言い分を封殺し、女――ルイゼは再び前を向いて歩き出した。

 

「クソっ、なんで私がこんな……」

 

 愚痴をこぼしながら前へ前へと進んでいくルイゼを見送った後、俺は深い息を吐いた。他のヤツらも同じような気持ちなのか、ホッとしたような顔をしている。

 

「またかよ。この森に入ってからずっとああだぜ」

 

 俺達が今居るのは名も知らない森の中。目的地に向かうまでの道中だ。

 

「イラついてんだろ。いい気味だ」

 

「俺達も巻き添えくらってるけどな」

 

 男達も思い思いの愚痴をこぼしている。それもその筈だった。

 

 辺境付近に出没した強大な魔物を討伐せよ。それが俺達冒険者に課せられた任務で、そのリーダーが最近急激に活躍し始めた女冒険者ルイゼだ。

 

 だが、こんな任務は恐らく意味が無い。強大な魔物が出没したっていうのも確証が取れている訳でもないし、現状じゃ人里に大きな被害が出たわけでもない。つまり緊急性も薄い。なら何故、今勢いに乗っている筈のルイゼがこんな任務を受けているのか。

 

「あからさまな嫌がらせだからな。嫌われてんだろう」

 

 あの高慢な態度。口の悪さ。実力は確かなんだろうが、敵が増えるのは道理だ。

 

 つまりこれはヤツを嫌う上の人間からの嫌がらせであり、俺達は巻き込まれた事になる。

 

「……ロイ、水をくれ」

 

「ダメだ。もう少し我慢しろ」

 

 食料や水をまとめて運んでいるのが俺だ。一刻も早く任務達成の体裁を取りたいのかルイゼは最低限の休息で進み続けている。当然物資の消耗も激しく、俺がしっかりと管理しなければならない。

 

「クソっ、あの犬女が……」

 

 満足に水分を摂れない苛立ちもルイゼへと向かう。そして、それを更に増幅させているのがルイゼの姿だった。

 

 頭上に付いた犬のような耳、尻から生えた尻尾。呼び名としては獣人が一般的な人間とは異なる種族。最近になって人間との交流が増えてきたが、その異様な姿を受け入れ切れていない者も多い。この嫌がらせもそれが関係している可能性がある。

 

 ルイゼ本人の性格と言動が悪感情を生み出し、それを種族的な差別意識が増幅させる。このクソみたいな旅路で獣人嫌いは増える事だろう。

 

「はあ……」

 

 荷袋を背負いなおし、俺はもう一度深く息を吐いた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「ウソだろ……」

 

 それは突然の出来事だった。

 

 疲れ果てた俺達が何度目かのルイゼの癇癪を浴びていた最中、目の前の怒りの表情が一変する。

 

 明らかに付近を警戒し始めたルイゼに釣られ俺達が剣を抜いた瞬間、そいつは現れた。

 

「ぎ、銀狼……」

 

 誰かがその名を呟いた。

 

 全身に生え揃った眩しい程の銀色の体毛。通常の狼を何倍にも大きくしたような体躯。過去、多くの優秀な冒険者達が犠牲になったという半ば伝説のようにも語られる魔物。

 

「本当に居たのか……」

 

 今回の任務対象である強大な魔物。そんなものは居ない、ルイゼに嫌がらせする為の方便だと思っていた。

 

 その大きな瞳に俺が映る。足が動かない。

 

「お前達は動くな!私の獲物、だっ!」

 

 ただ一人、その言葉と共に動いたのがルイゼだった。

 

 こちらを観察でもしているのか動かない銀狼に向かい、剣を手に地面が抉れる程の踏み込みと共に突撃する。

 

 そうだ。ここには性格はともかく実力は確かな女が居る。コイツなら何とかなる。

 

「――がっ!?」

 

 その考えは早々に否定された。俺がギリギリ視認出来る程の速度で突撃した筈のルイゼの身体はその方向を変え、横合いに弾き飛ばされていた。そのまま木へとぶつかり、地面へと倒れ込む。

 

 何が起こったのかは分からない。だが状況が最悪な事だけは分かる。

 

「逃げろ!!」

 

 動けなかった冒険者の一人がそう叫ぶ。その理由は明白。

 

 銀狼の体表には突き飛ばされる直前にルイゼが付けたのであろう小さな傷があった。流れる血と痛みが自分にとって珍しいのか、銀狼は犬のように前足で傷を擦っていた。

 

「今しかねえ!散れ!」

 

 その言葉と共に俺も含めた各々が動き出す。そして恐らく、全員がそれに気づいている。

 

「……」

 

 ぐったりと倒れたルイゼの姿が視界に映る。この逃げの一手はアイツは見捨てるという事だ。

 

「へっ、ざまあねえ……!」

 

 誰かが呟いたその言葉を聞いた時、付近の茂みを使い身を隠しながら移動しようと考えていたその瞬間。

 

 俺の中にある考えが浮かんだ。そしてその考えによれば。

 

 この状況はチャンスだった。

 

「……!」

 

 進路を変える。目的はルイゼが倒れているあの木の下。

 

 茂みを利用し円を描くように近づく。銀狼はまだ動いていない。一気にルイゼへと近づく。

 

「おい、生きてるか!?」

 

「……ぅ」

 

 俺の声に反応したのか、ルイゼは小さな呻き声を上げた。生きているのならそれで良い。

 

「っ重いんだよ……!」

 

 今コイツは動けそうにない。半ば引きずるようにして身体を運ぶ。

 

 俺よりも高い身長。獣人特有の強靭な肉体。身体に触れてすぐに分かった。

 

 銀狼にこそ敗北したが、やはりコイツは本物だ。

 

「死ぬなよ……!ここでお前が死んだら」

 

 言葉が止まる。銀狼が俺を見ていた。

 値踏みをするような視線。やがて俺達に興味が無くなったのか、逃げた他の冒険者達の方へと姿を消した。

 

「は」

 

 報告によれば、銀狼の犠牲になるのは決まって優秀な冒険者だけだ。つまり、弱者には興味が無い。

 

 意識を失った死に体のルイゼと俺はお気に召さなかったらしい。

 

「順調……順調だ……!」

 

 少しでも落ち着ける場所。それが次の目的だ。

 性格に似合わない整った顔を歪ませ、間隔の短い呼吸を続けるルイゼを見る。

 

 俺にはコイツを治療する手段がある。つまり、上手くいけば恩を売れる。生き残りさえすればこれからも活躍するであろう冒険者に。

 

「うんざりなんだよ……」

 

 いつまでも向上しない実力、地位、給金。俺は自分の冒険者としての限界を悟っている。

 

 少しでも良い生活がしたい。その為にコイツを利用する。

 

 これは、俺の人生最大の博打だ。

 

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