大切な存在の為に頑張るお話。

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頭空っぽにして読んでください。


ウマ転生物語

 涼しい微風が、平原や森の草木を僅かに揺らす。心地よい小川の流れる音が聞く者を癒してくれるそんな平穏に包まれた世界。

 そこは、様々な理由で亡くなった競走馬の魂が集う場所。

 そんな馬達の安らぎと癒しが約束された場所で、嘗て名馬と呼ばれていた馬達は唖然としていた。

 自分達が懸命に命懸けで走ったターフやダートが寂れていく下界の現状に。

 自分達の生まれ育った場所が失くなっていく現状に。

 故に、彼等彼女等は立ち上がる。

 自分達が愛し。自分達を愛してくれた人々の為に。

 

 馬頭観音はその嘆願を真摯に受け取り、戦の準備を静かに始める。

 なにがなんでも愛し子達の願いを叶える為に。

 故に、聖戦。

 馬頭観音にとって、負ける事が許されない絶対勝利。最初にして最後の終末聖戦。

「愛し子である馬達を、記憶と経験と身体能力を持たせたまま、嘗て生まれ育った牧場や関係者の元に競走馬として転生させる。特典チートとして怪我や病気をしない頑強さを持たせる」

 日本だけではなく、全世界の神々に対して聖戦の開始を声高らかに告げる。

「文句があるならかかってこいや!! オラァァァァ!!」

 

 潰れた左目の分まで右目は爛々とした輝きを放ち、失った右腕の変わりに傷だらけの左腕で高らかに天を指差す。

 四肢が欠損し、無事なところ等何処にも無く、今にも倒れ付しそうな状態で、たった一人の最終決戦に勝利した馬の為の神様は満面の笑顔を浮かべていた。

「喜べ! 歓喜しろ! 愛し子達よ。お前達の願いはこの私が叶える!!」

 

 

 とある牧場で、昔にその馬が立ち上がる瞬間を見守った男達は息を飲んだ。

「メジロマックイーン・・・・・・」

 すでに天に登った愛馬と瓜二つ。それどころか、そのままの子馬が、すくりと立ち上がり男達をじっと見つめていた。

 その日。日本中で、天に登った名馬達と瓜二つの子馬が誕生する。

 そして、その関係者達は何故か確信していた。目の前に居る子馬は、あの馬そのモノだと。

 止まる事の無い涙で視界を滲ませながら、彼等は我先にと競う様に子馬に抱き付いた。

 

 

「逃げるサイレンススズカ。しかし、その後方にメジロマックイーン。サイレンススズカは逃げ切れるのか。シンボリドルドルフが上がって来た。皇帝がサイレンススズカを射程圏に捉えました。その後方にテイエムオペラオー。クリフジが続きます」

 

「来た。シンザン大外が一気に来た。これは届くのか。素晴らし末脚。グングン距離を詰めていく。メジロマックイーンがサイレンススズカに並んだ。サイレンススズカこれは苦しいか。しかし抜かせない。抜かせない。粘る粘るサイレンススズカ。しかし、後続俄然詰めてくる」

 

「残り200。先頭はサイレンススズカ。メジロマックイーンの猛追を必死でかわす。シンボリドルドルフも並んだ。テイエムオペラオー。テイエムオペラオーが僅かに前に出た。クリフジ。クリフジが一気に先頭に躍り出る。やはり最強馬はこの馬か? シンザン! シンザンがクリフジを差した!! 神のごとき馬。その意地を見せつけられるか? 残り100。皇帝。覇王もシンザンに食らい付く」

 

「サイレンススズカがここに来て再加速。強い強いぞサイレンススズカ! 先頭を行くシンザンに一気にならびかける。先頭は混戦状態。混迷を極めています」

 

 これは、自分達が愛し愛してくれた存在を守る為に立ち上がった馬達の物語。

 




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